2024/11/14|1,740文字
<最低賃金の本来の目的>
最低賃金の目的については、最低賃金法第1条に次のように規定されています。
この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
対象者は、賃金の安い労働者です。
賃金の最低額を保障し、労働条件を改善して、次のことを可能にしようとしています。
・賃金の安い労働者の生活が経済的に安定する。
経済的な困窮から犯罪に走ること、自分や家族の命を絶つようなことを予防するという目的も含まれているでしょう。
・賃金の安い労働者が、質の高い労働力を提供できるようにする。
ある程度環境の整った住宅に住み、体力を維持するのに必要な食事をとることができて、体調が悪ければ医師の診察を受けて治療でき、能力向上のための自発的な学習ができるなどによって、労働力の質を高めることができるようにするわけです。
・一部の企業だけが不当に安い賃金で労働者を雇えないようにする。
本来、賃金は企業と労働者との話し合いで自由に決められるはずです。
しかし、一部のブラックな企業がとても安い賃金で雇って荒稼ぎしていたら、まともな賃金で雇っている企業は競争に負けてしまうかもしれません。
そこで、賃金の最低額を法律で定めて企業に強制し、企業間の競争を公正にしようというのです。
・日本経済の健全な発展にプラスに作用する。
賃金の安い労働者の収入を増やすことによって、物を買ったりサービスを利用したりが盛んになります。
賃金の高い労働者は、収入が増えても貯蓄に回す比率が高いのですが、賃金の安い労働者ほど増えた収入を消費に回しやすいのです。
こうして、日本経済の発展を下支えすることが期待されるのです。
<最低賃金の現在の機能>
東京都の最低賃金は令和6年10月1日から時間単価が1,163円となっています。
改定された最低賃金は、発効した日の勤務分から適用されることになります。
これはもう最低賃金法の目的からすると、十分高い水準なのかもしれません。
それでも、まだまだ最低賃金が上昇する見込みです。
これは政府の少子高齢化対策の継続的な推進と関係があると思われます。
今、政府は少子高齢化対策を強力に推し進めていて、関連する法改正も盛んです。
特に育児・介護休業法などは、頻繁に改正されています。
企業の就業規則も、法改正に対応した変更からたった1年放置しただけで、違法になってしまうのが現状です。
所轄の労働基準監督署からすれば、就業規則変更届が2年以上提出されない企業は、立入調査(臨検監督)を実施する理由があることになります。
最低賃金が問題となる賃金の安い労働者というのは、基本的には若い労働者です。
これから結婚して子供を設け育てていく労働者です。
若い労働者が安心して結婚し子供を育てられる賃金水準というと、今の最低賃金ではまだ不十分でしょう。
たとえば東京都の最低賃金の時間単価1,163円で、1日8時間、週5日働くと、年間で242万円程です。
( 1,013円 × 8時間 × 5日 × 52週 = 2,419,040円 )
ここから社会保険料や税金が差し引かれますから、結婚に踏み切れないでしょう。
このように少子高齢化対策の側面から見ると、最低賃金は更に上がって当然と言えそうです。
<実務の視点から>
同一労働同一賃金もありますから、非正規職員の人件費を抑えるのも困難です。
人件費その他の経費を考えると、従業員の数は最少限に抑えたいところです。
機械化する、外注に出す、正社員からパート社員に業務を移管するなどの他に、もう一度、教育訓練の強化を考える時期に来ていると思います。
いつの間にか、社員の教育研修を簡素化するようになった企業が多いのではないでしょうか。
生産性を上げるのに人件費を切り詰めてブラックになるよりは、社員の少数精鋭化と多機能化を目指して優良企業となった方が、お客様もお取引先も喜ぶのは目に見えています。
もし自社にぴったりの教育研修について迷うところがあれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。