2024/07/11|1,219文字
<解雇は無効になりやすい>
会社が社員に解雇を通告しても、それが解雇権の濫用であれば無効になります。
これを不当解雇といいます。
解雇したつもりになっているだけで、解雇できていないので、対象者が出勤しなくても、それは会社側の落ち度によるものとされ、賃金や賞与の支払義務が消えません。会社にとっては、恐ろしい事態です。
20年近く前に施行された労働契約法という法律に次の規定があります。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
大変抽象的な表現ですから、いかようにも解釈できそうです。
しかし、正しい解釈の基準は裁判所の判断です。
そして、裁判所の判断によれば、解雇権の濫用は簡単に認定されます。
つまり、多くの場合、不当解雇が認定されます。
不当解雇で処罰されることはないですし、解雇を通告された人が納得すれば問題ありません。
納得がいかなくて、会社に損害賠償の請求をしたときに、初めて問題が表面化するのです。
<「客観的に合理的な理由」とは>
「客観的に合理的な理由」とは、誰が見ても解雇はやむを得ないという理由です。
なぜなら、誰が見ても正しいというのが、客観的に正しいということだからです。
ただし、当事者である会社側と対象社員は「誰が見ても」の「誰」からは除かれます。
当事者は、主観的に考えてしまうからです。
ソーシャルメディアに悪質な投稿をした社員の解雇に「客観的に合理的な理由」が認められるためには、次のような要件が必要です。
・投稿された映像の内容が悪質であること
・会社にソーシャルメディアの利用に関するガイドラインが存在すること
・社員にガイドラインを遵守する旨の誓約書を書かせていること
・ガイドラインの遵守義務が就業規則に規定されていること
・ガイドライン違反についての懲戒規定があること
・ガイドライン遵守の重要性について十分な教育研修を行っていること
・ソーシャルメディアの利用に関し管理職が部下に注意指導していること
<実務の視点から>
社員が何か不都合な行為を行った場合でも、懲戒処分を行うには、それなりの準備が必要だということです。
ましてや、懲戒解雇ともなれば用意周到である必要があります。
対象者から争われ、不当解雇とされた場合のダメージは、かなり大きいものがあります。
他のケースを含め、必要に応じて適正な懲戒処分が行えるようにしておくためには、信頼できる社労士にご相談ください。
<ついでに>
パソコンのデータが消えた時のために、データのバックアップを取っておくことは、多くの会社で行われています。
しかし、パソコンが立ち上がらなくなった時のために、再セットアップディスクなどを作成しておくことは、意外とされていません。
面倒に思われても、予め準備しておくことは大事だと思います。
「備えあれば患いなし」というのは、懲戒処分と共通するものがあります。