2024/05/15|1,568文字
<基本的な態度として>
パワハラを指摘されたなら、それはそれで十分反省すべきです。
しかし、解雇というのが行き過ぎた対応ではないかと疑うことも必要です。
パワハラを理由に解雇を宣告されても、それが法的に有効となるためには、厳格な要件を満たす必要があります。
会社に再考を促すべき場合もありますので、冷静に考えてみてください。
<懲戒の有効要件>
解雇までいかなくても、懲戒が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。
条件を1つでも欠けば、無効を主張できるわけです。
法律上の制限としては、次の規定があります。
「使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」〔労働契約法第15条〕
これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。
ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒が無効とされます。
また、そもそも就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒の具体的な取り決めが無ければ、懲戒そのものができないことになります。
懲戒権の濫用ではないといえるためには、次の条件を満たす必要があります。
・労働者の行為と懲戒とのバランスが取れていること。
・パワハラの問題が起きてから懲戒の取り決めができたのではないこと。
・過去に懲戒を受けた行為を、再度懲戒の対象にしていないこと。
・その労働者に説明や弁解をするチャンスを与えていること。
・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。
・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。
<懲戒規定の明確さ>
実際にパワハラとされた行為が、懲戒の対象であることが明確でなければ、従業員としては、何が処分の対象かわからないまま処分されてしまうことになります。
これは、やはり懲戒権の濫用となり、懲戒は無効となります。
同じパワハラでも、暴行、傷害、名誉毀損など、刑法上の罪に問われる行為であって、懲戒規定に「会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったときは懲戒解雇とする」という規定があれば、他の条件を満たす限り懲戒解雇も有効になります。
しかし、こうした規定が無かったり、パワハラとされた行為が刑罰法規に違反する行為ではないという場合には、パワハラの定義の明確性が問題となります。
<パワハラの定義>
パワハラの定義は、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)で明らかにされました。
大企業については、令和2(2020)年6月1日に施行され、中小企業では令和4(2022)年4月1日に施行されました。
この法令の施行により、企業は「職場におけるパワハラに関する方針」を明確化し、労働者に周知し啓発を行うことが義務づけられています。
社内で何が禁止されているか分からないのに、「あれはパワハラだったから処分します」という不合理なことは、明らかな犯罪行為にあたるような場合を除き許されないのです。
ですから、パワハラを指摘され反省してみたものの、本当にパワハラと言えるのか良く分からないならば、社内でパワハラの定義が不明確である可能性が高いのです。
パワハラで解雇されそうな場合、自分の行為が本当にパワハラだったのか、パワハラと認識できる状態だったのか、パワハラだったとして解雇されるほどのことだったのか、あくまでも謙虚に冷静に再検討してみる必要があります。