逆らう部下でも殴ればパワハラ

2023/12/17|980文字

 

<正当防衛>

刑法に正当防衛の規定があります。

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」〔刑法第36条第1項〕

部下の攻撃が「いきなり、本気で首を絞めてきた」ということでしたら、首を絞められている最中に、部下を殴っても正当防衛になります。

公法である刑法が認めている行為を、パワハラ扱いすることはできないでしょう。

 

<過剰防衛>

刑法には、正当防衛にはならないものの、行き過ぎた防衛行為の場合には、過剰防衛と認定され、刑が軽くなりあるいは免除される場合があるという規定があります。

「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」〔刑法第36条第2項〕

部下の攻撃が「突然、胸ぐらをつかんできた」ということでしたら、その瞬間に部下を殴っても過剰防衛となる可能性があります。

そうだとしても、殴る行為それ自体はパワハラです。

 

<どちらでもない場合>

部下がただ反論してきたに過ぎないのに、つまり暴言を吐いたに過ぎないのに、殴ってしまったなら、正当防衛どころか過剰防衛にもなりません。

暴行罪が成立しますし、ケガをさせてしまったら傷害罪の成立の他、治療費や慰謝料の賠償が問題になります。〔刑法第208条、第204条、民法第709条〕

この場合には、パワハラを通り越して明らかに犯罪です。

 

<攻撃の原因>

部下の攻撃の原因がパワハラであれば、たとえ殴ったのが正当防衛になっても、パワハラは正当化されません。

加害者と被害者が入れ替わっても、悪いことを帳消しにはできません。

たとえば、コンビニのA店とB店が並んでいて、A店の店長がB店で万引きしたとします。

さらに、これを知ったB店の店長がA店で万引きしても、お互い様にはなりません。

両方の店長に窃盗罪が成立します。〔刑法第235条〕

殴った行為がどのように評価されようとも、それ以前に行われたパワハラは正当化されません。

 

<実務の視点から>

パワハラ被害の申し出は増加しています。

これは、パワハラそのものが増えたというよりも、パワハラについての知識が豊富になってきたこと、パワハラの定義が法定されて企業の義務も明確になったことが影響しているでしょう。

パワハラの予防や発生時の対応は簡単ではありません。

ぜひ、信頼できる社労士にご相談ください。

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