2023/07/18|1,097文字
<制裁規定の制限>
減給処分の制限として、次の規定があります。
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」〔労働基準法第91条〕
就業規則などに具体的な規定が無いのに減給処分をすれば、懲戒権の濫用となり無効とされます。〔労働契約法第15条〕
規定があったとしても、何か一つの不都合な事実に対して、減給処分は平均賃金の1日分の半額が限度です。
そして、この平均賃金の計算方法は法定されています。
たとえば、直近の給与の締日までの3か月で、カレンダー上の日数が91日のとき、この間の給与の総合計が91万円であれば、1日分は1万円、その半額は5千円です。
これが減給処分の限度です。
<具体的な計算例>
月給30万円で、月間所定労働日数が22日だとすると、1日あたりの給与は、
30万円 ÷ 22日 = 13,636円 と算出されます。
3回遅刻して1日分の給与がカットされるとすると、これだけの給与が減額されるわけです。
一方で、月給30万円であれば平均賃金の1日分は約1万円、その半額は約5千円ですから、この5千円を大きく上回る13,636円を減額することは、制裁規定の制限を超えてしまいます。
<欠勤控除として許される場合>
もし1日8時間勤務の場合で、3回の遅刻を合わせて8時間以上になるのなら、1日分の給与を減額しても制裁の意味を持ちません。
なぜなら、欠勤控除をする場合よりも、給与の減額が少ないからです。
ただし、欠勤控除をしたうえで、それとは別に減給処分として1日分の給与を減額するならば、制裁規定の制限を超えてしまいます。
<制度としての合理性>
1分の遅刻を3回でも、3時間の遅刻を3回でも、同じく1日分の給与を減額するというルールでは、明らかに不公平です。
出勤の途中で遅刻しそうだと思った社員は、喫茶店でくつろいでから3時間遅刻して出勤するかもしれません。
また、病気だとウソをついて年次有給休暇を取得するかもしれません。
遅刻3回で1日分の給与を減額するルールというのは、問題社員を生み出す原因となりかねないのです。
懲戒処分を適正に規定し運用するというのはむずかしいものです。
だからといって、懲戒処分が無ければ問題社員を野放しにしてしまいます。
懲戒処分の役割は、不都合な行為をした社員を懲らしめることよりも、まじめな社員が安心して働ける会社にすることの方が大きいといえます。
会社に合った規定と運用をお考えでしたら、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。