2024/10/26|1,255文字
<2024年3月まで>
労働者の入社時や契約更新時に、使用者は労働条件通知書などで、労働条件を明示することが義務づけられています。
そして、「就業の場所及び従事すべき業務」については、入社や契約更新の時点でのものを明示すれば、それで法的義務を果たしたことになっていました。
その後の「就業の場所及び従事すべき業務」については、就業規則や労働条件通知書に「会社は業務上の必要により、配置転換を命ずることがあります。労働者は正当な理由なくこれを拒むことができません」のような規定が置かれていて、事実上、変更の範囲は無限定でした。
ところが最近は、若い労働者を中心に、転勤を嫌う傾向が強くなり、配置転換を命じられると退職してしまうというケースも増えてしまいました。
<2024年4月から>
労働基準法施行規則第5条が改正され、2024年4月以降の労働契約締結・更新にあたっては、契約締結・更新直後の「就業の場所及び従事すべき業務」だけでなく、その契約期間での、就業場所と従事すべき業務の「変更の範囲」の明示も義務づけられることとなりました。
1年間の有期労働契約であれば、1年間での「変更の範囲」を明示すればよいのですが、いわゆる正社員のように無期労働契約であれば、定年までの長期間を想定して明示することになります。
これは言うまでもなく、労働者が自らの職業生活の予測を立てやすくなり、将来の人生設計やワーク・ライフ・バランスを図ることを容易にするためであり、働き方改革の一環でもあります。
<就業場所・業務の変更の範囲>
明示義務があるとはいえ、いわゆる正社員のように無期労働契約で、20年、30年、あるいはそれ以上先のことまで想定しての明示となると、どこまで可能でしょうか。
日本国内の各地に営業の拠点があり、海外の数か国にも進出している企業の場合、就業場所の変更の範囲を「海外(イギリス・アメリカ・韓国の3か国)及び全国(東京、大阪、神戸、広島、高知、那覇)への配置転換あり」などと広めに記載しても、遠い未来のことは分かりません。
「会社の定める場所(テレワークを行う場所を含む)」という記載でも、違法ではありませんから、安全のためにこうするのも一考に価します。ただ、全く限定しないに等しい表現では、応募者から警戒・敬遠される恐れがあります。
なぜなら、職業安定法施行規則第4条の2第3項も改正されていて、労働者の募集をする場合にも、求職者に対して労働条件の明示が必要となります。就業場所の変更の範囲、従事すべき業務の変更の範囲も明示対象だからです。
結局、「本店及びすべての支店、営業所、労働者の自宅での勤務」としておけば、応募者は現在ある支店・営業所の範囲を想定するでしょうから、現実的な表現といえるでしょう。
業務の変更の範囲としては、「会社の定めるすべての業務」よりは、「会社内でのすべての業務」の方が安心できる表現ではないでしょうか。
会社側の具体的な事情と、求人への応募者の都合を考えて、バランスの良い表現とすることが望まれます。