2025/09/03|1,333文字
<構造的人手不足とは?>
日本の労働市場では、単なる景気変動による一時的な人手不足ではなく、人口減少・高齢化・産業構造の変化などに起因する「構造的」な人手不足が深刻化しています。
主な要因として、次のものが挙げられます。
◯少子高齢化:生産年齢人口(15〜64歳)が1995年をピークに減少傾向。
◯地域偏在:都市部に労働力が集中し、地方では深刻な人材不足。
◯産業間ミスマッチ:成長分野(IT・介護・物流など)に十分な人材が集まらず、供給が追いつかない。
◯女性・高齢者の労働参加の限界:一定の伸びはあるが、育児・介護・健康などの制約が依然存在。
<労働市場改革の方向性>
構造的な人手不足に対応するため、日本政府は「三位一体の労働市場改革」を掲げています。これは以下の3つの柱から成り立っています。
- リ・スキリング(学び直し)による能力向上支援
リ・スキリングの目的は、成長分野への労働移動を促進し、個人のキャリア形成を支援することです。
施策例としては、教育訓練給付の拡充(IT・データ分析・介護など)、オープンバッジによるスキルの可視化、キャリアコンサルティングの強化などが挙げられます。
- 職務給の導入と人事制度の見直し
背景として、年功序列型賃金ではスキルや成果が反映されにくく、労働移動が阻害されるということがあります。
有効な改革内容としては、職務・スキルに応じた賃金体系(ジョブ型雇用)への転換、評価の透明性・公平性の確保、外部人材の採用促進などがあります。
- 成長分野への労働移動の円滑化
転職後に賃金が下がるリスクがあり、労働者が移動に慎重な姿勢を示すことがあります。
対応策として、労働移動支援(職業訓練・マッチング強化)、最低賃金の引上げ、中小企業への賃上げ支援(労務費の価格転嫁)などが行われます。
<多様な人材の活躍促進>
構造的な人手不足を補うには、従来労働市場に十分参加できていなかった層の活用が不可欠です。
女性に対しては、育児・介護負担の軽減(保育・介護サービスの充実)、柔軟な働き方(テレワーク・短時間勤務)の推進が有効です。
高齢者に対しては、健康状態に応じた就労機会の提供、年齢に配慮した職場環境整備が望まれます。
外国人に対しては、特定技能制度の拡充、日本語教育・生活支援の強化が進められます。
<生産性向上と人的投資>
人手不足を補うには、単に労働力を増やすだけでなく、一人当たりの生産性を高めることが重要です。
AI・ロボット・ICTによる業務効率化、データ分析による高付加価値サービスの創出など、技術の活用を考えます。
従業員の能力開発を経営戦略に組み込む、人材育成への投資を企業価値向上の手段と位置づけるなど人的資本経営への取組みも必要です。
<今後の展望と課題>
構造的人手不足への対応は、単なる雇用政策ではなく、社会全体の構造改革を伴う長期的な取り組みです。
今後の焦点としては、地方・中小企業への支援強化、労働市場の透明性と流動性の向上、教育・福祉・税制との連携による包括的改革などが挙げられます。
構造的人手不足は、日本社会の持続可能性を左右する重要課題です。労働市場改革は、働く人一人ひとりが自律的にキャリアを築き、社会全体が活力を保つための基盤づくりでもあります。