固定残業代(定額残業代)の減額や廃止を合法的に行うには、どのようにしたら良いのでしょうか。

2024/05/03|1,744文字

 

<固定残業代>

固定残業代(定額残業代)は、1か月の残業代を定額で支給するものです。

一般には、基本給とは別に定額残業手当として支給する方法がとられます。

1日8時間、1週40時間、1か月の勤務日数が22日で月給が設定されている場合を例にとります。

予定する残業の基準時間が30時間で、基本給+定額残業手当=20万円にしたいときは、

定額残業手当=基本給÷(8時間×22日)×1.25×30時間なので、

20万円-基本給=基本給×37.5÷176

基本給×(37.5÷176+1)=20万円

基本給=20万円÷(37.5÷176+1)

これを計算すると、基本給は164,871円となります。

定額残業手当は、20万円-164,871円=35,129円です。

164,871円の基本給の場合、1か月の勤務時間が8時間×22日=176時間なら、

30時間分の残業手当は、(164,871円÷176時間)×30時間×1.25=35,129円ですから、計算の正しいことが確認できます。

このとき注意したいのは、最低賃金です。計算結果の基本給が、最低賃金の時間単価×8時間×22日を下回らないようにしましょう。

ちなみに上の例で時間単価を計算すると、

164,871円÷176時間=936.767円

となりますので、都道府県によっては最低賃金法違反となってしまいます。

 

<固定残業代を減額・廃止したい理由>

会社としては、従業員の残業実績を踏まえ、固定残業代の基準となる残業時間を設定したものの、コロナ禍を経て、そこまでの残業が発生する見込みがなくなったので、過剰な残業代を支給していると感じるようになったということがあります。

そこで実態に合わせ、基準となる残業時間を減らして、これに見合った固定残業代とすることや、固定残業代そのものを廃止したいというニーズが生じてきます。

 

<裁判所の判断>

インテリウム事件の控訴審判決(東京高判令和4年6月29日)は、固定残業代は基本給の一部を構成する場合と同様に捉えられるものなので、その変更は就業規則の規定に従って行うべきだと判断しています。

合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、減額・廃止することは許されないとしています。

 

<労働者の同意>

会社と従業員とで、個別の同意があれば、固定残業代の減額・廃止もできることになっています。

これは、労働契約の原則として、労働契約法第3条に「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」と規定されていることからも明らかです。

もっとも「対等の立場における合意」というのが曲者です。

たとえ、同意書に従業員の署名・捺印があったとしても、後になってから、「同意しなければ解雇されると思った」「みんな同意していると言ってプレッシャーをかけられた」などの主張があれば、同意書の効力が否定されることもあります。

 

<同意されやすい変更内容>

たとえば、定額残業代を廃止して、その全額を基本給に組み入れることが考えられます。

この場合、先ほどの例では、基本給が20万円となります。

そして、時間単価を計算すると、

20万円÷176時間=1136.36円

これは、1時間あたり200円の昇給となり、昇給率が21%となってしまいます。

物価高に応じて、昇給が盛んに行われているとはいえ、ここまで人件費が高騰してしまうのは現実的ではありません。

現実的な変更としては、定額残業代の5分の1を基本給に組み入れ、5分の4の金額を定額残業代として残すといったことが考えられます。

この場合には、たとえば30時間の定額残業代のうち、5分の1の6時間分を基本給に組み入れたとすると、時間単価が増額されます。

そうすると、元々の定額残業代の残りの24時間分は、新しい基本給では23時間分程度になる計算です。

ですから、23時間分の定額残業代として支給することとし、23時間を上回る残業が発生した場合には、追加の残業手当を支給することになります。

細かい計算は省略しますが、この場合の昇給率は4%余りとなり、現実的な結果が得られることになります。

今後の物価上昇や、業績の推移を見ながら、少しずつ定額残業代の減額を進めていってはいかがでしょうか。

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