年俸制でも残業代の支払は必要ですが、賞与の決め方によって、残業代の計算方法が違いますから、注意しなければなりません。

2024/04/01|1,462文字

 

<一般的な残業代の計算方法>

残業代(割増賃金)の基本的な計算方法は、次の計算式で示されます。〔労働基準法第37条第5項〕

 

1時間あたりの基本賃金(時間単価)×(1+割増率)× 労働時間

 

この中の「1時間あたりの基本賃金」は、時給制の場合には、原則として時給額そのものとなります。

しかし、月給制の場合には、計算が少し複雑となります。

まず、「計算の基礎となる月給」には、次のものが含まれません。〔労働基準法施行規則第21条〕

・家族手当・扶養手当・子女教育手当

(ただし、家族数によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)

・通勤手当

(ただし、交通費や通勤距離によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)

・別居手当・単身赴任手当

・住宅手当

(家賃やローンの有無によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)

・臨時の手当(結婚手当、出産手当、大入り袋など)

これは、年俸制でも同様です。

そして、月給制の場合「1時間あたりの基本賃金」は、次の計算式で示されます。

 

1時間あたりの基本賃金

=計算の基礎となる月給÷1年間における1か月平均所定労働時間

 

各月の所定労働時間は、カレンダーによる影響などで増減してしまうことがあります。これでは、「1時間あたりの基本賃金」が毎月変動してしまい、賃金計算が複雑になってしまいます。これを避けるため、「1年間における1か月平均所定労働時間」を計算に使うことになっているのです。

 

たとえば、年間所定休日が122日で、1日の所定労働時間が8時間であれば、1年間の所定労働時間は、次の計算で求められます。

( 365 - 122 )× 8時間 = 1,944時間

この場合、1か月平均所定労働時間を計算すると、次のようになります。

1,944時間 ÷ 12か月 = 162時間

 

<年俸制の特徴>

年俸制では、一般的に、各従業員の成果や業績に応じて年単位で給与額を決めます。労使間で正式に協議し合意の上で翌年度の給与額が決まります。ほとんどの企業では、今年度の評価を基準に、来年度の年俸を決定するという形をとっています。

年俸制は1年間の給与総額が決まっているため、よほどのことがなければ、途中で金額が変動することはありません。

 

<年俸制と労働基準法>

年俸制については、労働基準法に規定がありません。

規定がないということは、年俸制には労働基準法が適用されないということではなく、労働基準法の規定は例外なく年俸制にも適用されるということです。

したがって、年俸制でも当然に、一般的な計算方法により残業代を計算し、支給しなければならないということです。

ただし、定額(固定)残業代を設定する場合には、月給制の場合と同様の設定・運用方法がとられます。

 

<年俸制の場合の留意点>

労働基準法上の賞与は、その金額が、会社の業績や個人の実績によって決まり、変動することが予定されているものに限定されます。

ところが年俸制では、年間の給与額が、賞与の金額を含め定額で決まっている場合があります。この場合の賞与は、労働基準法上の賞与とみなされません。これによって、先ほどの一般的な残業代の計算方法は修正され、「1時間あたりの基本賃金」は、次の計算式によることになります。

 

1時間あたりの基本賃金

=賞与を含む1年間の給与総額÷12÷1年間における1か月平均所定労働時間

 

つまり、計算式に賞与が含まれてしまう分だけ、金額が大きくなってしまいます。このことから、年俸制の場合の賞与は、定額ではなく、会社の業績や個人の実績によって決まることとすることをお勧めします。

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