配転命令権の濫用

2023/04/27|855文字

 

<会社の配転命令権>

従業員から提供された労働力をどのように活用するかは、会社の人事権、業務命令権として会社に裁量が認められています。

たとえ就業規則に、従業員に配転を命ずることがある旨の規定がなくても、会社の中で配転があることは当然に予定されています。

もし従業員自らの考えで、役割や業務内容を選択できるうえ、会社からの配転命令に応じなくてもよいとすると、会社は適材適所を図ることができず、生産性の維持・向上ができません。

ですから、従業員と会社との間に職種を限定するような特別な取り決めがある場合や、会社側に配転命令権の濫用があって公序良俗に反するような場合でなければ、会社の配転命令が有効となります。

 

<職種限定の特別な合意>

入社にあたって、労働条件通知書や雇用契約書が交付されたとき、そこに特定の業務内容が記載されていたとしても、それは入社直後の最初の業務内容が示されているに過ぎず、変更がないという趣旨ではありません。

しかし専門職の他、特殊技能や免許を要する職種に限定されて採用された従業員や、一般の正社員よりも給与・賞与などの待遇が低く設定されて採用された職種限定正社員のように、職種限定の特別な合意がある場合には、会社に配転命令権がありません。

職種限定の特別な合意は、明確に行われた場合に限り有効ですから、長期にわたって同じ業務に従事してきた実績があったとしても、これをもって自然に職種限定の合意が発生するということはありません。

 

<配転命令権の濫用>

配転の必要がないにも関わらず不当な動機・目的で、内部告発や退職勧奨の拒否などに対する報復措置として、あるいは退職に追い込むための嫌がらせで配転命令を行ったような場合には、裁判では権利の濫用とされ無効と判断されることがあります。

特に転勤を伴う場合、家族の育児・介護の他、本人や家族の治療・療養の都合などの点で、従業員の不利益の程度が大きい一方で、転勤の必要性が低い場合には、配転命令権の濫用が疑われやすいですから、十分な話し合いのうえ行う必要があるでしょう。

 

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