退職勧奨と配置転換

2023/04/25|1,031文字

 

<会社の配置転換権>

会社の就業規則には、配置転換について、次のような規定が置かれることが多いものです。

「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

…労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。」〔厚生労働省のモデル就業規則第8条〕

たとえこのような規定がなくても、会社と社員との間で配転を想定した労働契約が成立していれば、会社が労働契約に基づいて社員の働く職種や場所を決定できるものと考えられています。

社員から提供された労働力をどのように活用するかは、会社の人事権、業務命令権として会社に裁量が認められるとされているのです。

 

<権利の濫用となる場合>

会社に配転命令権がある場合でも、次のような事情がある場合には、権利の濫用となり配転命令が無効と考えられます。

ほとんど嫌がらせと見られるような場合です。

・そもそも業務上の必要がない場合

・配転命令が不当な動機や目的によるものである場合

・社員の不利益が通常の程度を著しく超える場合

社員からこのような事情の存在を主張されたのに対し、「会社には配転命令権があり社員には従う義務がある」という態度を取り続けたのでは、まさに権利の濫用になってしまいます。

 

<退職勧奨後の配置転換>

勤務成績不良や能力不足の社員に対し、会社が教育・指導を行ったにも関わらず、改善を示さない場合には、やむを得ず退職勧奨を行うことがあります。

そして、対象社員が退職勧奨に応じない場合には、これまでの業務を続けてもらうことに不都合がありますから、配置転換を行うことが多いでしょう。

このとき、退職勧奨を拒否したことへの報復である、退職に追い込むことを目的として行われたなどとして、対象社員から配転命令が権利の濫用であると主張されることがあります。

 

<権利濫用ではないことの説明>

たとえ裁判に至らなくても、対象社員から配転命令権の濫用を主張されたならば、会社はこれを否定すべく丁寧な説明を行う必要があるでしょう。

権利濫用ではないことを合理的に説明しうる事実としては、次のようなものが考えられます。

・配転前には配転先の部署が人員不足で、社員の長時間労働が続いていた

・配転先の業務が対象社員の能力に見合っていて、能力を活かすものである

・客観的に見て、配転が対象社員の勤労意欲を向上させるものである

・退職勧奨から配転まで数か月以上の長い期間が経過している

・給与、賞与、キャリア形成などの点で大きな不利益がない

 

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