懲戒の記事

<パワハラ教育の充実>

パワハラ防止のための社員教育が、中小企業でも進んできています。そうした中で、昔のことについて「あの行為はパワハラだったのでは?」という疑問も出るようになってきています。

昔のパワハラ行為を、懲戒処分の対象とすることはできるのでしょうか。

 

<刑罰不遡及の原則>

今現在の就業規則に、問題とされる具体的なパワハラ行為についての懲戒規定があるとしても、昔の行為当時に規定が無かったならば、さかのぼって懲戒規定が適用されることはありません。

これは、刑罰不遡及の原則によるものです。〔日本国憲法39条〕

 

<時効の問題>

労働基準法は、賃金などの請求権について2年間、退職金について5年間の消滅時効期間を定めています。〔労働基準法115条〕

これは、民法に規定されている請求権の時効の例外を定めているものです。

しかし、懲戒処分は請求権ではないので、この規定とは無関係です。

また刑事訴訟法には、犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると公訴が提起できなくなるという公訴時効についての規定があります。

しかし、これは国家が刑罰を科す場合の規定ですから、民間企業の懲戒処分には適用されません。今でも、遅刻すると罰金3,000円などブラックな話も聞かれますが、民間企業が従業員に罰金を科すということなど、あってはならないことです。

結局、懲戒処分に時効期間の規定は無いのです。

 

<民法の基本原則>

時効が無いのだから、どんなに昔のことでも懲戒処分の対象となりうるというのでは、安心して勤務できません。

労働契約も契約の一種ですから、民法の信義誠実の原則や権利濫用の禁止があてはまります。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。〔民法1条2項〕

権利の濫用は、これを許さない。〔民法1条3項〕

ということで、あまりにも昔のことを持ち出して懲戒処分を行うのは、不誠実で懲戒権の濫用となり無効であるというのが結論となります。

 

<裁判では>

最高裁の裁判では、7年前の暴行を理由に懲戒解雇処分を行ったのは、懲戒権の濫用であり無効であるという判決があります。1審では解雇無効、2審では解雇有効、そして最高裁で解雇無効という判断でした。

最高裁は、会社が警察の判断を待っていて懲戒処分のタイミングを見失ったという主張を退け、会社には懲戒処分を行うチャンスがあったのに怠っていたと判断したのです。また、そこまでひどい暴行ではなく、解雇は行き過ぎだとも言っています。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

会社に懲戒規定を置く目的として、次のようなものが挙げられます。

・懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正する。

・懲戒が行われることで、他の社員は道義感が満たされ安心して働ける。

・懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できる。

・懲戒規定があることで、社員全員が不正行為を思いとどまる。

一般には、行為者を懲らしめる目的だけがクローズアップされがちですが、他の目的も重要です。

こうした目的からすると、タイムリーな懲戒処分が必要なわけですが、会社としては懲戒権の濫用を指摘されないよう、慎重に行う必要もあります。

懲戒処分を検討するのでしたら、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.07.19.解決社労士

<処罰できる場合とできない場合>

意図的に仕事をしない場合なら、就業規則に故意に仕事の手抜きをした場合の懲戒規定を置いて、その事実を証明し、本人の言い分を聴くなど適正な手続きを踏んで懲戒処分をすることができます。

能力的に仕事ができない場合なら、適正な人事考課を通じて、その人の給与や賞与が調整されますから、きちんと仕事をしている人との間で不公平の問題は生じません。そもそも能力不足に対する懲戒処分は意味が無いのです。反省して心を入れ替えても、できないことはできないのですから。むしろ、会社が教育研修に力を入れる必要があります。

しかし実際には、わざと仕事をしないのか、それとも能力不足でできないのかは見分けがつきません。

 

<貢献度が基準なら>

「能力による評価」と言っても、真の能力は目に見えません。どれほど手を抜いているのかはわからないのです。

100の能力を持った人が、手を抜いて50の能力しか発揮していない場合と、50の能力しか無い人が死に物狂いで50の能力を発揮した場合とでは、会社に対する貢献度は同じです。

ですから、発揮された能力を会社に対する貢献と考えて、どちらも同じ評価をすることは不合理ではありません。

 

<姿勢を加味するなら>

しかし、死に物狂いの姿は他の社員に良い影響をもたらすと考えれば、50の能力しか無い人の方を高く評価することにも十分な理由があります。

反対に、会社の外でも十分な能力を身に着ける努力を続けていたものと考えれば、100の能力を持った人を高く評価するのも不当ではありません。

 

<結論として>

能力、会社に対する貢献度、仕事に対する取組姿勢など、多面的な評価基準を含んだ適正な人事考課と、その前提となる教育研修を行えば、仕事をきちんとしない社員を懲戒処分の対象とする必要は無くなります。

会社の実情に応じて具体的にどうすれば良いのかは、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.04.17.解決社労士

<労働契約法による規制>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」〔労働契約法15条〕

 

<抽象的な基準>

会社が従業員に対して懲戒処分を通告しても、客観的に合理的な理由を欠いている場合や、社会通念上相当であると認められない場合には、無効になってしまいます。

「客観的に合理的な理由」は、社内で協議してOKとなれば良いのではありません。懲戒処分の対象者が、処分の合理性を否定できないような客観的な理由の存在が必要です。そして、その基準は多くの労働裁判や労働審判などに示されています。

「社会通念上相当」というのは、世間一般の人から見て「それだけのことをすれば、こうした懲戒処分もやむを得ない」と言えることをいいます。社内の懲戒権者による主観的な判断は基準になりません。

 

<懲戒処分が無効なら>

懲戒処分が無効になると大変です。

まず、会社は懲戒処分をしてしまった対象者に対して、損害の賠償をします。懲戒処分によって失われた経済的利益の他に、慰謝料の支払いも必要です。

もし、諭旨解雇や懲戒解雇が無効になったなら、ご本人が希望する限り、暖かく元の職場に迎え入れることになります。

会社は悪者扱いした対象者に頭を下げ、不利益をすべて取り除かなければなりません。これはかなり屈辱的なことになってしまいます。

 

<無効な懲戒処分を避けるには>

懲戒処分の対象となる事件が発生したら、信頼できる社労士にご相談ください。

最初から訴訟になりそうな大きな事件であれば、弁護士に依頼するのが普通でしょう。しかし、そこまでの事件でなければ、弁護士と同じく守秘義務を負い、労働法や判例などの事例に精通した社労士が適任だと思います。

間違った懲戒処分をしないことは、懲戒処分の対象となるような事件の発生防止以上に必要なことです。もし、会社にとって不都合な事件が発生したら、なるべく早く社労士にご相談されることをお勧めします。

 

2017.04.14.解決社労士

<懲戒規定と表彰規定>

おそらくどの会社の就業規則にも、懲戒規定と表彰規定があると思います。懲戒既定の方しか無い会社というのは、それだけでブラックな印象を与えてしまいますね。

厚生労働省のモデル就業規則にも、両方の規定があります。しかし、懲戒既定は50行もあるのに、表彰規定は7行しかありません。懲戒規定の方が、表彰規定よりも分量が多いというのは、やはり多くの会社で同様だと思います。

これだけでも、懲戒は表彰よりも目につきやすいですし、実際に、懲戒処分は行われても、表彰は行われたことがないという会社も少なくないでしょう。

 

<懲戒処分の目的>

社員を懲戒する目的の一つに、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることがあります。懲戒処分を受けた社員が深く反省し、二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

しかし、これと併せて、「会社が懲戒対象となった行為が悪であると評価している」ということを公にして、懲戒対象とならなかった社員に対して注意を促すことも、懲戒処分に期待される効果であり目的となっています。

 

<同じ目的を達成するのなら>

たとえば遅刻を繰り返す社員に懲戒処分を行ったとします。これによって、「遅刻は悪いことです。皆さん気をつけましょう」という会社の意思を表明することができます。

しかし、同じ目的を達成することは、長年にわたり無遅刻無欠勤の社員を表彰することによっても可能です。「遅刻しないのは良いことです。皆さんも見ならいましょう」という会社の意思を表明することができるのです。

同じ目的を達成できるのであれば、懲戒処分よりも表彰の方が気持ち良いに決まっています。

 

<懲戒と表彰のバランス>

懲戒処分が連続したのでは、社員の気持ちが暗くなってしまいます。同じ目的を達成できるのであれば、表彰も同じくらいの回数、実施したいものです。

とはいえ、人命救助など限られたことだけを対象としていたのでは、表彰の機会は生まれません。積極的に社内キャンペーンなどを行い、表彰の回数を増やしてはいかがでしょうか。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

懲戒事案が発生した時だけ、社労士に相談が来るというのは悲しい事実です。懲戒処分が発生しないような教育研修の実施、労働環境の確保、納得のいく人事制度などと併せて、表彰についてもご相談いただけたらと願っています。

 

2017.03.06.解決社労士

<あいまいさの残る懲戒規定>

どんなに良くできた懲戒規定でも、「平素の勤務態度その他情状によっては」「しばしば」「数回にわたって」「著しく」などあいまいな表現が残るものです。

これらの抽象的な表現は、それぞれの案件の具体的な事情に応じて、適切な結論を出すためには必要なものでもあります。

しかし、解釈に幅があるだけに、平等で公平な運用はむずかしいものです。

 

<懲戒対象者を納得させるのは難しい>

なにしろ、懲戒処分を検討しなければならない事件は、日常的に起こるものではありません。むしろ、滅多に起こりません。

ですから、その場限りの判断を繰り返していると、懲戒処分を検討している対象者から「今まで遅刻で懲戒処分を受けた社員はいないのに、なぜ自分だけ懲戒処分を検討されるのか?」とたずねられても、明確な回答ができない恐れがあります。

また、出勤停止の懲戒処分があったときに、別の社員から「自分の時は始末書を書かされただけで済んだのに」という疑問が出されたら、上手に説明できないこともあります。

これでは、懲戒処分を受けた社員が納得できず、心から反省することもなくなってしまいそうです。さらに、本人以外の社員が納得できないのでは、会社に対する不信感が高まってしまいます。

 

<徹底した記録の保管が必要>

こうしたマイナスの効果が発生しないように、懲戒処分があったときには、懲戒対象者、懲戒対象事実、懲戒処分の内容について、詳細な記録を残すことが必要です。

それだけでなく、懲戒処分には至らず検討されただけの案件についても記録も保管は必要です。

さらに、懲戒処分が労働局の斡旋の対象になったり、労働審判の対象になったりすれば、その経緯と結論の資料も一緒に保管する必要があります。

ここまでしないと、平等で公平な懲戒処分は実現しませんし、疑問が出されたときに納得のいく説明をすることができないのです。

せっかく、時間と労力、人件費をかけ、何より大変神経をすり減らして行う懲戒処分です。効果の最大化を図るためには、資料保管の労を惜しんではなりません。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.26.解決社労士

<会社の利益を確保するためには>

会社に損害が発生しないようにするには、社員にして欲しくないことを、懲戒規定にもれなく定めておかなければなりません。

しかし、想定外のことで会社に損害が発生することもあり、すべてを規定しておくことは困難です。最近では、SNSやブログへの悪ふざけの投稿が問題となっています。

 

<包括的な規定の効果>

懲戒規定の中に「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」という条文を見ることがあります。

こうしておけば、すべてを網羅しているようにも見えます。

しかし、「悪いことをしたら処分します」という規定を置くようなもので、あまりに具体性を欠いていますから、有効性は疑わしいです。

こうした規定を根拠に懲戒処分を行うことは、社員に対する人権侵害の恐れが大きいといえます。

それだけではなく、このような規定があることを知った社員は、委縮してしまい伸び伸びと活躍することができなくなってしまうでしょう。

 

<解釈が分かれる規定>

「会社の名誉を傷つけ、業務に悪影響を及ぼす行為」が懲戒処分の対象に規定されているとします。

このカッコの中の「、」が曲者(くせもの)です。この「、」は、「または」の意味にも「かつ」の意味にも解釈できます。

「または」と解釈すれば処分の対象は増え、「かつ」と解釈すれば処分の対象は減ります。

このようなあやふやな規定がある場合には、懲戒処分が検討されている対象社員に有利に解釈しなければなりません。そうしないと、人権侵害となる恐れが大きいのです。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.25.解決社労士

<会社に懲戒規定を置く目的>

会社に懲戒規定を置く目的として、次のようなものが挙げられます。

・懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正する。

・懲戒が行われることで、他の社員は道義感が満たされ安心して働ける。

・懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できる。

・懲戒規定があることで、社員全員が不正行為を思いとどまる。

一般には、行為者を懲らしめる目的だけがクローズアップされがちですが、他の目的も重要です。

 

<実は相反する目的>

まず、懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正するには、起こしてしまった言動と懲戒とのバランスが大事です。懲戒処分が軽すぎても反省しませんし、重すぎると会社に対する反感が生まれてしまいます。

つぎに、懲戒が行われることで他の社員の道義感が満たされること、良くないことをした社員がきちんと懲戒されることで、他の社員は同様の事態は発生しないと考え安心して働けるようになるという点では、懲戒処分がやや重い方がその目的が達成されやすいでしょう。

そして、懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できるようになるという点では、懲戒処分がやや軽い方がその目的が達成されやすいでしょう。

さらに、懲戒規定を置いて社員全員に不正行為を思いとどまらせるという目的では、処分が重ければ重いほど効果があると考えられます。

このように、懲戒処分をどの程度の重さにするかは、どの目的を重視するかによって判断が変わってきます。もちろん、あまりに重い懲戒は不合理とされ有効性が疑われます。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.24.解決社労士

<損害の大きさに見合った処分>

社員の不都合な行為によって会社が被る損害としては、会社存続の危機、業務の妨害、取引の不正、欠勤・遅刻・早退、金銭・備品・設備の損失、取引関係の消滅、金融機関・取引先・顧客の信用棄損、社員の安全侵害(ハラスメントを含む)、情報の不足、誤った情報の伝達などなど、考えただけでも心配になるくらい多くの種類があります。

同じ種類の損害でも、その損害が大きければ、より重い懲戒処分が検討されることになります。

 

<会社により違う評価>

すべての損害が金銭に換算できるわけではありません。ですから、「損害の大きさ」といっても、異なる種類の損害の間で大小を比べるのは困難です。

それだけではなく、会社の方針が「お客様第一」の場合と、「会社の利益第一」の場合とでは、同じ行為に対する評価が変わってきます。

またたとえば、社員がトイレに入り手を洗わずに出てきた様子をお客様に見られたとします。その社員が飲食店の店員であった場合には、靴屋の店員の場合よりも会社のダメージが大きいことは明らかです。

つまり、損害の大きさに見合った処分を行うというときの「損害の大きさ」は、客観的に決まっているものではなく、その会社や職場ごとにある程度主観的に決めなければならないものです。

もともと就業規則というのは、ひな形をベースにしても、自社に合うように修正することが必要なのですが、特に懲戒規定についてはオーダーメイドの覚悟で大幅な修正が必要になるのです。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.23.解決社労士

<目的による悪質性の違い>

同じく小学生を誘拐した場合でも、可愛いから連れて帰ったなら未成年者誘拐罪、身代金を要求する目的なら身代金目的誘拐罪です。

未成年者誘拐罪の法定刑が「3月以上7年以下の懲役」なのに対して、身代金目的が加わると「無期または3年以上の懲役」となります。〔刑法224条、225条の2

身代金を得る目的が加わると重く罰せられるのは、その危険性や行為に対する世間一般の非難のレベルが大きく異なるからです。

 

<懲戒規定でも>

自社で開発中の自動車について、故意に虚偽の性能検査報告書を作成し上司に提出したとします。これだけでも、懲戒処分の対象となりうる行為であることは明らかです。しかし、何を目的として行ったかによって、その悪質性には大きな違いが出てきます。

たとえば、次のような目的を想定することができます。

・上司をからかうつもりで、ほんの冗談で行った。

・上司を困らせる目的で行った。

・会社に損害を加える目的で行った。

・会社に損害を加えるとともにライバル会社から謝礼をもらう目的で行った。

会社の懲戒規定は、社内の刑法ともいうべきものですから、同じ故意による行為であっても、その目的によって処分の重さが異なってくるのが当然です。

ところが、「故意または重大な過失により会社に損害を与えたとき」というように、目的による区別をしていない規定も見られます。

たしかに、「平素の勤務態度その他情状によっては」一段低い処分にするという規定が置かれ、柔軟に対応できるようにしてある場合もありますが、これでは適切な懲戒処分を行いにくいので、場合を分けて規定すべきでしょう。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.22.解決社労士

<故意と過失の違い>

同じく他人にケガを負わせた場合でも、意図的に殴りかかった結果なら傷害罪になりますし、人ごみで高齢者にうっかりぶつかって転倒させた結果なら過失傷害罪となります。

故意のある傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い法定刑なのに対して、過失傷害罪は「30万円以下の罰金または科料」で、しかも告訴がなければ公訴を提起されません。〔刑法204条、209条〕

同じ結果が発生した場合でも、わざと行ったのなら重く処罰され、うっかりなら軽く処罰されるのは、その危険性や行為に対する世間一般の非難のレベルが大きく異なるからです。

 

<懲戒規定でも>

会社の懲戒規定は、社内の刑法ともいうべきものですから、故意による行為は過失による行為よりも重い処分になるのが当然です。

ところが、「会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え(以下略)」というように、故意によるものと過失によるものを区別せず、1つの条文で定めていることがあります。

これでは適切な懲戒処分を行いにくいので、場合を分けて規定すべきでしょう。

 

<過失なら懲戒しない?>

大手鉄道会社が、大規模な事故を起こした運転手について、「過失なので懲戒処分を行わない」という発表したことがあります。徹底的な再教育と適正な人事考課で対応するということでした。

なるほど、過失による行為は「悪いことをした」というよりも、適切な行動をとるための「注意力など能力が足りない」という評価のほうが正しいのかもしれません。ミスを繰り返す社員に懲戒処分を繰り返しても効果は期待できません。むしろ、教育研修が大事ですし、能力と貢献度に見合った処遇をするための人事考課制度が必要でしょう。

ただ、上場企業が「うちの会社は過失なら懲戒処分しません」と宣言してしまうのは、被害者が出た場合の本人・家族や世間一般の批判にさらされることになって危険だと思います。

 

<重過失という考え方>

普通の人ならありえないような極端な不注意で、わずかな注意で結果の発生を防げたハズの過失を、一般の過失と区別して「重過失」と呼ぶことがあります。

正常な人であれば、重過失を繰り返すということは考えにくいです。また、重過失には故意と同程度の危険があり、非難の程度もハイレベルですから、懲戒処分によって反省と改善を求める必要性は高いのです。

このことから「故意または重過失により(以下略)」という規定も、多く見られますし妥当だと思います。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.21.解決社労士

<過去の事で懲戒処分を受けるケース>

「過去の事で懲戒処分を受ける」という場合、次のようなパターンが考えられます。

1.過去に一度懲戒処分を受けた事について再び懲戒処分を受ける場合

2.その当時は懲戒処分の対象とならなかった事について蒸し返される場合

 

<懲戒処分を受けた事について重ねて懲戒処分が行われる場合>

「二重処罰の禁止」というのがあります。これは、日本国憲法39条で保障されているものです。

一度処分や処罰を受けた事について、重ねて処分や処罰を受けないということです。

この原則は、社内の懲戒処分についても、基本的にはあてはまるものですから、会社から「二重処罰」されそうになったら、大いに反論の余地があります。

ただし、例外があります。それは常習犯的な場合です。

たとえば、遅刻を繰り返した社員を譴責(けんせき)処分にして、厳重注意をしたうえで、始末書を取ったとします。それにもかかわらず、相変わらず遅刻を繰り返しているという場合、今度は一段重い懲戒処分にするということがあります。きちんと就業規則に「懲戒処分を受けたにもかかわらず同じ過ちを繰り返した場合には」という規定を置くなど、条件を満たしていれば有効です。

 

<懲戒処分にならなかった事について再び懲戒処分が検討される場合>

「一事不再理(いちじふさいり)」というのがあります。これも、日本国憲法39条で保障されているものです。

一度処分や処罰が検討された事について、後になってからもう一度処分や処罰を検討されないということです。

この原則は、社内の懲戒処分についても、基本的にはあてはまるものですから、会社から蒸し返されそうになったら、大いに反論の余地があります。

こうした場合だけでなく、会社に発覚したのに長年懲戒処分を検討されなかった事について、ある時突然懲戒処分を言われるというのは、会社が信義誠実の原則に反していることが多いでしょう。あるいは、退職に追い込むための言い訳として、無理に過去の事を問題にしているのかもしれません。こうしたことも決して許されることではありません。

 

会社から懲戒処分を受けそうになった時、あるいは受けた時、それが有効なのか、それとも懲戒権の濫用であり無効なのか、かなり専門的な判断が必要です。

おかしいと思ったら、労働事件を扱う弁護士や信頼できる特定社労士(特定の付記を受けた社会保険労務士)にご相談ください。

 

2016.11.11.

<制裁規定の制限>

減給処分の制限として、次の規定があります。

「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」〔労働基準法91条〕

就業規則に具体的に規定してあるなど、他の適法要件を備えていたとしても、何か一つの不都合な事実に対して、減給処分は平均賃金の1日分の半額が限度です。この平均賃金の計算方法は、法定されています。

たとえば、直近の給与の締日までの3か月で、カレンダー上の日数が91日のとき、この間の給与の総合計が91万円であれば、1日分は1万円、その半額は5千円です。これが減給処分の限度です。

また、いくつかの不都合な言動があって、まとめて減給処分をする場合に、給与計算後の月給の支給総額が20万円の人に対しては、10分の1の2万円が限度ということになります。

これは、労働者の生活を守るためです。

 

<分割払いの減給処分はどうか>

たとえば1回の遅刻につき、平均賃金の1日分の半額の減給処分が就業規則に規定されていて、適法に運用されているとします。

ある人が、9月に10回遅刻したとすると、

「平均賃金の1日分の半額」×10=「平均賃金の5日分」

の減給処分をしたいところ、それでは月給の10分の1を超えてしまいます。

ご質問者様は、これを10月から翌年2月までの5回に分けて、平均賃金の1日分ずつ減給できるのかという疑問をお持ちです。

これは、できます。なぜなら、分割払いにすれば労働者の生活を守るという法の趣旨に反しないからです。一括だと大変な負担でも、法の制限内の金額での分割なら許されるのです。

 

<しかし現実には>

5か月にわたって、特別な給与計算をするのは面倒です。

また、減給処分の対象者が途中で退職するかもしれません。この場合にも、制限を超えてまとめて減給はできません。

そもそも月に10回も遅刻するというのは異常です。原因を突き止めたうえで、他の懲戒処分、たとえば、出勤停止なり降格処分なりを考えるべきでしょう。もっともこれは、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。

あるいは、人事異動や人事考課で対処するというのが、より現実的でしょう。

 

<結論として>

現在の就業規則の減給処分が、労働基準法違反ではないか、従業員の不都合な言動に対する懲戒処分の規定が適正か、あらためてチェックしておく必要があるでしょう。甘すぎても、厳しすぎてもダメです。

それと、きちんとした人事考課の基準が無ければ、適正な対応ができないケースもあります。

総合的に内容をチェックするには、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

2016.09.25.

<職場で求められる協調性とは>

職場では、上司、同僚、部下、他部門との関係で、次のような協調性が求められます。

上司との連携は円滑か、報・連・相は適切か、上司の指示に忠実か、上司のミスをカバーしたか、上司の話に傾聴しているか、上司を批判していないか、上司に感謝しているか、などが問われます。

同僚との連携は円滑か、同僚のことも考えて業務を推進しているか、同僚のミスをカバーしたか、などが問われます。

部下との連携は円滑か、部下の誰をどこまで育てたか、部下をほめているか、部下からの相談に対し親身に取り組んでいるか、部下から感謝されているか、などが問われます。

他部門の業務に干渉していないか、自部門・他部門の改善提案は正しいルートで行っているか、などが問われます。

 

<譴責処分とは>

本人から会社へ始末書を提出させ、反省させる処分です。懲戒処分の中では軽いほうでしょう。

始末書には、不都合な事実の内容、そうした事実を生じたことに対する反省、再発防止策の提示、再発防止に向け努力することの約束を書きます。お詫びだけを長々と書くのでは、条件を満たしません。

 

<譴責処分の正当性>

譴責処分を受けたなら、始末書で約束した努力を続けつつ、気を取り直して業務に打ち込み、社内の信頼を回復するのが筋です。

しかし、どうにも納得がいかないという場合には、次の懲戒処分の有効要件を確認してみましょう。もちろん、就業規則や労働条件通知書などに具体的な規定があることは大前提です。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

これらの条件は、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論の具体的な内容を示したものです。条件を満たしていなければ、懲戒処分は無効となります。〔労働契約法15条〕

それどころか、会社は労働者から損害賠償の請求を受けることにもなります。

ただ、譴責処分を受けた本人は感情的になっていますから、会社が懲戒権を濫用したのかどうか、弁護士や特定社労士に客観的な判断を求めることが必要でしょう。

 

<人事考課との関係>

人事考課と懲戒処分とでは目的が違います。懲戒処分を受けたことを理由に、人事考課で一段低い評価を受けるというのは不合理です。

ただ、懲戒規定に協調性についてのものがあり、人事考課の基準にも協調性の有無が入っていると、それぞれ効力が認められます。

懲戒処分を受けるにあたって、本人には事情を説明するチャンスが与えられますから、このときに人事考課との関係も確認できるかもしれません。ただ、あまりこだわりを示すと心証を悪くしてしまいますので注意が必要です。

 

2016.08.27.

<懲戒処分の必要性>

社員を懲戒する第一の目的は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

懲戒処分を受けた社員に対しては、深く反省し二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

ですから、能力はあるのに故意あるいは不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。

能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。

会社は、能力不足に対しては、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。

社員を懲戒する第二の目的は、懲戒対象となった社員ではなく、他の社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することにあります。

「社長を怒らせたら懲戒処分」というのでは、社員はいつも不安です。何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。

懲戒規定にない行為について、懲戒処分をすることはそれ自体違法です。しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下するという実害が出ますので絶対に避けましょう。

 

<懲戒処分ができない会社>

まず、就業規則や労働契約書などに具体的な懲戒規定を置かなければ、懲戒処分を行っても労働審判や訴訟で無効とされてしまいます。

懲戒処分は、あらかじめその内容を具体的に予告しておくことによって、社員に警告を発しておくことができるのです。

「常識外れなことをして会社に迷惑をかけたから減給処分」などと、大雑把なことはできないのです。

どういう規定なら具体的といえるかの基準としては、ある社員が不都合な行為を行ったときに、それがその規定に定める行為にあたるかどうか、社内で意見が分かれないということが目安になります。

つぎに、懲戒処分をするにあたっての手続き・手順が決まっていなければ、物事が進みません。

とくに、懲戒対象の社員には弁明の機会を与えなければなりません。それ以前に、具体的な事実の確認も必要です。何をどういう手順でどうやって懲戒処分にたどりつくのか、ルールがなければなりません。

さらに、今まで社内でどのような不都合なことがあったか、会社はこれにどう対応したかの記録が残っていなければなりません。懲戒処分は平等かつ公平でなければなりませんので、過去の事例との比較も重要になるからです。

 

<懲戒処分ができない社長>

懲戒処分の決裁権を持っているのは原則として社長です。

しかし、この社長が臆病で懲戒権を発動できないと困ります。何をやっても許される会社になってしまい、モラルの低い社員しか残らなくなってしまいます。

社員が安心して働くためには、懲戒処分が必要なのです。

特に会社に対する貢献度の高い社員が独断で行動を起こし、会社に損害を与えてしまった場合には、社長としては大目に見ようと考えがちです。これでは、他の社員の腹の虫がおさまりません。

懲戒処分をためらう社長は、社員の表彰をしていないことが多いように見受けられます。

表彰もするが懲戒もするという信賞必罰の方針でいけば、会社に対する貢献度の高い社員に対しては、何回か表彰し、時には懲戒処分ということもやりやすいと思います。

さらに、社長が臆病ではないのに懲戒処分をためらうケースがあります。

それは就業規則などの懲戒規定のバランスが悪いケースです。たとえば、「セクハラをしたら懲戒解雇」という規定の会社では、ちょっと冗談を言っただけで解雇になりかねません。この場合には、就業規則などの見直しが必要です。

 

2016.07.30.

<懲戒権濫用法理>〔労働契約法15条〕

「使用者が労働者を懲戒できる場合」であることを前提に、次のような条件すべてを満たしていないと、その懲戒処分が無効とされるばかりではなく、会社は損害賠償の責任を負うことになります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<居眠りに対する懲戒処分>

まず、居眠りというのは故意にできることではなく、過失による行為ですから、懲戒規定の中でも、他の過失行為と同様に軽い処分とせざるを得ません。

また、今まである程度勤務中の居眠りが黙認されてきたのに、突然、懲戒規定を置いて処分の対象とする場合には、居眠りが許されない新たな職務の発生など、それ相当の強い根拠が必要となります。

さらに、居眠りの原因を考えた場合に、肥満や病気が関与している場合には、会社の健康管理の一環として、懲戒処分の前に生活面での指導が必要となります。ましてや、過重労働や長時間労働の結果、居眠りが生じたような場合には、会社側に大きな責任がありますから、懲戒処分では何も解決しません。

結論として、居眠りの原因について会社側に落ち度がないかを確認し、本人に考えられる原因を挙げてもらい、まずは原因をつぶしていく努力をします。それでもなお、本人の落ち度で居眠りが発生するのであれば、注意、厳重注意、始末書をとって反省を促す譴責(けんせき)あたりまでは、懲戒処分もありうると考えます。

 

<居眠りに対する他の対応>

きちんとした評価基準があれば、勤務中の居眠りが評価を下げる原因となり、昇進、昇格、昇給、賞与に反映されます。ですから、人事考課のシステムがない会社は、きちんと構築する必要があるでしょう。

また、1時間、2時間と長時間の居眠りを繰り返すようであれば、本人と責任者が面談して、欠勤控除の対象となることを説明すべきでしょう。この欠勤控除は、ノーワーク・ノーペイの原則から許されるものですが、計算方法については、就業規則に規定しなければなりません。

さらに、居眠りがひどくて仕事になっていないというケースでは、普通解雇を考えざるを得ないこともあります。

いずれにせよ、最初に懲戒処分を考えるのではなく、その前に検討すべき対応は数多くあるということです。

 

2016.07.06.

<重ねての制裁>

ある社員が不都合な言動を理由に、懲戒処分を受けたとします。

この社員が、昇進・昇給や賞与の金額に影響する人事考課で、一段低い評価にされたとします。

しかも、さえない部署への左遷も行われたとしましょう。

このように、たった一つの不都合な言動を理由に、懲戒処分も人事考課も人事異動も重ねて行うことに問題はないのでしょうか。

 

<法律の規定は?>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法15条〕

しかし、人事考課や人事異動の有効性について規定する法令は見当たりません。基本的に会社の裁量に任されているからです。

 

<懲戒処分と人事考課>

人事考課には、会社ごとに独自の考課基準があります。

個人の業績、所属部門の業績、発揮能力、勤務態度、経営理念への共感度、行動指針の体現度、社内ルールの順守など、その内容は様々です。

たとえば、勤務先の近所の飲食店で酒に酔って店長をどなりつけたので、譴責(けんせき)処分を受けたとします。厳重注意を受け、始末書を提出したわけです。この場合、人事考課の基準の中に「会社と勤務地近隣での品行方正」のようなものがあれば、その部分について低い評価となるのは、もっともなことです。しかし、「譴責処分を受けたのだから全項目について一段低い評価」というのは不当です。

またもしも、勤務先の近所の飲食店が、勤務している会社が経営しているお店で、どなりつけた相手が元上司だったら、かなり事情が変わってきます。この場合でも、人事考課の基準の中に「部門を越えた社内での協調性」「会社のお客様に迷惑をかけない」といったものがあれば、その部分について低い評価となるのは、もっともなことです。それでも、考課者のその社員に対する印象が悪くなったので低い評価となるということは避けるべきです。

 

<懲戒処分と人事異動>

人事異動については、会社の裁量がかなり広いといえます。

懲戒処分の原因となった言動との関係で、現在の職務がふさわしくないと認められ、異動が行われるような場合には、不当とはいえない場合が多いでしょう。

たとえば、経理担当者が会社の金銭を500円横領した場合、重い懲戒処分の対象とはならないかもしれませんが、経理以外の部署に異動させるのが適切でしょう。

しかし、勤続年数が長く人件費の高い営業部長が、経費を500円ごまかしただけで、退職の申し出を狙って、役職を外すような異動をするのは明らかに不当でしょう。

 

<結論として>

懲戒処分、人事考課、人事異動、それぞれに目的が違います。

懲戒処分を受けたことを理由に、人事考課や人事異動の目的とは関係なく、当然のように制裁的な人事考課や人事異動が行われるのは不当です。

ただ、こうした会社の行為の不当性を証明し、社員から会社に損害賠償の請求をするのはむずかしいものです。

 

2016.05.26.

<懲戒処分について法律の規定は?>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法15条〕

 

<裁判になったら>

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

 

<懲戒権濫用法理>

「使用者が労働者を懲戒できる場合」であることを前提に、次のような条件すべてを満たしていないと、その懲戒処分は無効とされ、会社は損害賠償の責任を負うことになります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事が起きてから懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

・過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<嫌疑不十分で行った懲戒解雇は不当か>

さて、懲戒処分の理由となる事実が真実かどうか確認できないうちに、懲戒解雇をした場合には、それが不当とされ無効となるのでしょうか。

この場合には、最初に挙げた労働契約法15条の「客観的に合理的な理由」が問題となります。

ある店舗の従業員がお客様を強姦したというウワサが広まったとします。その従業員は否定しています。被害者は誰なのかわかりませんし、強姦罪は親告罪であって、警察の動きも見られません。この時点で、懲戒処分を行うのは不当です。なぜなら、ウワサは「客観的に合理的な理由」にはなりませんから。

社内に誰か嫌いな人がいたとき、その人について悪いウワサを流せば会社に処分してもらえるとしたら恐ろしい話です。ウワサは「客観的に合理的な理由」にはならないのです。

しかし、ウワサの主に会社が正式に話を聞いたら「酔っていて覚えていないがやったかもしれない」と話していたところ、警察の捜査が始まり、送検されたことが新聞に掲載されたという段階では、全体の事情から「客観的に合理的な理由」があるといえます。

この場合、あとになってから、ウワサの主の無実が証明されたとしても、会社は不当な処分をしたことにはならず、損害賠償を請求されることもないでしょう。ただ、快く職場に復帰させてあげてほしいですね。

 

2016.05.25.

<懲戒処分の種類>

民間企業での懲戒処分の種類は、会社によって名称が違うものの、一般的には次のようなものです。

  • 懲戒解雇
  • 諭旨解雇 ― 自主的に退職を申し出てもらいます
  • 降格
  • 出勤停止
  • 減給
  • 譴責(けん責)― 始末書を提出してもらいます

 

<懲戒処分の制限>

就業規則や労働条件通知書に具体的な規定があることが大前提です。就業規則がなくて、新人に労働条件通知書も交付していない会社であれば、何も懲戒処分ができません。〔労働基準法89条〕

減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、総額が1賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという制限があります。〔労働基準法91条〕

賞与から減額する場合も同じです。

たとえば月給の総支給額が平均30万円なら、平均賃金の1日分は約1万円ですから、1つの減給処分でできる減給は約5千円です。もし、いくつもの懲戒理由が重なって、いくつもの減給処分が重なっても、約3万円までとなります。これを超える減給は、会社が労働基準法違反となります。

 

<懲戒処分の比較>

懲戒解雇と諭旨解雇とでは、就業規則で退職金の支払い額に差を設けていることが多いので、退職金の支払いがゼロとなりうる懲戒解雇が最も重い処分ということになります。

降格という処分は微妙です。あえて懲戒処分にしなくても、人事考課で評価を下げるとか、昇進を停止するとか、左遷するなどによって、同様の効果が得られるのであえて懲戒処分とする必要性は疑わしいものです。ただし、人事考課を含めきちんとした人事制度がない会社では懲戒処分も必要でしょう。

減給については、労働基準法の制限が厳しいですから、出勤停止のほうが重い処分になります。たとえば、1週間の出勤停止であれば給与からそれだけの欠勤控除ができます。

譴責の効果は、対象者によって大きく異なります。普段から、事務職で文書作成を業務としている社員にとって、始末書の作成はあまり負担になりません。減給1,000円のほうが辛いでしょう。しかし、普段全く文書を作成しない社員にとって始末書の作成は大きな負担となります。減給1万円のほうが楽かもしれません。

 

<どの懲戒処分を選ぶか>

基本的には就業規則の定めに従うことになります。しかし「懲戒解雇とする。ただし、本人が深く反省しているなど情状酌量の余地があるときは、諭旨解雇または降格にとどめることがある」などと幅を持たせる規定も多く見られます。

こうした場合には「どうして一段下の懲戒処分ではダメなのか」ということをよく考えて決めることになります。対象者によっては、減給より譴責のほうが辛いということもあるのですから、よく考えて一段軽い処分を選択するのも効果的でしょう。

 

2016.04.30.

<懲戒権濫用法理>

就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

 

<第一関門は懲戒規定の具体性>

つまり、懲戒処分について具体的な取り決めがあることと、ある労働者が何か不都合な行為をしたときに、それがその取り決めに明らかにあてはまるということが、懲戒処分の有効要件となります。

 

<具体性に欠ける場合>

たとえば「正当な理由なく無断欠勤が続いた場合」という規定では、何日続いたら懲戒の対象になるのか不明確ですから、具体的な日数を示しておかなければなりません。

また、「故意に会社の施設や物品を損壊したときは懲戒処分を行う」という規定では、壊した物の価値に応じて懲戒の種類を決めるという意図があるにせよ、譴責(けんせき)なのか出勤停止なのか、具体的な懲戒の種類を示しておかなければ、具体的な取り決めとはいえません。

実際には、こうした形で具体性が問題になることは少ないようです。

 

<余計な形容詞が付いている場合>

むしろ、具体的な規定ということに捉われて、余計な形容詞を付けてしまい、使用者と労働者との間で解釈の争いが発生してしまうケースの方が多いのです。

たとえば「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」という規定では、使用者が「重要な経歴詐称」であることを証明しなければ、懲戒処分ができなくなってしまいます。

この場合「経歴を詐称して雇用されたとき」とだけ規定しておいて、使用者は「経歴の詐称」があったことだけを証明し、労働者の方から「懲戒処分に値するほどの重要な経歴詐称ではない」という証明をしなければ、懲戒処分を免れないようにしておいた方が現実的です。

特に懲戒規定については、余計な形容詞を付けないこと、争いになったときに証明責任を負うのは労使のどちらになるかということを意識して定める必要があるのです。

 

2016.03.28.

<懲戒処分の目的1

社員を懲戒する目的は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

懲戒処分を受けた社員が深く反省し、二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

ですから、能力はあるのに故意あるいは不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。

能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。

会社は、能力不足に対しては、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。

 

<懲戒処分の目的2

懲戒対象となった社員ではなく、他の社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することをも目的としています。

「社長を怒らせたら懲戒処分」というのでは、社員はいつも不安です。何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。

懲戒規定に無い行為について、懲戒処分をすることはそれ自体違法です。しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下するという実害が出ますので避けましょう。

 

<就業規則の規定>

就業規則の懲戒関係の規定の最初には、是非とも懲戒処分の目的を明示していただきたいです。

そうすれば、目的を見失って懲戒のための懲戒になってしまうことを避けることができるでしょう。

 

2016.02.11.

<法律の規定は?>

使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする。〔労働契約法15条〕

 

<裁判になったら>

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

 

<懲戒権濫用法理>

「使用者が労働者を懲戒できる場合」であることを前提に、次のような条件すべてを満たしていないと、その懲戒処分は無効とされ、会社は損害賠償の責任を負うことになります。

労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

事が起きてから懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

その労働者に説明するチャンスを与えていること。

嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

2016.02.08.