懲戒の記事

2019/12/01|1,228文字

 

<職場で求められる協調性>

職場では、上司、同僚、部下、他部門との関係で、次のような協調性が求められます。

上司との連携は円滑か、報・連・相は適切か、上司の指示に忠実か、上司のミスをカバーしたか、上司の話に傾聴しているか、上司を批判していないか、上司に感謝しているか、などが問われます。

同僚との連携は円滑か、同僚のことも考えて業務を推進しているか、同僚のミスをカバーしたか、などが問われます。

部下との連携は円滑か、部下の誰をどこまで育てたか、部下をほめているか、部下からの相談に対し親身に取り組んでいるか、部下から感謝されているか、などが問われます。

他部門の業務に干渉していないか、自部門・他部門の改善提案は正しいルートで行っているか、などが問われます。

 

<けん責処分>

本人から会社へ始末書を提出させ、反省させる処分です。

懲戒処分の中では軽いほうでしょう。

始末書には、不都合な事実の内容、そうした事実を生じたことに対する反省、再発防止策の提示、再発防止に向け努力することの約束を書きます。

お詫びだけを長々と書くのでは、始末書の体を成しません。

 

<けん責処分の正当性>

譴責処分を受けたなら、始末書で約束した努力を続けつつ、気を取り直して業務に打ち込み、社内の信頼を回復するのが筋です。

しかし、どうにも納得がいかないという場合には、次の懲戒処分の有効要件を確認してみましょう。

もちろん、就業規則や労働条件通知書などに具体的な規定があることは大前提です。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

これらの条件は、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論の具体的な内容を示したものです。

条件を満たしていなければ、懲戒処分は無効となります。〔労働契約法第15条〕

それどころか、会社は労働者から損害賠償の請求を受けることにもなります。

ただ、譴責処分を受けた本人は感情的になっていますから、会社が懲戒権を濫用したのかどうか、弁護士や特定社労士に客観的な判断を求めることが必要でしょう。

 

<人事考課との関係>

人事考課と懲戒処分とでは目的が違います。

懲戒処分を受けたことを理由に、人事考課で一段低い評価を受けるというのは不合理です。

ただ、懲戒規定に協調性についての規定があり、人事考課の基準にも協調性の項目が入っていると、それぞれ効力が認められます。

懲戒処分を受けるにあたって、本人には事情を説明するチャンスが与えられますから、このときに人事考課との関係も確認できるかもしれません。

ただ、あまりこだわりを示すと心証を悪くしてしまいますので注意が必要です。

 

解決社労士

2019/11/15|1,900文字

 

<解雇理由証明書>

会社が従業員に解雇を通告した場合には、それが懲戒解雇ではなく、普通解雇や整理解雇であったとしても、その従業員からの請求があれば、これに応じて解雇理由(事由)証明書を交付する義務があります。

このことは、労働基準法に次のように規定されています。

 

【退職時等の証明】

第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

 

2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

3 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

4 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

 

従業員が解雇に納得しているのなら、会社に対して解雇理由(事由)証明書の交付を求めることはないはずです。

これを求めるということは、解雇の正当性に疑念を抱き、会社の主張する解雇の理由についての証拠書類を得ておいて、納得がいかなければ、労働審判や訴訟に備えようとしていることは明白です。

労働審判や訴訟となれば、会社が解雇理由(事由)証明書に書かなかった理由を、後から追加して主張することは困難です。

ですから、会社としては、思いつく限りの正当な解雇理由を、漏らさず記載しておく必要があります。

ただし、当たり前ですが、言いがかり的な不当な解雇理由を記載してはいけません。

 

<弁明の機会>

裁判所が懲戒処分の有効性を判断するにあたっては、対象となる従業員に弁明の機会を与えていたか否かが重要なポイントとなります。

弁明の機会を全く与えていなければ、それだけで懲戒権の濫用とされ、懲戒処分は無効であるという判断に結びつきやすくなります。

労働契約法は、懲戒権の濫用による懲戒処分の無効について、次の規定を置いています。

 

【懲戒】

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

従業員の言い分を聞くことなく、懲戒処分を行うというのでは、客観的に合理的な理由があったかどうかが疑わしいですし、世間一般の常識にも反しているでしょう。

大半の会社の就業規則には、労働組合との協議や本人の言い分を聞き取る手続が定められています。これによって、弁明の機会を与えていることになります。

このとき、懲戒処分の対象となる従業員の問題行動について、会社から話があり、これを受けて従業員が言い分を述べるわけですから、この時点で、懲戒処分の理由はある程度明らかになっています。

しかし、懲戒処分の理由が具体的に何なのか、弁明の機会を与えられただけでは、従業員が把握することはできません。

ですから、労働審判や訴訟の準備を考えていない従業員でも、懲戒処分を受ければその理由が気になって当然です。

 

<懲戒理由証明書>

法律上、懲戒処分を受けた従業員が、会社に対して懲戒理由(事由)証明書の交付を請求する権利はありません。

解雇の場合には、それが従業員を会社の外に放り出すことになり、重大なことなので、特別に証明書の交付請求権が認められているに過ぎないのです。

しかし、懲戒処分を行うからには、会社側が誠意をもって、その具体的な理由を従業員に説明すべきです。

対象者が納得できなくても、理解できるところまでは、説明する必要があります。

懲戒権は、会社が労働契約関係の中で、従業員に行使することができる権利です。

そして、権利を行使する場合には、信義に従い誠実に行わなければなりません。〔民法第1条第2項〕

会社が証明書を発行する義務は無いのですが、もし従業員から懲戒理由(事由)証明書の交付を求められるようなことがあれば、納得していない可能性が極めて高いわけですから、できるだけ丁寧に説明して疑念を晴らすようにしましょう。

 

解決社労士

2019/11/06|1,770文字

 

<故意・過失の意味>

犯罪には故意犯と過失犯があり、たとえば、故意による傷害罪は過失傷害罪よりも犯情が重く、それだけ重い刑罰が科されます。

就業規則の懲戒規定の中にも、故意・過失という言葉が見られます。

ここで「故意」というのは、「わざと行うこと」であり、法律上は「法的に守られた利益を侵害すると認識しながらそれを容認して行為すること」をいいます。

また「過失」というのは、「うっかり行うこと」であり、法律上は「違法な結果を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って認識・予見しなかった心理状態、あるいは結果の回避が可能だったにもかかわらず、回避するための行為を怠ったこと」をいいます。

過失によって悪い結果が発生するのを防ぐには、まず、悪い結果が発生するかもしれないことを具体的に予期しなければなりません。この注意義務を結果予見義務といいます。

しかし、結果を予期したとしても、その予期した結果の発生を防がなければ、悪い結果が発生してしまいます。こうして、結果の発生を回避する義務を結果回避義務といいます。

結局、「過失」というのは、法律上、結果予見義務か結果回避義務を怠ったことをいいます。

 

<行為者の言い分による認定>

こうして見ると、「故意」も「過失」も行為者の心理状態ということになります。

ところが、行為者の心の中を直接のぞいて確認することはできません。

かといって、犯人が「うっかり火が着いて燃え広がりました」と言えば失火罪として軽く処罰され、「燃やすつもりで火を着けました」と言えば放火罪として重く処罰されるというのは不当です。

社内で懲戒を検討する場合にも、行為者本人の言い分だけを根拠に処分を決めてしまっては、不当な結果が発生しやすいことは明らかです。

 

<労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度>

ところで、労働者を1人でも雇っている事業主は、労災保険の加入手続を行わなければなりません。

労災保険は、任意保険ではなく強制保険だからです。

平成17(2005)年11月1日から、労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されました。

これにより、事業主が労災保険の加入手続を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って保険料を徴収する他に、労災保険から給付を受けた金額の100%または40%を事業主から徴収することになります。

 

【故意の認定基準と費用徴収】

労災保険の加入手続について、行政機関から指導等を受けたにもかかわらず、手続を行わない期間中に、業務災害や通勤災害が発生した場合には、「故意」が認定されます。

その災害に関して支給された保険給付額の100%を徴収

 

【重過失の認定基準と費用徴収】

労災保険の加入手続について、行政機関から指導等を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となったときから1年を経過して、なお手続を行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合には、重過失が認定されます。

その災害に関して支給された保険給付額の40%を徴収

 

月給30万円の従業員(賃金日額1万円)が、労災事故が原因で死亡し、遺族の方に対し労災保険から遺族補償一時金の支給が行われる場合、その金額は賃金日額の1,000日分ですから、1千万円となります。

事業主は、上記で故意が認定された場合には1千万円、重過失の場合にはこの4割の4百万円が、国から徴収されることになるわけです。

 

ここで、重過失(重大な過失)というのは、結果の予見が極めて容易なのに結果予見義務を果たさなかった場合や、結果の回避が極めて容易なのに結果回避義務を果たさなかった場合をいいます。

このように、労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度では、事業主の言い分は全く考慮されることなく、客観的な事情によって、故意・過失が客観的に認定されていることがわかります。

 

<故意・過失の客観的な認定>

自白の偏重が否定されていますから、警察は犯人の行為の他、故意・過失についても、明らかにする客観的な証拠の発見・収集が求められています。

会社は警察ではありませんが、行為者本人の言い分に振り回されることなく、行為当時の客観的な状況、上司や同僚の証言など、きめ細かい事実を確認したうえで故意・過失を客観的に認定し、懲戒処分を決定することが大切です。

 

解決社労士

2019/10/29|1,487文字

 

<懲戒処分の必要性>

社員を懲戒する第一の目的は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

懲戒処分を受けた社員に対しては、深く反省し二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

ですから、能力はあるのに故意あるいは不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。

能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。

会社は、能力不足に対しては、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。

社員を懲戒する第二の目的は、懲戒対象となった社員ではなく、他の社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することにあります。

「社長を怒らせたら懲戒処分」というのでは、社員はいつも不安です。

何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。

懲戒規定にない行為について、懲戒処分をすることはそれ自体違法です。

しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下するという実害が出ますので絶対に避けましょう。

 

<懲戒処分の準備不足>

まず、就業規則や雇用契約書などに具体的な懲戒規定を置かなければ、懲戒処分を行っても労働審判や訴訟で無効とされてしまいます。

懲戒処分は、あらかじめその内容を具体的に予告しておくことによって、社員に警告を発しておくことができるのです。

「常識外れなことをして会社に迷惑をかけたから減給処分」などと、大雑把なことはできないのです。

どういう規定なら具体的といえるかの基準としては、ある社員が不都合な行為を行ったときに、それがその規定に定める行為にあたるかどうか、社内で意見が分かれないということが目安になります。

つぎに、懲戒処分をするにあたっての手続き・手順が決まっていなければ、物事が進みません。

とくに、懲戒対象の社員には弁明の機会を与えなければなりません。

それ以前に、具体的な事実の確認も必要です。

何をどういう手順でどうやって懲戒処分にたどりつくのか、具体的なルールがなければなりません。

さらに、今まで社内でどのような不都合なことがあったか、会社はこれにどう対応したかの記録が残っていなければなりません。

懲戒処分は平等かつ公平でなければなりませんので、過去の事例との比較も重要になるからです。

 

<懲戒処分ができない社長>

懲戒処分の決裁権を持っているのは原則として社長です。

しかし、この社長が臆病で懲戒権を発動できないと困ります。

何をやっても許される会社になってしまい、モラルの低い社員しか残らなくなってしまいます。

社員が安心して働くためには、懲戒処分が必要なのです。

特に会社に対する貢献度の高い社員が独断で行動を起こし、会社に損害を与えてしまった場合には、社長としては大目に見ようと考えがちです。

これでは、他の社員の腹の虫がおさまりません。

懲戒処分をためらう社長は、社員の表彰をしていないことが多いように見受けられます。

表彰もするが懲戒もするという信賞必罰の方針でいけば、会社に対する貢献度の高い社員に対しては、何回か表彰し、時には懲戒処分ということもやりやすいと思います。

さらに、社長が臆病ではないのに懲戒処分をためらうケースがあります。

それは就業規則などの懲戒規定のバランスが悪いケースです。

たとえば、「セクハラをしたら懲戒解雇」という規定の会社では、ちょっと冗談を言っただけで解雇になりかねません。

こうした場合には、就業規則などの見直しが必要です。

 

解決社労士 柳田 恵一

<懲戒権濫用法理>〔労働契約法第15条〕

「使用者が労働者を懲戒できる場合」であることを前提に、次のような条件すべてを満たしていないと、その懲戒処分が無効とされるばかりではなく、会社は損害賠償の責任を負うことになります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<居眠りに対する懲戒処分>

まず、居眠りというのは故意にできることではなく過失による行為ですから、懲戒規定の中でも他の過失行為と同様に軽い処分とせざるを得ません。

また、今まである程度勤務中の居眠りが黙認されてきたのに、突然、懲戒規定を置いて処分の対象とする場合には、居眠りが許されない新たな職務の発生など、それ相当の強い根拠が必要となります。

さらに、居眠りの原因を考えた場合に、肥満や病気が関与している場合には、会社の健康管理の一環として、懲戒処分の前に生活面での指導が必要となります。

ましてや、過重労働や長時間労働の結果、居眠りが生じたような場合には、会社側に大きな責任がありますから、懲戒処分では何も解決しません。

結論として、居眠りの原因について会社側に落ち度がないかを確認し、本人に考えられる原因を挙げてもらい、まずは原因をつぶしていく努力をします。

それでもなお、本人の落ち度で居眠りが発生するのであれば、注意、厳重注意、始末書をとって反省を促す譴責(けんせき)あたりまでは、懲戒処分もありうると考えます。

 

<居眠りに対する他の対応>

きちんとした評価基準があれば、勤務中の居眠りが評価を下げる原因となり、昇進、昇格、昇給、賞与に反映されます。

ですから、人事考課のシステムがない会社は、きちんと構築する必要があるでしょう。

また、1時間、2時間と長時間の居眠りを繰り返すようであれば、本人と責任者が面談して、欠勤控除の対象となることを説明すべきでしょう。

この欠勤控除は、労働契約の性質から導かれるノーワーク・ノーペイの原則から許されるものですが、計算方法については、就業規則に規定しなければなりません。

さらに、居眠りがひどくて仕事になっていないというケースでは、普通解雇を考えざるを得ないこともあります。

いずれにせよ、最初に懲戒処分を考えるのではなく、その前に検討すべき対応は数多くあるということです。

 

2019.09.22. 解決社労士 柳田 恵一

<就業規則の規定>

多くの企業では、取引先から個人的な謝礼を受け取ることを禁止し、これに違反した場合には懲戒処分の対象となりうることを、就業規則に定めています。

本来は会社に帰属するはずの利益を、特定の個人が受領するというのは、不正行為となる場合も少なくないので、これを防止しようというわけです。

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、次のように規定しています。

 

【懲戒の事由】

第66条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。

 

実際に、ある社員が取引先から個人的な謝礼を受け取ってしまった場合に、「不当な金品」といえるのか判断に迷うことでしょう。

懲戒処分に踏み切ることが困難かもしれません。

 

<線引きが困難>

そもそも懲戒処分の対象とすべきか、処分するにしても、どの程度重い処分とすべきか、考慮すべき要素は数多くあります。

 

・特定の行為に対する謝礼か、日頃お世話になっているという社交的なものか。

・現金ではなく、商品券、映画の無料鑑賞券、ハンカチならどうか。

・お中元やお歳暮としてなら、お付き合いの範囲として許されるのか。

・特定の部署や店舗が受け取る場合と比べてどうなのか。

・取引先との関係から、断り切れなかった場合には許されるのか。

 

特定の行為に対する謝礼であれば、会社よりも取引先の利益を優先し、不正な便宜を図った可能性は高いでしょう。

この場合には、背任罪(刑法第247条)が成立する可能性もあります。

しかし、その社員が「社交的なものとして受け取った」と言い、取引先も「日頃お世話になっているので」と説明したら、特定の行為に対する謝礼であることを認定するのが、困難になってしまう恐れがあります。

 

<会社が取るべき対応>

本来は会社に帰属するはずの利益を、特定の個人が受領するというのは、不正行為となる場合も少なくないので、これを防止しようという目的から対応を考えます。

まず、次のルールを定め社内に周知します。

 

1.取引先から謝礼の申し込みがあったら、取引先には「会社の事前承認が要る」旨を説明する。

2.それでも断り切れない場合には、「お預かりする」という説明をする。

3.謝礼の申し込みがあったこと、または、お預かりしたことを上司に報告し、会社としての判断を仰ぐ。

4.上司は内容や金額に応じた決裁方法に従い、会社としての判断を対象社員に伝え、対応を指示する。

5.会社の判断と上司の指示に従い対応する。

 

こうしたルールの下では、「取引先から個人的な謝礼を受け取ること」が、懲戒処分の対象となることはありません。

「取引先から謝礼を受け取る場合のルールに違反すること」が懲戒処分の対象となります。

懲戒処分の対象とすべきかどうかの判断も、迷わず客観的に行うことができます。

なお、就業規則に規定する場合には、ルール違反に対する懲戒とは別に、会社の受けた損害を賠償させることがある旨も規定しておきましょう。

 

2019.09.17. 解決社労士 柳田 恵一

<基本はプライベート>

多額の借金を抱えた社員が会社で働いていると、それだけで上司や同僚、人事部門の社員たちは大きな不安を感じます。

それでも、借金というのは、会社からの借り入れでない限り、基本的にはプライベートなことです。

たしかに、プライベートなことであっても、会社の利益を害し信用を傷つける行為であれば、懲戒処分の対象となることはあります。

しかし、借金が多いことが発覚したからといって、それだけで解雇を検討するというようなことはできないのです。

以下、順を追って検討してみます。

 

<人事異動の検討>

多額の借金を抱えた社員が、お金を直接扱える業務に携わるのは好ましくありません。

人員配置の大原則である適材適所の観点から、経理、会計、財務、店舗のレジなどへの異動は避けなければなりません。

また、借金が発覚したときに、こうした業務に携わっていたならば、早期に別の業務に異動させることが望ましいといえます。

しかし、借金があることを理由に、降格、降職などを行うことは、人事権の濫用となり、その効果が否定される場合もあるでしょう。

 

<督促で会社に迷惑がかかっている場合>

借金の相手がサラ金業者などの場合には、会社にまで電話やファックスでの督促や嫌がらせがあったりもします。

時には、サラ金業者の従業員が直接、職場に押しかけてくるようなこともあります。

しかし、これは社員が借金したことの結果ではあっても、社員が違法・不当なことを行っているわけではありません。

むしろ、サラ金業者が貸金業法に違反する方法で督促を行い、嫌がらせまで行っているわけです。

こうしたことで戸惑って、懲戒処分や解雇を検討するのは的外れです。

明らかに、懲戒権や解雇権の濫用となってしまいます。〔労働契約法第15条、第16条〕

 

<給与の差押が発生した場合>

債権者が裁判所で手続きをして、裁判所から会社に給与債権差押の命令が届くこともあります。

会社は、この命令に素直に従わなければなりません。給与の一部を、指定された方法で支払うことになります。

このことによって、会社側に余計な事務手続きの手間は発生しますが、やはり、懲戒処分や解雇を検討するほどの大きな負担ではありません。

 

<破産した場合>

社員が破産しても、会社の業務に支障は出ません。

ちなみに、個人破産の場合、破産手続きをするのに十分な資力が無いなどの事情により、破産手続きの開始と共に終了する「同時廃止」となることが多いのです。〔破産法第216条第1項〕

この場合も、懲戒処分や解雇を検討すべきではありません。

 

<懲戒や解雇を考えるべき場合>

多額の借金を抱えた社員が、同僚や上司から借金をして具体的なトラブルに発展したような場合、あるいは会社の金品を横領したような場合には、当然に懲戒処分や解雇を検討しなければなりません。

しかし、これは借金を抱えた社員に限定されることではなく、すべての社員に共通することです。

 

<上司による指導>

多額の借金を抱えた社員が、その精神的な負担から、体調を崩して遅刻しがちになったり、業務に集中できなくなったりする恐れは大きいといえます。

上司としては、それをただ人事考課で評価すれば済むというのではなく、面談の機会を持ち、現在の生活ぶりや不安、借金を抱えるに至った事情など、本人から自発的に話してもらえるよう働きかけ、注意すべきところは注意する一方で、支えになってやる必要があるでしょう。

 

2019.09.05. 解決社労士 柳田 恵一

<重ねての制裁>

ある社員が不都合な言動を理由に、懲戒処分を受けたとします。

この社員が、昇進・昇給や賞与の金額に影響する人事考課で、一段低い評価にされたとします。

しかも、さえない部署への左遷も行われたとしましょう。

このように、たった1つの不都合な言動を理由に、懲戒処分も人事考課も人事異動も重ねて行うことに問題はないのでしょうか。

 

<法律の規定>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法第15条〕

しかし、人事考課や人事異動の有効性について規定する法令は見当たりません。

これらは、基本的に会社の裁量に任されていて、裁判所がその不当性や違法性を判断することは困難だからです。

 

<懲戒処分と人事考課>

人事考課には、会社ごとに独自の考課基準があります。

個人の業績、所属部門の業績、発揮能力、勤務態度、経営理念への共感度、行動指針の体現度、社内ルールの順守など、その内容は様々です。

たとえば、勤務先の近所の飲食店で酒に酔って店長をどなりつけたので、譴責(けんせき)処分を受けたとします。厳重注意を受け、始末書を提出したわけです。

この場合、人事考課の基準の中に「勤務地近隣との関係を良好に保つこと」といったものがあれば、その部分について低い評価となるでしょう。

しかし、「譴責処分を受けたのだから全項目について一段低い評価」というのは不当です。

またたとえば、勤務先の会社が経営しているお店で、酒に酔って店長をどなりつけたのなら、かなり事情が変わってきます。

人事考課基準の中に「社内での協調性」「他部門への協力」「顧客からの信頼」といったものは、一般的に含まれているでしょうから、評価が低くなる可能性は高いでしょう。

それでも、考課者のその社員に対する印象が悪くなったので低い評価になるということは避けるべきです。

 

<懲戒処分と人事異動>

人事異動については、会社の裁量がかなり広いといえます。適材適所により、会社全体の生産性を上げる必要があるからです。

ですから、懲戒処分の原因となった言動との関係で現在の職務がふさわしくないと認められ異動が行われるような場合には、不当とはいえない場合が多いものです。

たとえば、経理担当者が会社の金銭を500円横領した場合、重い懲戒処分の対象とはならないかもしれませんが、経理以外の部署に異動させるのが適切といえます。

しかし、勤続年数が長く会社に貢献している営業部長が、経費を500円ごまかしただけで役職を外されるような異動は明らかに不当でしょう。

 

<目的との関係で>

懲戒処分、人事考課、人事異動、それぞれに目的が違います。

懲戒処分を受けたことを理由に、人事考課や人事異動の目的とは関係なく、当然のように制裁的な人事考課や人事異動が行われるのは不当です。

ただ、こうした会社の行為の不当性を証明し、社員から会社に損害賠償の請求をするのは、証拠集めが困難なためむずかしいことも事実です。

 

2019.07.20. 解決社労士 柳田 恵一

<懲戒処分についての法律>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法第15条〕

つまり、就業規則に具体的な規定があるなど、懲戒処分を行うための他の条件がすべて満たされていたとしても、「客観的に合理的な理由がある」「社会通念上相当である」という2つの条件を満たしていない場合には、懲戒権の濫用となり、その懲戒は無効だということです。

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

  

<懲戒権濫用法理>

労働契約法第15条には2つの条件のみが示されています。

しかし裁判では、次のような条件すべてを満たしていないと、懲戒権の濫用とされ、懲戒処分が無効となって、会社が懲戒対象者に対して損害賠償の責任を負うことがあります。

・懲戒対象者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・不都合な事実が発生した後で懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

・過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・懲戒対象者に事情を説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<証拠不十分で行った懲戒解雇>

懲戒処分の理由となる事実が真実かどうか確認できないうちに、懲戒解雇とした場合には、それが不当とされ無効となるのでしょうか。

この場合には、最初に示した労働契約法第15条の「客観的に合理的な理由」が問題となります。

「ある店舗の従業員がお客様に暴力を振るった」というウワサが広まったとします。被害者が誰なのかわかりませんし、警察が捜査する動きも見られません。この時点で、懲戒処分を行うのは不当です。

社内に嫌いな人がいたとき、その人について悪いウワサを流せば会社に処分してもらえるとしたら恐ろしい話です。ウワサは「客観的に合理的な理由」にはならないのです。

しかし、警察の捜査が始まり、送検されたことが新聞に掲載されたという段階では、全体の事情から「客観的に合理的な理由」があるといえます。

この場合、後で無実が証明されたとしても、会社は不当な処分をしたことにはならず、損害賠償を請求されることもないでしょう。

犯罪行為が疑われる場合の懲戒処分について、就業規則に定める場合には、その条件を明確に示しておきたいものです。

 

2019.07.19. 解決社労士 柳田 恵一

<懲戒処分の種類>

民間企業での懲戒処分の種類は、会社によって名称が違うものの、一般的には次のようなものです。

  • 懲戒解雇
  • 諭旨解雇 ― 自主的に退職を申し出てもらうよう促します
  • 降格
  • 出勤停止
  • 減給
  • 譴責(けんせき)― 始末書を提出して反省してもらいます

 

<懲戒処分の制限>

就業規則や労働条件通知書に具体的な規定があることが大前提です。

就業規則がなくて、新人に労働条件通知書も交付していない会社であれば、何も懲戒処分ができません。〔労働基準法第89条〕

こうしたルールが事前に表示されていないのに懲戒処分が行われたなら、使用者と労働者の関係ではなく、王様と奴隷の関係になってしまいますから当然のことです。

減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、総額が1賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという制限があります。〔労働基準法第91条〕

賞与から減額する場合も同じです。

たとえば月給の総支給額が平均30万円なら、平均賃金の1日分は約1万円ですから、1つの減給処分でできる減給は約5千円です。もし、いくつもの懲戒理由が重なって、いくつもの減給処分が重なっても、約3万円までとなります。これを超える減給は、労働基準法違反となります。

 

<懲戒処分の比較>

懲戒解雇と諭旨解雇とでは、就業規則で退職金の支払い額に差を設けていることが多いので、退職金の支払いがゼロとなりうる懲戒解雇が最も重い処分ということになります。

降格という処分は微妙です。あえて懲戒処分にしなくても、人事考課で評価を下げるとか昇進を停止するとか左遷するなどによって同様の効果が得られるので、あえて懲戒処分とする必要性は疑わしいものです。ただし、人事考課を含めきちんとした人事制度がない会社では懲戒処分も必要でしょう。

減給については、労働基準法の制限が厳しいですから、出勤停止のほうが重い処分になります。たとえば、1週間の出勤停止であれば給与からそれだけの欠勤控除ができます。

譴責の効果は、対象者によって大きく異なります。普段から、事務職で文書作成を業務としている社員にとって、始末書の作成はあまり負担になりません。減給1,000円のほうが辛いでしょう。しかし、普段全く文書を作成しない社員にとって始末書の作成は大きな負担となります。減給1万円のほうが楽かもしれません。

 

<どの懲戒処分を選ぶか>

基本的には就業規則の定めに従うことになります。しかし「懲戒解雇とする。ただし、本人が深く反省しているなど情状酌量の余地があるときは、諭旨解雇または降格にとどめることがある」などと幅を持たせる規定も多く見られます。

こうした場合には「どうして一段下の懲戒処分ではダメなのか」ということを、よく考えて決めることになります。対象者によっては、減給より譴責のほうが辛いということもあるのですから、よく考えて一段軽い処分を選択するのも効果的でしょう。

 

2019.06.13. 解決社労士 柳田 恵一

<懲戒処分の目的>

懲戒処分を行う目的は、主に次の3つです。

 

1.懲戒対象者への制裁

懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

2.企業秩序の回復

会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

3.再発防止と労働者の安心

社員一般に対してやって良いこと悪いことの具体的な基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

1.の目的からすると、懲戒処分の対象事実や処分の内容を公表する必要はありません。

しかし、公表しなければ2.と3.の目的が果たされませんから、ある程度公表することは必要です。

 

東京地裁の判決で、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえないと解される」としています(東京地裁平成19年4月27日判決 X社事件)。

 

<名誉毀損の問題>

懲戒処分の対象となった事実や懲戒処分の内容を公表した場合に、それが真実であれば会社が責められる理由は無いだろうというのは素人の考えです。

名誉毀損について、刑法は次のように規定しています。

 

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、生きている人のことについては、真実であろうとなかろうと名誉を毀損することは犯罪になるということです。

こうして犯罪が成立しうるということは、損害賠償請求の対象ともなりうるということです。

 

東京地裁の判決で、懲戒解雇の事実や理由を公表することが適法とされるためには、公表行為が「その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限られる」としました(東京地裁昭和52年12月19日判決 泉屋東京店事件)。

そもそも、懲戒処分が労働契約法第15条により無効とされた場合は、公表が名誉毀損等の不法行為に当たることが多いといえます。

 

<必要最小限の社内公表>

前掲の泉屋東京店事件判決の基準によると、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限り許されることになります。

まず、懲戒処分対象者の氏名そのものや、所属・性別・年代など個人を特定できる情報は、これを公表することによる名誉権侵害は著しいので、基本的には許されません。ただ、懲戒処分を行う目的を果たすために、個人の特定が必要不可欠であるような例外的な場合にのみ許されます。

つぎに、懲戒処分の内容を公表することも、懲戒処分の目的である企業秩序の回復、再発防止、労働者の安心を図るために一定の範囲内で必要性が認められます。しかし、懲戒処分の理由を具体的に記載することにより、個人の特定が可能となってしまう場合には、やはり名誉毀損となる恐れが強まります。

さらに、被害者がいる場合には、被害者の名誉に対する配慮も必要となります。セクシャルハラスメントの事案で、ある程度詳細な事実を公表することで、処分対象者と被害者両方が特定されてしまい、被害者の名誉権が侵害されることにもなります。

 

<会社が責められないために>

就業規則には、懲戒処分の社内公表に関する規定を設けておくことが必要です。規定さえあれば、許されるわけではないですが、こうした規定があることは、裁判でも公表が相当であるという判断に傾く一要素となりえます。

また、公表の内容としては、「就業規則第◯条第◯項の『○○○○』に該当したため、第◯条第◯項の手続きに従い、第〇条第〇項の処分が行われました」というものに留めるのが得策です。

さらに、公表の方法としては、社内のイントラネットなどで「社外秘」として、1週間程度に期間を限定して行うという配慮も必要です。

 

2019.06.11. 解決社労士 柳田 恵一

<公務員の場合>

公務員が得る報酬の財源は税金ですから、重い職務専念義務が課されています。

ですから、ほとんどの場合はダブルワーク禁止です。

親から相続したマンションを経営して収入を得ているのがダブルワークにあたるという理由で、辞めさせられるという実例もありました。

 

<民間企業の場合>

民間企業では、会社が給与を支払っています。

ですから、社員が自社の職務に専念しなかったり、ダブルワークをしたりということに対して、厳しい態度を取る必然性はありません。

 

<ダブルワークの理由>

ダブルワークを希望する人の大半は、今の収入では足りないので、別に収入を得るために別の仕事をしなければならないと言います。

こうした人たちは、会社が給料を上げてくれれば、ダブルワークの必要などないと考えています。

しかし中には、別の仕事もしてみたい、家業を手伝いたい、別の分野で自分の能力を高めたい、将来の独立に向けて準備したいなど考えている人もいます。

働き方改革の流れで、政府は副業・兼業を推奨していますから、ダブルワークを希望する人は今後も増えるでしょうし、企業も対応を迫られています。

 

<ダブルワーク禁止の理由>

会社としては、社員が別の会社で働くと、体力・精神力を消耗して疲れてしまい、自分の会社で充分な働きができないのではないかという不安があります。実際にそうなるケースが多いものです。

また、社員がライバル会社で働いたら、会社の機密が漏れるかもしれません。ただ、これは会社の重要な情報を握る立場にある人限定で考えればよいことです。社員一般にあてはまる話ではありません。

むしろ、女性社員が性風俗店でアルバイトしたら、会社の評判が落ちるのではないか、さらには男性社員でも違法カジノでアルバイトしたら、摘発されたとき自分の会社の名前もマスコミに報道されるのではないか。

こうした不都合が発生することを恐れて、会社としてはダブルワークを禁止したいのです。

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、次のように規定しています。これを参考に、社内規定を調えてはいかがでしょうか。

 

【副業・兼業】

第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

 

<ダブルワーク禁止の有効性>

就業規則で「ダブルワーク禁止」としたり、社員に「ダブルワークしません」という念書を提出してもらったりした場合、これらは有効なのでしょうか。

基本的には、憲法が職業選択の自由を保障していますから、原則として効力が無いということになります。

では、就業規則や労働条件通知書にダブルワークをした場合の懲戒処分や解雇の規定を置いたら、その効力はどうなのでしょうか。

この場合には、ダブルワークのすべてについて有効になるというわけではありません。

実際に有効とされるためには、次の2つの条件をクリアする必要があります。

 

・具体的なダブルワークの中身が会社に大きな不都合をもたらし、懲戒処分や解雇をすることについて、客観的な合理性が認められること

・懲戒処分や解雇をすることについて、社会一般の常識から考えても仕方のないケースだといえること

 

これらの条件は、労働契約法第15条・第16条によるものです。

 

<留学生の場合>

ちなみに留学生の場合には、勉強のために入国しているのですから、アルバイトなどの活動は、本来の入国目的とは異なるということで制限されています。

留学生は資格外活動許可を受けた場合に限り、アルバイトを行うことができます。一般的に、アルバイト先が風俗営業または風俗関係営業が含まれている営業所でないことを条件に、1週28時間以内を限度として勤務先や時間帯を特定することなく、包括的な資格外活動許可が与えられます。また、在籍する大学などの長期休業期間は、1日8時間以内に延長されます。

そして、資格外活動の許可を受けずに、あるいは条件を超えてアルバイトに従事した場合は、不法就労となります。

ですから、夏休みなど長期休暇を除けば、留学生がダブルワークをするというのは難しいでしょう。

 

2019.06.09. 解決社労士 柳田 恵一

<始末書を提出させる意味>

始末書の目的は、事実の報告、発生の原因分析、謝罪、具体的な再発防止策の提示です。

この中に謝罪が含まれないものは、単なる報告書あるいは顛末書ですから、上司の判断で部下に提出を求めることができます。

しかし、謝罪が含まれるものは始末書ですから、懲戒処分として提出を求めることになります。これは上司の判断で行えるわけではなく、就業規則に譴責(けんせき)処分などの具体的な規定があって、懲戒処分の適正な手続きに従い、会社の代表者が提出を命じることになります。

上司だけの判断で部下に始末書の提出を求めることは、職場での優越的な関係を背景として業務上必要相当な範囲を超えたことを行わせることになり、パワハラに該当するのが一般です。

 

<「いかなる処分もお受けします」の法的効力>

(懲戒)処分は、就業規則に具体的な規定があって、適正な手続きに従い行われるものです。

どのような行為が対象となるのかが不明確な状態で懲戒処分が行われれば、客観的に合理的な理由を欠いているので、懲戒権の濫用となり無効となります。

このことは、労働契約法第15条に規定されています。

 

【懲戒】

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

つまり、始末書に「いかなる処分もお受けします」と書いたところで、就業規則の規定を超える処分は無効となってしまうのですから、この記載も無効ということになります。

また、「相応の処分を受ける覚悟でおります」などの記載は、当たり前のことを書いたに過ぎませんから、書いても書かなくても効力に違いはありません。

 

<裁判での効果>

従業員が何度も就業規則違反を行い、何度も始末書を書かされ、ついには懲戒解雇となったとします。

これを不服として、解雇された人が訴訟を提起した場合には、会社から不当解雇ではないことの証拠資料を提出することになります。

実際には、会社が不当解雇ではないことの証拠を揃えておくことは大変で、顧問の社会保険労務士などと相談して、解雇の相当前から準備しておかなければなりません。

会社は証拠資料として、裁判所に始末書も提出することになります。

そこに「いかなる処分もお受けします」と書かれていたら、裁判官は会社に対して良い印象を持ちません。懲戒権の濫用があるのではないかと疑ってしまいます。

そして、民事訴訟法には次の規定があります。

 

【自由心証主義】

第二百四十七条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

 

日本の民事訴訟では、何が証拠となるかについて法令に網羅されているわけではなく、裁判所の自由な心証に委ねられているのです。

この自由心証主義によって、会社側から証拠として提出した始末書が、解雇された側に有利に働くことがあるわけです。

つまり法的効力の無い「いかなる処分もお受けします」の記載が、会社にとってマイナスとなりうるのですから、こうした言葉の入った始末書が提出されたら、再提出を求めるべきです。

 

<始末書は必要か>

さて、始末書は本当に必要でしょうか。

会社にとって役立つのは、事実の報告、発生の原因分析、具体的な再発防止策です。特に再発防止に向けた具体的な取組みは、大いに役立つでしょう。

謝罪の部分は、会社側つまり経営者、人事部門、上司の気が済む程度の効果しかありません。しかも、そこに本心が書かれているとは限りません。本人の反省の程度とは無関係です。

こうしてみると、上司から報告書の提出を求めた方が現実的ではないでしょうか。

裁判になっても、この報告書からルール違反の事実は認定できますし、裁判所の心証を害することもありません。

就業規則に始末書に関する規定があるのなら、その必要性を再検討することをお勧めします。

 

2019.06.04. 解決社労士 柳田 恵一

<揺れ動く判断基準>

従業員が不都合な行動に出た場合、それが就業規則に定められた禁止行為であったり、義務違反であったりして、個々の具体的な懲戒規定に当てはまるものであれば、懲戒処分を検討することになります。

しかし、人手不足の今、たとえ従業員の落ち度であっても、けん責処分、減給処分、出勤停止などすれば、気を悪くして退職してしまい、会社に大きな痛手となるかもしれません。

こうして、人手が余っているときには懲戒処分が多発し、人手不足の場合には多少のことに目をつぶるという企業の態度が見られることもあります。

一方で、従業員の方も、人手が余っているときには品行方正を保ち、人手不足のときには強い態度に出るということがあります。

 

<情状酌量の考え方>

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、次のように規定しています。

 

(懲戒の事由)

第66条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

本来は懲戒解雇に該当するような行為があっても、平素の服務態度その他の情状によっては、減給や出勤停止にとどめることがあると規定しています。

ここでの「情状」は、あくまでも懲戒対象者個人の情状です。

また、重大な過失により会社に重大な損害を与えたが、ミスがあってはならない仕事を1人の従業員に任せていて、チェック体制が整っていなかったというような事情があった場合には、会社側にも落ち度があって、従業員だけに責任を負わせるわけにはいかないので、こうした事情を斟酌して情状酌量するということがあります。

 

<懲戒処分の有効性>

懲戒処分の有効性については、労働契約法に次の規定があります。

 

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

無効とされれば、懲戒処分から生じた従業員の損害は、慰謝料を含め会社に請求されることとなります。

裁判にでもなれば、従業員の会社に対する信頼や、世間からの評判は大いに低下することでしょう。

人手不足のときに懲戒処分の対象とせず見逃していた行為を、人手が足りているときに懲戒処分の対象としたなら、これは会社側の都合でそのようにしたわけであって、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」であることは否定されてしまいます。

人手不足のときに軽い懲戒処分、人手が足りているときに重い懲戒処分というのも同様です。

どちらも、その懲戒処分は無効になってしまいます。

 

<ご都合主義の排除>

その時々の社内事情により、懲戒処分の判断基準を変えてしまうことは危険です。

なぜなら、過去に許されていた行為が許されないと判断されたり、過去に軽い処分で済んでいた行為が重く処分されたりというのは、労働契約法第15条により無効になってしまうからです。

会社が「人手不足だから多少のことは大目に見る」という態度を取っていれば、従業員は足元を見てしまい、会社の規律は保たれなくなります。これでは労働生産性が低下してしまいます。

人手不足だからこそ、懲戒規定の運用は厳格にしなければなりません。

 

2019.05.29. 解決社労士 柳田 恵一

<罰金の意味

駐車場の入口付近に「無断駐車は罰金2万円」などの表示を見かけることがあります。また「遅刻は罰金1万円」というルールがある会社の方から、お話をうかがったこともあります。

しかし、罰金は死刑や懲役と同じく刑罰の一種です。刑罰権は国家に独占されていますから、国家権力ではない個人や会社が罰金を取るということは、相手が誰であれ法的に許されません。

ですから、駐車場の「罰金」も、社内の「罰金」のルールも無効です。

本当に徴収したら、詐欺罪、恐喝罪が成立したり、労働基準法違反となるでしょう。

場合によっては、「罰金」では済まされず懲役刑が科されるかも知れません。

もし社内ルールで「罰金」ということばを使っていたら、みっともないのですぐにやめましょう。

 

<労働法の定め>

就業規則ではなく内規だとしても、「罰金」は違約金の定めや損害賠償の予定の禁止に反して無効になります。〔労働基準法第16条〕

また、給与から差し引くことは、賃金の全額払いの原則に反することになります。〔労働基準法第24条第1項本文〕

結局、労働法上も実際に徴収することは認められません。

またたとえ、使用者が労働者の過失によってこうむった損害を回収したい場合であっても、実際に被った損害額のすべてについて、労働者に請求できるわけではありません。

なぜなら、その損害の発生について、使用者に全く責任がないというのは稀ですし、労働者を使用することによって利益を得ている分、その損失についてもある程度は負担するのが公平だからです。

完璧な人はいないのですから、労働者の過失によって損害が発生することも覚悟のうえで雇っているというのが、法律上の考え方なのです。

 

<使用者から労働者に請求できる損害賠償額>

まず、労働者に損害賠償義務があるかどうかは、労働者が通常求められる注意義務を尽くしたかどうかによります。

そして、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになります。

労働者の負担割合がどの程度となるかは、具体的な事情によります。

裁判になれば「事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、使用者は、労働者に対して賠償の請求ができる」という判断になります。

たとえば長時間労働が続いて疲れている労働者が、注意散漫になって事故を起こしたような場合には、長時間労働をさせた使用者に大きな落ち度があり、使用者側の負担割合が相当程度大きくなります。

 

<罰金を免れる方法>

「遅刻は罰金1万円」というルールがある会社の方は、次のような話をしていました。

 

「遅刻しそうになったら喫茶店などで時間をつぶし、落ち着いてから会社の上司に電話をかける。朝から具合が悪く、出勤の途中で我慢できなくなったので病院に行きますと言って、年次有給休暇を使えばいい。たとえ休暇はダメだと言われて欠勤控除になっても、罰金1万円よりはマシです」

 

使用者側が違法なことをしていると、労働者側もこれに対抗しておかしなことをするようです。

これでは、会社と社員が共に成長するというのも「夢のまた夢」でしょう。

 

2019.04.29. 解決社労士 柳田 恵一

<懲戒権濫用法理>

就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

 

<懲戒規定の具体性>

つまり、懲戒処分について具体的な取り決めがあることと、ある労働者が何か不都合な行為をしたときに、それがその取り決めに明らかにあてはまるということが、懲戒処分の有効要件となります。

 

<具体性に欠ける場合>

たとえば「正当な理由なく無断欠勤が続いた場合」という規定では、何日続いたら懲戒の対象になるのか不明確ですから、具体的な日数を示しておかなければなりません。この規定の場合、欠勤によっていくらの損害を会社に与えたかではなく、欠勤そのものによる企業秩序の侵害を問題にしていると解釈されるからです。

また、「故意に会社の施設や物品を損壊したときは懲戒処分を行う」という規定では、壊した物の価値に応じて懲戒の種類を決めるという意図があるにせよ、譴責(けんせき)なのか出勤停止なのか、具体的な懲戒の種類を示しておかなければ、具体的な取り決めとはいえません。

 

<余計な形容詞が付いている場合>

むしろ、具体的な規定ということに捉われて、余計な形容詞を付けてしまい、使用者と労働者との間で解釈の争いが発生してしまうケースの方が多いのです。

たとえば「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」という規定では、使用者が「重要な経歴詐称」であることを証明しなければ、懲戒処分ができなくなってしまいます。

この場合「経歴を詐称して雇用されたとき」とだけ規定しておいて、使用者は「経歴の詐称」があったことだけを証明し、労働者の方から「懲戒処分に値するほどの重要な経歴詐称ではない」という証明をしなければ、懲戒処分を免れないようにしておいた方が現実的です。

特に懲戒規定については、余計な形容詞を付けないこと、争いになったときに証明責任を負うのは労使のどちらになるかということを意識して定める必要があるのです。

 

2019.04.26. 解決社労士 柳田 恵一

<懲戒処分の目的1>

社員を懲戒する目的の第一は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

ですから、本人が深く反省し二度と同じ過ちを犯すことはないと、他の社員全員が確信しているような例外的な場合には、この目的からの処分は不要だということになります。

 

<懲戒処分の目的2>

社員を懲戒する目的の第二は、会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置しないという態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすることにあります。

たとえば、明らかなパワハラやセクハラがあって、会社がその事実を知りながら放置しているようでは、社員が落ち着いて安心して働くことができません。一般の道義感や正義感に反しますし、自分も被害者となる恐怖を感じるからです。これでは、会社に対する不信感で一杯になってしまいます。

このとき、行為者に対して徹底的な再教育を実施することによって、他の社員全員が納得するのであれば、必ずしも懲戒処分を行う必要は無いでしょう。

 

<懲戒処分の目的3>

具体的でわかりやすい懲戒規定を設けることは、社員一般に対してやって良いこと悪いことの基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することを目的としています。

何をしたら処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。会社は具体的な定めの無いことで懲戒処分をすることは許されません。

この目的に限定して考えると、規定があるからといって必ず処分しなければならないわけではありません。

 

<懲戒処分を行わないことによる悪影響>

不都合な行為を行った社員に対して、懲戒処分が行われなかった場合に、納得できない社員がいるのであれば、その社員は会社に対して不信感を持つことになります。

こうした社員が多ければ多いほど、生産性や定着率が低下したり、会社の評判が落ちたりの悪影響が発生します。

懲戒処分を行わないのが寛容で良い会社というわけではありません。

正しく懲戒処分を行えるのが良い会社だということになります。

 

2019.04.02.解決社労士

<法律の規定>

減給処分を行う場合の限度については、労働基準法に次の規定があります。

 

【制裁規定の制限】

第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 

つまり労働基準法は、減給処分について一定の制限を設けたうえで認めているわけです。

また、労働契約法には懲戒処分の有効性について次の規定があります。

 

【懲戒】

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

つまり、懲戒処分が有効であるためには、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められることが必要だと言っています。

しかし、そもそも「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とは、どのような場合なのかについて、具体的な規定は見当たりません。

 

<最高裁の判断>

平成15(2003)年10月10日のフジ興産事件判決では、懲戒処分の根拠について次のように述べられています。

 

使用者は企業秩序を定立し維持する権限(企業秩序定立権)を有し、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を行うことができる。

 

そして、懲戒処分を行う場合の条件については、次のように述べられています。

 

使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならない。

使用者が懲戒できることを定めた就業規則が、法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容について、当該就業規則の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていなければならない。

 

労働契約法第15条の「使用者が労働者を懲戒することができる場合」というのは、この条件を満たす場合をいうのでしょう。

判例を確認しないと解釈できない条文というのは不親切ですから、やがて条文の中に判例の内容を盛り込む改正が行われるものと期待されます。

 

2019.03.27.解決社労士

<人事処分だけの会社>

社員が不都合な行為を行った場合に、就業規則の懲戒規定に基づき人事処分だけを行っている会社もあります。

人事処分を行う目的は、主に次の3つです。

 

・対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすること。

・会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすること。

・社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持すること

 

これらの目的が果たされれば十分と考えるわけです。

 

<人事異動だけの会社>

社員が不都合な行為を行った場合に、会社の裁量で人事異動だけを行っている会社もあります。

この場合の人事異動の目的は、適材適所によって会社全体の生産性を高めることにあります。

不都合な行為を行った社員を、責任が軽く重要度の低い仕事の担当に異動させ、その人の代わりに適任と思われる別の社員を任命します。

こうして、社内で業務が効率よく円滑に回るように調整するわけです。

 

<二重処罰の禁止>

憲法には、二重処罰の禁止について次の規定があります。

 

【日本国憲法第39条後段】

又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

 

人事処分も人事異動も、国家だけに権限のある刑罰とは違います。

しかし、その趣旨は、企業で行われる人事処分にも適用されるものと解され、二重処罰に当たる人事処分は、懲戒権の濫用とされ無効になることがあります。〔労働契約法第15条〕

 

<人事処分の種類>

モデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)には、懲戒の種類として、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇があります。

しかし、第63条(懲戒の種類)の解説には、「懲戒処分の種類については、本条に掲げる処分の種類に限定されるものではありません。公序良俗に反しない範囲内で事業場ごと決めることも可能です」と書かれています。

実際に、職務級を下げる降格、役職を免ずる降職といった処分も行われています。これらは、日常用語では左遷と呼ばれ、人事異動の一種でもあります。

 

<人事異動と人事処分の併用>

左遷(降格・降職)は、人事異動でありながら、人事処分の性質も併せ持つことがあります。

このことからも明らかなように、人事異動と人事処分の両方を行うことは、1つの行為を2回処罰することにはならず、二重処罰の禁止の趣旨に反しません。

行為と処分とのバランスが取れていなければ、その有効性が争われることはありますが、人事異動と人事処分の両方を行うのが不当だというわけではありません。

 

<人事考課>

人事考課は、社員の能力や実績を評価し、待遇などに反映させる目的で行われます。

そして、人事異動と人事処分の理由となった行為が、評価の対象となることもあります。

つまり、人事異動、人事処分、人事考課での低評価の3つが重ねて行われることもあるわけです。

ただし、対象となった行為とこれらとのバランスが保たれるよう配慮する必要はあります。

 

2019.03.25.解決社労士

<「許される」の意味>

使用者側からも、労働者側からも、「遅刻は何回まで許されるか」という質問を受けます。

この質問では「許されない」とは何かを想定し、それぞれについて回答する必要があります。

 

【遅刻について「許されない」の意味】

① 給与の欠勤控除を受ける。

② 懲戒処分を受ける。

③ 損害賠償の請求を受ける。

 

1回でも遅刻すれば、上司や先輩から注意を受けるでしょうから、これすら無くて許されるということは想定できません。

すると、上記の3つについて考えることになります。

 

<① 給与の欠勤控除を受ける>

欠勤控除について、モデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)は、次のように規定しています。

 

【欠勤等の扱い】

第43条  欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。

 

欠勤控除について、労働基準法その他の法令には規定がありません。

しかし一般に、労働者の労務の提供がない場合には、使用者は賃金を支払う義務がなく、労働者も賃金を請求できないという「ノーワーク・ノーペイの原則」が認められています。

この原則は、労務の提供と賃金の支払いが対応するという労働契約の性質上、当然に認められているものです。

ですから、欠勤控除をすることは違法ではないのですが、計算方法について就業規則等に明記しておく必要はあります(絶対的必要記載事項)。

 

また、遅刻による欠勤の時間に相当する賃金を超えて欠勤控除をすることは、懲戒処分になりますから、懲戒処分としての適法性が問題となります。

 

<② 懲戒処分を受ける>

モデル就業規則の最新版で、遅刻についての懲戒処分の規定は、次のようになっています。

 

【懲戒の事由】

第64条  労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

 

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、  回にわたって注意を受けても改めなかったとき。

 

この規定によると、2つのパターンがあります。

・正当な理由なくしばしば遅刻をしたとき → けん責、減給、出勤停止

・正当な理由なく無断でしばしば遅刻し 回注意されても遅刻したとき → 懲戒解雇など

 

「無断で」「注意されても」なお遅刻すると、懲戒解雇もありうるということになります。

これは、別に次の規定があって、遅刻の事前申し出と承認を必要としているからです。

こうした規定により、事前申し出と承認を義務付けていなければ、「無断で」を理由に一層重い処分とすることはできません。

 

【遅刻、早退、欠勤等】

第18条  労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に    に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。

 

さて、モデル就業規則第64条第1項第2号には、「しばしば」という言葉があります。

この意味は、会社ごとに運用で決めることになります。

すると「何回まで許されるか」については、「運用による」という回答になってしまいます。

 

また、ここの第2項第3号には「  回にわたって」という言葉があり、何回にするかは会社が決める形になっています。

こうした規定があれば、会社の無断遅刻が何回まで許されるかは、かなり具体的にわかります。

 

このように、懲戒処分を受けないという意味で「許される遅刻は何回までか」という質問に対しては、「会社の就業規則と運用による」という回答になります。

 

<③ 損害賠償の請求を受ける>

損害賠償については、労働基準法に次の規定があります。

 

【賠償予定の禁止】

第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 

ここで遅刻は「労働契約の不履行」になりますから、「遅刻すると1回につき3千円の罰金」などのルールは、賠償予定となって労働基準法に違反するため無効となります。

しかし、「予定」するのではなく、会社に実際に損害が発生して、会社が損害額を証明できるのであれば、遅刻した社員に損害賠償を請求することができます。

朝一番で予定していた大事な商談に遅刻して、商談相手が怒って帰り、その後お詫びしても許してもらえず、大きな仕事をライバル会社に取られてしまったという場合には、ある程度具体的な損害額が算定できるでしょう。

つまり、損害賠償責任については、遅刻の回数は問題ではないことになります。

 

こうしてみると、懲戒処分についての規定の中の「しばしば遅刻」「  回にわたって注意を受けても」という部分は、会社に与えた損害額や不注意の程度を基準にすることも、十分に客観的な合理性があるといえます。

 

2019.03.15.解決社労士

<就業規則が必要ということ>

懲戒処分を有効に行うためには、就業規則に具体的な規定のあることが必要です。

しかし、これは規定が必要だということであって、規定さえあれば十分ということではありません。

架空の例ですが、ある会社の就業規則に次のような規定があったとします。

 

【遅刻、早退、欠勤等】

第●条 労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に会社に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。

 

【懲戒解雇】

第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。

○  1営業年度のうちに無断で100回遅刻したとき

 

1年間で100回も無断で遅刻したら、解雇されても仕方がないように思えます。

しかし、99回目まで誰も注意を与えず、遅刻してきた社員をニヤニヤして見ているだけだったのに、100回目の遅刻で突然「はい、就業規則の規定により、あなたは解雇となります」ということにはできないのです。

 

<懲戒処分の有効要件>

労働契約法は、懲戒処分が無効となる場合について、次のように規定しています。

 

【懲戒】

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

裏を返せば、懲戒処分が有効となるためには、次の2つの条件を満たすことが必要です。

・客観的に合理的な理由があること

・社会通念上相当であること

 

このことからすると、1回目の無断遅刻のときに、上司など会社側は最低でも次のアクションを起こすことが求められます。

・無断遅刻はいけないことであり、ルール違反であることの説明。

・無断遅刻について、本人の弁解を聞くようにすること。

 

無断遅刻について注意を与えなかったり、正当な理由の有無を確認しなかったりというのでは、2回目以降の無断遅刻が発生しても強く責めることはできません。

それにもかかわらず、懲戒処分を行うと「客観的に合理的な理由がある」ともいえませんし、「社会通念上相当」ともいえませんから、その懲戒処分は懲戒権の濫用となって無効になります。

 

こうしたことを踏まえて、厚生労働省のモデル就業規則の規定は、次のようになっています。

 

【懲戒の事由】

第61条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第41条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

③正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、  回にわたって注意を受けても改めなかったとき。

 

このように、懲戒処分の有効要件〔労働契約法15条〕に配慮した規定となっています。

 

<遅刻の再発を予防する労務管理>

遅刻の再発を予防するため、上司が取るべき行動には次のようなものがあります。

 

・出勤時刻になっても姿を現わさないので、連絡してみたが応答もなく、みんながとても心配していたことの説明。

・健康状態は大丈夫か、仕事や家庭の事情で疲労が蓄積していないか、夜はしっかり眠れているか、何か心配事があるのではないかの確認。

・やむを得ず遅刻する場合には、事前に会社に申し出て承認を受けるルールがあることと、その具体的な方法についての説明。

 

上司からこのようにされたら、本当は明け方まで友人と居酒屋にいて寝坊したのであっても、「二度と遅刻しないようにしよう」と考えるものです。

少なくとも、みんなの見ている前で机を叩きながら「遅刻するなバカヤロー」と怒鳴るパワハラ上司の100倍は尊敬されるでしょう。

部下にルール違反があった場合の対応についても、管理職の教育が重要だということです。

 

2018.12.31.解決社労士

<同じ遅刻でも>

AさんとBさんが、どちらも今まで遅刻したことなど無かったのに、そろって同じ月に2回、30分の遅刻をしたとします。

そして、どちらも始業時刻の1時間前に会社に電話で「寝坊しました。遅刻します。申し訳ございません」という報告をしていたとしましょう。

 

【Aさん】

入社以来ずっと評価が高く、その人柄も周囲から信頼されている。仕事覚えが早く何でもテキパキと正確にこなすので、どうしても仕事が集まり残業が増えてしまった。会社としては、昇給や賞与の査定で報いている。

今回の遅刻では、「可哀想に。きっと仕事で疲れているんだ」と言われている。

 

【Bさん】

入社以来ずっと評価が低く、その人柄も周囲から疑われている。仕事覚えが悪く間違いが多いため、仕事のやり直しなどのために、残業が増えてしまった。会社は、Bさんの仕事を減らし、なるべく定時で帰ってもらうようにした。

今回の遅刻では、「たるんでいる。きっと深夜まで遊んでいるんだ」と言われている。

 

この場合でも、就業規則に「正当な理由なく、ひと月のうちに2回、10分以上の遅刻をした場合には、けん責処分とする」と規定してあったなら、この通りにしなければなりません。

会社はAさんとBさんの両方から、始末書を提出してもらわなければならないのです。

これはこれで平等であり正しいという考え方もあるのでしょうか。しかし、何か釈然としません。

 

<就業規則の規定>

最新版(平成30(2018)年1月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第64条  労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

(以下略)

 

この規定では、「情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする」となっていますから、同じ行為に対しても、情状に応じて異なる処分をすることができます。

 

<情状とは>

刑事手続では、訴追を行うかどうかの判断や刑の量定に影響を及ぼすべき一切の事情を情状と呼んでいます。

犯罪の動機や目的、犯人の年齢・経歴や犯行後の態度などがこれにあたります。〔刑事訴訟法248条、刑法66条〕

懲戒処分は会社の行う制裁であって、国が行うものではありませんが、行為者の年齢、社歴、事後の態度などは情状にあたります。

そして、この情状は懲戒処分を軽くする場合だけでなく、重くする場合にも作用します。

 

<公平の考え方>

同じ過ちをしたのに、異なる懲戒処分では不平等だという反論もありそうです。

しかし平等とは、人々の共通する属性に着目して同じ扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

一方で公平とは、人々の異なった属性に着目して違った扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

さて、妥当な結論を導くには、どちらの考えに従うべきなのでしょうか。

 

【懲戒処分の目的】

・懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

・会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

・社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

懲戒処分の目的は、上記のようにまとめられると考えられますから、公平な処分というのが基本になるでしょう。

ただし、平等が無視されるわけではありません。AさんもBさんも普段の仕事ぶりや周囲からの信頼が同じであるなら、同じ懲戒処分となるのが妥当だということになります。

 

こうして、Aさんには上司からの厳重注意、Bさんにはけん責処分という差を設けることもできます。

ただし、これが可能なのは、就業規則の規定が「情状に応じた」扱いを許す内容になっている場合に限られます。

この視点から、もう一度、御社の就業規則を確認するようお勧めします。

 

2018.12.16.解決社労士

<懲戒処分の時効>

懲戒処分について、消滅時効期間を定める法令はありません。

会社の就業規則にも「○年以上経過した事実に対する懲戒処分は行わない」などの規定は無いでしょう。

ただ、懲戒処分は労働契約に付随するものですから、次に示す民法の基本原則が適用されます。

 

(基本原則)第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

つまり、いくら会社に懲戒権があるからといって、ずいぶん前の事実について懲戒処分を行うことは、不誠実でもあり権利の濫用ともなりうるので許されません。

 

<懲戒と刑罰>

刑事訴訟法には、公訴時効についての規定があります。

犯罪が終わってから、一定期間を過ぎると検察官が公訴を提起できなくなります。

会社による懲戒処分は、国家権力による刑罰とは違いますが、その目的は共通しています。

 

【懲戒処分の目的】

・懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすること。・会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすること。

 

何が許され何が許されないのか社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持するためには、就業規則の懲戒規定が具体的でわかりやすいことが必要です。

そうでなければ、懲戒対象者が処分に納得せず、会社を逆恨みすることもあります。これでは、懲戒処分の目的が果たされません。

社会保険労務士に報酬を支払ってでも、それぞれの会社にピッタリの就業規則を作る必要があることは、懲戒規定だけを考えても明らかです。

 

<実際の公訴時効期間>

セクハラについて見ると、現在の刑事訴訟法では次のように規定されています。

30年 ― 強制性交等致死罪、強制わいせつ致死罪

15年 ― 強制性交等罪

3年 ― 名誉毀損罪、暴行罪、過失致傷罪、脅迫罪

1年 ― 侮辱罪、軽犯罪法違反罪

しかも、一部の公訴時効期間は、平成16(2004)12月の刑事訴訟法改正により、延長されています(翌年1月1日施行)。

こうしてみると、被害者が亡くなったような重大なケースを除き、20年前のセクハラで懲戒処分を行うというのは、懲戒権の濫用となる可能性が高いでしょう。

 

<時代背景からすると>

日本でセクハラという言葉が使われるようになったのは1980年代半ばだとされています。

しかし、男女雇用機会均等法が改正され、性的嫌がらせへの会社の配慮についての規定が置かれたのが平成9(1997)年です。

20年前というと、行為者がセクハラについての社員教育を受けていなかった可能性が高く、また、就業規則にもセクハラに対する懲戒処分の規定が無かった可能性があります。

行為の当時、就業規則に規定が無かったのならば、後から新たに規定ができても、これを根拠に懲戒処分をすることはできません(不遡及の原則)。

 

2018.09.28.解決社労士

<発覚するということは>

飲み会のお誘いメールが送られた事実は、受信した相手なら確実に知ることができます。この社員が第三者に話し、上司や人事部門などに伝われば問題視されることもあるでしょう。

これとは別に、ネット管理者など権限のある社員がチェックしたことにより発覚した場合には、プライバシーの侵害となるのではないかが問題となります。

会社のパソコンがどのように使用されているかを、会社側が把握することは、完全に会社の自由というわけではありません。

特に、メールの内容については、就業規則の規定・周知、監視の必要性、手段の相当性が調っていないと、プライバシーの侵害とされることがあります。

 

<モニタリング規定>

勤務時間中は、労働者は使用者の指揮命令下に置かれています。これを使用者の側から見れば、労働者の業務を監視するという関係にあります。ですから、本来、会社は使用者を通じて、端末内のデータを確認する権限をもっているわけです。

とはいえ、会社が端末内のデータを確認するとまでは思っていない労働者が、端末内にプライベートなデータを残すかもしれません。この場合に、会社に権限があるということで、プライバシーをあばいてしまったら、会社の方が責任を問われることがあります。

そうならないように、就業規則には、会社が端末内のデータを閲覧できる旨を規定し、きちんと周知しておきましょう。

ここでの周知は、就業規則の有効要件としての周知ではなくて、その内容の説明までしておくことが必要と考えられます。

 

<監視の必要性>

監視の必要性では、例えば、メールの私的利用の防止、個人情報や機密情報漏洩の防止、漏洩原因の追及、ウイルス調査などは許されます。

また、これとは別に懲戒処分の対象となりうる行為の証拠が、メールなどに残っている可能性が高い場合には、調査の対象となりえます。

しかし、権限を持っている社員が個人的な好奇心で監視を行えば、この要件は満たされません。

 

<手段の相当性>

手段の相当性では、事前に社員の電子メールを監督等することがあり得るということが周知されていたかということや、件名や送信先を確認すれば足りるのに本文まで閲覧していないかということ、上司やネットワーク管理者などではない無関係な人が閲覧をしていないか、というようなことが問題になります。

 

<懲戒処分の対象とするか>

たとえ懲戒処分の条件をすべて満たしたとしても、会社に与えた損害は軽微ですし、その程度は厳重注意まででしょう。

懲戒処分をするため、これに関わる社員たちの人件費や精神的な負担を考えれば、懲戒ではなく上司からの注意で済ませた方が良さそうです。

また、プライベートなメールを送るのに必要な時間もわずかですから、欠勤控除をするというのも現実的ではありません。

 

<防止策は?>

会社の貸与するパソコンは、会社の所有物であり業務のみに使うものであるという、当たり前のことを繰り返し教育しましょう。

これだけの研修を行うというのではなく、就業規則についての研修会を実施してはいかがでしょうか。

また、会社の備品を私的なことに使ったり、業務効率が低下している点については、人事考課制度の適正な運用によって防止することができます。

懲戒を考える前に、まず教育と人事考課の適正化を考えましょう。

 

2018.05.20.解決社労士

<懲戒規定の目的1>

社員を懲戒する目的の第一は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

懲戒処分を受けた社員に対しては、深く反省し二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

これは、不都合な結果の発生を予見して回避する能力はあるのに、故意あるいは明らかな不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。

しかし、能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。会社は、能力不足に対しては、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。

 

<懲戒規定の目的2>

社員を懲戒する目的の第二は、会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすることにあります。

たとえば、明らかなパワハラやセクハラがあって、会社がその事実を知りながら放置しているようでは、社員が落ち着いて安心して働くことができません。一般の道義感や正義感に反しますし、自分も被害者となる恐怖を感じるからです。これでは、会社に対する不信感で一杯になってしまいます。

 

<懲戒規定の目的3>

具体的でわかりやすい懲戒規定を設けることは、社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することを目的としています。

何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。

これは、罪刑法定主義の考え方です。ある行為を処罰するためには、禁止される行為の内容と処罰の内容を具体的かつ明確に規定しておかなければならないとする原則です。これは、日本国憲法31条と39条にもその趣旨が示されています。

対置される概念は罪刑専断主義です。たとえば「社長を怒らせたら懲戒処分」という考え方です。こんなことでは、社員はいつも不安です。

懲戒規定に定めの無い行為について、懲戒処分をすることはそれ自体違法です。しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下します。

たとえば、ある社員が作業の問題点を指摘し、改善提案をしたとします。これを不快に思った会社側が、不当に懲戒処分を行ったならば、その職場での改善は進まなくなってしまいます。

やはり、懲戒規定に具体的な定めのない行為を行っても、懲戒処分の対象とされることはないのだという安心感に基づいて、伸び伸びと勤務できる環境が会社の成長を促すのです。

 

2018.05.05.解決社労士

<情状とは>

刑事手続では、訴追を行うかどうかの判断や刑の量定に影響を及ぼすべき一切の事情をいいます。犯罪の動機や目的、犯人の年齢・経歴や犯行後の態度などがこれにあたります。〔刑事訴訟法248条、刑法66条〕

しかし、懲戒処分は会社の行う制裁であって、国が行う刑事処分と全く同じではありません。

それでも、故意に行った場合には、その動機や目的が情状にあたります。また、行為者の年齢、社歴、事後の態度などは情状にあたります。

 

<酌量とは>

刑事裁判では、同情すべき犯罪の情状をくみ取って、裁判官の裁量により刑を減軽することをいいます。〔刑法66条〕

懲戒処分の場合にも、事情をくみ取って処分に手心を加えるという意味で使われます。

 

<就業規則の規定>

最新版(平成30(2018)1月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第64条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

この規定からも明らかなように、「平素の服務態度」つまり「日頃の勤務態度」は、情状酌量の対象となります。

ただし、これは客観的に認定されなければ、不平等や不公平の問題が発生しますから、勤怠だけでなく人事考課による適正な評価を基準とすべきです。

 

<情状酌量の効果>

モデル就業規則には、他にも「情状に応じ」〔63条本文、641項本文〕、「その情状が悪質と認められるとき」〔6429号〕という言葉が出てきます。

つまり、情状酌量が懲戒処分を軽くする方向に向かう場合だけでなく、懲戒処分を重くする方向に向かう場合にも作用するということになります。

 

懲戒処分を行うこと自体、懲戒権の濫用となり無効となることがあります。〔労働契約法15条〕

この場合には、不本意ながら、懲戒処分を通知した従業員から慰謝料など損害賠償を求められることもあります。

結局、安易な懲戒処分は会社にとって危険ですから、情状酌量をも踏まえて、どの程度の懲戒処分が可能なのかは、刑法に明るい社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

 

2018.04.08.解決社労士

<懲戒処分の有効要件>

解雇まではいかなくても、懲戒処分が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。

条件を1つでも欠けば無効となり、会社としては対象者から慰謝料その他の損害賠償を請求される可能性があるわけです。

法律上の制限として次の規定があります。

 

「使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」〔労働契約法15条〕

 

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

 

<使用者が労働者を懲戒できる場合>

労働契約法15条には、「使用者が労働者を懲戒できる場合に」とサラッと書いてありますが、この一言には就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあるという意味が込められています。

ですから、そもそも就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めが無ければ、懲戒処分そのものができないことになります。

 

たとえば、厚生労働省のモデル就業規則には、懲戒処分について次のような規定があります。

 

(懲戒の事由)

第62条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

①正当な理由なく無断欠勤が   日以上に及ぶとき。

②正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

③過失により会社に損害を与えたとき。

④素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。

⑤性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき。

⑥性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支障を与えたとき。

⑦第11条、第13条、第14条に違反したとき。

⑧その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

 

従業員が大人ばかりでしたら、このまま自社の就業規則に使えそうです。

しかし、高校生のアルバイトがいるような職場では、もう少しわかりやすく、中学を卒業したばかりの人にも理解できる表現にするか、定期的に就業規則の学習会を開かないと無理がありそうです。

 

実際に懲戒規定の具体性が争われるのは、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」のような抽象的な表現です。

就業規則は会社が作るものですから、会社が就業規則を根拠として懲戒処分を行い、対象者がその有効性を争ったら、会社側が「前各号に準ずる不都合な行為があった」ことなどを証明しなければなりません。

 

<懲戒処分が無効とされないための規定>

従業員によって行われた不都合な行為が、就業規則の懲戒規定に当てはまるかどうかについて争いが生じたのでは、処分を行うのが難しくなってしまいます。

これを防ぐには、「正当な理由なく」「しばしば」「素行不良」など解釈が分かれそうな表現を具体化する必要があります。

また、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」とはどのような行為なのか、具体的に列挙する必要もあるでしょう。

実際にやってみると、懲戒規定の条文が100を超えてしまいます。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

適正な懲戒処分を行うためには、就業規則の内容を自社に合ったものにしておくこと、必要な教育研修を繰り返し行うことなど事前の準備が不可欠です。

また、実際に事件が発生してしまった場合には、適法要件を満たしつつスピーディーに動く必要があります。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

 

2017.12.10.解決社労士

<想定される具体的なケース>

社員が懲戒規定に触れる行為をしたのは明らかではあるものの、具体的な事情を詳細に調べてみないと、解雇すべきか減給処分で十分なのかなど、処分の内容を決められないという場合もあります。

しかも、社内でうわさになってしまい、本人を出勤させることが職場の混乱を招くというときもあります。

こうした場合に、とりあえず出勤停止処分にしておいて、後から追加で決定された懲戒処分をすることを考えてしまいがちです。

 

<懲戒処分の有効要件>

解雇まではいかなくても、懲戒処分が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。

条件を1つでも欠けば無効となり、会社としては対象者から慰謝料その他の損害賠償を請求される可能性があるわけです。

法律上の制限として次の規定があります。

 

「使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」〔労働契約法15条〕

 

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

また、そもそも就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めが無ければ、懲戒処分そのものができないことになります。

 

そして、懲戒権の濫用ではないといえるためには、次の条件を満たす必要があります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・問題が起きてから懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明や弁解をするチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

上の条件に当てはめると「とりあえず出勤停止処分にしておいて、後から追加で決定された懲戒処分をする」というのは、「過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしている」ことになるので、懲戒権の濫用となり懲戒処分は無効となるのです。

 

「過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしてはならない」というルールは、二重処罰の禁止と呼ばれ、憲法にも刑罰について同様のルールが定められています。

 

何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。〔日本国憲法39条〕

 

<それでも出勤停止にはしたい場合>

懲戒処分をするのではなく、出勤停止や自宅待機の業務命令を出すことは可能です。

この場合には、懲戒処分としての出勤停止ではありませんから、原則として出勤停止の間も賃金を支払う必要があります。

 

これを行うためには、就業規則に「懲戒に該当する行為があったと会社が判断した者について、事実調査や職場の混乱回避などのため必要がある場合には、懲戒処分が決定されるまでの間、自宅待機を命ずることがある」という規定を置いておく必要があるでしょう。

また、この規定を適用する場合には、対象者に書面で通知することが望ましいといえます。

 

こうした場合に、何日もかけて事実調査を行っていたのでは、懲戒処分を予定している社員に賃金を支払いながら連休を取らせている形になってしまいます。

これでは、他の社員も納得がいきませんから、事実の確認は急ぐ必要があるのです。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

適正な懲戒処分を行うためには、事前の準備が不可欠です。

また、実際に事件が発生してしまった場合には、適法要件を満たしつつスピーディーに動く必要があります。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

 

2017.10.14.解決社労士

<パワハラ教育の充実>

パワハラ防止のための社員教育が、中小企業でも進んできています。そうした中で、昔のことについて「あの行為はパワハラだったのでは?」という疑問も出るようになってきています。

昔のパワハラ行為を、懲戒処分の対象とすることはできるのでしょうか。

 

<刑罰不遡及の原則>

今現在の就業規則に、問題とされる具体的なパワハラ行為についての懲戒規定があるとしても、昔の行為当時に規定が無かったならば、さかのぼって懲戒規定が適用されることはありません。

これは、刑罰不遡及の原則によるものです。〔日本国憲法39条〕

 

<時効の問題>

労働基準法は、賃金などの請求権について2年間、退職金について5年間の消滅時効期間を定めています。〔労働基準法115条〕

これは、民法に規定されている請求権の時効の例外を定めているものです。

しかし、懲戒処分は請求権ではないので、この規定とは無関係です。

また刑事訴訟法には、犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると公訴が提起できなくなるという公訴時効についての規定があります。

しかし、これは国家が刑罰を科す場合の規定ですから、民間企業の懲戒処分には適用されません。今でも、遅刻すると罰金3,000円などブラックな話も聞かれますが、民間企業が従業員に罰金を科すということなど、あってはならないことです。

結局、懲戒処分に時効期間の規定は無いのです。

 

<民法の基本原則>

時効が無いのだから、どんなに昔のことでも懲戒処分の対象となりうるというのでは、安心して勤務できません。

労働契約も契約の一種ですから、民法の信義誠実の原則や権利濫用の禁止があてはまります。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。〔民法1条2項〕

権利の濫用は、これを許さない。〔民法1条3項〕

ということで、あまりにも昔のことを持ち出して懲戒処分を行うのは、不誠実で懲戒権の濫用となり無効であるというのが結論となります。

 

<裁判では>

最高裁の裁判では、7年前の暴行を理由に懲戒解雇処分を行ったのは、懲戒権の濫用であり無効であるという判決があります。1審では解雇無効、2審では解雇有効、そして最高裁で解雇無効という判断でした。

最高裁は、会社が警察の判断を待っていて懲戒処分のタイミングを見失ったという主張を退け、会社には懲戒処分を行うチャンスがあったのに怠っていたと判断したのです。また、そこまでひどい暴行ではなく、解雇は行き過ぎだとも言っています。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

会社に懲戒規定を置く目的として、次のようなものが挙げられます。

・懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正する。

・懲戒が行われることで、他の社員は道義感が満たされ安心して働ける。

・懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できる。

・懲戒規定があることで、社員全員が不正行為を思いとどまる。

一般には、行為者を懲らしめる目的だけがクローズアップされがちですが、他の目的も重要です。

こうした目的からすると、タイムリーな懲戒処分が必要なわけですが、会社としては懲戒権の濫用を指摘されないよう、慎重に行う必要もあります。

懲戒処分を検討するのでしたら、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.07.19.解決社労士

<基本的な態度として>

パワハラを指摘されたなら、それはそれで十分反省すべきです。

しかし、懲戒解雇というのが行き過ぎた対応ではないかと疑うことも必要です。

パワハラを理由に懲戒解雇を宣告されても、それが法的に有効となるためには、厳格な法的要件を満たす必要があります。

会社に再考を促すべき場合もありますので、冷静に考えてみてください。

 

<懲戒処分の有効要件>

解雇までいかなくても、懲戒処分が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。条件を1つでも欠けば、無効を主張できるわけです。

法律上の制限としては、次の規定があります。

 

「使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」〔労働契約法15条〕

 

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

また、そもそも就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めが無ければ、懲戒処分そのものができないことになります。

 

懲戒権の濫用ではないといえるためには、次の条件を満たす必要があります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・パワハラの問題が起きてから懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

・過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・その労働者に説明や弁解をするチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<懲戒規定の明確さ>

実際にパワハラとされた行為が、懲戒処分の対象であることが明確でなければ、従業員としては、何が処分の対象かわからないまま処分されてしまうことになります。これは、やはり懲戒権の濫用となり、懲戒処分は無効となります。

同じパワハラでも、暴行、傷害、名誉毀損など、刑法上の罪に問われる行為であって、懲戒規定に「会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったときは懲戒解雇とする」という規定があれば、他の条件を満たす限り懲戒解雇も有効になります。

しかし、こうした規定が無かったり、パワハラとされた行為が刑罰法規に違反する行為ではないという場合には、パワハラの定義の明確性が問題となります。

 

<パワハラの定義>

法令にパワハラの定義はありません。ですから、職場ごとに明確な定義づけをしなければ、パワハラを理由とした懲戒処分はできません。

つまり、就業規則などの規定を読めば、問題とされた行為がパワハラにあたることは、その行為を行った人にも明らかだと言える場合や、パワハラについての教育研修が十分に行われているので、その行為を行った人にも理解できていたと言える場合でなければ、有効に懲戒処分を行うことはできません。

何を禁止されているかわからないのに、「あれはパワハラだったから処分します」という不合理なことは許されないのです。

ですから、パワハラを指摘され反省してみたものの、本当にパワハラと言えるのかどうか良くわからないならば、パワハラの定義が不明確である可能性が高いのです。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

パワハラで懲戒解雇になりそうな場合、自分の行為が本当にパワハラだったのか、パワハラだったとして解雇されるほどのことだったのか、という疑問を感じているのなら、なるべく早く信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.06.19.解決社労士

<処罰できる場合とできない場合>

意図的に仕事をしない場合なら、就業規則に故意に仕事の手抜きをした場合の懲戒規定を置いて、その事実を証明し、本人の言い分を聴くなど適正な手続きを踏んで懲戒処分をすることができます。

能力的に仕事ができない場合なら、適正な人事考課を通じて、その人の給与や賞与が調整されますから、きちんと仕事をしている人との間で不公平の問題は生じません。そもそも能力不足に対する懲戒処分は意味が無いのです。反省して心を入れ替えても、できないことはできないのですから。むしろ、会社が教育研修に力を入れる必要があります。

しかし実際には、わざと仕事をしないのか、それとも能力不足でできないのかは見分けがつきません。

 

<貢献度が基準なら>

「能力による評価」と言っても、真の能力は目に見えません。どれほど手を抜いているのかはわからないのです。

100の能力を持った人が、手を抜いて50の能力しか発揮していない場合と、50の能力しか無い人が死に物狂いで50の能力を発揮した場合とでは、会社に対する貢献度は同じです。

ですから、発揮された能力を会社に対する貢献と考えて、どちらも同じ評価をすることは不合理ではありません。

 

<姿勢を加味するなら>

しかし、死に物狂いの姿は他の社員に良い影響をもたらすと考えれば、50の能力しか無い人の方を高く評価することにも十分な理由があります。

反対に、会社の外でも十分な能力を身に着ける努力を続けていたものと考えれば、100の能力を持った人を高く評価するのも不当ではありません。

 

<結論として>

能力、会社に対する貢献度、仕事に対する取組姿勢など、多面的な評価基準を含んだ適正な人事考課と、その前提となる教育研修を行えば、仕事をきちんとしない社員を懲戒処分の対象とする必要は無くなります。

会社の実情に応じて具体的にどうすれば良いのかは、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.04.17.解決社労士

<労働契約法による規制>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」〔労働契約法15条〕

 

<抽象的な基準>

会社が従業員に対して懲戒処分を通告しても、客観的に合理的な理由を欠いている場合や、社会通念上相当であると認められない場合には、無効になってしまいます。

「客観的に合理的な理由」は、社内で協議してOKとなれば良いのではありません。懲戒処分の対象者が、処分の合理性を否定できないような客観的な理由の存在が必要です。そして、その基準は多くの労働裁判や労働審判などに示されています。

「社会通念上相当」というのは、世間一般の人から見て「それだけのことをすれば、こうした懲戒処分もやむを得ない」と言えることをいいます。社内の懲戒権者による主観的な判断は基準になりません。

 

<懲戒処分が無効なら>

懲戒処分が無効になると大変です。

まず、会社は懲戒処分をしてしまった対象者に対して、損害の賠償をします。懲戒処分によって失われた経済的利益の他に、慰謝料の支払いも必要です。

もし、諭旨解雇や懲戒解雇が無効になったなら、ご本人が希望する限り、暖かく元の職場に迎え入れることになります。

会社は悪者扱いした対象者に頭を下げ、不利益をすべて取り除かなければなりません。これはかなり屈辱的なことになってしまいます。

 

<無効な懲戒処分を避けるには>

懲戒処分の対象となる事件が発生したら、信頼できる社労士にご相談ください。

最初から訴訟になりそうな大きな事件であれば、弁護士に依頼するのが普通でしょう。しかし、そこまでの事件でなければ、弁護士と同じく守秘義務を負い、労働法や判例などの事例に精通した社労士が適任だと思います。

間違った懲戒処分をしないことは、懲戒処分の対象となるような事件の発生防止以上に必要なことです。もし、会社にとって不都合な事件が発生したら、なるべく早く社労士にご相談されることをお勧めします。

 

2017.04.14.解決社労士

<懲戒規定と表彰規定>

おそらくどの会社の就業規則にも、懲戒規定と表彰規定があると思います。懲戒既定の方しか無い会社というのは、それだけでブラックな印象を与えてしまいますね。

厚生労働省のモデル就業規則にも、両方の規定があります。しかし、懲戒既定は50行もあるのに、表彰規定は7行しかありません。懲戒規定の方が、表彰規定よりも分量が多いというのは、やはり多くの会社で同様だと思います。

これだけでも、懲戒は表彰よりも目につきやすいですし、実際に、懲戒処分は行われても、表彰は行われたことがないという会社も少なくないでしょう。

 

<懲戒処分の目的>

社員を懲戒する目的の一つに、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることがあります。懲戒処分を受けた社員が深く反省し、二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

しかし、これと併せて、「会社が懲戒対象となった行為が悪であると評価している」ということを公にして、懲戒対象とならなかった社員に対して注意を促すことも、懲戒処分に期待される効果であり目的となっています。

 

<同じ目的を達成するのなら>

たとえば遅刻を繰り返す社員に懲戒処分を行ったとします。これによって、「遅刻は悪いことです。皆さん気をつけましょう」という会社の意思を表明することができます。

しかし、同じ目的を達成することは、長年にわたり無遅刻無欠勤の社員を表彰することによっても可能です。「遅刻しないのは良いことです。皆さんも見ならいましょう」という会社の意思を表明することができるのです。

同じ目的を達成できるのであれば、懲戒処分よりも表彰の方が気持ち良いに決まっています。

 

<懲戒と表彰のバランス>

懲戒処分が連続したのでは、社員の気持ちが暗くなってしまいます。同じ目的を達成できるのであれば、表彰も同じくらいの回数、実施したいものです。

とはいえ、人命救助など限られたことだけを対象としていたのでは、表彰の機会は生まれません。積極的に社内キャンペーンなどを行い、表彰の回数を増やしてはいかがでしょうか。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

懲戒事案が発生した時だけ、社労士に相談が来るというのは悲しい事実です。懲戒処分が発生しないような教育研修の実施、労働環境の確保、納得のいく人事制度などと併せて、表彰についてもご相談いただけたらと願っています。

 

2017.03.06.解決社労士

<あいまいさの残る懲戒規定>

どんなに良くできた懲戒規定でも、「平素の勤務態度その他情状によっては」「しばしば」「数回にわたって」「著しく」などあいまいな表現が残るものです。

これらの抽象的な表現は、それぞれの案件の具体的な事情に応じて、適切な結論を出すためには必要なものでもあります。

しかし、解釈に幅があるだけに、平等で公平な運用はむずかしいものです。

 

<懲戒対象者を納得させるのは難しい>

なにしろ、懲戒処分を検討しなければならない事件は、日常的に起こるものではありません。むしろ、滅多に起こりません。

ですから、その場限りの判断を繰り返していると、懲戒処分を検討している対象者から「今まで遅刻で懲戒処分を受けた社員はいないのに、なぜ自分だけ懲戒処分を検討されるのか?」とたずねられても、明確な回答ができない恐れがあります。

また、出勤停止の懲戒処分があったときに、別の社員から「自分の時は始末書を書かされただけで済んだのに」という疑問が出されたら、上手に説明できないこともあります。

これでは、懲戒処分を受けた社員が納得できず、心から反省することもなくなってしまいそうです。さらに、本人以外の社員が納得できないのでは、会社に対する不信感が高まってしまいます。

 

<徹底した記録の保管が必要>

こうしたマイナスの効果が発生しないように、懲戒処分があったときには、懲戒対象者、懲戒対象事実、懲戒処分の内容について、詳細な記録を残すことが必要です。

それだけでなく、懲戒処分には至らず検討されただけの案件についても記録も保管は必要です。

さらに、懲戒処分が労働局の斡旋の対象になったり、労働審判の対象になったりすれば、その経緯と結論の資料も一緒に保管する必要があります。

ここまでしないと、平等で公平な懲戒処分は実現しませんし、疑問が出されたときに納得のいく説明をすることができないのです。

せっかく、時間と労力、人件費をかけ、何より大変神経をすり減らして行う懲戒処分です。効果の最大化を図るためには、資料保管の労を惜しんではなりません。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.26.解決社労士

<会社の利益を確保するためには>

会社に損害が発生しないようにするには、社員にして欲しくないことを、懲戒規定にもれなく定めておかなければなりません。

しかし、想定外のことで会社に損害が発生することもあり、すべてを規定しておくことは困難です。最近では、SNSやブログへの悪ふざけの投稿が問題となっています。

 

<包括的な規定の効果>

懲戒規定の中に「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」という条文を見ることがあります。

こうしておけば、すべてを網羅しているようにも見えます。

しかし、「悪いことをしたら処分します」という規定を置くようなもので、あまりに具体性を欠いていますから、有効性は疑わしいです。

こうした規定を根拠に懲戒処分を行うことは、社員に対する人権侵害の恐れが大きいといえます。

それだけではなく、このような規定があることを知った社員は、委縮してしまい伸び伸びと活躍することができなくなってしまうでしょう。

 

<解釈が分かれる規定>

「会社の名誉を傷つけ、業務に悪影響を及ぼす行為」が懲戒処分の対象に規定されているとします。

このカッコの中の「、」が曲者(くせもの)です。この「、」は、「または」の意味にも「かつ」の意味にも解釈できます。

「または」と解釈すれば処分の対象は増え、「かつ」と解釈すれば処分の対象は減ります。

このようなあやふやな規定がある場合には、懲戒処分が検討されている対象社員に有利に解釈しなければなりません。そうしないと、人権侵害となる恐れが大きいのです。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.25.解決社労士

<会社に懲戒規定を置く目的>

会社に懲戒規定を置く目的として、次のようなものが挙げられます。

・懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正する。

・懲戒が行われることで、他の社員は道義感が満たされ安心して働ける。

・懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できる。

・懲戒規定があることで、社員全員が不正行為を思いとどまる。

一般には、行為者を懲らしめる目的だけがクローズアップされがちですが、他の目的も重要です。

 

<実は相反する目的>

まず、懲戒対象の社員に反省を求め、その将来の言動を是正するには、起こしてしまった言動と懲戒とのバランスが大事です。懲戒処分が軽すぎても反省しませんし、重すぎると会社に対する反感が生まれてしまいます。

つぎに、懲戒が行われることで他の社員の道義感が満たされること、良くないことをした社員がきちんと懲戒されることで、他の社員は同様の事態は発生しないと考え安心して働けるようになるという点では、懲戒処分がやや重い方がその目的が達成されやすいでしょう。

そして、懲戒対象となる行為が明確になり、社員全員が伸び伸びと行動できるようになるという点では、懲戒処分がやや軽い方がその目的が達成されやすいでしょう。

さらに、懲戒規定を置いて社員全員に不正行為を思いとどまらせるという目的では、処分が重ければ重いほど効果があると考えられます。

このように、懲戒処分をどの程度の重さにするかは、どの目的を重視するかによって判断が変わってきます。もちろん、あまりに重い懲戒は不合理とされ有効性が疑われます。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.24.解決社労士

<損害の大きさに見合った処分>

社員の不都合な行為によって会社が被る損害としては、会社存続の危機、業務の妨害、取引の不正、欠勤・遅刻・早退、金銭・備品・設備の損失、取引関係の消滅、金融機関・取引先・顧客の信用毀損、社員の安全侵害(ハラスメントを含む)、情報の不足、誤った情報の伝達などなど、考えただけでも心配になるくらい多くの種類があります。

同じ種類の損害でも、その損害が大きければ、より重い懲戒処分が検討されることになります。

 

<会社により違う評価>

すべての損害が金銭に換算できるわけではありません。ですから、「損害の大きさ」といっても、異なる種類の損害の間で大小を比べるのは困難です。

それだけではなく、会社の方針が「お客様第一」の場合と、「会社の利益第一」の場合とでは、同じ行為に対する評価が変わってきます。

またたとえば、社員がトイレに入り手を洗わずに出てきた様子をお客様に見られたとします。その社員が飲食店の店員であった場合には、靴屋の店員の場合よりも会社のダメージが大きいことは明らかです。

つまり、損害の大きさに見合った処分を行うというときの「損害の大きさ」は、客観的に決まっているものではなく、その会社や職場ごとにある程度主観的に決めなければならないものです。

もともと就業規則というのは、ひな形をベースにしても、自社に合うように修正することが必要なのですが、特に懲戒規定についてはオーダーメイドの覚悟で大幅な修正が必要になるのです。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.23.解決社労士

<目的による悪質性の違い>

同じく小学生を誘拐した場合でも、可愛いから連れて帰ったなら未成年者誘拐罪、身代金を要求する目的なら身代金目的誘拐罪です。

未成年者誘拐罪の法定刑が「3月以上7年以下の懲役」なのに対して、身代金目的が加わると「無期または3年以上の懲役」となります。〔刑法224条、225条の2

身代金を得る目的が加わると重く罰せられるのは、その危険性や行為に対する世間一般の非難のレベルが大きく異なるからです。

 

<懲戒規定でも>

自社で開発中の自動車について、故意に虚偽の性能検査報告書を作成し上司に提出したとします。これだけでも、懲戒処分の対象となりうる行為であることは明らかです。しかし、何を目的として行ったかによって、その悪質性には大きな違いが出てきます。

たとえば、次のような目的を想定することができます。

・上司をからかうつもりで、ほんの冗談で行った。

・上司を困らせる目的で行った。

・会社に損害を加える目的で行った。

・会社に損害を加えるとともにライバル会社から謝礼をもらう目的で行った。

会社の懲戒規定は、社内の刑法ともいうべきものですから、同じ故意による行為であっても、その目的によって処分の重さが異なってくるのが当然です。

ところが、「故意または重大な過失により会社に損害を与えたとき」というように、目的による区別をしていない規定も見られます。

たしかに、「平素の勤務態度その他情状によっては」一段低い処分にするという規定が置かれ、柔軟に対応できるようにしてある場合もありますが、これでは適切な懲戒処分を行いにくいので、場合を分けて規定すべきでしょう。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.22.解決社労士

<故意と過失の違い>

同じく他人にケガを負わせた場合でも、意図的に殴りかかった結果なら傷害罪になりますし、人ごみで高齢者にうっかりぶつかって転倒させた結果なら過失傷害罪となります。

故意のある傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い法定刑なのに対して、過失傷害罪は「30万円以下の罰金または科料」で、しかも告訴がなければ公訴を提起されません。〔刑法204条、209条〕

同じ結果が発生した場合でも、わざと行ったのなら重く処罰され、うっかりなら軽く処罰されるのは、その危険性や行為に対する世間一般の非難のレベルが大きく異なるからです。

 

<懲戒規定でも>

会社の懲戒規定は、社内の刑法ともいうべきものですから、故意による行為は過失による行為よりも重い処分になるのが当然です。

ところが、「会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え(以下略)」というように、故意によるものと過失によるものを区別せず、1つの条文で定めていることがあります。

これでは適切な懲戒処分を行いにくいので、場合を分けて規定すべきでしょう。

 

<過失なら懲戒しない?>

大手鉄道会社が、大規模な事故を起こした運転手について、「過失なので懲戒処分を行わない」という発表したことがあります。徹底的な再教育と適正な人事考課で対応するということでした。

なるほど、過失による行為は「悪いことをした」というよりも、適切な行動をとるための「注意力など能力が足りない」という評価のほうが正しいのかもしれません。ミスを繰り返す社員に懲戒処分を繰り返しても効果は期待できません。むしろ、教育研修が大事ですし、能力と貢献度に見合った処遇をするための人事考課制度が必要でしょう。

ただ、上場企業が「うちの会社は過失なら懲戒処分しません」と宣言してしまうのは、被害者が出た場合の本人・家族や世間一般の批判にさらされることになって危険だと思います。

 

<重過失という考え方>

普通の人ならありえないような極端な不注意で、わずかな注意で結果の発生を防げたハズの過失を、一般の過失と区別して「重過失」と呼ぶことがあります。

正常な人であれば、重過失を繰り返すということは考えにくいです。また、重過失には故意と同程度の危険があり、非難の程度もハイレベルですから、懲戒処分によって反省と改善を求める必要性は高いのです。

このことから「故意または重過失により(以下略)」という規定も、多く見られますし妥当だと思います。

 

<ここは刑法が得意な社労士(社会保険労務士)の出番>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.21.解決社労士

<退職金の性質>

もともと会社に退職金の支払い義務はありません。しかし、就業規則などに計算方法、支払い方法などの規定を設けることにより、労働契約の内容となって、会社に支払い義務が生じます。

 

<退職金の減額・不支給が許されない場合>

懲戒解雇の場合に退職金が減額されあるいは支給されない旨の規定が、就業規則や退職金規程の中に無ければ会社に全額支払いの義務があります。なぜなら、それが労働契約の内容となっているからです。

ちなみに、中退共(中小企業退職金共済)や建退共(建設業退職金共済)の退職金についても、懲戒解雇による退職金の減額などの規定はありませんので、全額支給されることになります。

 

<退職金の減額・不支給を規定する意味>

退職にあたって、退職者が会社に大きな損害を与えていることが発覚し、その穴埋めのために退職金の減額・不支給という手段を用いるということも考えられます。

しかし、むしろ退職金を減額されたり支給されなかったりということがないように、従業員に真面目で誠実な勤務を心がけてもらうための警告として規定していることが多いのです。

 

<退職金の減額が許される場合>

就業規則などに、懲戒解雇の場合には退職金が減額される旨の規定があり、従業員のそれまでの長年の勤務による功労を大きく減殺するほどの信義に反する行為があった場合には許されます。

信義に反する行為というのは、正義に反し信頼関係を破壊する行為のことです。

もちろん、功労をどの程度減殺するかによって、減額が許される限度も変わってきます。

裁判になれば、会社が思い切った減額をした場合、裁判所は退職者の功労や過去の勤務態度を踏まえ、減額し過ぎを指摘し不足分を追加で支払うように命ずることがあります。

 

<退職金の不支給が許される場合>

就業規則などに、懲戒解雇の場合には退職金が不支給となる旨の規定があり、従業員のそれまでの長年の勤務による功労がすべて抹消されるような信義に反する行為があった場合には許されます。

裁判になれば、会社に対する劣悪な裏切り(功労を全く失わせる程度の著しい背信的行為)があった場合にのみ、退職金の不支給が許されます。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

万一の場合に、退職金の減額や不支給が可能となる就業規則を整えるのも社労士の仕事です。

また、実際に懲戒解雇が発生したときに、どの程度まで退職金を減額できるか意見を述べるのも社労士の仕事です。

しかし、懲戒解雇を出さないように職場環境を整えることこそ、社労士の大事な仕事です。

ぜひ、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2017.02.14.解決社労士

<過去の事で懲戒処分を受けるケース>

「過去の事で懲戒処分を受ける」という場合、次のようなパターンが考えられます。

1.過去に一度懲戒処分を受けた事について再び懲戒処分を受ける場合

2.その当時は懲戒処分の対象とならなかった事について蒸し返される場合

 

<懲戒処分を受けた事について重ねて懲戒処分が行われる場合>

「二重処罰の禁止」というのがあります。これは、日本国憲法39条で保障されているものです。

一度処分や処罰を受けた事について、重ねて処分や処罰を受けないということです。

この原則は、社内の懲戒処分についても、基本的にはあてはまるものですから、会社から「二重処罰」されそうになったら、大いに反論の余地があります。

ただし、例外があります。それは常習犯的な場合です。

たとえば、遅刻を繰り返した社員を譴責(けんせき)処分にして、厳重注意をしたうえで、始末書を取ったとします。それにもかかわらず、相変わらず遅刻を繰り返しているという場合、今度は一段重い懲戒処分にするということがあります。きちんと就業規則に「懲戒処分を受けたにもかかわらず同じ過ちを繰り返した場合には」という規定を置くなど、条件を満たしていれば有効です。

 

<懲戒処分にならなかった事について再び懲戒処分が検討される場合>

「一事不再理(いちじふさいり)」というのがあります。これも、日本国憲法39条で保障されているものです。

一度処分や処罰が検討された事について、後になってからもう一度処分や処罰を検討されないということです。

この原則は、社内の懲戒処分についても、基本的にはあてはまるものですから、会社から蒸し返されそうになったら、大いに反論の余地があります。

こうした場合だけでなく、会社に発覚したのに長年懲戒処分を検討されなかった事について、ある時突然懲戒処分を言われるというのは、会社が信義誠実の原則に反していることが多いでしょう。あるいは、退職に追い込むための言い訳として、無理に過去の事を問題にしているのかもしれません。こうしたことも決して許されることではありません。

 

会社から懲戒処分を受けそうになった時、あるいは受けた時、それが有効なのか、それとも懲戒権の濫用であり無効なのか、かなり専門的な判断が必要です。

おかしいと思ったら、労働事件を扱う弁護士や信頼できる特定社労士(特定の付記を受けた社会保険労務士)にご相談ください。

 

2016.11.11.

<始末書の目的>

始末書とは、不都合な事実が発生した場合に、その事実を発生させた人が、事実の内容と原因・責任を明らかにし、再発防止を約束して、反省と謝罪の意思を示す文書です。

顛末(てんまつ)書は、事の顛末を示す文書ですから、事実の内容と原因を明らかにすれば良いのですが、会社によっては始末書と顛末書を混同しているケースも見られます。

 

<事実の内容>

ここは5W1Hを意識して客観的に書く部分です。

感情を入れたり、クドクドとお詫びの言葉を入れたり、長々と書いてしまうと、わかりにくくなって読む人がイライラします。

事実がわかるように簡潔に要領よく書きましょう。

 

<発生の原因>

ここも客観的に書く部分です。

不都合な事実の発生原因には、多くのものが思い浮かびますが、その中でも特に主要な原因をいくつか書きます。

ここも、感情を入れたり、クドクドとお詫びの言葉を入れたり、長々と書いてしまうのは禁物です。

 

<再発防止策の提示>

会社が始末書の提出によって得られる利益としては、不都合な事実の発生に最も深くかかわった本人から、再発防止策を示してもらうことにあるでしょう。

ですから、ここには具体的なことを書く必要があります。「もっと注意すれば…」のような抽象的なことを書いても役に立ちません。

自分と同じ立場に立たされた人が、同様のことをしてしまわないためには、具体的にどうしたら良いのかを書きます。

 

<反省と謝罪>

ここは主観的にお詫びの言葉を書く部分です。どれほど反省しているか、自分自身、再発防止策をどのように実行していくかという内容も必要です。

最後に、「寛大な措置をお願いいたします」「今後は規則に従います」「相応の処分を受ける覚悟でおります」など、結びの言葉を添えます。

 

始末書を提出すること自体、注意を受けることと併せて、譴責(けんせき)処分という懲戒処分になります。

これ自体に納得できなかったり、始末書提出後の会社の対応に不満があれば、信頼できる特定社労士(特定社会保険労務士)にご相談ください。自分の思っていることが、客観的に正しいのかどうか、冷静に判断してもらえるでしょう。そのうえで、今後どうすれば良いのか対策を立てることになります。

 

2016.09.30.

<制裁規定の制限>

減給処分の制限として、次の規定があります。

「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」〔労働基準法91条〕

就業規則に具体的に規定してあるなど、他の適法要件を備えていたとしても、何か一つの不都合な事実に対して、減給処分は平均賃金の1日分の半額が限度です。この平均賃金の計算方法は、法定されています。

たとえば、直近の給与の締日までの3か月で、カレンダー上の日数が91日のとき、この間の給与の総合計が91万円であれば、1日分は1万円、その半額は5千円です。これが減給処分の限度です。

また、いくつかの不都合な言動があって、まとめて減給処分をする場合に、給与計算後の月給の支給総額が20万円の人に対しては、10分の1の2万円が限度ということになります。

これは、労働者の生活を守るためです。

 

<分割払いの減給処分はどうか>

たとえば1回の遅刻につき、平均賃金の1日分の半額の減給処分が就業規則に規定されていて、適法に運用されているとします。

ある人が、9月に10回遅刻したとすると、

「平均賃金の1日分の半額」×10=「平均賃金の5日分」

の減給処分をしたいところ、それでは月給の10分の1を超えてしまいます。

ご質問者様は、これを10月から翌年2月までの5回に分けて、平均賃金の1日分ずつ減給できるのかという疑問をお持ちです。

これは、できます。なぜなら、分割払いにすれば労働者の生活を守るという法の趣旨に反しないからです。一括だと大変な負担でも、法の制限内の金額での分割なら許されるのです。

 

<しかし現実には>

5か月にわたって、特別な給与計算をするのは面倒です。

また、減給処分の対象者が途中で退職するかもしれません。この場合にも、制限を超えてまとめて減給はできません。

そもそも月に10回も遅刻するというのは異常です。原因を突き止めたうえで、他の懲戒処分、たとえば、出勤停止なり降格処分なりを考えるべきでしょう。もっともこれは、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。

あるいは、人事異動や人事考課で対処するというのが、より現実的でしょう。

 

<結論として>

現在の就業規則の減給処分が、労働基準法違反ではないか、従業員の不都合な言動に対する懲戒処分の規定が適正か、あらためてチェックしておく必要があるでしょう。甘すぎても、厳しすぎてもダメです。

それと、きちんとした人事考課の基準が無ければ、適正な対応ができないケースもあります。

総合的に内容をチェックするには、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

2016.09.25.