日本郵便事件3つの最高裁判決(令和2年10月15日)

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2020/10/17|4,293文字

 

<判例の効力>

判決の先例としての効力は、「判決理由中の判断であって結論を出すのに不可欠なもの」に生じます。

決して、結論部分に効力が生じるものではありません。

最高裁が、特定の判決の中で、「契約社員にも、夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当を支給しなければならない」と述べたとしても、すべての企業で、すべての契約社員に対して、そうしなければならないと判断されたわけではありません。

 

<事件の争点>

改正前の労働契約法第20条は、次のように定めていました。

 

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

改正前労働契約法第20条は、民事的効力のある規定です。

法の趣旨から、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件を比較したときに、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、バランスが取れていなければなりません。

「不合理と認められる」相違のある労働条件の定めは無効とされ、不法行為(故意・過失による権利侵害)として損害賠償請求の対象となり得ます。

3つの日本郵便事件は、内容的に重なり合うので、まとめて考えると、夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当の相違が、バランスを欠き不合理ではないかが争点となりました。

 

<最高裁の基本的な考え方>

有期労働契約を締結している労働者と、無期労働契約を締結している労働者との、個々の賃金項目の労働条件の相違が、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」であるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較するだけではなく、それぞれの賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。

また、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきである。

 

<「職務の内容」>

正社員は、管理職、総合職、地域基幹職及び一般職(以下「新一般職」という。)の各コースに区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。

時給制契約社員は、郵便局等での一般的業務に従事し、月給制契約社員は、高い知識・能力を発揮して郵便局等での一般的業務に従事する。

 

<「配置の変更の範囲」>

正社員には、原則として配置転換が予定されており、一部の正社員には、転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性がある。

本事件の契約社員は、職場と職務内容を限定して採用されており、正社員のような人事異動は行われず、郵便局を移る場合には、個別の同意に基づき、元の郵便局での雇用契約を終了させたうえで、新たに別の郵便局での勤務に関して雇用契約を締結し直している。

 

<「その他の事情」(人事評価)>

正社員の人事評価では、業務の実績に加え、部下の育成指導状況、組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研さん、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

これに対し、本事件の契約社員は、郵便外務事務または郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事し、これら各事務について幅広く従事することは想定されておらず、昇任や昇格は予定されていない。

時給制契約社員の人事評価では、上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか、担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる。

月給制契約社員の人事評価では、業務を適切に遂行していたかなどの観点によって業績が評価されるほか、上司の指示の理解、上司への伝達等の基本的事項や、他の期間雇用社員への助言等の観点により、月給制契約社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

本事件の契約社員の人事評価では、正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。

 

<「その他の事情」(正社員登用)>

本事件の契約社員に対しては、正社員に登用される制度が設けられており、人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について、適性試験や面接等により選考される。

 

<夏期冬期休暇手当の性質・目的と結論>

郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は、それぞれの正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。

そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきである。

正社員には夏期冬期休暇が与えられ、時給制契約社員には与えられないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<年末年始勤務手当の性質・目的と結論>

年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、年末年始に実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

年末年始は、郵便の業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている期間に、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。

こうした支給の趣旨は、本事件の契約社員にも妥当するものである。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、本事件の契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<有給の病気休暇の性質・目的と結論>

私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して、有給の病気休暇が与えられているのは、こうした正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

この目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与える趣旨は妥当する。

本事件の時給制契約社員には、契約期間が6か月以内とされており、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。

そうすると、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは不合理である。

したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与える一方で、時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<祝日給の性質・目的と結論>

祝日給は、正社員に祝日のほか年始期間の勤務に対しても支給されるものである。

年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本事件の契約社員にも妥当する。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で、本事件の契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<扶養手当の性質・目的と結論>

郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

この目的に照らせば、契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する。

そして、本事件の契約社員には、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本事件の契約社員に対して、扶養手当を支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<2日前の2つの判決との関係>

結論だけを見ると、令和2年10月13日の2つの最高裁判決と、令和2年10月15日の3つの最高裁判決とでは、食い違いがあるかのように思われかねません。

しかし、大阪医科大学の賞与は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給されているので、正社員限定で支給されていても、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められないとしています。

また、メトロコマースでの退職金は、正社員の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し支給されているので、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められないとしています。

これらの賞与や退職金は、それぞれの法人で、「正社員(正職員)としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る目的」で支給されているので、正社員限定でも「不合理」ではないと判断されています。

これに対して、日本郵便の夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当は、それぞれの性質や目的が正社員限定のものではなく、非正規社員にも妥当するものなのに、正社員に限定してしまうのは「不合理」だとしています。

結局、賞与、退職金、手当、休暇に共通して、その性質や目的が、非正規社員にも妥当するものか否かによって、「不合理」か否かが判断されているのであって、決して矛盾するものではないのです。

 

解決社労士