2024/09/30|1,696文字
<働き方改革の始まり>
当時の安倍晋三首相は平成28(2016)年9月、内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置し働き方改革の取り組みを提唱しました。
このタイミングで一億総活躍社会を目標に設定したのは、生産年齢人口(15~64歳)がハイペースで減少していたからです。この傾向は、今もなお続いています。
一億総活躍社会は「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」とされています。
日本の人口は減少傾向にあるのですが、それでも50年後に1億人以上を維持したうえで、ひとり一人が活躍できる、言い換えれば社会に貢献できるようにしようということです。
<働き方改革3つの課題>
働き方改革を実現するためには次の3つの課題があります。
・長時間労働
・非正規と正社員の格差
・労働人口不足(高齢者の就労促進)
企業-労働者間の労働契約の内容は本来自由ですが、弱者である労働者を保護するという要請から、労働基準法などにより企業に様々な制約が課され、労働契約に対して法的な介入がなされています。
働き方改革は、このような労働契約に対する介入ではなく、政府から企業に対する提言の形をとっています。
それは、企業に対して法的義務を課さなくても、企業が積極的に働き方改革を推進しなければ生き残れないので、義務付けるまでもないということなのでしょう。
とはいえ、働き方改革には政府が推進すべき内容と企業が取り組むべき内容が混在しています。
より広い視点から、企業が取り組むべき課題を整理すれば、次の3つに集約されると思います。
・労働条件の改善 ・労働環境の改善 ・労働生産性の向上
これらは、現在の労働市場の実態からすれば、わざわざ政府から言われなくても、企業は積極的に取り組むべき内容です。
<労働条件の改善>
給与や賞与が高額であり、労働時間が短くて十分な睡眠が確保でき、休暇も取れるとなれば、働きたい人が押し寄せます。
さらに、教育研修が充実していて人事考課制度が適正であれば、専業主婦やニートも働きたくなって当然です。
これによって、出生率も上がり人口減少にも歯止めがかかるでしょう。
新型コロナウイルスの影響で、期せずして一時的に労働時間の減少が生じました。
将来に対する不安も増大していましたから、安心して結婚・子育てを考えるどころか、安眠すらできない人々が増えてしまいました。
新型コロナウイルスの終息によって、労働時間の増加を伴わない回復が期待されましたが、小さな企業を中心に、人手不足と採用難を理由とした労働時間の増加が見られます。
<労働環境の改善>
温度、湿度、明るさ、換気、騒音、スペースの広さ、機械化の充実など物理的な環境も大事ですが、パワハラやセクハラがなくて部下から見てもコミュニケーションが十分と思えるような環境であれば、人が集まって当然でしょう。
採用難の時代でも、労働条件と労働環境が良い職場には、就職希望者が途絶えることはないのです。
新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務を中心とするテレワーク導入は進行しました。
必ずしも、自宅の労働環境が良いとは限りませんが、生活とのバランスは取りやすくなっていました。
今後も、労働者にとっては通勤の負担がなく、会社にとっては固定費の負担が少ないテレワークの活用が望まれます。
<労働生産性の向上>
労働条件や労働環境の改善は、企業にそれなりの余裕がなければできません。
そのためには、労働生産性を向上させ、企業の収益力を高めなければなりません。
しかし、労働生産性を高めるには、労働条件や労働環境を改善して、良い人材を確保し育てなければなりません。
このように、労働条件や労働環境の改善と労働生産性の向上は、鶏と卵の関係にあるのです。
<実務の視点から>
以上のことから、働き方改革が企業の生き残りのために必須であること、できるところから少しずつではなく、総合的に同時進行で行うべきことが明らかになったと思います。
これに躊躇する経営者の方々は、事業の見直しを迫られていますし、改善の進まない企業で働き続ける方々も大きなリスクを抱えていることになります。