成長しないことを理由にパート社員を雇止めしても大丈夫か

2021/10/01|1,461文字

 

雇止めの有効性

 

<成長しないパート社員>

複数のパート社員を雇用していると、自ずからその働きぶりに違いが出てきます。

パート社員にも人事考課制度があって、評価により昇給が異なる職場では、収入にも差が出てきます。

さらに、フルタイムや正社員への登用制度があれば、その差は歴然としてきます。

成長が遅く、後輩に追い抜かれているパート社員については、雇い続けることへの疑問が生じ、「契約の更新をやめて、別の人を新たに採用したほうが良いのではないか」と考えるようになるかもしれません。

 

<雇止めの有効要件>

契約を更新しないで雇止めするのは、解雇の一種ですから、解雇予告期間を置いたり解雇予告手当を支払ったりの必要があります。〔労働基準法第20条〕

また、一定の場合に「使用者が(労働者からの契約延長の)申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」という抽象的な規定があります。〔労働契約法第19条〕

成長しないことを理由に雇止めをするには、この条文の中の「客観的に合理的な理由」というのが特に問題となります。

なぜなら、成長しないことを理由に時給を据え置くことは客観的に合理的でありうるのですが、時給を下げること、ましてや雇止めをすることは、合理的な理由があるとは言い難いからです。

 

<契約更新の条件が示されている場合>

労働条件通知書には、契約更新の有無、更新する/しない場合の条件を明示することになっています。

たとえば、職能ランクや職務ランクが設定されていて、半年以内に一定のランクに到達することが契約更新の条件となっていて、成長に必要な研修や指導も行われているとします。

これにもかかわらず、本人の意欲不足など個人的な事情で一定のランクに到達しなかった場合には、雇止めも「合理的な理由」があることになります。

これは、採用時にこうしたことを具体的に説明しておけば、労働契約の内容となっているものと考えられます。

 

<最低賃金との関係で>

たとえば東京都では、2011年10月の最低賃金は837円でした。

これが、2021年10月からは1,041円になっています。

実に24%の上昇です。

2年前に、成長を期待して時給1,000円で採用したパート社員について、全く成長が見られず、周囲の負担となっていて、これからの成長が期待できないとしても、雇っているからには1,041円以上の時給でなければ違法になるわけです。

会社としては、こうした事態を避けたいわけですから、契約更新の条件を設定する場合、「最低賃金を下回るような職能ランク・職務ランクに該当する場合には契約を更新しない」という内容も加えておくべきでしょう。

 

<解決社労士の視点から>

「成長しないこと」を理由に雇止めを検討する場合には、自己責任が前提となっています。

つまり、家庭に解消し難いトラブルが続いていて業務に集中できない、休日に体力を消耗するボランティア活動を長時間行っていて勤務中にスタミナ切れになる、そもそも自分の業務に関心が持てないなど、本人に責任のあることで「成長しないこと」が前提となっています。

しかし、パワハラやセクハラ、指導不足などがあって、「成長しないこと」の責任が会社側にもある場合には、安易に雇止めができません。

やはり、契約更新などの機会をとらえた定期面談や聞取り調査の結果から、「成長しないこと」の原因を探っておくことが必要になってきます。

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