2022年 8月

2022/08/31|1,148文字

 

<雇用保険の加入者(被保険者)>

次の要件を満たせば、会社や労働者の意思にかかわらず、雇用保険に入り被保険者となるのが原則です。

・1週間の所定労働時間が20 時間以上であること

・31日以上引き続き雇用されることが見込まれること

パート、アルバイト、契約社員、派遣社員などの雇用形態とは関係なく同じ基準です。

これらの条件は、会社から労働者に交付が義務づけられている雇用契約書、雇い入れ通知書、労働条件通知書といった書面で確認できます。

 

<雇用保険の失業手当(基本手当)>

雇用保険の基本手当とは、雇用保険の被保険者が、倒産、定年、自己都合などにより離職(退職)し、失業中の生活を心配しないで新しい仕事を探し、再就職するために支給されるものです。

一定の要件を満たせば、給料の5割~8割程度の手当が支給されます。

また、支給される期間は、被保険者期間、年齢、離職理由、障害の有無などにより異なり、90日~360日となっています。

 

<受給に必要な要件>

そして、雇用保険の被保険者が基本手当を受給するには、次の要件を満たす必要があります。

・ハローワークに行って求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても就職できない「失業」の状態にあること。

・離職前の2年間に、11日以上働いた月が12か月以上あること。ただし、会社側の理由により離職した場合、会社側の都合またはやむを得ない理由で契約の更新がされなかった場合は、離職前1年間に11日以上働いた月が6か月以上あること。

 

<受給に必要な手続き>

失業給付の手続きは、勤めていた会社がすべてを行うものではなく、本人との共同作業となります。

会社は所轄のハローワークで、離職者の雇用保険の資格喪失手続きをします。

このとき離職証明書をハローワークに提出するのですが、これは3枚1セットで、1枚目が離職証明書(事業主控)、2枚目が離職証明書(安定所提出用)、3枚目が離職票-2となっています。

手続きをすると、ハローワークから会社に1枚目と3枚目が渡され、これとは別に離職票-1などが渡されます。

会社から離職者に離職票-1と-2を渡すのです。

離職者は、会社から渡された雇用保険被保険者証、離職票-1、-2などの必要書類を持って、本人の住所を管轄しているハローワークに行きます。

 

<加入もれの場合>

要件を満たしているのに、会社が雇用保険に加入させておらず、被保険者になっていなかったといったトラブルがしばしば起こっています。

このような場合、被保険者の要件を満たしている証拠があれば、遡って雇用保険が適用される制度があります。

具体的なことは、管轄のハローワークや社会保険労務士に相談してください。

 

2022/08/30|866文字

 

<国民年金について>

日本国内に住んでいる20歳から60歳になるまでの人は、国籍にかかわりなく国民年金の対象者になっています。

国民年金は、老後の生活だけでなく、障害者になった場合の生活や、本人が死亡した後に残された家族の生活を保障するために、一定の生活費が支給される公的な制度です。

国民年金の保険料を納めていないと、自分の身にもしものことが起こっても、年金が支給されなかったり減額されたりします。

経済的な事情などで保険料を払えないときは、保険料の免除や減額、延納の制度もあります。

この手続きをしておけば、払っていない期間があっても、年金の減額などの不利益が小さくなります。

住んでいる場所の市区役所・町村役場の国民年金担当窓口で申請をしてください。

 

<厚生年金について>

勤め人の場合、国民年金の上乗せ部分としてプラスアルファの保障を受けることができる厚生年金の制度があります。

厚生年金は、原則として1日または1週間の所定労働時間、および1か月の所定労働日数が正社員のおおむね4分の3以上であれば、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などの雇用形態にかかわらず加入することになります。

ただし、一定規模以上の企業では、週所定労働時間が20時間以上など、加入者の範囲は広くなっています。

会社や労働者の意思は関係ありません。

厚生年金に一定期間加入していると、国民年金だけの場合よりも有利な年金を受け取ることができます。

しかも、厚生年金の保険料は、給料(標準報酬月額と標準賞与額)の約18%を会社と労働者で半分ずつ負担します。

この保険料には、国民年金の保険料も含まれています。

 

<保険料負担額>

令和4(2022)年度の国民年金保険料は、月額16,590円です。

厚生年金保険料は、標準となる月給が165,000円以上175,000円未満なら、月額15,555円です(働いている人の負担額)。

ですから、月給が約17万円で賞与などが無ければ、働いている人の負担は国民年金よりも厚生年金のほうが少なくて、万一の場合の保障も手厚いということがいえます。

 

2022/08/29|1,156文字

 

<特別障害給付金制度の概要>

国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給していない障害者について、福祉的措置として「特別障害給付金制度」が設けられています。

 

<支給対象者>

支給の対象となるのは、次のうちのどちらかです。

 

1.平成3(1991)年3月以前に国民年金任意加入対象であった学生

 大学(大学院)、短大、高等学校、高等専門学校の昼間部に在学していた学生です。

 昭和61(1986)年4月から平成3(1991)年3月までに限っては、専修学校、一部の各種学校が含まれます。ただし、定時制、夜間部、通信を除きます。

 

2.昭和61(1986)年3月以前に国民年金任意加入対象であった「勤め人(被用者等)の配偶者」であって、当時、任意加入していなかった期間内に初診日があり、現在、障害基礎年金の1級、2級相当の障害の状態にある人

 ただし、65歳に達する日の前日までにその障害状態に該当した人に限られます。

 

「勤め人(被用者等)の配偶者」とは以下の場合です。

 (1) 被用者年金制度(厚生年金保険、共済組合等)の加入者の配偶者

 (2) 上記(1)の老齢給付受給権者及び受給資格期間満了者(通算老齢・通算退職年金を除く)の配偶者

 (3) 上記(1)の障害年金受給者の配偶者

 (4) 国会議員の配偶者

 (5) 地方議会議員の配偶者(昭和37(1962)年12月以降に限る)

 

なお、障害基礎年金や障害厚生年金、障害共済年金などを受給することができる人は対象になりません。

また、給付金を受けるためには、厚生労働大臣の認定が必要になります。

 

<支給額>

障害基礎年金1級相当に該当:令和4年度基本月額52,300円(2級の1.25倍)

障害基礎年金2級相当に該当:令和4年度基本月額41,840円

特別障害給付金の月額は、前年の消費者物価指数の上昇下降に合わせて毎年度自動的に見直されます。

また、ご本人の所得が一定の額以上であるときは、支給額の全額又は半額が停止される場合があります。

老齢年金、遺族年金、労災補償等を受給している場合には、その受給額分を差し引いた額が支給されます。

老齢年金等の額が特別障害給付金の額を上回る場合は、特別障害給付金は支給されません。

 

<請求手続の窓口等>

原則として、65歳に達する日の前日までに請求する必要があります。

請求の窓口は、住所地の市区役所・町村役場です。

特別障害給付金の審査・認定・支給についての事務は日本年金機構が行います。

必要な書類等をそろえた場合でも、審査の結果、支給の要件に該当しないとき、あるいは支給の要件の確認ができない場合は不支給となります。

なお、給付金の支給を受けた場合には、申請により国民年金保険料の免除を受けることができます。申請は毎年度必要となります。

 

2022/08/28|647文字

 

<原則の法定労働時間>

使用者は労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはなりません。〔労働基準法第32条第1項〕

もちろん、三六協定を交わし所轄の労働基準監督署長に届け出れば、協定の範囲内での時間外労働は処罰の対象となりません。

ただし、法定労働時間を超える労働に対しては、時間外割増賃金の支払が必要です。

ここで1週間というのは、就業規則などで取り決めがなければ、カレンダーどおり日曜日から土曜日までの7日間をいいます。

 

<労働基準法施行規則による特例>

公衆の不便を避けるために必要なもの、その他特殊な必要があるものについては、その必要かつ労働者の健康・福祉を害しない範囲で、厚生労働省令による例外を設けることができることとされています。〔労働基準法施行規則第25条の2第1項〕

こうして例外とされた特例措置対象事業場の法定労働時間は、平成13(2001)年4月1日から、1日8時間、1週44時間に改正されました。

これが、時間外割増賃金の基準となります。

 

次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場が対象です。

 商業 卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
 映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興業の事業
 保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
 接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

ここで事業場の規模(人数)は、企業全体の規模をいうのではなく、工場、支店、営業所等の個々の事業場の規模をいいます。

 

2022/08/27|732文字

 

<国民年金の加入期間>

国民年金の加入期間は、原則として20歳から60歳になるまでの40年間です。

40年間、国民年金の保険料を納付していれば、65歳から満額の老齢基礎年金を受給できます。

また、老齢基礎年金の受給資格期間である10年間以上、国民年金の保険料を納付していれば、納付期間に応じて老齢基礎年金を受給することができます。

平成29(2017)年8月1日に年金機能強化法が改正され、年金受給資格期間が25年から10年に短縮されました。

受給資格期間というのは、原則65歳から老齢基礎年金を受給するための条件となる期間で、次の3つの期間の合計です。

1.厚生年金保険や国民年金の保険料を納付した期間

2.国民年金の保険料の納付を免除された期間

3.合算対象期間(カラ期間)

 

<任意加入とは>

60歳になるまでに老齢基礎年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない場合や、40年間の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない場合であって、厚生年金・共済組合に加入していないときは、60歳以降(申出された月以降)でも国民年金に加入することができます。

ただし、さかのぼって加入することはできません。

これは、義務として加入するのではなく、希望すれば加入できるということで「任意加入」といいます。

 

<任意加入の期間>

・年金額を増やしたい人は65歳になるまでの間

・受給資格期間を満たしていない人は70歳になるまでの間

・外国に居住する日本人は20歳以上65歳未満の間

なお、平成20(2008)年4月1日から、外国に居住する日本人を除き、保険料の納付方法は口座振替が原則となりました。

日本国内に住んでいる人が、任意加入の申し込みをするための窓口は、お住まいの市区役所・町村役場です。

 

2022/08/26|1,007文字

 

<50%以上の割増賃金>

月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

これは、労働者が健康を保持しながら、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう、平成22(2010)年4月1日に労働基準法が改正され、1か月に60時間を超える法定時間外労働について、法定割増賃金率が5割以上に引き上げられたものです。

なお、深夜(22:00~5:00)の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、 深夜割増賃金率25%以上 + 時間外割増賃金率50%以上 = 75%以上となります。

1か月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。

 

【法定休日】

使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければなりません。

これを「法定休日」といいます。

法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

 

なお、労働条件を明示する観点や割増賃金の計算を簡便にする観点から、法定休日とそれ以外の休日を明確に分けておくことが望ましいものです。

 

<代替休暇>

1か月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。

代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。

 

【労使協定で定める事項】

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法

②代替休暇の単位(1日、半日、1日または半日)

③代替休暇を与えることができる期間(法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内)

④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 

この労使協定は、各事業場で代替休暇の制度を設けることを可能にするものであって、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではありません。

個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の希望により決定されます。

 

なお、中小企業については、令和5(2023)年4月まで、60時間を超える法定時間外労働に対する50%以上の率で計算した割増賃金の支払いが猶予されていますから、代替休暇制度の導入もこれ以降となります。

 

2022/08/25|855文字

 

<辞める権利や自由はないのか>

正当な理由によって、労働契約の期間途中で辞めたり、期間満了時に辞めたりしたことで、会社の業務に何らかの支障が生じたとしても、突き詰めれば、それは会社側の人事管理に原因があるのですから、労働者に法的な責任は生じません。

ただし、期間を定めて働いている契約の途中で、自分側の都合で一方的に辞めると、損害賠償責任が発生することはあります。

その場合の賠償額は、残りの期間働かなかったことによって、実際に会社が失った利益にとどまります。

退職した後のことまで、責任を負うことはありません。

会社が決めた賠償額を支払う必要はありません。

予め賠償額を決めておくことは労働基準法違反ですし、あくまでも実際に会社が失った利益が賠償額の基準となります。

また、期間を定めずに働いていたときは、就業規則などに規定された予告期間さえ守れば、理由は何であれ、辞めることによって法的な責任が生じることはありません。

 

<強制労働の禁止>

暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって就労を強制することは禁止されています。〔労働基準法第5条〕

この違反には、10年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い罰則が設けられています。〔労働基準法第117条〕

退職を思いとどまらせるための説得が禁止されているわけではありませんが、繰り返し長時間にわたって取り囲んだり、拒否しているのに繰り返し家に押しかけたりするなど、社会的相当性を超える威圧的な方法・手段で行えば違法な監禁や強要となります。〔刑法第220条、第223条〕

また、会社が辞めたいという労働者に、損害賠償請求や告訴することを告げることは、労働者に実際にそのような責任を発生させる事情があったのならば別ですが、具体的な事実や根拠もなく行ったときは、違法な恐喝や脅迫となります。〔刑法第222条、第249条〕

不当な脅しには毅然とした対応が必要ですが、こうしたことは犯罪ですから、もし身の危険を感じるようならば、最寄りの警察署に相談しましょう。

 

2022/08/24|1,549文字

 

<普通解雇>

狭義の普通解雇は、労働者の労働契約違反を理由とする労働契約の解除です。

労働契約違反としては、能力の不足により労働者が労働契約で予定した業務をこなせない場合、労働者が労働契約で約束した日時に勤務しない場合、労働者が業務上必要な指示に従わない場合、会社側に責任の無い理由で労働者が勤務できない場合などがあります。

 

<解雇の制限>

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16条〕

普通解雇であれ、懲戒解雇であれ、すべての解雇は、この制限を受けることになります。

 

<懲戒処分の制限>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第15条〕

労働契約法の第15条と第16条は、重複している部分があるものの、第15条の方により多くの条件が示されています。

懲戒処分は、この多くの制限を受けることになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒解雇というのは「懲戒かつ解雇」ですから、懲戒の有効要件と解雇の有効要件の両方を満たす必要があります。

普通解雇は、解雇の有効要件だけを満たせば良いのですから、懲戒解雇よりも条件が緩いことは明らかです。

 

<懲戒解雇と普通解雇の有効要件の違い>

そして、条文上は不明確な両者の有効要件の大きな違いは次の点にあります。

まず懲戒解雇は、社員の行った不都合な言動について就業規則などに具体的な規定が無ければできません。

しかし普通解雇ならば、そのような規定が無くても、あるいは就業規則が無い会社でも可能です。

また懲戒解雇の場合には、懲戒解雇を通告した後で他にもいろいろと不都合な言動があったことが発覚した場合でも、後から判明した事実は懲戒解雇の正当性を裏付ける理由にはできません。

しかし普通解雇ならば、すべての事実を根拠に解雇の正当性を主張できるのです。

ですから懲戒解雇と普通解雇とで、会社にとっての影響に違いが無いのであれば、普通解雇を考えていただくことをお勧めします。

特に、両者で退職金の支給額に差が無い会社では、あえて懲戒解雇を選択する理由は乏しいといえます。

 

<予備的普通解雇>

民事訴訟では、Aという請求をしつつ、これが認められないのならBという請求をするという「予備的請求」というものが認められます。

また、Aという請求をしたところ、Aの条件は満たしていないが、Bという請求としては効力が認められるという、無効行為の転換ということが行われます。

おそらく2000年以降ですが、懲戒解雇を通告し、予備的に普通解雇を通告しておいた会社に対し、懲戒解雇は無効だが普通解雇としては有効だという判決が見られるようになりました。

会社としては、心情的には懲戒解雇の通告をしたいところ、普通解雇の方が確実に条件を満たし有効性が認められやすいことに配慮し、次のような「懲戒解雇と予備的普通解雇を同時に通告する」方法をとることが可能です。

 

就業規則〇〇条に基づき、貴殿を〇月〇日付で懲戒解雇とします。

併せて、就業規則〇〇条に基づき、予備的に貴殿を〇月〇日付で普通解雇とします。

 

この場合、会社としては暫定的に懲戒解雇として手続を進めておき、万一労働者から訴えられた場合には、懲戒解雇がダメでも普通解雇は有効となるようにしておくということです。

法改正があったわけではないのですが、こうした裁判の動向からも、企業の選択肢が増えることもあるのです。

 

2022/08/23|1,345文字

 

<不当解雇の一般的な基準>

労働契約法には、解雇が無効となる一般的な基準が次のように示されています。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」〔労働契約法第16条〕

この条文自体は、表現が簡潔で抽象的なため、これだけを読むと解釈の幅が広いものとなります。

しかし、労働契約法は判例法理をまとめたものです。

ですから、実務的には、数多くの判例や裁判例を参照して、具体的な事例に当てはめて、解雇権の濫用となるのか、不当解雇となるのかを判断することになります。

それでも、使用者側が「不当解雇ではない」ことを証明するのは、困難であることが多いのが実態です。

 

<裁判所の判断基準>

裁判所は基本的に、解雇は従業員を会社の外に放り出す最終手段であると捉えています。

ですから、注意指導、教育研修、配置転換など解雇以外の方法によって、問題を解決できる可能性があるにもかかわらず、これらを試みずに解雇に踏み切るのは解雇権の濫用であり不当解雇になると判断しています。

 

<注意指導>

注意指導は、抽象的なものでは足りません。

「ちゃんとしてください」「気をつけましょう」という抽象的な言葉の投げかけだけでは、相手の人格を傷つけ萎縮させるだけですから、場合によってはパワハラになることすらあります。

その人の言動のどこにどんな不足や問題があって、業務の正常な遂行を妨げているのかを具体的に説明する必要があります。

そのうえで、どのように変えれば問題なく業務を遂行できるのか、能力に応じた丁寧な指導でなければ役に立ちません。

これは実質面ですが、将来トラブルとなりうることを踏まえ、記録を残すという形式面も大事です。

いつ、どこで、誰が誰に、何をどのように指導したのか、また、本人の態度や改善内容について、指導者と対象者との双方が確認したことが分かる記録を残します。

 

<教育研修>

教育研修は、新人に対する集合研修だけでは足りません。

各従業員の個性に応じたOff-JTも必要です。

これについても、注意指導と同様に記録を残します。

 

<配置転換>

注意指導や教育研修によっても、当初予定した業務をこなせないのであれば、配置転換を検討する場合もあります。

ただし、たとえば小規模な会社で、経営者の配偶者が事務仕事を一手にこなしていて、従業員は画一的に現場の仕事を行っているような場合には、配置転換のしようがありません。

こうした場合には、配置転換を検討しないことをもって、不当解雇の理由とされることはありません。

これに対して、一定以上の規模の企業で、多くの部門・部署があり、多種多様な担当業務が存在する場合には、配置転換の検討が必須となってきます。

 

<解雇の種類>

業務上、ミスを連発しても、それは能力不足に起因するものであって、懲戒により注意を促して改善を求めるのは意味がありません。

ほとんどの場合、普通解雇としては有効であっても、懲戒解雇とすることは懲戒権と解雇権の濫用となり、無効となってしまいます。

ですから、能力不足の従業員に注意指導、教育研修、配置転換の検討と、手を尽くしても改善できなければ、懲戒解雇ではなく、普通解雇の対象とすることを検討しなければなりません。

 

2022/08/22|811文字

 

<会社が保険料を納めないケース>

厚生年金保険の加入(資格取得)基準を満たしている従業員について、加入手続きを行わなければ、会社は従業員(被保険者)分と会社分の両方について、保険料を不正に免れることになります。

この場合、年金事務所や会計検査院の調査が入れば、不正が発覚し会社が是正を求められます。

また今後、マイナンバーの社会保険への導入が進めば、手間のかかる調査をしなくても手軽に不正をあばけるようになります。

そうでなくても、加入基準を満たす従業員が、年金事務所に労働時間や労働日数などの資料を持参して相談すれば、勤務先の会社に調査が入ります。

 

<金額をごまかすケース>

従業員の給与から控除する保険料は正しい金額でも、その一部を会社が着服して、残りを納付するということがあります。

たとえば、従業員の月給が30万円で、これに応じた保険料を給与から控除しておきながら、日本年金機構に月給20万円で届を出しておけば、月給20万円を基準に計算した保険料の納付で済みます。

この場合、年金事務所や会計検査院の調査が入れば、不正が発覚して会社が是正を求められます。

また日本年金機構から、節目の年齢に厚生年金保険の加入者(被保険者)に、年金加入記録を確認してもらうため「ねんきん定期便」が郵送されています。

これを見れば、保険料の基準となっている給与や賞与が正しいか確認できます。

驚くことに、上場企業でも海外勤務者の保険料をごまかしていることがあります。

 

<もしもごまかされていたら>

労働時間、労働日数、給与、賞与、保険料として天引きされている金額などの資料をきちんと保管しましょう。

退職直後に、厚生労働省や総務省に調査してもらいましょう。

在職中に調査が入ると、会社から退職に追い込まれるリスクもあります。

また、会社の手続きに社会保険労務士が関与しているようでしたら、都道府県の社会保険労務士会にもご相談ください。

こちらも退職後がお勧めです。

 

2022/08/21|1,097文字

 

<就業規則の規定>

精勤手当について、モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、次のように規定しています。

 

(精勤手当)第37条  精勤手当は、当該賃金計算期間における出勤成績により、次のとおり支給する。

① 無欠勤の場合       月額      円 

② 欠勤1日以内の場合    月額      

2 前項の精勤手当の計算においては、次のいずれかに該当するときは出勤したものとみなす。

① 年次有給休暇を取得したとき

② 業務上の負傷又は疾病により療養のため休業したとき

3 第1項の精勤手当の計算に当たっては、遅刻又は早退  回をもって、欠勤1日とみなす。

 

第2項で、年次有給休暇を取得した場合や、業務上の負傷疾病による休業の場合には、欠勤扱いにしないという配慮がなされています。〔労働基準法第136条などによる〕

 

<精勤手当の廃止>

工場などで急な欠勤があると、製造の流れに大きな支障をきたす場合があり、業務の連携上、無欠勤でなければ困るという事情があります。

このため、精勤手当(皆勤手当)が残っています。

しかし、「労働契約通りに勤務するのは当たり前」なので、「当たり前のことに手当を支給するのはおかしい」ということから、多くの企業で精勤手当が廃止されてきています。

もちろん、いきなり廃止では不利益変更の問題がありますから、基本給に組み入れたり、調整給として支払い、段階的に減額していったりなどの措置が取られています。

 

<欠勤控除を超えるペナルティー>

欠勤した割合に応じて給与を減額することは適法です。

これは通常の欠勤控除です。

しかし、欠勤控除を超えて給与を減額する場合には懲戒となりますから、労働基準法の制限を受けます。

 

【労働基準法による制裁規定の制限】

第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 

たとえ欠勤した場合に想定されるダメージが、この制限を超えて発生する職場であっても、ダメージに対応した減給はできません。

 

<精勤手当があれば>

精勤手当が、平均賃金の1日分の半額を超えても構いませんし、毎月の支給額の1割を超えても構いません。

精勤手当が高めに設定されていても良いのです。

そして、欠勤すると精勤手当が減額され、あるいは支給されなくなるので、社員が欠勤しないよう生活をただし、態勢を整えて勤務に就くように心がけるというのは、全く正常なことです。

こうしてみると、精勤手当を残しておくことにも、十分な合理性があるといえます。

 

2022/08/20|781文字

 

<本来の申請期限>

雇用継続給付の支給申請期限は「ハローワークの通知する支給単位期間の初日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日」とされています。〔雇用保険法施行規則〕

かつては、この期限を過ぎてしまってからハローワークの窓口に書類を提出しても、受け付けてもらえませんでした。

これは、迅速な給付を行い受給者を保護する趣旨とされていましたが、実際の手続きは会社と受給者の共同作業となることが多く、どちらかがウッカリすると提出期限を過ぎてしまい、受給できなくなるという不都合がありました。

 

<施行規則改正後>

平成27(2015)年4月に、この施行規則が改正され、期限を過ぎた場合でも2年間の消滅時効期間が経過するまでは、申請できるようになりました。

また、社会保険や労働保険の手続きでは、本来の期限を過ぎて手続きをする場合には、手続きが遅れた理由を示す「遅延理由書」という書類の添付が求められることも多いのですが、消滅時効完成前の手続きには「遅延理由書」が不要とされるのが一般です。

 

<施行規則改正の影響範囲>

雇用保険の給付金は、2年間の消滅時効期間内であれば、支給申請が可能とされましたが、この扱いは多くの給付にあてはまります。

具体的には、雇用保険の各給付のうち、就業手当、再就職手当、就業促進定着手当、常用就職支度手当、移転費、広域求職活動費、一般教育訓練に係る教育訓練給付金、専門実践教育訓練に係る教育訓練給付金、教育訓練支援給付金、高年齢雇用継続基本給付金、高年齢再就職給付金、育児休業給付金、介護休業給付金などです。

 

<心がけたいこと>

本来の期限を過ぎても、あきらめずに申請の可能性を確認することをお勧めします。

ただ、「2年以内なら大丈夫」と考えるのではなく、同じ金額なら1日でも早く給付を受けられたほうが嬉しいのですから、手続きは速やかに行いましょう。

 

2022/08/19|896文字

 

<よくある計算方法>

就業規則のひな形によくあるパターンですが、中小企業では、退職時の基本給に勤続年数に応じた係数をかけて、退職金の金額を算出することが多いようです。

これだと若いころ、あるいは働き盛りのころの基本給は関係なく、退職間際になってから頭角をあらわし大きく昇給した人が有利です。

反対に、若いころに大変な努力をして出世し、基本給も役員並みになったあと、働きすぎて体を壊し基本給が大幅にダウンして退職していった社員は、報われないということになってしまいます。

 

<退職功労金>

退職金については、基本給 × 係数 で一律に支給し、これとは別に、個人の会社に対する功績の度合いに応じた退職功労金を支給するというのが、もっとも単純なやり方でしょう。

ただし、これだと金額を客観的に決めるのは難しいでしょうし、その時々の会社のふところ具合に大きく左右されそうです。

 

<ポイント制>

たとえば、毎年4月に支給する基本給1か月分の累計を、退職金の金額にすることも考えられます。

しかし、物価の変動が大きいと不公平になる可能性もあります。

特に現在のように物価の上昇が大きい場合には、過去の基本給の累計の経済的な価値が目減りしていることになります。

そこで、担当者は1ポイント、係長は2ポイント、課長は3ポイント、部長は5ポイントなどと、1か月間在籍すると累計されるポイントを決めておき、物価の変動を踏まえて、1ポイントいくらにするという方式もあります。

 

<退職金の性格>

退職金の性格として、退職後の生活保障的性格、賃金後払い的性格、功労報償的性格があげられます。

このうち、退職後の生活保障は在籍中に給与・賞与に応じた厚生年金保険料を支払っていて、老後の年金額に反映されると考えれば、重視しなくてもよいでしょう。

また、賃金後払い的性格については、終身雇用制の崩れた現在では、退職までプールしておかないでタイムリーに給与・賞与に反映してほしいという社員の本音があります。

こう考えると、退職金のメインの性格は、功労報償的性格でしょうから、退職金を会社に対する功績の度合いで決めるというのは、合理的であると考えられます。

 

2022/08/18|1,602文字

 

<ブラック社員>

ブラック社員は、自分/自分たちのやりたいようにしたいのです。

他人からの干渉を徹底的に嫌います。

キャッチフレーズは「ほっといてくれ!」です。

かといって、自主的に仕事をこなすわけてもなく、改善提案をするわけでもなく、仕事に対して消極的で無気力です。

上司からの命令に返事はするのですが、期限を過ぎても完了報告がないということで、上司が確認すると、なんと命令を忘れていたりします。

これは、他人からの指図は受けたくないという自己中心的な態度のあらわれです。

また、ブラック企業と同じく、正しくはどうなのか、どうあるべきなのかということに関心がありません。

職業倫理が欠けているのです。

結局、ブラック社員は会社の業績に貢献しませんし、その態度を見た他の社員に不快感と不満をもたらします。

ときには、無気力が他の社員に伝染してしまいます。

 

<評価を気にしないブラック社員>

ブラック社員は、自分がきちんと仕事をしていないことを自覚していますから、人事考課で低く評価されても当然のことと考えます。

高い評価を得て出世しようとか、少しでも多額の賞与をもらおうなどとは考えません。

ただ、現在の多くの企業の実態として、昇格して管理職になったとしても責任が重くなる割に年収が伸びないことがありますので、若者が上を目指さない、向上を望んでいない傾向があります。

出世を望まないからといって、ブラック社員とは限りません。

 

<ブラック社員への教育>

ブラック社員は、仕事ができないわけではありません。

しかし、やる気がないのです。

モチベーションアップのための教育をしても、本人も認めていますが無駄なことです。

 

<ブラック社員が会社に求めるもの>

最低限の給与をもらい、クビにならなければ良いのです。

そして、クビになるなら会社都合で解雇され、解雇予告手当をもらい、雇用保険でより早くより長く給付を受けられればラッキーなのです。

時には、不当解雇を主張し、会社に慰謝料を含め損害賠償を請求してくることがあります。

 

<なぜ会社はクビにしないのか>

縁故採用や他の社員の紹介による採用で、解雇しにくいというケースもあります。

また、ブラック社員は自分を守るための努力はしますから、労働法に詳しい人が多いのです。

会社の実態や就業規則の中に、労働法違反を見つけるのも得意です。

会社から解雇をほのめかすと、ブラック社員は労働基準監督署へ法令違反を相談するとか、一人でも労働組合に入れるとか、脅しのようなことを言い出します。

ですから、会社としてはうっかり解雇にはできません。

会社が特別な退職金を出して辞めてもらうこともあります。

 

<ブラック応募者を採用しないためには>

このように、一度ブラック社員が会社に入って来てしまうと、有効な対策を打つことは困難です。

やはり、会社に入って来ないようにすることが大事です。

ブラック応募者は、大きな会社での勤務経験があり「この部署はこういう役割を果たしていました」と説明することがあります。

こんな時「その中であなたは具体的にどのような職務をこなしていましたか?」と尋ねても、抽象的な答えしか返ってきません。

他にも「仕事の上で何かリーダーとして活動したことはありますか?」「あなたの改善提案で業績が向上したり生産性が上がった具体例を教えてください」などの質問には答えられません。

退職理由を尋ねると「退職を勧められた」「退職を迫られた」という回答になります。

それでも避けられないのは、縁故採用でしょう。

どんなにサボってもそれなりの給料がもらえるとわかっていたら、下手に努力するよりもおとなしくしていた方が利口ですから。

まさに、ブラック社員の温床です。

 

<別の角度からの対処法>

会社に労働法上の問題が無ければ良いのです。

遵法経営の会社にブラック社員が入っても、会社はこれに正面から対応できます。

これが、ブラック社員対策の王道です。

 

2022/08/17|1,257文字

 

<生理休暇の権利>

​生理休暇は女性労働者の権利です。

労働基準法に「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」という規定があります。〔労働基準法第68条〕

これに違反した使用者に対しては、30万円以下の罰金という規定もあります。〔労働基準法第120条第1号〕

 

<権利濫用の禁止>

しかし、権利である以上、濫用は許されません。

国民は、基本的人権を濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うものとされています。〔日本国憲法第12条〕

これを受けて、労働契約法も「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」としています。〔労働契約法第3条第5項〕

憲法12条にある「公共の福祉」という言葉は分かりにくいですが、自分の権利と他人の権利との調整をいいます。

自分の権利を主張するあまり、他人の権利を侵害するようなことがあってはならないということです。

労働基準法の生理休暇の規定にも「著しく困難」ということばがあり、これが「公共の福祉」の原理を示しています。

つまり、生理中なら休めるのではなくて、生理が重くてとても仕事どころではない場合に休めるということです。

このように運用しなければ、会社の業務に支障を来たし、他の従業員に迷惑がかかる恐れがあるからです。

 

<生理休暇の実態>

特定の女性社員だけが、生理休暇を多くとるという現象があります。

体質により、あるいは婦人科の病気を抱えていて、生理が特につらいということもあるでしょう。

しかし、「たとえ業務に支障が出たとしても、当然の権利だから別に遠慮は要らない」という態度だと、男性からも女性からも不満が出てきます。

 

<生理休暇の制限>

生理休暇は半日でも、時間単位でもとれますが、使用者の側からこれを強制することはできません。

また使用者は、医師の診断書など特別な証明を求めることができません。

ただ、生理休暇を有給にするか無給にするかは、労使の協議に任されていますので、就業規則で無給と規定することは可能です。

もっとも、就業規則で有給とされていた規定を無給に変更することは、不利益変更になりますから安易に行うことはできません。

さらに、生理休暇を申し出た人がスキーに行っていたことが判明したようなケースでは、ウソの報告があるわけですから、懲戒処分の対象ともなりえます。

 

<会社の対応>

生理休暇を取ったことを理由に、人事考課の評価を下げ、昇格、昇給、賞与支給で不利な扱いをすることはできません。

しかし目標管理制度で、結果的に目標達成率が低かった場合には、低い評価を与えても問題はありません。

その他の人事考課基準でも、生理休暇の回数とは関係なく、会社への貢献度や個人の業績が客観的に劣っていたのなら、評価が下がるのは評価制度の正しい運用だといえます。

生理休暇の濫用を問題視するのではなく、適正な評価制度の正しい運用こそが望ましい解決策だといえるでしょう。

 

2022/08/16|855文字

 

<法律の規定>

労災保険の適用される労働災害には、業務災害と通勤災害があります。

このうち、通勤災害は通勤途上の災害です。

通勤には典型的なものとして「住居と就業の場所との間の往復」があります。〔労働者災害補償保険法第7条第2項第1号〕

 

<出勤のスタート地点>

出勤のスタート地点は住居ですが、一軒家と集合住宅とでは、微妙にスタート地点が違います。

これは、一般の人が自由に通行できる場所で起こった災害が、通勤災害の対象となることによるものです。

一軒家の場合には、外に出る門を身体の半分以上が通過したところがスタート地点です。

集合住宅の場合には、玄関のドアを身体の半分以上が通過したところがスタート地点です。

ただし、玄関ドアの外側は、誰でも自由に通行できることが前提となります。

セキュリティーの厳しいマンションなどでは、外部の人の自由な立ち入りを許さないドアが基準となります。

 

<出勤のゴール地点>

出勤のゴール地点は就業の場所ですが、勤務先企業の管理が敷地と建物全体に及ぶ場合と、その建物の一部にのみ及ぶ場合とでは、微妙にゴール地点が違います。

事業主の支配管理権の及んでいる事業場施設での災害は、業務災害の対象であり通勤災害の対象ではないからです。

業務災害で仕事を休んだ場合には、休業の最初の3日間について、事業主が平均賃金の60%以上の休業補償をします。〔労働基準法第76条第1項〕

通勤災害で仕事を休んだ場合には、この休業補償がありません。

また、労基署に労災保険の手続きで書類を提出するときに、業務災害と通勤災害とでは様式が違います。

勤務先企業の管理が敷地と建物全体に及ぶ場合には、身体の半分が敷地に入る直前がゴール地点となります。

勤務先企業の管理が店舗など建物の一部にのみ及ぶ場合には、その部分に身体の半分が入る直前がゴール地点となります。

 

こうした細かい区別を全従業員に周知しておくことは困難ですから、通勤中にケガをしたり事故に遭ったりした場合には、必ず会社に連絡するというルールにしておくのが現実的でしょう。

 

2022/08/15|1,533文字

 

<処罰しないで>

セクハラやパワハラの直接の被害者から「加害者を処罰しないでほしい」という申し出があった場合には、どのように対応したら良いのでしょうか。

被害を受けたその瞬間には大きなショックを受けたものの、後で冷静になってから、自分にも落ち度があったのではないか、ハラスメントとは言い切れないのではないかなどと考えが変わり、自分のせいで相手が懲戒処分を受けたら申し訳ないという気持ちになることもあるのです。

 

<ハラスメントの被害者>

さて、セクハラやパワハラの被害者とは誰でしょうか。

セクハラは、職場で性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、身体への不必要な接触など、意に反する性的な言動が行われ、拒否したことで不利益を受けたり、働く環境が不快なものとなることをいいます。

パワハラは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係、経験、能力などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えられたり、働く環境を悪化させる行為をいいます。

こうしてみると、働く環境が悪化し不快なものとなることによって、直接行為を受けた人だけでなく、その行為を見聞きした人も被害者になるということが分かります。

たとえば、店長が店員を殴り、その場に他の店員がいたのなら、その場に居合わせた店員全員がパワハラの被害者です。

さらに、その様子について聞いた店員も被害者です。

 

<被害者の同意>

被害者の同意があったから許されるというのは、セクハラやパワハラが密室で行われ、加害者と被害者だけが事実を知っていて、他の人は見聞きしていないという状況が前提となるでしょう。

多くの人が事実を見聞きしていながら、全員がセクハラやパワハラに同意しているというのは、容易には考えられないことです。

しかし、事後の承諾であれば、ありえないことではありません。

 

<懲戒処分の目的>

そもそも懲戒処分の主な目的としては、次の3つが挙げられます。

 

【懲戒処分の主な目的】

1.懲戒対象者への制裁

懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

 

2.企業秩序の回復

会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

 

3.再発防止と労働者の安心

社員一般に対してやって良いこと悪いことの具体的な基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

こうしてみると、被害者から「処罰しないで」という申し出があり、ある程度被害者からの事後承諾があったとしても、懲戒処分の必要がなくなるわけではありません。

それでも、懲戒対象者への制裁の必要性は低くなりますし、企業秩序の侵害や労働者の不安は少なかったと評価できるでしょう。

ただ、再発防止の観点からはセクハラやパワハラを見逃すことができません。

いつも被害者の事後承諾が得られるとは限らないからです。

 

<企業の取るべき対応>

最新版(令和3(2021)年4月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第64条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

直接の被害者から「加害者を処罰しないでほしい」という申し出があったことは、この規定の中の「その他情状」に該当する事実です。

ですから、直接の被害者の申し出があったからといって、不問に付するというのではなく、情状の一つとして考慮し、場合によってはより軽い懲戒にすることもあるというのが、企業の取るべき対応だと考えられます。

 

2022/08/14|673文字

 

<おどし文句か冗談か>

「定期健康診断をサボり続けると労働基準法違反だから逮捕されるよ」

「就業規則のルールを守らないと労働基準法違反で捕まるよ」

会社の上司からこんなことを言われた人がいます。

 

<労働基準法違反の制裁>

労働基準法は、使用者に対して基準を示し、様々なことを義務づけています。

これに違反した使用者に対する罰則も規定されています。

しかし、労働者に対する罰則はありません。

労働基準法は、労働者を守るための法律ですから当然でしょう。

 

<逮捕の性質>

逮捕とは、罪を犯したと疑われる人の身体を拘束する強制的な処分をいいます。

これによって、逃亡や証拠の湮滅(いんめつ)を防止するわけです。

逮捕の後、48時間以内に身柄を検察官に引き渡さなければなりません。

検察官は24時間以内に勾留請求するか、釈放するか、起訴するかを決めます。

 

<労働者への制裁>

労働基準法には労働者に対する罰則が無いのですから、労働者が労働基準法違反の罪を犯すということもありません。

したがって、逮捕や起訴などもないのです。

しかし、就業規則に定められたルールに違反すれば、会社での評価は下がるかもしれません。

そうなると、賞与の支給額や昇給にも影響が出るでしょう。

また、場合によっては懲戒処分の対象となるかもしれません。

それでも、たとえば定期健康診断をサボり続けた場合に、厳重注意や譴責(けんせき)が限界でしょう。

労働基準法が罰則を定めていない趣旨からすると、減給や出勤停止などは重すぎるからです。

※そもそも健康診断について規定しているのは、労働基準法ではなく労働安全衛生法です。

 

2022/08/13|1,368文字

 

<定額残業代の導入>

割増賃金の基礎となる賃金から、一定の時間(基準時間)に相当する定額残業代を算出します。

このとき、割増率が法定の基準を下回らないことと、最低賃金を下回らないことが必要です。

割増賃金の基礎となる賃金から除外できる手当は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つに限定されています。〔労働基準法第37条第5項〕

これらの手当は、労働の量とは無関係に福利的に支給されるものとして、除外することが認められているのです。ですから、これらに該当するかどうかは、手当の名称ではなく、その性質に基づいて判断されます。

この割増賃金の基礎となる賃金から定額残業代を算出した計算方法について、労働者ひとり一人に実額で説明します。

文書をもって説明し、制度の導入について同意を得ておくのが基本です。

定額残業代の計算が誤っていたり、割増率が法定の基準を下回っていたり、最低賃金法違反があったり、労働者への説明が不十分であったりすると、制度そのものが無効とされます。

この場合、労働基準監督署の監督が入ったり、労働審判が行われたりすると、定額残業代を含めた総額を基準として残業代を計算し、さかのぼって支払うことになるのが一般です。

残業代の二重払いが発生しますから、会社にとって予定外の出費となります。このように、導入の失敗は大きなリスクとなります。

 

<定額残業代の運用>

定額残業代を導入しても、労働時間は適正に把握する必要があります。

なぜなら、基準時間を上回る時間の残業手当や、計算に含まれない法定休日出勤手当、深夜手当は、毎月計算して支給しなければならないからです。

もちろん、残業が基準時間を下回っても、その分定額残業代を減額することはできません。

そんなことをしては「定額」残業代ではなくなってしまいます。

誤った運用をしてしまった場合のリスクは、誤った導入をした場合と同じです。

 

<働き方改革と定額残業代>

働き方改革の推進によって残業時間が減少し、自分の時間が増えたものの、手取り収入が減ってしまったという不満が聞かれます。

この点、定額残業代は良い仕組みです。

労働者にとっては、残業が少なくても定額残業代が保障されていますし、会社にとっては人件費が安定します。

しかし、それだけではありません。

残業が少なくても定額残業代が保障されているのですから、労働者は早く仕事を終わらせてプライベートを充実させようとします。

そのためには、自主的に学んだり、仕事の手順を工夫したり、会社に言われるまでもなく努力します。

これによって生産性が向上するのは、会社にとっても大きなメリットです。

こうした自己啓発や自己研鑽が期待できない場合であっても、仕事による疲労の蓄積が無い分だけ、生産性が上がると考えられます。

 

<上手に活用しましょう>

定額残業代は、ブラックな制度のように思われていました。

今でも、ハローワークで求人票に定額残業代の表示をすることについては、窓口で慎重すぎる態度を示されてしまいます。

これは、誤った制度導入や運用があまりにも多いため、悪い印象を持たれてしまっているからでしょう。

定額残業代を正しく活用し、そのメリットを最大限に活かすには、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2022/08/12|2,286文字

 

<労働力の確保・質の向上に向けた課題>

令和4(2022)年7月29日、内閣府より「令和4年度年次経済財政報告-人への投資を原動力とする成長と分配の好循環実現へ-」が公表されました。

この中で、労働力の確保・質の向上に向けた課題が次のように把握されています。

 

一人当たり賃金は、デフレが長期化する中で経済全体の稼ぐ力が十分に高まらなかったことに加え、労働生産性の伸びに対し十分な分配が行われなかったことなどから伸び悩み。

労働生産性の伸びと物価上昇率に見合った賃金上昇の実現が重要。

人口減少に伴う労働投入量の減少が見込まれる中で、女性や高齢者等の一層の労働参加、すでに就労している者の労働移動を通じた一層の活躍促進が必要。

また、同一労働同一賃金を徹底し、男女の賃金格差縮小に取り組むとともに、人への投資を通じた労働の質の向上に向けて、社会人等の学び直しを強化していくことが重要。

 

<賃金の状況など>

賃金の状況など、成長と分配からみた人への投資の課題については、次のように述べられています。

 

我が国の実質GDPは約30年間、緩やかな増加にとどまってきたが、労働投入の面からみると、その背景は人口減少と、完全週休二日制の普及や非正規雇用者数の増加等による一人当たり労働時間の減少。

労働時間当たりの実質GDPは主要先進国とそん色のない伸び。

我が国は2013年以降、TFPと労働の寄与が高まる一方、資本の寄与は大幅に縮小し、他の主要先進国との差が拡大。

一人当たり名目賃金は伸び悩み。

一人当たり労働時間の減少、相対的に賃金水準が低い女性や高齢者の増加が押下げ。

一方、2013年以降、時給の増加によるプラス寄与が拡大。

一般労働者(フルタイム)について、女性の時給は総じて緩やかに増加。

男性は全体では2013年頃から上昇に転じたものの、40代では減少傾向が続く。

50代は定年延長等の取組により、2010年代半ば以降緩やかに増加。

 

日本では名目賃金が伸び悩んでいます。

労働時間の減少によるマイナスと、女性の時給増加によるプラスが拮抗するなど、各要素の動きはあるものの賃金の押し上げには至っていません。

 

<雇用の動向など>

人口減少と雇用の動向、雇用形態の多様化と労働参加の促進については、次のように述べられています。

 

女性の労働参加の進展により、人口減少の下でも2010年代半ば以降、就業者数は増加。

今後、人口減少や少子高齢化が本格化する中、マンアワーベースの労働投入量(一人当たり労働時間×就業者数)は、労働参加が一定程度進んだとしても年率0.6~1.1%程度減少する可能性。

労働の量の減少を緩和するためには、女性や高齢者などの一層の労働参加の促進が必要。

人口の1割弱程度を占める不本意非正規雇用者、失業者、就業希望者に加え、就業時間の増加を希望する短時間就業者、就業時間を調整している者などに対しても、制度の見直しや就労支援を通じ、活躍を促していくことが重要。

 

内閣府は「就業時間の増加を希望する短時間就業者、就業時間を調整している者」の就業時間の増加促進を考えています。

一方で、段階的な社会保険適用拡大も迫っていますので、内閣府の期待とは反対に、就業時間の減少を希望する短時間就業者や就業時間を更に調整する者などの増加も懸念されます。

企業には、短時間労働者の就業時間の増加を促す動きが期待されています。

 

<多様な働き方など>

多様な働き方と労働移動の促進については、次のように述べられています。

 

労働移動の状況について、転職入職率は、30代男性、40代・50代の女性では上昇傾向。

30代以下の男性や30代・40代の女性では転職に伴い賃金が増加する者が多い。

正社員間の転職1年後の年収は、49歳以下では増加しており、転職1年後の年収増加は異業種間転職よりも同業種間の方が高い。

感染症下で正規雇用の転職希望者が増加。

労働移動を通じ、すでに就労している様々な年齢層の一層の活躍の後押しが今後の課題。

副業・兼業は、現時点では若年層中心。

成功事例と課題の共有、ガイドラインの普及等を通じ、その動きが広がっていくことを期待。

 

企業は経験者や即戦力を求め、人材の獲得競争にさらされています。

また、副業・兼業による疲労の蓄積が本業に及ぶことへの恐れから、企業がすべての年代にわたって副業・兼業を促進しているわけではないことが読み取れます。

 

<賃金格差とリカレント教育>

男女間賃金格差・非正規雇用と労働の質、リカレント教育促進については、次のように述べられています。

 

男女間の賃金格差の背景には、女性の方が正規雇用、高い職位のシェアが少ないこと、正規の平均勤続年数が短いこと、女性の方が正規雇用での就業や年齢の上昇による賃金増加程度が小さいこと等が挙げられる。

非正規雇用者比率は男性において中長期的に上昇傾向、女性は2010年代半ば以降、低下傾向。

学校卒業後の初職が非正規の者は現職も非正規の割合が大きく、非正規雇用が固定化している可能性。

学び直しの効果として、大学等で学んだ者の2割程度が希望の転職や年収増加を実現。

特にOFF-JTと自己啓発を両方実施する者は、片方のみの者に比べ、年収増加が明確。

企業側が業務に必要な技術・能力等を明確化することで雇用者の学び直しを促し、処遇改善や年収増加につながることを期待。

 

リカレント教育には一定の効果が期待されるため、国が強力に推進し始めたところです。

今まで教育の機会を与えられてこなかった、就職氷河期世代の非正規雇用者には、大きな効果が現れるのではないでしょうか。

 

2022/08/11|610文字

 

<基本の添付書類>

令和4(2022)年8月1日、協会けんぽが、海外で出産した場合の健康保険出産育児一時金支給申請書の添付書類について変更することを公表しました。

変更後の添付書類として、(除籍)戸籍謄本(または戸籍抄本)、本人確認書類と併せて提出が求められるのは、原則として次の3点です。

・出産を担当した海外の医療機関等の医師・助産師の証明書

・出産した日(期間)において、実際に海外に渡航していた事実が確認できる書類(パスポート、査証(ビザ)、航空チケット等の写し)

・海外出産の事実、内容について、協会けんぽがその海外出産を担当した海外の医療機関等に照会することに関するその海外出産をした者の同意書

 

<出産を担当した海外の医療機関等の医師・助産師の証明書が添付できない場合>

・出産したことを確認できる書類(戸籍謄(抄)本、戸籍記載事項証明書、出生届受理証明書 等)(死産の場合は、死産証書(死胎検案書)等)

・海外の公的機関が発行する戸籍や住民登録に関する書類、および、「医師・助産師の証明の添付が困難である理由」と「出産した医療機関名・担当医等」を記載した書面

 

<振込先指定口座が受取代理人の口座である場合>

・受取代理人の本人確認書類(在留資格認定証明書、パスポート、運転免許証等のコピー)

・受取代理の理由書

 

<証明書等が外国語で記載されている場合>

・翻訳文(翻訳者が署名し、住所・電話番号が明記されていることが必要です)

 

2022/08/10|1,269文字

 

<(家族)出産育児一時金>

出産育児一時金は、健康保険加入者(被保険者)が出産した時に、協会けんぽ支部へ申請すると1児につき42万円が支給されるものです。

ただし、産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は40.8万円となります。

なお、令和3(2021)年12月31日以前の出産の場合は、40.4万円となります。

被保険者の扶養家族(被扶養者)が出産した時にも、被保険者が出産した時と同じ内容で家族出産育児一時金が支給されます。

双子・三つ子など、多胎児を出産した場合には、出産した胎児の人数分だけ支給されます。

 

<健康保険での「出産」>

健康保険でいう出産は、妊娠85日以後の生産(早産)、死産(流産)、人工妊娠中絶をいいます。

また、正常な出産、経済上の理由による人工妊娠中絶は、健康保険による診療の対象からは除かれますが、出産育児一時金の対象にはなります。

また被保険者が、被保険者の資格を失ってから6か月以内に出産した場合にも、被保険者期間が継続して1年以上ある場合には、出産育児一時金が支給されます。

被保険者が、妊娠中(85日以後)、業務上または通勤災害の影響で早産したような場合、労災保険で補償を受けたとしても、出産育児一時金は支給されます。

 

<直接支払制度>

直接支払制度は、協会けんぽから支給される出産育児一時金を医療機関等での出産費用に充てることができるよう、出産育児一時金を協会けんぽから医療機関等に対して直接支払う制度のことです。

この制度を利用すると、被保険者が医療機関等へまとめて支払う出産費用の負担の軽減を図ることができます。

なお、直接支払制度を利用する場合には、出産を予定している医療機関等へ被保険者証を提示し、その医療機関等を退院するまでの間に「直接支払制度の利用に合意する文書」の内容に同意する必要があります。

あらかじめ、出産を予定している医療機関等に確認しておくことをお勧めします。

直接支払制度を利用して、出産にかかった費用が、出産育児一時金の支給額の範囲内であった場合は、出産後、その差額について協会けんぽへ請求することができます。

また、出産にかかった費用が出産育児一時金の支給額を超える場合には、その超えた額を医療機関等へ支払うことになります。

 

<受取代理制度>

受取代理制度は、本来、被保険者が受け取る出産育児一時金を医療機関等が被保険者に代わって受け取る制度のことです。

この制度を利用すると、被保険者が医療機関等へまとめて支払う出産費用の負担の軽減を図ることができます。

この制度を利用する場合は、「出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)に受取代理人となる医療機関等による記名・押印、その他の必要事項を記載のうえ、協会けんぽへ申請します。

ただし、この制度による出産育児一時金の申請は、出産予定日まで2か月以内に限られます。

なお、受取代理制度を利用できる医療機関等は、厚生労働省へ届出を行った一部の医療機関等に限られます。

制度の利用の可否については、出産を予定している医療機関等へ直接確認が必要です。

 

2022/08/09|1,306文字

 

<重ねての制裁>

ある社員が不都合な言動を理由に、懲戒処分を受けたとします。

この社員が、昇進・昇給や賞与の金額に影響する人事考課で、一段低い評価にされたとします。

しかも、さえない部署への左遷も行われたとしましょう。

このように、たった1つの不都合な言動を理由に、懲戒処分も人事考課も人事異動も重ねて行うことに問題はないのでしょうか。

 

<法律の規定>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法第15条〕

しかし、人事考課や人事異動の有効性について規定する法令は見当たりません。

これらは、基本的に会社の裁量に任されていて、裁判所がその不当性や違法性を判断することは困難だからです。

 

<懲戒処分と人事考課>

人事考課には、会社ごとに独自の考課基準があります。

個人の業績、所属部門の業績、発揮能力、勤務態度、経営理念への共感度、行動指針の体現度、社内ルールの順守など、その内容は様々です。

たとえば、勤務先の近所の飲食店で酒に酔って店長をどなりつけたので、譴責(けんせき)処分を受けたとします。

就業規則の具体的な内容に沿って、厳重注意を受け、始末書を提出したとします。

この場合、人事考課の基準の中に「勤務地近隣との関係を良好に保つこと」といったものがあれば、その部分について低い評価となるでしょう。

しかし、「譴責処分を受けたのだから全項目について一段低い評価」というのは不当です。

またたとえば、勤務先の会社が経営しているお店で、酒に酔って店長をどなりつけたのなら、かなり事情が変わってきます。

人事考課基準の中に「社内での協調性」「他部門への協力」「顧客からの信頼」といったものは、一般的に含まれているでしょうから、評価が低くなる可能性は高いでしょう。

それでも、考課者のその社員に対する印象が悪くなったので低い評価になるということは避けるべきです。

 

<懲戒処分と人事異動>

人事異動については、会社の裁量がかなり広いといえます。適材適所により、会社全体の生産性を上げる必要があるからです。

ですから、懲戒処分の原因となった言動との関係で現在の職務がふさわしくないと認められ異動が行われるような場合には、不当とはいえない場合が多いものです。

たとえば、経理担当者が会社の金銭を500円横領した場合、重い懲戒処分の対象とはならないかもしれませんが、経理以外の部署に異動させるのが適切といえます。

しかし、勤続年数が長く会社に貢献している営業部長が、経費を500円ごまかしただけで役職を外されるような異動は明らかに不当でしょう。

 

<目的との関係で>

懲戒処分、人事考課、人事異動、それぞれに目的が違います。

懲戒処分を受けたことを理由に、人事考課や人事異動の目的とは関係なく、当然のように制裁的な人事考課や人事異動が行われるのは不当です。

ただ、こうした会社の行為の不当性を証明し、社員から会社に損害賠償の請求をするのは、証拠集めが困難なためむずかしいことも事実です。

 

2022/08/08|1,077文字

 

<懲戒処分についての法律>

使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いている場合、または、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法第15条〕

つまり、就業規則に具体的な規定があるなど、懲戒処分を行うための他の条件がすべて満たされていたとしても、「客観的に合理的な理由がある」「社会通念上相当である」という2つの条件を満たしていない場合には、懲戒権の濫用となり、その懲戒は無効だということです。

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

  

<懲戒権濫用法理>

労働契約法第15条には2つの条件のみが示されています。

しかし裁判では、次のような条件すべてを満たしていないと、懲戒権の濫用とされ、懲戒処分が無効となって、会社が懲戒対象者に対して損害賠償の責任を負うことがあります。

・懲戒対象者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・不都合な事実が発生した後で懲戒処分の取り決めができたのではないこと。

・過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・懲戒対象者に事情を説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<証拠不十分で行った懲戒解雇>

懲戒処分の理由となる事実が真実かどうか確認できないうちに、懲戒解雇とした場合には、それが不当とされ無効となるのでしょうか。

この場合には、最初に示した労働契約法第15条の「客観的に合理的な理由」が問題となります。

「ある店舗の従業員がお客様に暴力を振るった」というウワサが広まったとします。

被害者が誰なのかわかりませんし、警察が捜査する動きも見られません。

この時点で、懲戒処分を行うのは不当です。

社内に嫌いな人がいたとき、その人について悪いウワサを流せば会社に処分してもらえるとしたら恐ろしい話です。

ウワサは「客観的に合理的な理由」にはならないのです。

しかし、警察の捜査が始まり、送検されたことが新聞に掲載されたという段階では、全体の事情から「客観的に合理的な理由」があるといえます。

この場合、後で無実が証明されたとしても、会社は不当な処分をしたことにはならず、損害賠償を請求されることもないでしょう。

犯罪行為が疑われる場合の懲戒処分について、就業規則に定める場合には、その条件を明確に示しておきたいものです。

 

2022/08/07|1,571文字

 

<障害者数の不適切な計上>

かつて、障害者雇用率制度に関連して、多くの行政機関で、障害者である職員の不適切な計上があり、法定雇用率を達成していない状況が長年にわたって継続していた事実が報道され、国民の関心を集めました。

国が働き方改革を推進し、一億総活躍社会の実現を目指している中での報道ですから、かなりのインパクトがありました。

しかし、障害者雇用・就業の促進は、最近始まったことではなく長い歴史があります。

以下は、その概要です。

 

<身体障害者雇用促進法の制定>

諸外国で障害者の雇用法が制定されていたこと、ILO(国際労働機関)で職業更生勧告が採択されていたことなどを踏まえ、昭和35(1960)年、「身体障害者雇用促進法」が制定されました。

主に職業紹介、適応訓練、雇用率制度について定められ、雇用率制度については、公的機関は法的義務、民間企業は努力義務とされました。

 

<法定雇用率の法的義務化>

身体障害者の雇用が不十分なため、昭和51(1976)年、全ての企業に法定雇用率を義務付け、雇用納付金制度を創設しました。

このときの法定雇用率は1.5%でした。

 

<障害者の雇用の促進等に関する法律>

昭和56(1981)年の国際障害者年をきっかけに、法律の制定時から課題となっていた知的障害者に対する雇用率の適用に向けた動きが盛んになりました。

また、障害者の離職率の高まりについても対策が求められました。

そこで、昭和62(1987)年、法律の名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」とし、対象範囲を身体障害者から知的障害者や精神障害者を含む全ての障害者に拡大しました。

これによって、職業指導、職業訓練、職業紹介などの職業リハビリテーションの推進に必要な改正や、知的障害者を身体障害者と同様に実雇用率の計算に加える改正が行われました。

 

<知的障害者の雇用の義務化>

知的障害者の雇用が進展し、身体障害者の雇用の促進にも影響を及ぼすようになっていたことから、平成9(1997)年、知的障害者が雇用義務の対象とされ、障害者雇用率の算定基礎に加えられました。

 

<精神障害者の雇用対策の強化>

精神障害者の就業や在宅就業障害者が増加してきたため、平成17(2005)年には、精神障害者(手帳所持者)を実雇用率に算定できるようにしました。

また、在宅で就業する障害者に対して仕事を発注する事業主に、特例調整金などを支給するなどの改正が行われました。

 

<短時間労働者への適用拡大>

中小企業では障害者の雇用が低調に推移し、一方で短時間労働に対する障害者のニーズが高まったため、平成20(2008)年、障害者雇用納付金制度の適用対象が常用雇用労働者が300人以下の企業に拡大されました。

また、障害者の雇用義務の基礎となる労働者と雇用障害者に、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者が追加されました。

 

<障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供義務>

「障害者の雇用の促進等に関する法律」が改正され、平成28(2016)年4月1日に施行されました。

①雇用の分野での障害者差別の禁止

②雇用の分野での合理的配慮の提供義務

③相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助

事業所の規模・業種に関わらず、すべての事業主が対象となりました。

対象となる障害者は、障害者手帳を持っている方に限定されません。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能に障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な方が対象となりました。

 

<精神障害者の雇用義務化>

平成30(2018)年4月1日から、障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました。

法定雇用率が引き上げられ、精神障害者である短時間労働者の算定方法が変わりました。

 

2022/08/06|1,015文字

 

<予定外の長期入院で月給が下がるのは>

「年俸制の従業員が長期にわたって入院したら年俸を下げることはできるのか」というご質問を受けたことがあります。

月給制の従業員が長期間入院した場合に、入院期間に応じて毎月少しずつ基本給が下がっていくシステムというのは聞いたことがありません。

これは、明らかに不合理であり社会通念上も相当ではないので、法的に許されない不利益変更となります。

 

<年俸制なら許されるのか>

ではなぜ「年俸制の従業員が長期間入院したとき年俸を下げてもよいのか」という疑問が出るのでしょうか。

これは、年俸が過去の実績を踏まえつつ、今後1年間でどれだけ会社に貢献してくれそうかという予測評価に基づいているためでしょう。

プロ野球の選手は、球団との間で一般的な労働契約を交わしているわけではありません。

ところが、サラリーマンにも応用できそうだということで、年俸制を採用している会社もあります。

そして一度決めた年俸は、長期入院にもかかわらず、会社から支払が続くというものです。

しかし、これは会社が独自に決めたルールです。

年俸制なら欠勤控除できないという法令の規定はありません。

そもそも、労働基準法などに年俸制の規定はありません。

また、厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)にも、年俸制を想定した規定はありません。

ですから、予想外の長期入院が発生したときに不都合を感じるような給与支払のルールを、会社が独自に作っておいたのが失敗なのです。

 

<年俸制にするのなら>

年俸制であっても、労働基準法の縛りがあります。

毎月1回以上定期に賃金を支払わなければなりません。

残業手当、深夜手当、休日出勤手当など割増賃金を支払う必要もあります。

しかし、欠勤控除してはいけないというルールはありません。

法令には規定がないのですが、労働契約の性質から「労働者が働かなければ会社に賃金の支払い義務はない」という「ノーワークノーペイの原則」があります。

欠勤控除しないのは、会社がそういうルールにしているだけです。

ですから、年俸制を実施している会社で、就業規則に欠勤控除の規定がなければ定めればよいのです。

ただし、長期入院にもかかわらず、通常の賃金を支払い続けていたという前例が過去にあった場合には、就業規則の不利益変更が疑われます。

この場合には、社会保険労務士などの専門家に相談しながら、慎重に事を進める必要があるでしょう。

 

2022/08/05|1,325文字

 

<労働基準監督官の任務>

労基署が立入調査(臨検監督)をする場合、通常その任務にあたるのは労働基準監督官です。

労働基準監督官の基本的任務は、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働法で定められている労働者の労働条件や安全・健康の確保・改善を図るための各種規定が、工場、事業場等で遵守されるよう、事業者などを監督することにあります。

労働基準監督官は、監督を実施し法令違反が認められた場合には、事業主などに対し文書で指導し是正させるのです。

また、危険性の高い機械・設備等について労働基準監督署長が命ずる使用停止などの行政処分の実行も行っています。

 

<労働基準監督官の権限>

こうした任務を全うするため、労働基準監督官には労働法により臨検(立入調査)権限を始め、帳簿・書類などの検査権限、関係者への尋問権限など多くの権限が与えられています。〔労働基準法第101条、第103条、労働安全衛生法第91条、第98条、最低賃金法第32条など〕

また、労働基準監督官には、司法警察員としての職務権限があるため、重大・悪質な法令違反を犯した事業者などに対しては、司法警察権限を行使して、刑事事件として犯罪捜査を行うこともあります。〔労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条、最低賃金法第33条など〕

 

<立入調査(臨検監督)>

労働基準監督官の監督は、各種情報に基づき問題があると考えられる事業場を選定して行われています。

例えば、労働災害発生の情報や労働者からの賃金不払、解雇等の申告・相談をきっかけとして、また、問題が懸念される事業場などをあらかじめ選定した上で計画的に、監督が実施されています。

なお、事業場のありのままの現状を的確に把握するため、原則として予告することなく事業場に監督を行っています。

立入調査(臨検監督)の拒否・妨害や尋問に対する陳述の拒否・虚偽の陳述、書類の提出拒否・虚偽を記載した書類の提出については、罰則が設けられています。〔労働基準法第120条(30万円)、労働安全衛生法第120条(50万円)、最低賃金法第41条(30万円)など〕

 

<実際に立入調査を拒否したら>

たとえば、残業代の不払いが発覚することを恐れ、立入調査を拒否して、30万円の罰金を支払ったとしても、3年分の残業代を払うよりは安くて済む計算です。

ここの「3年分」というのは暫定措置で、将来的には「5年分」に改正されそうです。

ますます30万円なら安いようにも思えます。

もし、これで済むのなら、多くの企業が立入調査を拒否してしまうかもしれません。

しかし、それ相当の容疑が固まれば、労働基準監督官による捜索・差押など強制捜査が行われるでしょうし、そこまでいかなくても聞き込みや張り込みは可能です。

従業員が何時に職場に入り何時に出たかを確認したり、直接従業員に話を聞いたりできるのです。

それに、会社が労働基準監督官を追い返したとなれば、直接労基署に実情を訴えに行く従業員も出てくるでしょうし、多数の退職者が出るかもしれません。

ネット上でも、あることないことウワサが広がることでしょう。

上智大学が労基署の立入調査後に、是正勧告書の受取を拒否しただけで大きなニュースになっていました。

 

2022/08/04|2,048文字

 

<監督指導・送検等の状況>

令和3年に、外国人技能実習生の実習実施者(技能実習生が在籍している事業場)に対して労働局や労働基準監督署が行った監督指導や送検等の状況について、厚生労働省が取りまとめ公表しました(令和4(2022)年7月27日)。

外国人技能実習制度は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図ることにより、企業などでの人材育成を通じた技能等の母国への移転により国際協力を推進することを目的としています。

しかし今回の公表結果によると、労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,036事業場(実習実施者)のうち6,556事業場(72.6%)に及ぶということです。

ここでは、監督指導の実例を4件ご紹介させていただきます。

 

<違法な時間外労働等についての指導>

陸上貨物を取り扱う事業場で、外国人技能実習機構から違法な時間外労働等が疑われる旨の通報があったことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。

この結果、1か月100時間を超える違法な時間外労働が認められました。

また、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、1年以内に5日間以上の年次有給休暇を取得させていないことが認められました。

これらに対して、労働基準監督署は有効な36協定が締結されないまま時間外労働を行わせたことについて是正勧告しました。

また、過重労働による健康障害防止対策として、長時間労働の削減について指導しました。

さらに、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、1年以内に5日間以上の年次有給休暇を取得させていないことについて是正勧告しました。

指導を受けた会社は、元請と業務量(荷の取扱量)について協議を実施するほか、シフトの細分化や業務量増加が見込まれる場合の短期的人員増加を図りました。

また、1年間に合計10日間の有休取得奨励日を設定し、取得促進を図りました。

 

<掃除等の場合の機械の運転停止についての指導>

食品製造を行う事業場で、ベルトコンベヤーの回転部分に指が挟まれる労働災害が発生したため、立入調査(臨検監督)を実施したところ、ベルトコンベヤーの掃除を行う際に機械の運転を停止していなかったことが認められました。

これに対して労働基準監督署は、機械の掃除を行う場合、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときに、機械の運転を停止しなかったことについて是正勧告しました。

指導を受けた会社は、被災者及び同様の業務を行う労働者に機械の清掃時は運転を停止させる必要があることなどの安全教育を実施しました。

また、ベルトコンベヤーの回転部分に指が挟まれないよう防護柵を設置しました。

 

<割増賃金の不払等についての指導>

空調設備設置工事を行う事業場で、外国人技能実習機構から割増賃金の一部が支払われていない旨の通報があったことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。

この結果、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないことが認められたほか、書面による労使協定がないにもかかわらず、賃金から寮費を控除していたことが認められました。

これらに対して労働基準監督署は、週40時間を超える時間外労働に対して、法定の割増率以上で計算した割増賃金を支払わなければならないことについて是正勧告しました。

また、賃金から寮費を控除する旨の書面による協定を締結していないにもかかわらず、賃金から寮費を控除していたことについて是正勧告を行いました。

指導を受けた会社は、不足していた時間外労働に対する割増賃金を遡って支払いました。

また、賃金から寮費を控除することについて、書面による労使協定を締結しました。

 

<フォークリフトの無資格運転についての指導>

建設業の事業場で、フォークリフトの無資格運転を行っている旨の情報が寄せられたことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。

この結果、資格を有していない技能実習生がフォークリフトを運転していたことが認められました。

これに対して労働基準監督署は、技能講習を修了していない労働者に、最大1トン以上のフォークリフトの運転業務を行わせてはならないことについて是正勧告しました。

指導を受けた会社は、無資格者にはフォークリフトを運転させないよう安全教育を徹底しました。

また、複数の労働者にフォークリフトの資格を取得させ、有資格者が不在とならない体制を構築しました。

 

<解決社労士の視点から>

会社が違法と知りつつ敢えて行っていた違反と、細かな法規制や法改正に対応しきれず意図せず行っていた違反が混在しているように見えます。

労働基準監督署にとっても、悪意ある違反と無知による違反は区別できません。

こうしたこともあって、労働基準監督署の指導に従い改善したケースで、送検されたものは見当たりません。

会社が労働法を遵守するのは当然のことですが、労基署から万一の不備などを指摘された場合には、積極的に改善する姿勢を示すことが求められます。

 

2022/08/03|2,132文字

 

<監督指導・送検等の状況>

令和3年にトラック、バス、タクシーなどの自動車運転者を使用する事業場に対して労働局や労働基準監督署が行った監督指導や送検等の状況について、厚生労働省が取りまとめ公表しました(令和4(2022)年7月27日)。

対象は自動車運転者を使用する事業場ですが、この業界に特有ということではなく、すべての事業場に共通する問題を含んでいます。

ここでは、監督指導の実例を3件ご紹介させていただきます。

 

<労働時間の適正な把握についての監督指導>

トラック運転者の荷積時間等が把握されておらず、適正な労働時間管理が行われていませんでした。

また、支払われていた割増賃金額は、把握されていた範囲の時間外・深夜労働時間数で計算した額に満たないものであり、割増賃金の支払いが不足していました。

さらに、労働時間の一部が業務委託として作業を行った時間として取り扱われており、賃金が適切に支払われていませんでした。

これに対して労基署は、労働時間の状況を客観的な方法等により把握しなければならないことについて是正勧告するとともに、実態調査するなどの方法により労働時間を適正に把握し、未払いが認められる場合には、遡及して支払うよう併せて指導しました。

また、賃金は労働者に、その全額を支払わなければならないことを是正勧告しました。

さらに、時間外労働及び深夜労働に対し2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないことを是正勧告しました。

会社はこれを受けて、タコグラフの導入、労働時間記録の方法について社員教育を行うことで、労働時間を適正に把握することとしました。

また、労働時間の実態調査を行い、未払いが認められたものについては、遡及して支払いを行うこととしました。

さらに、労働時間の一部を業務委託として作業を行った時間として取り扱うことはやめ、実態に即して、労働時間として取り扱うこととしました。

 

<長時間労働についての監督指導>

バス会社が、36協定の上限を超えて時間外・休日労働を行わせており、時間外・休日労働時間数が1か月80時間を超える者が、最も多い月で11名おり、最長で125時間の者が認められました。

また運転者の中に、1日の拘束時間が上限の16時間を超える日があり、勤務終了後に継続8時間以上の休息期間を与えておらず、また、4週間の平均拘束時間が上限の71.5時間を超える者が認められました。

これに対して労基署は、36協定の上限を超えて時間外労働させてはならないことを是正勧告しました。

また、過重労働による健康障害防止対策として長時間労働の削減について併せて指導しました。

さらに、運転者の1日の拘束時間が16時間を超えてはならないこと、勤務終了後に継続8時間以上の休息期間を与えなければならないこと及び4週間を平均した1週間の拘束時間が71.5時間を超えてはならないことについて是正勧告しました。

会社はこれを受けて、事業場単独ではなく、企業全体で改善基準告示の見直しに対応する部署を決め、自動で労働時間を集計し、休息期間や拘束時間など改善基準告示違反が発生する前に、警報が出る仕組みのシステムを導入しました。

また、ダイヤ改正により、運転者の拘束時間、労働時間の削減を図りました。

 

<不適切な歩合給制度についての監督指導>

タクシー運転手の賃金が、運賃収入に応じた歩合給により支払われていましたが、支給割合が段階的に上がる、「累進歩合給」が採用されていました。

また、一部の運転者の賃金について、最低賃金額未満となっており、最低賃金法違反が認められました。

労働契約の締結に際して、労働者に対して書面等により労働条件を明示しておらず、また、就業規則を変更しているにもかかわらず、所轄の労働基準監督署長への届出が行われていませんでした。

これに対して労基署は、「累進歩合給」が長時間労働等を極端に誘発するおそれがあることから、賃金制度の見直しを指導しました。

また、一部の運転者の賃金が地域最低賃金額未満となっていたため、地域最低賃金額以上の金額で支払う必要があることを是正勧告しました。

さらに、労働契約の締結に際して、労働者に対して書面等により労働条件を明示しなければならず、また、就業規則を変更した場合に、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があることについて是正勧告しました。

会社はこれを受けて、「累進歩合給」の制度を廃止し、速やかに新たな賃金体系を構築することとしました。

また、地域最低賃金額未満となっていた金額について、地域最低賃金額以上となるよう改善を行い、不足していた賃金を支払いました。

さらに、労働者に対して労働条件通知書を交付し、所轄の労働基準監督署長へ変更した就業規則の届出を行いました。

 

<解決社労士の視点から>

明らかな労働基準法違反、労働安全衛生法違反、最低賃金法違反が存在するような上記ケースでも、労基署の監督指導に対して、会社側が前向きな対応を行った場合には、悪質事案とはされず送検には至らないものです。

万一、会社に労基署の立入検査(臨検監督)が入り、是正勧告や指導があった場合には、これを好機と捉え、積極的に改善に向けた努力をするようお勧めします。

 

2022/08/02|2,170文字

 

<令和3年改正育児・介護休業法Q&A追加>

令和4(2022)年7月25日、厚生労働省が令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&Aに18項目を追加しました。

企業にとって影響の大きな項目を、2回に分けてご紹介しています。

今回は、前回の続きです。

 

<出生時育児休業期間の年次有給休暇付与の出勤率算定>

出生時育児休業は、年次有給休暇付与の出勤率算定に当たって、出勤したものとみなされます。

また、出生時育児休業中に部分就業を行う予定であった日について、欠勤した場合や子の看護休暇等の年休の出勤率算定に含まれない休暇を取得した場合についても、出勤したものとみなされます。

出生時育児休業中に就業させることができる者について、労使協定で定める際、 「休業開始日の○週間前までに就業可能日を申し出た労働者に限る」といった形で対象労働者の範囲を規定することは可能です。

1日勤務できる者(所定労働時間より短い勤務は認めないなど)、特定の職種や業務(営業職は可だが事務職は不可、会議出席の場合のみ可など)、特定の場所(A店は可だがB店は不可、テレワークは不可など)で勤務できる者、繁忙期等の時期に取得する者等に限定することも可能です。

出生時育休中の部分就業の上限について、「就業日における労働時間の合計が、出生時育児休業期間における所定労働時間の合計の2分の1以下であること」とありますが、直前まで育児短時間勤務をしている場合等でも、1日の所定労働時間は、短縮前の労働時間をもとに計算します。

 

<管理監督者への適用>

管理監督者(労働基準法第41条第2号)に出生時育休中の部分就業を行わせることも可能です。

出生時育休中の部分就業の合意の範囲内に、労働時間の選択が限定されることをもって直ちに管理監督者性が否定されることにはなりません。

ただし、管理監督者は自身の労働時間に関する裁量を有していることから、あらかじめ合意した就業日時より少ない時間数しか実際に就業しなかったことをもって賃金の減額等があることは、管理監督者ではないと判断される要素として働き得ます。

また、あらかじめ合意した就業日時の範囲を超えて就業することは認められていませんので、当日就業する日時の目途が立たない場合には、あらかじめ合意する就業日時を広く設定しておくことが考えられます。

この場合でも、育児・介護休業法施行規則21条の17に定める範囲内に収めなければなりません。 

 

<フレックスタイム制の適用される労働者への適用>

フレックスタイム制の適用される労働者に出生時育休中の部分就業を行わせることも可能です。

この場合、フレックスタイム制の対象としたまま、出生時育休中の部分就業の対象とする方法と、フレックスタイム制の対象から外し、通常の労働者の労働時間管理を行うこととしたうえで、改正育児・介護休業法9条の5の定めるところに従って部分就業させる方法の2つが考えられます。

フレックスタイム制の適用される労働者がその適用を受けたまま出生時育休中の部分就業をする場合は、労働者の就業可能日等の申出とそれを受けた事業主の提示については、例えば、労働者が就業可能な時間帯と出生時育児休業中に就業可能な時間数の最大幅を示し、そのうえで、事業主から就業可能日時の外枠(その枠内で就業してよい範囲)のみを示し、その枠内での始終業時刻は労働者の決定に委ねることなどが考えられます。

フレックスタイム制における総所定労働時間は、出生時育児休業期間が含まれる清算期間でも特別の定めをしない限り変更になることはないため、出生時育休中の部分就業を行った時間を含む清算期間の実労働時間が清算期間の総所定労働時間に満たない場合には、その満たない労働時間分を控除した賃金を支払うことになります。

 

<事業場外労働のみなし労働時間制の適用される労働者への適用>

事業場外労働のみなし労働時間制の適用される労働者に、出生時育休中の部分就業を行わせることは可能です。

労働者を事業場外みなし労働時間制の対象としつつ出生時育休中の部分就業の対象とする方法と、一時的に別の業務に従事させることとしたうえで労働者を事業場外みなし労働時間制の対象から外し、通常の労働者の労働時間管理を行うこととしたうえで、出生時育休中の部分就業の対象とする方法の2つが考えられます。

 

<裁量労働制の適用される労働者への適用>

裁量労働制の適用される労働者に、出生時育休中の部分就業を行わせることも可能です。

ただし、あらかじめ合意した就業日時の範囲内で就業することとなっている出生時育休中の部分就業を行いながら、裁量労働制の適用を続けることはできませんので、出生時育休中の部分就業を行わせる場合には、労働者を裁量労働制の対象から外し、通常の労働者の労働時間管理を行うこととしたうえで、改正育児・介護休業法9条の5の定めるところに従い、出生時育休中の部分就業を行わせることとなります。

この場合の就業可能な時間数は、就業規則等で定められた通常の労働者に適用される所定労働時間数をもとに算出します。

 

<出生時育休中の部分就業についての休業手当の取扱い>

出生時育休中の部分就業を行う日が、使用者の事情による休業となった場合について、会社は休業手当を支給する義務があります。

 

2022/08/01|1,476文字

 

<令和3年改正育児・介護休業法Q&A追加>

令和4(2022)年7月25日、厚生労働省が令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&Aに18項目を追加しました。

新型コロナウイルス感染症拡大を受け、企業はオンラインでの対応を志向しますが、その実効性が担保されないものについては、義務を履行したことにはならないとするなど、企業に警鐘を鳴らす内容となっています。

企業にとって影響の大きな項目を、2回に分けてご紹介いたします。

 

<妊娠・出産等の申出について>

個別の周知・意向確認の措置について、印刷可能な書面データをイントラネット環境に保管しておき、妊娠・出産等をした者はそれを確認するようにあらかじめ通達等で社内周知しておく、という方法では書面による措置として認められません。

あらかじめ広く社内周知を行い、妊娠等の申出をした労働者が自らその書面等を確認するといった方法では、義務を履行したことにはなりません。

 

<雇用環境整備の措置の実施について>

法第22条第1項の雇用環境の整備等の措置のうち、第1号の「育児休業に係る研修の実施」をオンラインで行う場合には、労働者が研修を受講していることを把握できるようにすることが必要です。

また、厚生労働省のホームページに掲載されている育児休業に関する資料の会社掲示板への掲載・配付では、研修を実施したことにはなりません。

育児休業に関する相談体制の整備について、実質的な対応が可能な窓口が設けられていれば、相談を受け付けるためのメールアドレスやURLを定めて労働者に周知を行っている場合は、相談体制の整備を行っているものと認められます。

雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集・提供は、1度だけ行ったのでは足りず、定期的な事例の更新が必要です。

同様に、育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知についても、1度だけ行ったのでは足りず、定期的な周知の実施が必要です。

 

<出生時育児休業制度に関する改正法の施行前後の取扱いについて>

現行の「パパ休暇」(子の出生後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合には再度取得可)はなくなって、出生時育児休業と育児休業の分割取得化に見直され、「パパ・ママ育休プラス」は引き続き利用可能です。

 

<出生時育児休業申出期限の変更>

法令で定められた雇用環境の整備等の措置を労使協定で定めることにより、原則2週間前までとされている出生時育児休業の申出期限を最大で1か月前までとしてよいこととされています。

この措置のうち、「育児休業の取得に関する定量的な目標を設定」すること(育児・介護休業法施行規則第21条の7第2号)については、グループ会社全体の数値目標を設定しても、グループ内のそれぞれの事業主において定量的な目標設定をしなければ要件を満たしません。

 

<出生時育児休業申出期限の短縮に関する雇用環境の整備等の措置>

「育児休業の取得の促進に関する方針の周知」(育児・介護休業法施行規則第21条の7第2号)については、1度周知しただけでは足りず、定期的な周知が必要です。

「育児休業申出に係る当該労働者の意向を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取組を行うこと」(育児・介護休業法施行規則第21条の7第3)について、事業主が育児休業申出の意向を確認したものの、回答がない労働者がいる場合は、 回答のリマインドを少なくとも1回は行うことが必要です。

「まだ決められない」などの回答があった場合は、「未定」という形で把握すれば、要件を満たすことができます。

 

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