2024/03/13|1,054文字
<通勤手当の性質>
労働基準法などに、使用者の通勤手当支払義務は規定されていません。
むしろ法律上、通勤費は労働者が労務を提供するために必要な費用として、労働者が負担することになっています。〔民法第485条〕
ただし、就業規則や雇用契約などで通勤手当の支給基準が定められている場合には、賃金に該当するとされています。〔昭和22年9月13日発基第17号通達〕
さて、新型コロナウイルス感染拡大防止ということで、各企業が対策を迫られた時期に、在宅勤務の機会が増大しました。
通勤しない在宅勤務が増えると、毎月の通勤手当を定額で支給している場合には、その妥当性に疑問が生じます。
なぜなら、通勤手当は会社と自宅との往復に必要な交通費を基準として支給されているので、会社に出勤しないのであれば交通費がかからないからです。
<就業規則の解釈>
通勤手当について、厚生労働省のモデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)は、次のように規定しています。
【通勤手当】
第36条 通勤手当は、月額 円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。 |
こうした規定の場合、通勤しない在宅勤務の日数が多い場合には、「通勤に要する実費」の解釈が分かれます。
通勤定期代は、1か月、3か月、6か月で割引率が異なります。
1か月当たり17から20往復以上すれば、SuicaなどのICカードでの乗車より割安になります。
出勤日数が、これに達しない場合、3か月で5往復半以上であれば回数券がお得でしたが、現在では一部の例外を除き回数券の販売が終了しています。
こうした事情を踏まえて、就業規則に「通勤に要する実費」を規定するわけですが、最も経済的な運賃の選択が容易ではないケースもあり、多めの支給となることも良しとすべき場合があるでしょう。
<出勤日変更の場合>
新型コロナウイルス感染拡大防止のためということで、ある時期には、突然、在宅勤務を命じられるケースも目立ちました。
こうした場合に、就業規則に定められた計算方法で「通勤に要した実費」を支給するのでは、従業員に不当な負担を強いることが多くなってしまいます。
例えば、通勤定期券は1か月単位で解約できるのですが、在宅勤務がいつまで続くか分からない状況での解約は決断できません。
結局、「通勤に要する実費」というのは、「通勤に要すると見込まれた実費」と解釈すべきだと考えられます。
コロナ禍のような緊急事態ともいえる時期には、あらゆる点で、従業員に有利な運用をするしかないと思われます。