新型コロナウイルス感染症終息後の業種ごとの人手不足の偏り

2025/08/26|1,253文字

 

新型コロナウイルス感染症は、社会・経済に大きな影響を与えました。感染拡大期には多くの業種が営業停止や縮小を余儀なくされ、雇用の流動性が高まりました。終息後は経済活動が再開されましたが、業種によって人手不足の度合いに大きな偏りが生じています。

 

<人手不足が深刻な業種とその理由>

宿泊・飲食業では、コロナ禍で営業自粛や時短営業が続き、離職者が多数発生しました。低賃金・長時間労働といった構造的課題もあり、感染リスクへの不安から他業種へ転職する人が増加しました。外国人労働者の入国制限による供給減もあります。

医療・介護分野では、感染症対応の最前線で過重労働が続き、精神的・身体的負担の大きさが目立ちました。高齢化に伴う需要増に対し、若年層の就業希望者が少ないという特徴もあり、賃金水準が他業種と比べて低い傾向にあります。

建設業・物流業では、インフラ整備やネット販売の配送需要の拡大により、業務量が増加しています。ところが、高齢化による担い手不足が深刻ですし、体力的負担が大きいことを理由に若年層の志望者が減少しています。地方では特に人材確保が困難な状況です。

 

<人手不足が比較的少ない業種とその理由>

IT・情報通信業では、テレワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速が見られ、リモート勤務が可能で柔軟な働き方が魅力です。高収入・成長産業として人気が高く、若年層の志望者も多い状態です。

金融・保険業では、業務のデジタル化が進み、業務効率が向上しています。専門性が高く、職業訓練や資格取得による人材育成が進んでいます。雇用環境も安定しています。

 

<人手不足の偏りが生ずる構造的要因>

賃金、労働時間、福利厚生などの条件が業種によって大きく異なります。

若年層は「成長性」「柔軟性」「リモート可」などを重視していて、介護や建設などは「きつい」「危険」といったイメージで敬遠されがちです。

地域差も大きく、都市部ではITや金融が人気ですが、地方では建設や農業などの人手不足が深刻です。地域経済の構造によって求人数と求職者数のミスマッチが起きています。

 

<対策と今後の展望>

人気のない業種では、賃金引き上げ、労働時間の短縮、福利厚生の充実などが求められます。特に介護・飲食業では待遇改善が急務となっています。サービス業では、待遇だけでなく働きやすさも重視されています。

技能実習制度や特定技能制度の見直しにより、外国人材を活用し安定的な人材確保を図ることも必要です。

離職者や非正規労働者に対して、成長分野への転職支援を強化する必要があり、公的機関や企業による職業訓練の充実が鍵となります。

 

<実務の視点から>

新型コロナの終息は社会の再始動を促しましたが、業種ごとの人手不足の偏りは、単なる一時的な現象ではなく、構造的な課題を浮き彫りにしました。今後は、働き手のニーズと業界の実情をすり合わせる「橋渡し」の仕組みが重要になります。人材の流動性を高めるだけでなく、働きがいのある職場づくりが、持続可能な雇用環境の鍵となるでしょう。

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