2026/10/08|1,145文字
懲戒権と人権保障は対立するものではなく、懲戒権は人権保障の枠内でのみ認められるというのが大原則です。
- 会社の懲戒権とは何か
会社は、職場秩序を維持し、事業を円滑に運営するため、就業規則に基づいて従業員を懲戒することができます。
例えば、無断欠勤を繰り返す、横領や情報漏えいを行う、ハラスメントを行う
業務命令に正当な理由なく従わないといった場合には、就業規則に規定されている範囲内で、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などの処分が行われることがあります。
しかし、会社は公権力ではありません。国のように無制限に人を処罰する権限はなく、あくまで労働契約に付随して認められる限定的な権限にすぎません。
- 人権保障との関係
憲法は主として国による人権侵害を防ぐためのものですが、その考え方は民間企業と従業員との関係にも大きな影響を与えています。
労働者も人間として当然に、人格権、プライバシー権、表現の自由、思想・信条の自由、適正な手続を受ける利益などの人権を有しています。
したがって、会社は職場秩序維持を理由としても、従業員の人権を不当に侵害することはできません。
つまり、「懲戒権は、人権を尊重しながら行使しなければならない権限」ということです。
- 懲戒権の濫用は許されない
労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠き、または社会通念上相当であると認められない懲戒は、権利の濫用であって無効だと定めています。
例えば、軽微なミスなのに懲戒解雇、気に入らない従業員だけ処分、事実確認をしないまま処分、就業規則に定めのない処分といった場合は懲戒権の濫用として無効となる可能性が高いのです。
これは、従業員の権利や人格を守るための重要なルールです。
- 手続的な人権保障も重要
さらに、処分内容だけではなく、処分に至る手続も重視されています。
例えば、本人から事情を聴く、弁明の機会を与える、証拠を確認する、処分理由を明確にするといった手続を踏むことが必要とされます。
たとえ問題行動があったとしても、一方的に決め付けて処分すれば、公平性を欠くものとして紛争に発展する可能性があります。
- プライベートへの介入にも限界がある
会社が従業員を懲戒できるのは、主に職場秩序や会社の信用に関係する範囲です。
従業員には私生活の自由がありますから、休日の過ごし方、交友関係、思想信条、勤務時間外の会社外での政治活動や宗教活動などに、会社がむやみに介入することはできません。
もっとも、私生活上の行為であっても、犯罪行為、SNSでの重大な誹謗中傷、会社の信用を著しく失墜させる行為などの場合には、会社に不利益が及ぶ範囲内で、懲戒の対象となることがあります。
つまり、私生活の自由も絶対ではなく、会社に重大な影響を及ぼす場合には一定の制約を受けることがあります。