結果としては懲戒事由に該当するが動機は会社の利益のためだったというケース

2026/10/03|1,493文字

 

<社労士としてのアドバイス>

その社員の行為が懲戒規程に該当する場合でも、「会社の利益のために行った」という事情は処分の軽重を判断するうえで重要な情状要素となります。ただし、動機が善意であったとしても規程違反や法令違反が正当化されるものではありません。

まずは事実関係、違反の程度、会社や第三者への影響、本人の認識や反省状況などを十分に確認してください。そのうえで、懲戒処分の相当性を検討し、必要に応じて注意・けん責等の措置や再発防止教育を実施することが望ましいでしょう。

また、背景に業務上のプレッシャーや管理体制上の問題がなかったかも併せて検証し、組織としての再発防止策を講じることが重要です。

 

<会社としての対応の流れ>

会社としては、次のような流れで対応するのが望ましいでしょう。

・まず事実関係を十分に調査する(すべての労働問題に共通)

・就業規則・懲戒規程への該当性を確認する

・動機や情状を考慮して処分の相当性を判断する

・再発防止策を講じる

「会社のため」という動機は懲戒処分を免除する理由にはなりませんが、処分の軽重を判断する重要な情状要素になります。

 

<まず確認すべき事項>

次のような点を整理してください。

 

① 何をしたのか

・売上達成のためにデータを改ざんした

・納期に間に合わせるために安全手順を省略した

・顧客対応のために社内ルールを無断で逸脱した

・会社の利益になると思い取引先に虚偽説明をした

具体的な行為の内容によって評価は大きく変わります。

 

② 故意か過失か

本人は「会社のためにやった」という認識であったとしても、違反行為だと十分認識していたのか、違反とまでは認識していなかったのかによって責任の程度は異なります。

 

③ 利益と損害

損害発生の可能性ではなく、実害を確認する必要があります。

・会社に損害が発生したのか

・顧客や取引先に迷惑が生じたのか

・法令違反があったのか

・対外的信用を失墜させたのか

動機が善意であっても、重大なコンプライアンス違反であれば厳正な対応が必要です。

 

<会社のためだったことの考慮>

労働法上の懲戒処分は、「規律違反に対して適切な処分であること(懲戒権の濫用でないこと)」が求められます。

そのため、会社は次のような事情を考慮する必要があります。

・動機

・悪質性

・反復性

・損害の程度

・本人の反省

・過去の勤務態度

・勤続年数

・周囲への影響

 

<軽重の判断>

「顧客対応を急ぐあまり、承認手続を省略してしまった」というような事案で、私利私欲がない、損害もない、初回である、深く反省しているのであれば、口頭注意、厳重注意、程度で足りる場合もあります。

一方で、法令違反、会計不正、データ改ざん、安全基準違反、顧客への虚偽説明などは、仮に「会社への貢献を考えていた」としても重大性は失われません。

会社自体の法的責任や社会的信用に影響するため、戒告、減給、出勤停止などの処分が検討されることもあります。

 

<注意すべきポイント>

この種の案件で最も危険なのは、「会社の利益になるならルール違反も仕方ない」というメッセージを社内に与えてしまうことです。

動機は評価するが、違反行為は容認しないという姿勢を明確にすることが重要です。

会社への貢献意識は理解できる。しかし、会社のためであっても規則や法令を逸脱する行為は認められないということです。

一方で、組織側の問題も確認する必要があります。実態として、過度なノルマ、非現実的な納期、上司の黙示的な指示、コンプライアンス教育不足などが背景にあることも少なくありません。

こうした場合は、社員個人だけでなく、管理職の指導、業務フローの見直し、研修の実施も必要です。

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