「社会通念上相当」の登場場面

2025/10/06|1,217文字

 

<「社会通念上相当」の意味>

「社会通念上相当」とは、ある行為や状況が、一般的な社会の常識や価値観に照らして「妥当である」「許容される」と判断されることを意味します。法律や裁判では、明確な数値や基準がない場合に、この「社会通念」を基準として判断することがあります。

簡単に言えば、「普通の人が見て、まあそれなら仕方ないよね」「それくらいなら許されるよね」と思えるかどうかがポイントです。

 

<法律の世界で「社会通念」が使われる理由>

法律は、すべての状況を細かく規定することができません。人間の行動や社会の出来事は多様で複雑だからです。そこで、法律の文言だけでは判断が難しい場合に、「社会通念」という柔軟な基準が使われます。

たとえば、以下のような場面で登場します。

・損害賠償の範囲(どこまで賠償すべきか)

・解雇の正当性(会社が従業員を辞めさせることが妥当か)

・不法行為の成立(ある行為が違法かどうか)

・慰謝料の額(精神的苦痛に対する金額など)

 

<裁判での具体的な使われ方>

裁判所は、ある行為が「社会通念上相当」かどうかを、以下のような観点から判断します。

まず、時代背景と社会状況の観点からの判断です。社会通念は時代によって変わります。例えば、過去には許容されていた労働時間や職場の慣習が、現代では「ブラック」とされることもあります。

つぎに、当事者の立場と関係性の観点からの判断です。同じ行為でも、親しい間柄と他人同士では受け止め方が異なります。裁判では、当事者の関係性も考慮されます。

さらに、行為の目的と動機の観点からも判断されます。悪意があるか、善意で行ったかも重要です。たとえば、他人の家に無断で入ったとしても、火事から人を助けるためなら「社会通念上相当」とされる可能性があります。

 

<例:職場でのパワハラと「社会通念」>

ある上司が部下に厳しく叱責した場合、それが「指導の範囲内」なのか「パワハラ」なのかは、社会通念によって判断されます。

・業務上必要な注意であり、人格を否定するような言動がなければ「社会通念上相当」とされる可能性があります。

・一方、暴言や長時間の叱責などがあれば、「社会通念上相当」とは言えず、違法と判断されることがあります。

 

<「社会通念上相当」の限界>

この言葉は便利ですが、曖昧さもあります。人によって「常識」は異なるため、裁判官の価値観や社会の風潮が判断に影響することもあります。

そのため、裁判では過去の判例や専門家の意見を参考にしながら、慎重に「社会通念上相当かどうか」を判断します。

 

<まとめ>

この言葉は、法律の世界で「柔軟な判断」を可能にする重要な概念で、次のような特徴があります。

・「社会通念上相当」とは、社会の常識に照らして妥当とされること。

・法律の明文だけでは判断できない場面で使われる。

・時代や状況、当事者の関係性などを総合的に考慮して判断される。

・裁判では、過去の判例や社会の価値観を踏まえて慎重に使われる。

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