もし社会保障がなかったら…

2025/08/18|1,112文字

 

社会保障制度が存在しない世界を想像すると、社会的・経済的にさまざまな問題が連鎖的に発生します。ここで重要なのは、社会保障とは「困っている人のための制度」にとどまらず、「すべての人が安心して生きるためのインフラ」だという視点です。

 

個人への影響>

社会保障制度が無かったならば、生活上のリスクに対する不安定さが増大します。病気、障害、老後、失業、育児・介護など、人生のさまざまな場面で生じるリスクに対して、公的なセーフティネットが存在しないため、個人が全てを自己責任で抱えることになります。特に低所得者層や非正規雇用者は、病気やケガで収入が途絶えると、たちまち生活困窮に陥ります。

教育や医療へのアクセスの格差も拡大します。医療費・教育費が全額自己負担となる場合、経済力によって治療や進学の機会が制限され、機会の不平等が深刻化します。

公的な年金や介護サービスがない場合、家族に頼る以外の選択肢がなく、孤立や貧困が深刻になります。高齢者・障害者・ひとり親家庭などの孤立が顕著になります。

 

社会全体への影響>

社会保障がないと、貧困家庭に生まれた子どもが十分な教育を受けられず、貧困が次世代に継承されるリスクが高まります。経済的格差が「能力差」ではなく「出生地差」に変化し、社会的流動性が失われます。つまり、格差の固定化・世代間連鎖が生じます。

また、経済的困窮者が増加すれば、犯罪や反社会的行動の発生率が高まり、治安や社会の安定性が損なわれます。

さらに、働いても失業時や病気時に支援がない場合、「将来への不安」によって消費や挑戦意欲が低下します。社会全体の生産性や創造性も下がり、経済の活力が弱まります。

 

国家への影響>

日本国憲法第25条は「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記しています。社会保障がなければ、この理念は空文化し、国家の信頼も低下します。

また、困窮者への対応が全て「個別支援」や「一時的な慈善活動」に依存する場合、制度化されていない非効率な支援が乱立し、行政の負担はかえって増大します。

社会保障がない国は、人権や福祉の観点から国際的な非難や制裁対象となることもあり、外交や経済連携にも悪影響を及ぼします。

 

<社会保障の価値を再認識するために>

「なければ困る」という視点から社会保障を見ると、それが単なる給付制度ではなく、社会全体の安定・連帯・持続性を支える「見えにくい安全装置」であることがわかります。

社会保障は、いわば「空気」のような存在――普段は意識されませんが、なくなると生存そのものに直結する仕組みです。

社会保障制度があるからこそ、支え合い・挑戦・尊厳・持続性が保たれているのです。

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