社会保障制度の所得再分配機能

2025/08/17|1,344文字

 

社会保障制度の所得再分配機能とは?>

所得再分配(Redistribution of Income)とは、社会に存在する経済的格差を緩和し、すべての人が安心して生活できるようにするため、高所得者から低所得者への資源の移転を行う制度的仕組みです。これは単なる「金銭の移転」ではなく、社会的公平を実現し、経済と社会の安定を図るための重要な機能です。

 

なぜ所得再分配が必要なのか?>

所得や資産の分布には大きな偏りがあります。つまり、経済的格差があります。格差が広がると、教育・医療・居住などの生活環境にも差が生まれ、社会的な分断や不安定化を招く恐れがあります。

所得再分配は、そうした状況を緩和し、すべての人に「基本的な生活水準」を保障する役割を果たします。

また、経済的に恵まれない環境で育った子どもが、教育や医療のアクセスを得にくい状況を改善することで、機会の平等を提供し、個人の能力が発揮される社会の形成に寄与します。

 

社会保障による再分配の仕組み>

社会保障制度による所得再分配は、主に直接的再分配と間接的再分配の2つのルートを通じて実現されます。

 

直接的再分配は、税と給付を通じた移転です。

所得税・住民税は、累進課税制度により、高所得者ほど高い税率で負担し、税負担の公平性を確保しています。

生活保護・児童手当などは、税収を財源として、所得が低い世帯に現金給付が行われることによって、最低限の生活水準を保障しています。

高所得者からの税によって得た財源を、低所得者層に給付することで直接的な再分配が行われています。

 

間接的再分配は、社会保険を通じた仕組みです。

健康保険の保険料は、基本的に所得比例ですが、給付は定額や定率であるため、高所得者の保険料で低所得者も恩恵を受けることができます。

公的年金制度も、保険料と給付額に一定の関連性があり、最低保障年金などで再分配の要素が含まれています。

介護保険は、40歳以上の人が保険料を拠出し、高齢者など支援が必要な人への配分が主目的となっています。

社会保険では、所得に応じて保険料を支払う一方で、給付の水準には所得による差が少ないため、間接的な再分配効果を生み出しています。

 

<再分配機能の工夫>

所得税では基礎控除、扶養控除などにより、所得が低い世帯の負担が軽減されています。

また児童手当などでは、一定以上の所得層には減額や打ち切りがあります。

さらに生活保護については、他制度との重複を避けつつ公平な支援が行われるように調整が行われています。

 

<再分配機能の課題>

人口の高齢化に伴う社会保障費の増加で、現役世代の負担が重くなっています。

また、非正規雇用やフリーランスの増加により、再分配を受けられない制度の「穴」に入ってしまう層が存在します。

さらに、給付の公平性と持続可能性をいかに両立するかが、常に議論の的となっています。

 

所得再分配の社会的意義>

社会保障制度を通じた所得再分配は、「弱者救済」だけでなく、次のような社会的意義を持っています。

– 社会的連帯の実現(誰もが支え合う社会)

– 経済の安定(消費の底上げによる成長促進)

– 社会の分断防止(格差による対立を緩和)

所得再分配の仕組みは複雑ですが、その本質は「共に生きる社会を支えるための制度」といえます。

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