黙示の職種限定合意

2025/08/07|1,012文字

 

黙示の職種限定合意とは?>

「職種限定合意」とは、労働契約において、労働者が特定の職種に限定して配置されることを使用者と合意することを指します。
この合意が書面や口頭で明示されていなくても、就業状況や採用経緯などから黙示的に成立していると認められる場合があります。これが「黙示の職種限定合意」です。黙示の職種限定合意が認められるかは、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • 採用時の募集内容や面接時の説明
  • 労働者の専門性・資格・職務経歴
  • 配属先や業務内容の一貫性
  • 就業規則や契約書の記載内容
  • 社内での異動の実態(他職種への異動が通常か否か)

特に、医師・看護師・技術職・大学教授など、専門性が高く代替困難な職種では黙示の合意が認められやすい傾向があります。

 

判例から見る黙示の職種限定合意>

令和6年4月26日 最高裁判決

技術職として採用された労働者が、施設管理職への配置転換を命じられた事例。
裁判所は、書面による明示の合意がなくても、採用経緯・職務内容・専門性などから技術職に限定する黙示の合意が成立していたと認定し、配置転換命令を無効としました。

宇都宮地裁令和2年12月10日決定

薬学部教授として採用された大学教員が病院勤務に異動を命じられた事例。
裁判所は、専門性・採用手続・職務内容などを踏まえ、教授職に限定する黙示の合意が成立していたと認定しました。

 

<使用者側の注意点>

  • 職種限定の合意があるかどうかを明確にしておくこと(契約書や労働条件通知書に記載)
  • 異動命令を出す際は、合意内容との整合性を確認すること
  • 専門職の採用時は、職種限定の可能性を意識しておくこと

 

労働者側の注意点>

  • 採用時の説明や配属状況を記録しておくこと
  • 異動命令に疑問がある場合は、合意内容を整理して主張すること
  • 精神的・身体的負担が大きい異動には、安全配慮義務違反の観点も検討可能

 

合意の立証方法>

黙示の合意は書面がないため、次のような状況証拠が重要になります。

証拠の種類 内容例
採用時の資料 募集要項、面接記録、内定通知書
業務履歴 配属先、職務内容、評価記録
社内慣行 異動の頻度、他職種への転換実績
専門性の証明 資格証、学位、業績

 

<実務の視点から>

黙示の職種限定合意は、契約書に明記されていなくても、実態や経緯から合意が成立していると認められる場合がある重要な概念です。
特に専門職や技術職では、職種の変更が労働者の人生観や生き甲斐に直結するため、慎重な判断が求められます。

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