現在の採用選考での基本的な考え方を確認しましょう。適性や能力に関係のない個人情報を得ようとするのは人権侵害とされています

2024/07/30|1,717文字

 

<公正な採用選考をめざして>

厚生労働省から、事業主啓発用パンフレットとして「公正な採用選考をめざして」が発行されています。

厚生労働省の発行するパンフレット類は、法令の内容や法改正を説明したものが多いのですが、この冊子は「公正な採用選考」「人権侵害の防止」という広い視野に立った実務的な内容となっています。

実際に企業で生起した問題や裁判事例を踏まえて、毎年度改訂されていますから、最新版を参照することで、知識をアップデートすることができます。

 

<採用選考の基本的な考え方>

この冊子の最初の章には、採用選考の基本的な考え方が示されています。

その冒頭には、次のような説明があります。

 

採用選考は、

●「人を人としてみる」人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重すること

●応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと

の2点を基本的な考え方として実施することが大切です。

 

極めて当然と思われる内容ですが、採用担当者が実践できているかというと、反省点も多いと思われます。

自分の中の常識に従った対応をしていると、知らず識らずのうちに、応募者は「人権を侵害された」「人格権の侵害をしている会社だ」と認識することがあります。

また、適性・能力を見るのに無関係な事項を申告させたり、採用決定後に確認すれば良い事項を、採用選考の段階で把握しようとすれば、応募者が不公正な採用選考をしていると感じるのも無理のないことです。

 

<応募者の基本的人権の尊重>

応募者の人権を尊重するということについて、この冊子の中では、次のように説明されています。

 

◆日本国憲法(第22条)は、基本的人権の一つとして全ての人に「職業選択の自由」を保障しています。

◆一方、雇用主にも、採用方針・採用基準・採否の決定など、「採用の自由」が認められています。

◆しかし、「採用の自由」は、応募者の基本的人権を侵してまで認められているわけではありません。

◆採用選考を行うに当たっては、何よりも「人を人としてみる』人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重することが重要です。

 

「職業選択の自由」が、基本的人権として保障されていることは、よく知られていますが、個人が職業を選択するためには、企業側に採用の自由が保障されていなければなりません。

企業の採用の範囲が制限されると、個人が選択できる職業の範囲が限定されてしまうからです。

しかし、企業が採用の自由を強く主張し、濫用するようなことがあれば、かえって個人の職業選択の自由が侵害されてしまいます。

上記は、このことを説明しています。

 

<適性・能力に基づいた採用選考>

公正な採用選考をするには、企業が採用後に担当してもらう業務についての適性や能力を見極めることを主軸としなければなりません。

これらに関係のない事項を詮索することは、個人の人権を侵害し差別を生む結果をもたらします。

このことについては、次のように説明されています。

 

◆「職業選択の自由」すなわち「就職の機会均等」とは、誰でも自由に自分の適性・能力に応じて職業を選べるということですが、これを実現するためには、雇用する側が、応募者に広く門戸を開いた上で、適性・能力に基づいた基準による「公正な採用選考」を行うことが求められます。

 

◆また、日本国憲法(第14条)は、基本的人権の一つとして全ての人に「法の下の平等」を保障していますが、採用選考においても、この理念にのっとり、人種・信条・性別・社会的身分・門地などの事項による差別があってはならず、適性・能力に基づいた基準により行われることが求められます。

 

日本国憲法

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

日本国憲法第22条の「公共の福祉に反しない限り」というのは、自己の権利を行使するにあたって、他者の権利を大きく侵害しない限りという意味です。

自己の権利を行使するにあたって、他者の権利を大きく侵害することがあれば、それは権利の濫用であって許されないのです。

PAGE TOP