持病の悪化と労災認定

2024/02/07|1,346文字

 

<労災認定要件の特殊性>

一般的な労災認定の要件としては、業務遂行性と業務起因性の二つですが、持病が業務によって悪化した場合の労災認定の要件は、これに業務の過重負荷が加わります。

 

業務遂行性:労働者の病気が、使用者の支配下にある状態で発生したこと

業務起因性:労働者の病気と業務の間に相当因果関係があること

業務の過重負荷:業務が病気の発症の基礎となる病変などを自然経過を超えて著しく増悪させたこと

 

上記のうち「相当因果関係」というのは、その業務によってその病気が発生するのは自然なことであって、特別なことではないという関係をいいます。

また、「自然経過を超えて」というのは、普通に生活していて悪化するスピードを超えていることをいいます。

これらの要件を満たすかどうかは、事案によって判断が分かれる場合があります。持病の悪化について、労災認定を受けることができる可能性がある場合は、担当医師の判断を参考に、所轄の労働基準監督署の労災課に相談することをお勧めします。

労災保険の適用については、会社ではなく労働基準監督署が判断しますので、会社の方で安易に「持病だから労災保険は適用にならない」と即断してはいけません。

 

<労災認定を受けられる可能性のある持病の悪化事例>

持病の悪化について、労災認定を受けられる可能性のある事例には、次のようなものがあります。

・高血圧や糖尿病などの持病を有する従業員が、長時間労働や過度なストレスなどの業務負荷によって、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な症状を発症した場合。

・胃潰瘍や胃炎などの持病を有する従業員が、業務上の緊張や不規則な食生活などの業務負荷によって、胃出血や胃穿孔などの重篤な症状を発症した場合。

・腰痛やぎっくり腰などの持病を有する従業員が、重量物の運搬や長時間の同じ姿勢などの業務負荷によって椎間板ヘルニアや腰椎分離症などの重篤な症状を発症した場合。

これらの事例では、業務が持病の悪化の原因となっており、かつ、業務が相対的に有力な原因であることが認められる可能性があります。したがって、業務災害として労災認定を受けられる可能性が高いと考えられます。

 

<労災認定を受けられなかった場合の対処法>

労災認定の要件としての業務遂行性または業務起因性が欠けていると判断された場合でも、健康保険の加入者(被保険者)であって、しばらく仕事を休むことになった場合であれば、傷病手当金の支給対象となることが多いので、傷病手当金支給申請の手続きを進めることをお勧めします。

さらに、どうしても労災保険の手続きを進めたいという場合には、次のような不服申立の手続きが用意されています。

 

審査請求:労災認定の決定に不服がある場合、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことができます。審査請求の期限は、決定について知った日の翌日から3カ月以内です。

再審査請求:審査請求の結果に不服がある場合、労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができます。再審査請求の期限は、審査官の決定書の謄本が送付された翌日から2カ月以内です。

原処分の取消訴訟:再審査請求の結果に不服がある場合、地方裁判所に対して取消訴訟を提起することができます。取消訴訟の期限は、審査会の決定について知った日から6カ月以内です。

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