退職勧奨(退職勧告)に応じた意思表示の取消

2021/03/08|1,624文字

 

<本来は自由な退職勧奨>

「退職勧奨」と「退職勧告」は厳密に区別されず、ほとんど同視されています。

「勧奨」は、勧めて励ますことです。

「退職勧奨」の例としては、「あなたには、もっと能力があると思います。たまたま、この会社が向いていないだけです。他の会社では実力を発揮できるでしょう。退職について真剣に考えてみてください」といった内容になります。

「勧告」は、ある事をするように説いて勧めることです。

「退職勧告」の例としては、「入社以来ミスが多いことは、あなた自身も残念に思っているでしょう。まわりの社員も、ずいぶん親切に丁寧な指導をしてきましたが、これ以上はむずかしいと思われます。退職を考えていただけますか」といった内容になります。

このように、退職勧奨(勧告)は、会社側から社員に退職の申し出をするよう誘うことです。

これに応じて、社員が退職願を提出するなど退職の意思表示をして、会社側が了承すれば、労働契約(雇用契約)の解除となります。

退職勧奨(勧告)を受けた社員が、実際に退職の申し出をするかしないかは、本来は完全に自由なのですが、職場の慣習などにより、心理的に断り切れないこともあります。

 

<不当解雇となる場合>

このように退職勧奨(勧告)は、社員の意思を拘束するものではありません。

したがって、会社が自由に行えるはずのものです。

しかし、本人がキッパリと断った後も退職勧奨を続ける、長時間の退職勧奨を繰り返す、家族に働きかけるなど社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。

違法とされれば、退職が無効となりますし、会社に対して慰謝料の支払請求が行われることもあります。

会社から社員に退職勧奨を行い、これに快く応じてもらって円満退職になったと思っていたところ、代理人弁護士から内容証明郵便が会社に届き、不当解雇を主張され損害賠償請求が行われるということは少なくありません。

 

<詐欺を理由とする退職の意思表示の取消>

詐欺による意思表示は取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

詐欺を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・「会社の経営状況が思わしくなく、来月以降、給与の支払を約束できない」などの説明を受けたため、退職の意思表示をしたが、そこまで経営が悪化している事実は無かった場合。

・大規模なリストラを予定しているとの説明を信じ、退職の意思表示をしたが、リストラは行われず、むしろ新規採用が積極的に行われている場合。

・「自主的に退職願を提出しなければ懲戒解雇となる」という説明を信じ、退職願を提出したが、懲戒解雇に該当するような事実は無かった場合。

これらの場合に、詐欺罪〔刑法第246条〕が成立しなくても、民法上は詐欺を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

 

<強迫を理由とする退職の意思表示の取消>

強迫による意思表示も取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

強迫を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・大声を出したり、机を叩いたりしながら、パワハラ発言を交えて退職を迫られた場合。

・狭い会議室で、多数の社員に取り囲まれて退職勧奨された場合。

・休日に突然、自宅に押しかけてきて、退職を勧める話をされた場合。

これらの場合に、脅迫罪〔刑法第222条第1項〕が成立しなくても、民法上は強迫を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

ちなみに、刑法では「脅迫」、民法では「強迫」です。

 

<解決社労士の視点から>

退職勧奨(勧告)は、会社が自由に行えるとは言うものの、客観的に合理的な具体的理由が説明できない場合には、トラブルに発展する可能性が高いですから、行うべきではないのです。

むしろ、普通解雇を通告できるケースで、やんわりと退職勧奨(勧告)を検討するくらいの慎重さがあっても良いでしょう。

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