企業秘密を持ち出した社員への賠償請求

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<ニュースになった企業秘密持ち出し>

京セラ創業者の稲盛和夫氏が考案した「アメーバ経営」に関する企業秘密を不正に持ち出したとして、京都府警は1日、京セラの子会社「京セラコミュニケーションシステム」(京都市伏見区)元幹部の男(42)=大津市=を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)容疑で書類送検した。(5月1日毎日新聞)

 

<守秘義務の認識>

社員は、在職中だけでなく退職後にも、労働契約に付随する義務として当然に守秘義務を負っています。

しかし、このことは必ずしも社員一人ひとりに認識されているとは限りません。就業規則に具体的な規定を置くことはもちろん、守秘義務を負う社員からは、入社や異動の際に誓約書を取っておくことをお勧めします。

 

<賠償請求の困難性>

社員が営業秘密をもらしてしまった場合でも、損害賠償請求は困難ですし、その金額も限定されてしまいます。

賠償を請求する場合には、まず具体的な事実関係を確認する必要があります。ところが、これは大変時間のかかることですから、対象社員から十分に事情を聞く前に退職されてしまうことがあります。

また、事実関係が明らかになったとしても、損害の発生や損害額を証明することが大変困難です。

こうした場合に備えて、会社と社員との間で損害賠償額を予め決めておければ楽なのですが、これは労働基準法で禁止されていて、たとえ決めておいても無効になってしまいます。〔労働基準法16条〕

 

<不正競争防止法>

不正競争防止法には、損害賠償請求の規定があるのですが、この法律が保護の対象としている営業秘密は、範囲が限定されているため簡単には適用されません。

保護されるのは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」とされています。〔不正競争防止法2条6項〕

実際には、秘密管理性の要件に欠けるとして、この法律の保護が受けられないことが多いのです。なぜなら、秘密管理性の要件を満たすには、次のことが行われている必要があるからです。

・情報に接した者にその情報が営業秘密であると認識させていること

・情報に接する者が制限されていること

 

<刑事責任と民事責任>

企業機密を持ち出した社員が書類送検されたということは、国家権力による刑事責任の追及が始まったということです。

このことによって、企業の犯人に対する損害賠償の請求が可能になったわけではありません。

刑事責任と民事責任とは、必ずしも連動しないのです。

やはり、秘密がもれたかも知れないと気づいてから対応するのではなく、もれないようにするのが得策です。

そのために最も効果的なのは、定期的に社員研修を繰り返すことです。何か問題が発生してから1回だけ研修を行い、その後長く実施しなければ、会社の態度が見透かされてしまいます。ですから、少なくとも年1回は実施したいものです。

こうした研修は、社外の講師が行った方が効果的ですし、労働契約の性質、就業規則の意味、誓約書の効果といった深い話から順を追ってきちんと説明することが大事です。

 

2018.05.02.解決社労士