2025/03/21|1,688文字
<解雇は無効とされやすい>
解雇については、労働契約法に次の規定があります。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
この条文の中の「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」というのは、それぞれの会社の方針や世間一般の常識ではなく、裁判所の解釈が基準になります。
ですから、安易に懲戒解雇を行うのは危険です。
実際に発生している事実に照らして、関連する判例を数多く調べたうえで、懲戒解雇を検討しなければなりません。
多くの中小企業では、社外の専門家の手助けを必要とするでしょう。
<懲戒解雇の手順>
懲戒解雇が無効とされないためには、一般に次の手順を踏むことが必要になります。
1.口頭注意
何か不都合な行為を行った社員に対しては、口頭で注意を行います。
そして、注意の内容を文書化し本人に確認させます。
本人に署名してもらい、注意をした社員の上司の確認を得ます。
原本を会社が保管し、コピーを本人に渡します。
2.文書による注意
本人が口頭注意に従わない場合、反省していない場合には、文書による注意を行います。
この文書も口頭注意の場合と同じ手順を踏みます。
3.懲戒処分
文書による注意を行っても、本人がこれに従わず、あるいは反省していない場合には、懲戒解雇には至らない軽い懲戒処分を行います。
これを行うには、就業規則や労働条件通知書に解雇の具体的な定めがあることや、本人に弁解の機会を与えるなどの適正な手続が必要です。
4.懲戒解雇
上記の手順を踏んでも、本人が態度を改めず、会社に籍を置いておくことが会社にとって害悪をもたらす場合には、やむを得ず懲戒解雇に踏み切ることになります。
<証拠の品質>
上記の1.から4.までについて、きちんと証拠を残しておくことが、会社を守るためには大事なことです。
しかし、ただ証拠を残せば会社が裁判で勝てるというわけではありません。
証拠の品質が問題となります。
懲戒解雇の有効性を争う裁判には、民事訴訟法の次の条文が適用されます。
(自由心証主義)
第二百四十七条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
このことから、証拠の内容は具体的で、確かにそうした事実があったのだということを裁判官に納得させるものでなければなりません。
そして、懲戒解雇の有効性が争われた場合、その証拠からうかがわれる会社の態度も裁判官から見透かされてしまいます。
懲戒解雇の有効性を否定される会社の態度としては、次のようなものがあります。
・口頭注意や文書による注意の段階から、問題社員のレッテルを貼り懲戒解雇を決めていた。
・会社が親身になり本人の改善に協力的な態度を示しているとは認められない。
・本人が迷ったとき、相談したり指導を仰いだりする具体的な担当者を決めていなかった。
<円満解決>
たしかに、会社が問題社員に対して親身になって指導し、成長させ改善させるというのは現実には厳しい話です。
それでも、本当の問題社員であれば、そこまでされたら退職願を提出することでしょう。
なぜなら問題社員は、きちんと仕事をしようとか、成長して会社に貢献しようなどとは思っていませんから、会社側からこれを求められるのが一番つらいからです。
懲戒解雇の有効性を争われた場合と、退職願が提出された場合とでは、社員全体にもたらす影響に雲泥の差が生じます。
もちろん、クチコミによる社外への影響も無視できません。
経営者や人事担当者は、目の前の問題社員の態度に熱くなってはいけません。
どのような解決が会社にとってベストなのかを、冷静に見極めることが求められているのです。
<実務の視点から>
社内で問題行動が発生した時点で、将来の懲戒解雇を見据えた証拠集めが必要となります。
また、注意・指導の内容が不適切な場合には、パワハラや不当解雇の証拠が蓄積されてしまいます。
問題の火種が小さなうちに専門家に相談することをお勧めします。