フレックスタイム制を円滑に運用する条件

2021/05/09|1,959文字

 

<フレックスタイム制のイメージ>

フレックスタイム制では、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めるので、その労働者は次のように考えるかも知れないわけです。

朝、目覚めたとき「今日は出勤しようか、それとも休もうか」

起きてから「いつ出勤しようか」

家を出て通勤の途中で「やはり映画を観に行こうか」

会社に到着して仕事を始めてから「やる気が起きないから帰ろう」

しかし、これでは仕事が回りません。

労働基準法が、このような制度を法定した筈がありません。

 

<働き方改革の推進>

平成31(2019)年4月、働き方改革の一環で労働基準法が改正され、フレックスタイム制の清算期間の上限が1か月から3か月に延長されました。

もし、フレックスタイム制が現実離れした使い物にならない制度であれば、廃止されている筈ですが、労働者ひとり一人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための制度であり、働き方改革の趣旨に適っているため拡充されたのです。

実際、フレックスタイム制は生活と業務との調和が図れる便利な制度です。

 

<労働基準法の規定>

フレックスタイム制に関する労働基準法の規定は次の通りです。

 

第32条の3第1項 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

一 この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲

二 清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、三箇月以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)

三 清算期間における総労働時間

四 その他厚生労働省令で定める事項

 

ここで、条文にある「労働者」というのは、単数と複数を区別しない日本語の特性から「労働者たち」という意味であると考えられます。

そうであれば、業務開始時刻と業務終了時刻に使用者が介入してはならないということであって、業務都合と私生活とのバランスを考えつつ、労働者間で相談して決めることは差し支えないわけです。

このように考えても法の趣旨に反しませんし、むしろこのように考えないと運用が極めて困難になってしまいます。

個々の労働者が自分だけの考えで、始業・終業時刻を決めるというのは現実的ではありません。

やはり相談しながら決めることになります。

 

<フレックスタイム制の法的要件>

フレックスタイム制に関する条文は長いですが、法的要件は次のとおりです。

・業務開始時刻と業務終了時刻は労働者たちが決めることにして、これを就業規則などに定めます。

・一定の事項について、会社側と労働者側とで労使協定を交わし、協定書を保管します。

・清算期間が1か月を超える場合には、協定書を労働基準監督署長に届け出る必要があります。〔労働基準法第32条の3第4項→第32条の2第2項〕

 

<フレックスタイム制の運用条件>

上記の法的要件を満たせば、問題なく運用できるというわけではありません。

まず対象労働者は、業務都合と私生活とのバランスを考えて、業務開始時刻と業務終了時刻を自主的に決定できる人に限定する必要があります。

対象者は、特定の部署の全員あるいはその一部とすることもできますし、1人だけにすることもできます。

対象となる労働者が複数であれば、各個人の業務開始時刻と業務終了時刻について協議のうえ決定できるメンバーである必要があります。

また、各個人の業務開始時刻と業務終了時刻は前もって決定し、自部署と関連部署で情報共有する必要があります。

変更があった場合には、タイムリーに情報共有できる必要があります。

無料のスケジュール共有ツールを利用して、スマートフォンでチェックできるようにすれば便利です。

 

<解決社労士の視点から>

まずは、清算期間1か月のフレックスタイム制でワークライフバランスや生産性の向上を目指すことをお勧めします。

上手くいかないときは、対象労働者の中に制度活用の難しいメンバーがいないか、情報共有が不十分ではないかの2点をチェックし、必要に応じ労使協定の内容を見直してはいかがでしょうか。

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