2023/08/08|1,260文字
<労働問題の責任>
労働問題について責任が問われる場合、会社の責任とは別に、取締役個人の責任が問題となります。
また、刑罰が科される刑事責任の側面と、損害賠償など金銭解決が中心となる民事責任の側面とがあります。
<取締役の刑事責任>
たとえば、労働基準法第32条第1項は「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」と定めています。
この禁止に違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科されるという罰則があります〔労働基準法第119条第1号〕。
罰則があるということは、刑事責任の問題となります。
そして、労働基準法第32条第1項が「使用者は」と定めているので、刑事責任を負うのは「使用者」です。
この「使用者」については、労働基準法第10条に定義があり、「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とされています。
具体的に「使用者」に該当するのは、会社そのものの他、代表取締役、人事労務関係を管掌する取締役、人事部長、人事課長など、労働者に関する事項について権限を有する者が含まれることになります。
このことについて、労働基準法第121条第1項は、「この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をした代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する」としています。
結論として、人事労務管理について権限・責任のある取締役は、刑事責任を負う立場にあるということになります。
<取締役の民事責任>
民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
この責任を不法行為責任といいます。
また、会社法第429条第1項は、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
たとえば、会社の従業員が、上司からのパワハラにより急性のうつ病を発症して自殺したとします。
もし、代表取締役や人事管掌取締役が、パワハラ防止の適切な管理体制を構築していなかったならば、その落ち度について、民法第709条の不法行為責任を負うことになります。
また、取締役がパワハラを認識し、あるいは容易に認識しえたにもかかわらず、きちんとした対策を取らなかったのであれば、故意または重大な過失により損害を生じさせたことについて、会社法第429条第1項の責任を負うことになります。
どちらも、遺族から損害賠償を求められる形で、責任を負わされることになります。
以上のように、取締役が、その業務について責任を問われる場合には、会社や株主から責任を追求されるだけでなく、刑罰を科されたり、被害者側から個人的な賠償責任を追求されたりすることもあるわけです。