故意・過失のバランス(懲戒規定)

2023/11/16|1,137文字

 

<故意と過失>

同じく他人にケガを負わせた場合でも、意図的に殴りかかった結果なら傷害罪になりますし、人ごみで高齢者にうっかりぶつかって転倒させた結果なら過失傷害罪となりえます。

故意のある傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い法定刑なのに対して、過失傷害罪は「30万円以下の罰金または科料」で、しかも告訴がなければ公訴を提起されません。〔刑法第204条、第209条〕

同じ結果が発生した場合でも、わざと行ったのなら重く処罰され、うっかりなら軽く処罰されるのは、その危険性や行為に対する世間一般の非難のレベルが大きく異なるからです。

 

<懲戒規定>

会社の懲戒規定は、社内の刑法ともいうべきものですから、故意による行為は過失による行為よりも重い処分になるのが当然です。

ところが、「会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え(以下略)」というように、故意によるものと過失によるものを区別せず、1つの条文で定めていることがあります。

これでは適切な懲戒処分を行いにくいので、場合を分けて規定すべきでしょう。

 

<過失なら懲戒の対象外か>

大手鉄道会社が、大規模な事故を起こした運転手について、「過失なので懲戒処分を行わない」という発表をしたことがあります。

徹底的な再教育と適正な人事考課で対応するということでした。

なるほど、過失による行為は「悪いことをした」というよりも、適切な行動をとるための「注意力など能力が足りない」という評価のほうが正しいのかもしれません。

ミスを繰り返す社員に懲戒処分を繰り返しても効果は期待できません。

むしろ、教育研修が大事ですし、能力と貢献度に見合った処遇をするための人事考課制度が必要でしょう。

ただ、上場企業が「うちの会社は過失なら懲戒処分しません」と宣言してしまうのは、被害者が出た場合の本人・家族や世間一般の批判にさらされることになって危険だと思います。

 

<重過失>

普通の人ならありえないような極端な不注意で、わずかな注意を払うだけで結果の発生を防げたハズの過失を、一般の過失と区別して「重過失」と呼ぶことがあります。

正常な人であれば、重過失を繰り返すということは考えにくいです。

また、重過失には故意と同程度の危険があり、非難の程度もハイレベルですから、懲戒処分によって反省と改善を求める必要性は高いのです。

このことから「故意または重過失により(以下略)」という規定も、多く見られますし妥当だと思います。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

会社の就業規則に定めてある懲戒規定がおかしいので改善したい、あるいは、いざ懲戒処分を行おうとしたら迷いが生じたということであれば、ぜひ、刑法が得意な信頼できる社労士にご相談ください。

PAGE TOP