ダブルワークを理由とする懲戒処分・解雇

2022/07/02|1,924文字

 

<公務員の場合>

公務員が得る報酬の財源は税金ですから、重い職務専念義務が課されています。

ですから、ほとんどの場合はダブルワーク禁止です。

親から相続したマンションを経営して収入を得ているのがダブルワークにあたるという理由で、辞めさせられるという実例もありました。

 

<民間企業の場合>

民間企業では、会社が給与を支払っています。

その給与の財源は税金ではありません。

ですから、社員が自社の職務に専念しなかったり、ダブルワークをしたりということに対して、厳しい態度を取る必然性はありません。

 

<ダブルワークの理由>

ダブルワークを希望する人の中には、今の収入では足りないので、より多くの収入を得るために別の仕事をしなければならないと言う人がいます。

こうした人たちは、会社が給料を上げてくれれば、ダブルワークの必要などないと考えています。

しかし中には、別の仕事もしてみたい、家業を手伝いたい、別の分野で自分の能力を高めたい、将来の独立に向けて準備したいなど考えている人もいます。

働き方改革の流れで、政府は副業・兼業を推奨していますから、ダブルワークを希望する人は今後も増えるでしょうし、企業も対応を迫られています。

 

<ダブルワーク禁止の理由>

会社としては、社員が別の会社で働くと、体力・精神力を消耗して疲れてしまい、自分の会社で充分な働きができないのではないかという不安があります。

実際に、そうしたケースがあるのも事実です。

また、社員がライバル会社で働いたら、会社の機密が漏れるかもしれません。

ただ、これは会社の重要な情報を握る立場にある人限定で考えればよいことです。

社員一般にあてはまる話ではありません。

むしろ、女性社員が性風俗店でアルバイトしたら、会社の評判が落ちるのではないか、さらには男性社員でも違法カジノでアルバイトしたら、摘発されたとき自分の会社の名前もマスコミに報道されるのではないか。

こうした不都合が発生することを恐れて、会社としてはダブルワークを禁止したいのです。

平成31(2019)年3月に改定された時点で、モデル就業規則の規定は次のようになりました。

これを参考に、社内規定を調えてはいかがでしょうか。

 

【副業・兼業】

第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

 

<ダブルワーク禁止の有効性>

就業規則で「ダブルワーク禁止」としたり、社員に「ダブルワークしません」という念書を提出してもらったりした場合、これらは有効なのでしょうか。

基本的には、憲法が職業選択の自由を保障していますから、原則として効力がないということになります。

では、就業規則や労働条件通知書にダブルワークをした場合の懲戒処分や解雇の規定を置いたら、その効力はどうなのでしょうか。

この場合には、ダブルワークのすべてについて有効になるというわけではありません。

実際に有効とされるためには、次の2つの条件をクリアする必要があります。

 

・具体的なダブルワークの中身が会社に大きな不都合をもたらし、懲戒処分や解雇をすることについて、客観的な合理性が認められること

・懲戒処分や解雇をすることについて、社会一般の常識から考えても仕方のないケースだといえること

 

これらの条件は、労働契約法第15条・第16条によるものです。

 

<留学生の場合>

ちなみに留学生の場合には、勉強のために入国しているのですから、アルバイトなどの活動は、本来の入国目的とは異なるということで制限されています。

留学生は資格外活動許可を受けた場合に限り、アルバイトを行うことができます。

一般的に、アルバイト先が風俗営業または風俗関係営業が含まれている営業所でないことを条件に、1週28時間以内を限度として勤務先や時間帯を特定することなく、包括的な資格外活動許可が与えられます。

また、在籍する大学などの長期休業期間は、1日8時間以内に延長されます。

そして、資格外活動の許可を受けずに、あるいは条件を超えてアルバイトに従事した場合は不法就労となります。

ですから、夏休みなど長期休暇を除けば、留学生がダブルワークをするというのは難しいでしょう。

留学生が国外退去処分になったり、会社が営業停止処分になっては困りますから。

 

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