通勤災害の加害者になると…

2026/03/24|1,079文字

 

通勤災害は「労働者が被災者」になるケースを想定して語られることが多いのですが、労働者が通勤途中に交通事故の加害者となる場合には、労災保険とは別の法的責任が発生します。企業としても、使用者責任や保険対応の有無など、整理しておくべき論点が多い領域です。

 

<労災保険は「加害者側の損害」を補償しない>

まず大前提として、労災保険は労働者の被災による損害を補償する制度であって、加害者が負う賠償責任は労災保険の対象外だということです。

したがって、労働者が通勤中に他人に損害を与えた場合、労災保険は賠償について一切補償しません。

 

<加害者となった労働者が負う法的責任>

通勤途中の事故で他人に損害を与えた場合、労働者は次の責任を負います。

  • 民事上の損害賠償責任(民法第709条)

・人身事故:治療費、休業損害、慰謝料など

・物損事故:車両修理費、代車費用など

自動車保険(任意保険)の適用もありますが、無保険・保険未加入・補償不足の場合は本人が自己負担となります。

  • 刑事責任(過失運転致傷など)

・罰金刑や行政処分(免許停止・取消)

・企業としては直接の負担はないが、就業継続に影響する可能性あり

 

<企業が負う可能性のある責任>

通勤災害の加害者となった場合、企業が責任を負うかどうかは、事故が「業務の一環」と法的に評価されるかがポイントです。

❌ 通常の通勤 → 企業に使用者責任は発生しない

民法第715条の使用者責任は「事業の執行について」発生します。

通勤は原則として、労働者の私的行為であり、事業の執行とは評価されないため、企業は賠償責任を負いません。

⭕ 例外:企業の指示・業務性が強い場合

以下のようなケースでは、通勤ではなく「業務」と評価され、企業に使用者責任が及ぶ可能性があります。

・直行直帰で、企業が訪問先・時間を具体的に指示

・社用車を使用して移動(外形的に業務と判断される)

・出張中の移動

・業務上の緊急呼び出しに応じて移動中

この場合、企業が被害者への賠償責任を負う可能性があるため、「通勤か業務か」の線引きを慎重に判断する必要があります。

 

<労働者本人の経済的負担>

労働者が加害者となった場合、次のような負担が発生します。

① 損害賠償(任意保険でカバーされない部分)

・保険未加入の場合は全額自己負担

・補償限度額を超えた場合も自己負担

② 刑事罰・行政処分

・罰金

・免許停止・取消

→ 業務に車を使う職種では就業継続に影響

③ 自身のケガは労災で補償される

加害者であっても、通勤災害としての労災給付は受けられる点は重要です。

ただし、被害者への賠償、刑事罰、行政処分は労災とは無関係に発生します。

PAGE TOP