競業避止義務

2024/02/11|1,958文字

 

<競業避止義務とは>

競業避止義務とは、会社の労働者や取締役が、自分が所属する会社と競合する会社などに転職したり、自ら競合する会社を設立したりするなどの競業行為を行ってはならないという義務のことです。

 

<競業避止義務の法的根拠と種類>

競業避止義務は、在職中の労働者は労働契約における信義誠実の原則、取締役は会社法の利益相反取引の定めにより負うとされています。

退職後も競業避止義務を課す場合は、職業選択の自由の観点から、就業規則や労働契約などに必要かつ合理的な範囲で明示されているか、個別契約などによる合意の必要があります。

競業避止義務の種類は、在職中の競業避止義務と退職後の競業避止義務に分けられます。在職中の競業避止義務は、自社と競合する会社に就職したり、自ら競合する事業を営んだりしない義務です。退職後の競業避止義務は、退職後も一定期間、一定地域、一定範囲の競業行為を行わないことを約束する義務です。

 

<競業避止義務の有効性を判断する基準>

競業避止義務は、会社の利益の保護と労働者や取締役の職業選択の自由のバランスを考慮して、必要かつ合理的な範囲で課されるべきものです。

競業避止義務の特約が、合理性を欠き公序良俗に反するときは無効とされます。

競業避止義務の有効性は、会社の守るべき利益、地位や業務内容、競業避止義務の範囲や期間、代償措置の有無などから総合的に判断されます。

具体的な基準としては、以下の6つが挙げられます。

 

・守るべき会社の利益があるかどうか

・競業避止義務を課すことが必要な地位であるかどうか

・地域的な限定があるかどうか

・競業避止義務の存続期間が適切かどうか

・禁止される競業行為の範囲が明確かどうか

・代償措置が講じられているかどうか

 

これらの基準は、訴訟では裁判所によって具体的に検討されており、業種や業務の性質、労働者の経験や能力、会社のノウハウや秘密情報など、個別の事情に応じて判断されます。

 

<競業避止義務の期間と地域>

競業避止義務の期間と地域は、退職者の職業選択の自由や営業の自由に対する制限が必要最小限度に留まるように、合理的に限定されるべきです。

競業避止義務の期間は、一般には1~2年が限度と考えられます。期間が長すぎると、退職者の再就職や独立の機会を過度に奪うことになります。

競業避止義務の地域は、会社の事業展開地域や競合他社の存在地域などを考慮して、適切に設定されるべきです。地域が広すぎると、退職者の活動範囲を不当に制約することになります。

 

<競業避止義務の代償措置>

競業避止義務の代償措置とは、退職後も一定期間、一定地域、一定範囲の競業行為を行わないことを約束する義務に対して、会社が労働者や取締役に支払う金銭や物品などの措置のことです。

競業避止義務の代償措置は、競業避止義務の有効性を判断する際の重要な要素の一つです。代償措置がある場合は、競業避止義務が職業選択の自由や営業の自由をある程度制約することの対価として認められます。

代償措置の内容や額は、競業避止義務の内容や範囲、労働者や取締役の地位や能力、会社の利益や損害などを考慮して、個別に決められます。

代償措置には、在職中の手当や報酬の上乗せ、退職金の割増、就職支援や独立支援などがあります。

代償措置がない場合は、競業避止義務の有効性が否定される可能性が高くなります。ただし、代償措置がなくても、競業避止義務の内容や範囲が限定的であれば、有効と認められる場合もあります。

 

<競業避止義務の違反とその対処>

競業避止義務の違反とは、在職中や退職後に、労働契約や就業規則などで定められた競業避止義務に反して、自社と競合する会社や事業に就職したり、開業したりすることです。

競業避止義務の違反に対する対処とは、会社が違反した労働者や取締役に対して、以下のような措置をとることです。

◯退職金の支給制限

退職金の一部や全額を支払わないことで、競業避止義務の代償措置を取消すことができます。ただし、退職金の支給制限は、退職金の支給条件や競業避止義務の内容が明確に定められている場合に限ります。

◯損害賠償の請求

競業避止義務の違反によって、会社が実際に損害を被った場合や、損害を被るおそれがある場合に、違反した労働者や取締役に対して、損害の賠償を請求することができます。損害賠償の請求額は、会社の営業秘密やノウハウの価値、競業行為による利益や売上の減少、競業行為の期間や範囲などを考慮して、具体的に算定されます。

◯競業行為の差し止め請求

競業避止義務の違反によって、会社が損害を被るおそれがある場合に、違反した従業員や取締役に対して、競業行為を中止することを求めることができます。競業行為の差し止め請求は、裁判所に仮処分や訴訟を申し立てることで行われます。

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