ワーク・ライフ・バランスが目指すもの

2021/09/17|3,667文字

 

今から10年以上も前、平成192007)年1218日に、関係閣僚、経済界・労働界・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」で、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されました。

改めて読み返してみると、政府が推進してきたことの意図、これからさらに強化していく政策が読み取れます。

政府の方針に逆らった経営は、どの企業にとっても得策ではありません。

今一度、この内容を確認してみてはいかがでしょうか。

 

 

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章

 

我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。

 

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

 

仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。

 

そのような社会の実現に向けて、国民一人ひとりが積極的に取り組めるよう、ここに、仕事と生活の調和の必要性、目指すべき社会の姿を示し、新たな決意の下、官民一体となって取り組んでいくため、政労使の合意により本憲章を策定する。

 

仕事は、暮らしを支え、生きがいや喜びをもたらす。同時に、家事・育児、近隣との付き合いなどの生活も暮らしには欠かすことはできないものであり、その充実があってこそ、人生の生きがい、喜びは倍増する。

 

しかし、現実の社会には、

•安定した仕事に就けず、経済的に自立することができない、

•仕事に追われ、心身の疲労から健康を害しかねない、

•仕事と子育てや老親の介護との両立に悩む

など仕事と生活の間で問題を抱える人が多く見られる。

 

その背景としては、国内外における企業間競争の激化、長期的な経済の低迷や産業構造の変化により、生活の不安を抱える正社員以外の労働者が大幅に増加する一方で、正社員の労働時間は高止まりしたままであることが挙げられる。他方、利益の低迷や生産性向上が困難などの理由から、働き方の見直しに取り組むことが難しい企業も存在する。

 

さらに、人々の生き方も変化している。かつては夫が働き、妻が専業主婦として家庭や地域で役割を担うという姿が一般的であり、現在の働き方は、このような世帯の姿を前提としたものが多く残っている。

 

しかしながら、今日では、女性の社会参加等が進み、勤労者世帯の過半数が、共働き世帯になる等人々の生き方が多様化している一方で働き方や子育て支援などの社会的基盤は必ずしもこうした変化に対応したものとなっていない。また、職場や家庭、地域では、男女の固定的な役割分担意識が残っている。

 

このような社会では、結婚や子育てに関する人々の希望が実現しにくいものになるとともに、「家族との時間」や「地域で過ごす時間」を持つことも難しくなっている。こうした個人、家族、地域が抱える諸問題が少子化の大きな要因の1つであり、それが人口減少にも繋がっているといえる。

 

また、人口減少時代にあっては、社会全体として女性や高齢者の就業参加が不可欠であるが、働き方や生き方の選択肢が限られている現状では、多様な人材を活かすことができない。

 

一方で働く人々においても、様々な職業経験を通して積極的に自らの職業能力を向上させようとする人や、仕事と生活の双方を充実させようとする人、地域活動への参加等をより重視する人などもおり、多様な働き方が模索されている。

 

また、仕事と生活の調和に向けた取組を通じて、「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現に取り組み、職業能力開発や人材育成、公正な処遇の確保など雇用の質の向上につなげることが求められている。ディーセント・ワークの推進は、就業を促進し、自立支援につなげるという観点からも必要である。

 

加えて、労働者の健康を確保し、安心して働くことのできる職場環境を実現するために、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス対策等に取り組むことが重要である。

 

いま、我々に求められているのは、国民一人ひとりの仕事と生活を調和させたいという願いを実現するとともに、少子化の流れを変え、人口減少下でも多様な人材が仕事に就けるようにし、我が国の社会を持続可能で確かなものとする取組である。

 

働き方や生き方に関するこれまでの考え方や制度の改革に挑戦し、個々人の生き方や子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な働き方の選択を可能とする仕事と生活の調和を実現しなければならない。

 

個人の持つ時間は有限である。仕事と生活の調和の実現は、個人の時間の価値を高め、安心と希望を実現できる社会づくりに寄与するものであり、「新しい公共」の活動等への参加機会の拡大などを通じて地域社会の活性化にもつながるものである。また、就業期から地域活動への参加など活動の場を広げることは、生涯を通じた人や地域とのつながりを得る機会となる。

 

(「新しい公共」とは、行政だけでなく、市民やNPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉などの身近な分野で活躍することを表現するもの。)

 

仕事と生活の調和の実現に向けた取組は、人口減少時代において、企業の活力や競争力の源泉である有能な人材の確保・育成・定着の可能性を高めるものである。とりわけ現状でも人材確保が困難な中小企業において、その取組の利点は大きく、これを契機とした業務の見直し等により生産性向上につなげることも可能である。こうした取組は、企業にとって「コスト」としてではなく、「明日への投資」として積極的にとらえるべきである。

 

以上のような共通認識のもと、仕事と生活の調和の実現に官民一体となって取り組んでいくこととする。

 

1 仕事と生活の調和が実現した社会とは、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」である。

具体的には、以下のような社会を目指すべきである。

 

1. 就労による経済的自立が可能な社会

 経済的自立を必要とする者とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて、暮らしの経済的基盤が確保できる。

 

2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会

 働く人々の健康が保持され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動への参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。

 

3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会

 性や年齢などにかかわらず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されており、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた状況に応じて多様で柔軟な働き方が選択でき、しかも公正な処遇が確保されている。

 

2 このような社会の実現のためには、まず労使を始め国民が積極的に取り組むことはもとより、国や地方公共団体が支援することが重要である。既に仕事と生活の調和の促進に積極的に取り組む企業もあり、今後はそうした企業における取組をさらに進め、社会全体の運動として広げていく必要がある。

 

そのための主な関係者の役割は以下のとおりである。また、各主体の具体的取組については別途、「仕事と生活の調和推進のための行動指針」で定めることとする。

 

取組を進めるに当たっては、女性の職域の固定化につながることのないように、仕事と生活の両立支援と男性の子育てや介護への関わりの促進・女性の能力発揮の促進とを併せて進めることが必要である。

 

(1)企業とそこで働く者は、協調して生産性の向上に努めつつ、職場の意識や職場風土の改革とあわせ働き方の改革に自主的に取り組む。

 

(2)国民の一人ひとりが自らの仕事と生活の調和の在り方を考え、家庭や地域の中で積極的な役割を果たす。また、消費者として、求めようとするサービスの背後にある働き方に配慮する。

 

(3)国民全体の仕事と生活の調和の実現は、我が国社会を持続可能で確かなものとする上で不可欠であることから、国は、国民運動を通じた気運の醸成、制度的枠組みの構築や環境整備などの促進・支援策に積極的に取り組む。

 

(4)仕事と生活の調和の現状や必要性は地域によって異なることから、その推進に際しては、地方公共団体が自らの創意工夫のもとに、地域の実情に応じた展開を図る。

短期間での年次有給休暇取得義務

2021/09/16|1,117文字

 

1時間単位の年次有給休暇

 

<年5日の年次有給休暇の確実な取得>

年次有給休暇は、働く人の心身のリフレッシュを図ることを目的として、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされています。

しかし、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から、取得率が50%前後と低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっています。

このため労働基準法が改正され、平成31(2021)年4月から、すべての企業で、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。

 

<取得義務の例外>

休職中は労働義務がありません。

労働義務が無い日について、年次有給休暇を取得する余地はありませんから、休職期間に年次有給休暇を取得することはできません。

法令には規定がありませんが、同趣旨の通達があります(昭和31.2.13基収489号)。

これは、就業規則で毎年三が日が休日の企業で、三が日に年次有給休暇を取得できないのと同じです。

したがって、休職期間を年次有給休暇の残日数分だけ延長ということもありません。

例えば、基準日前から次の基準日後まで、1年以上にわたって休職していて、期間中に一度も復職しなかった場合には、使用者にとって義務の履行は不可能です。

こうした場合には、法違反を問われることはありません。

 

<取得義務の履行が困難なケース>

次の基準日までの日数が少ないタイミングで、休職や育児休業などから復帰した場合には、年次有給休暇を取得できる労働日が少ないので、取得義務を果たすのが難しくなります。

しかし、この場合でも、年5日の年次有給休暇を取得させうる労働日がある場合には、年次有給休暇を取得させる義務を免れることはできません。

半日単位の年次有給休暇を取得してもらうなど、工夫して義務を果たすことになります。

仕事の進捗に問題が発生するような場合には、年次有給休暇の取得義務を果たしつつ、休日出勤を命ずるという裏技を使うこともあるでしょう。

なお、次の基準日までの日数が極端に少なく、取得させるべき年次有給休暇の残日数が、次の基準日の前日までの労働日の日数を超える場合には、「年5日」を達成できなくても、その労働日のすべてを年次有給休暇に充てることで足ります。

 

<解決社労士の視点から>

上記のように、かなり厳しい状況に追い込まれる可能性があります。

休職や育児休業などが見込まれた時点で、前もって年次有給休暇を取得しておいてもらったり、復帰後の年次有給休暇取得を勤務予定に組み込んだりと、年次有給休暇の取得義務を見据えた勤務計画を立てておく必要があるでしょう。

年次有給休暇を取得したら皆勤手当を支給しなくても良いか

2021/09/15|1,064文字

 

<年次有給休暇取得権の保護>

使用者が、年次有給休暇の取得を妨害する措置をとっても構わないのであれば、労働者の権利は容易に侵害されてしまいます。

こうした事態を防ぐため、労働基準法には次の規定が置かれています。

 

第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

 

この規定の最後の「しないようにしなければならない」という言い回しが曲者(くせもの)です。

こうした言い回しは、使用者の「努力義務」を規定しているものとされます。

違反しても、刑事罰や過料等の法的制裁を受けない程度の義務であって、一定の努力を示せば良いとされるものです。

ですから、正面から年次有給休暇の取得を妨害するような露骨な措置をとれば、この努力義務違反となりうるのですが、全く別の目的からとられた措置であって、年次有給休暇の取得を抑制する効果が小さければ、許されることもあるのです。

 

<「努力義務」違反の例>

年次有給休暇を取得した日について欠勤扱いとし、給与計算で欠勤控除とする措置は、労働基準法第136条に違反します。

給与計算のうえで、年次有給休暇を取得しても、欠勤した場合と同じ効果しか無いのであれば、年次有給休暇を労働者の権利とした意味がありません。

また、賞与の査定の際に、年次有給休暇の取得日数に応じたマイナス評価をして、取得日数分の給与に相当する金額を賞与から控除するような措置も、同様の理由から労働基準法第136条に違反します。

 

<「努力義務」違反にはならない例>

労働基準法第136条違反が争われた沼津交通事件では、最高裁判所が次のような判断を示しています。(平成5(1993)625日)

 

タクシー会社では、乗務員の出勤率が低下して自動車の実働率が下がることを防止する目的で、皆勤手当の制度を採用することがある。

この会社では、年次有給休暇と欠勤を合わせて1日であれば減額した皆勤手当てを支給し、2日以上であれば支給しないという運用をしていたが、皆勤手当の金額は最大でも給与の1.85%に過ぎなかった。

このように、この会社の皆勤手当は年次有給休暇の取得を抑制する目的を持たず、また、その金額からも年次有給休暇の取得を抑制する効果を持つものではないので、労働基準法第136条に違反しない。

 

労働者の権利である年次有給休暇の取得を抑制しうる措置の導入を考える場合には、その目的と効果を具体的に検証したうえで実施する必要があるということです。

障害者雇用率の計算方法

2021/09/04|779文字

 

<法定雇用率の引き上げ>

民間企業における障害者の法定雇用率は、段階的に引き上げられ、令和3(2021)年3月1日からは2.3%となっています。

事業主ごとの障害者雇用率は、原則として、次のように計算されます。

障害者の実雇用率 = 障害者である労働者の数 ÷ 労働者の数

 

<労働者の数>

障害者の実雇用率を計算するときの「労働者」は、常時雇用している労働者(常用労働者)をいいます。

常用労働者に当てはまるのは、1年以上継続して雇用されている人と、1年以上継続して雇用される見込みの人のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上の人です。これには、障害者も含みます。

ただし、1週間の所定労働時間が30時間以上の人は、1人をそのまま1人と数えますが、20時間以上30時間未満の人は、1人を0.5人として数えます。

ここで、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の人を「短時間労働者」と呼びます。

このように、障害者の実雇用率を計算するときには、1年以上の継続雇用を前提として、1週間の所定労働時間で区分しますから、正社員、パート社員、アルバイトなどの区分をそのまま当てはめられないことになります。

 

<障害者である労働者の数>

障害者には、身体障害者だけでなく、知的障害者、精神障害者を含めて数えます。

身体障害者と知的障害者のうち重度の人を「重度障害者」と呼びます。

たとえば、身体障害者障害程度等級表の1~2級に該当、もしくは3級に該当する障害を2以上重複していることで2級とされる人は「重度身体障害者」です。

この重度障害者の場合には、短時間労働者なら1人をそのまま1人と数えます。短時間労働者でなければ、1人を2人と数えます。

また、重度障害者ではない障害者の場合には、短時間労働者なら1人を0.5人として数えます。短時間労働者でなければ、1人をそのまま1人と数えます。

DV被害者の生計同一認定要件

2021/09/13|1,549文字

 

<DV被害者の生計同一認定要件>

配偶者からの暴力の被害者の場合、暴力を避けるために一時的な別居が必要になる場合があります。

こうした状況下で、加害配偶者が死亡した場合には、一般的な基準で遺族年金等の生計同一認定要件を判断したのでは、妥当性を欠くことになります。

そこで、具体的な事情を踏まえた判断基準が適用されることとなっています。

この判断基準は改定が重ねられていますが、令和3(2021)年10月1日からの新基準では、次のようになっています。

 

1.被保険者(加害配偶者)等の死亡時において、以下のAからEまでのいずれかに該当するために被保険者等と住民票上の住所を異にしている者については、DV被害者であるという事情を勘案して、被保険者等の死亡時という一時点の事情のみならず、別居期間の長短、別居の原因やその解消の可能性、経済的な援助の有無や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して、遺族年金の受給権者に該当するかどうかを判断します。

 

A 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)に基づき裁判所が行う保護命令に係るDV被害者であること。

B 婦人相談所、民間シェルター、母子生活支援施設等において一時保護されているDV被害者であること。

C DVからの保護を受けるために、婦人保護施設、母子生活支援施設等に入所しているDV被害者であること。

D DVを契機として、秘密保持のために基礎年金番号が変更されているDV被害者であること。

E 公的機関その他これに準ずる支援機関が発行する証明書等を通じて、AからDまでの者に準ずると認められるDV被害者であること。

 

2. 1.のA、B、C及びEに該当するかどうかについては、裁判所が発行する保護命令に係る証明書、配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書(「配偶者からの暴力を受けた者に係る国民年金、厚生年金保険及び船員保険における秘密の保持の配慮について」(平成19 年2月21日庁保険発第 0221001 号)の別紙1をいう。)、住民基本台帳事務における支援措置申出書(相談機関等の意見等によってDV被害者であることが証明されているものに限る。)の写し又は公的機関その他これに準ずる支援機関が発行する証明書を通じて、確認を行う。なお、1.のDに該当する場合は、証明書を通じた確認は不要とする。

 

3. DV被害に関わり得る場合であっても、一時的な別居状態を超えて、消費生活上の家計を異にする状態(経済的な援助も、音信も訪問もない状態)が長期間(おおむね5年を超える期間)継続し固定化しているような場合については、原則として、平成23年通知3⑴①ウ(イ)に該当していないものとして取り扱う。ただし、長期間(おおむね5年を超える期間)となった別居期間において、経済的な援助又は音信や訪問が行われている状態に準ずる状態であると認められる場合には、この限りではない。

 

4. 1.から3.までの規定により生計同一認定要件の判断を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合にあっては、1.から3.までの規定にかかわらず、当該個別事案における個別の事情を総合的に考慮して、被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていたかどうかを個別に判断する。

 

<解決社労士の視点から>

家庭内暴力から逃れるために別居していても、公的機関などの支援を受けないと、DV被害者であることの証明ができません。

また、配偶者が死亡した場合にも、自動的に通知が届くわけではありませんから、定期的に確認する必要はあるわけです。

従業員や求人への応募者が、こうした状況にあるとの情報を得たら、これらの点についてアドバイスしておくべきでしょう。

労働者が会社に無断で年次有給休暇を使ってしまうケース

2021/09/12|1,067文字

 

<年次有給休暇は事前の請求が原則>

労働者が年次有給休暇を取得するときには、休む日を指定します。

これが、労働者の時季指定権の行使です。〔労働基準法第39条第5項本文〕

休む日を指定して取得するということは、事前に請求するということになります。

そして、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は労働者に対して、休む日を変更するように請求できます。

つまり、会社は時季変更権を行使することができます。〔労働基準法第39条第5項但書〕

労働者が会社の時季変更権を侵害しないようにするためにも、年次有給休暇の取得は事前請求が原則です。

 

<恩恵としての年次有給休暇への振替>

例外的に、事後の申請により私傷病欠勤を年次有給休暇に振り替える規定を就業規則に置いている会社もあります。

これは、労働基準法の定めを上回る権利を労働者に認める規定ですから、このような規定を置く/置かないは会社の自由です。

そして、どのような手続によって振り替えを認めるか、また会社の承認を必要とするかしないかも、会社の判断で自由に定めることができます。

 

<申請だけで振替ができる規定の場合>

労働者が所定の用紙に必要事項を記入して会社に提出すれば、欠勤を年次有給休暇に振り替えることができるという規定ならば、花粉症であれ腹痛であれ、それなりの理由があれば振り替えることができてしまいます。

会社としては、無断で年次有給休暇を使われたという印象を受けるかもしれません。

しかし、就業規則の規定に従って年次有給休暇の振り替えを行った以上、会社がこれを否定したり、非難したり、マイナスに評価するということはできません。

 

<会社の承認を得て振り替えができる規定の場合>

私傷病欠勤が、やむを得ない欠勤であると認められる場合に限り、年次有給休暇に振り替えることができるという規定にしておけば、インフルエンザや急性胃腸炎を理由に上司の承認を得て振り替えが認められるし、花粉症や単なる腹痛であれば、勤務不能とまではいえない欠勤なので、年次有給休暇に振り替えることはできないという運用が可能です。

 

<解決社労士の視点から>

就業規則の規定に従って、労働者が無断で年次有給休暇を取得してしまったと嘆いたり批判したりではなく、就業規則の不備を反省すべきです。

就業規則の規定は、労働契約の内容となります。

会社が就業規則に定めたことは、会社の労働者に対する約束になります。

想定外の運用をされてしまったと嘆く前に、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けたうえで、就業規則の具体的な内容を決定してはいかがでしょうか。

会社が労働者に無断で年次有給休暇を使ってしまうケース

2021/09/11|1,175文字

 

<年次有給休暇は事前の請求が原則>

労働者が年次有給休暇を取得するときには、休む日を指定します。

これが、労働者の時季指定権の行使です。〔労働基準法第39条第5項本文〕

休む日を指定して取得するということは、事前に届け出るということになります。

そして、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は労働者に対して、休む日を変更するように請求できます。

つまり、会社は時季変更権を行使することができます。〔労働基準法第39条第5項但書〕

労働者が会社の時季変更権を侵害しないようにするためにも、年次有給休暇の取得は事前請求が原則です。

しかし、会社側は時季指定権を持っていませんから、休む日を勝手に決めることはできません。

ただし労使の合意によって、次の「計画的付与制度」を使うことはできます。

 

<計画的付与制度>

年次有給休暇の付与日数のうち、5日分を除いた残りの日数については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。

この制度を導入している企業は、導入していない企業よりも年次有給休暇の平均取得率が 高くなっているという統計もありますから、年次有給休暇が取りやすくなると考えられます。

 

<実際の対応>

給与明細書を見てみたら、勝手に年次有給休暇を取得した扱いになっていたという場合、労働者が異議を申し出なければ、事後的な合意で年次有給休暇が取得されたものと考えて良いでしょう。

しかし、年次有給休暇は別の機会に取得する予定であったとか、何か必要が発生したときのために残しておきたかったとか、労働者の意思に反する場合には、労働者から会社に対して「間違い」の是正を求めることができます。実際に、給与処理上のミスだったということもありえます。

この場合には、年次有給休暇の残日数が減らなかったことになり、年次有給休暇を取得した扱いによって過剰に計算された賃金は、労働者から会社に返金することになります。

 

<働き方改革との関係で>

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)のためには、労働時間の削減や休日数の増加、年次有給休暇の取得など、従業員の健康と生活に配慮し、多様な働き方に対応したものへ改善することが重要です。

会社が労働者に対して一方的に年次有給休暇を取得させるというのは、年次有給休暇の取得促進にはなるものの、法的に認められることではありません。

また、何の予告も無く行われれば、労働者の会社に対する不信感も強まります。

なお、会社が年5日の年次有給休暇を取得させる義務を負う場合であっても、会社が時季を定めるに当たっては、労働者の意見を聴取することが必要であり、対象となる労働者の意見を尊重するよう努めなければなりません。

 

内容は同じであっても、労使で話し合って決めていけば、従業員満足度が高まり、定着率は上がるし、会社の評判も向上するでしょう。

 

厚生労働省予算概算要求における重点要求(令和4年度)

2021/09/10|2,240文字

 

<令和4年度概算要求>

令和3年8月31日、厚生労働省は令和4年度厚生労働省所管予算概算要求の概要等を公表しました。

新型コロナウイルス感染症から国民の命・暮らし・雇用を守る万全の対応を引き続き行うとともに、感染症を克服し、ポストコロナの新たな仕組みの構築、少子化対策、デジタル化、力強い成長の推進を図ることにより、一人ひとりが豊かさを実感できる社会を実現するため、以下を柱に重点的な要求を行うものとしています。

●新型コロナの経験を踏まえた柔軟で強靱な保健・医療・介護の構築

●ポストコロナに向けた「成長と雇用の好循環」の実現

●子どもを産み育てやすい社会の実現

●安心して暮らせる社会の構築

 

<新型コロナの経験を踏まえた柔軟で強靱な保健・医療・介護の構築>

○新型コロナ克服の保健・医療等体制の確保 新型コロナから国民を守る医療等提供体制の確保

 PCR検査等の検査体制の確保

 保健所・検疫所等の機能強化

 ワクチン接種体制の構築

 医療用物資等の確保・備蓄等

 

○ワクチン・治療薬等の研究開発の推進等

 ワクチンの研究開発・生産体制の戦略的な強化

 治療薬の研究開発・実用化の支援

 

○地域包括ケアシステムの構築、データヘルス改革等

 地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者の働き方改革の推進

 自立支援・重度化防止、認知症施策の推進、介護の受け皿整備・介護⼈材の確保の推進

 予防・重症化予防・健康づくり、データヘルス改革の推進

 

ここで、「データヘルス改革」というのは、保健医療サービスを国民が効率的に受けられる環境の構築を目的として、ICTを活用した健康管理・診療サービスの提供や、健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築していく厚生労働省の戦略のことを指します。

 

<ポストコロナに向けた「成長と雇用の好循環」の実現>

○雇用維持・労働移動・人材育成 雇用の維持・在籍型出向の取組への支援

 女性・非正規雇用労働者へのマッチングやステップアップ支援、新規学卒者等への就職支援

 デジタル化の推進、人手不足分野への労働移動の推進

 

○多様な人材の活躍促進

 女性活躍・男性の育休取得促進

 就職氷河期世代の活躍支援

 高齢者の就労・社会参加の促進

 障害者の就労促進、外国⼈の支援

 

○働きやすい職場づくり

 良質なテレワークの導入促進

 最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進、同⼀労働同一賃金など公正な待遇の確保

 総合的なハラスメント対策の推進

 

「働きやすい職場づくり」の項目の中に「最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進」とあります。

つまり、生産性向上等により、企業に余力が発生したのを受けて、最低賃金・賃金の引上げが行われるという本来の姿が示されています。

現実には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、企業の体力が低下しているこの時期に、最低賃金の大幅アップが行われます。

これによって、業種によっては、雇用の維持・推進が困難になることが懸念されます。

 

<子どもを産み育てやすい社会の実現>

○子育て家庭や女性の包括支援体制 母子保健と児童福祉の⼀体的な支援体制の構築

 ヤングケアラー等への支援

 困難な問題を抱える女性への支援

 生涯にわたる女性の健康の包括的支援

 

○児童虐待防止・社会的養育の推進、ひとり親家庭等の自立支援

 地域における見守り体制の強化

 里親委託の推進や施設退所者等の自立支援

 ひとり親家庭等への就業支援を中心とした総合的支援

 

○不妊症・不育症の総合的支援

 不妊治療の保険適用

 不妊治療と仕事の両立支援

 

○総合的な子育て支援

 「新子育て安心プラン」等に基づく受け皿整備

 保育人材確保のための総合的な取組

 

「子育て家庭や女性の包括支援体制」の項目の中の「ヤングケアラー」は、法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを、日常的に行っている18歳未満の子どもとされています。

社会的養護が必要な子どもを、児童福祉法に基づき行政から委託を受けて、家庭に一時的に預かり育てるのが「里親」です。貧困や虐待、実親の病気など、実家庭で生活できない子どもは現在全国に5万人近くいます。

 

<安心して暮らせる社会の構築>

○地域共生社会の実現等 相談支援、参加支援、地域づくりの⼀体的実施による重層的支援

 生活困窮者自立支援、ひきこもり支援、自殺対策、孤独・孤立対策

 成年後見制度の利用促進

 

○障害児・者支援等

 医療的ケア児への支援の拡充

 依存症対策の推進

 

○水道、戦没者遺骨収集、年金、被災地支援等

 水道の基盤強化

 戦没者遺骨収集等の推進

 安心できる年金制度の確立

 被災地における心のケア支援、福祉・介護提供体制の確保

 

「医療的ケア児」は、医療的ケアを必要とする子どものことです。

医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引等の医療的ケアが日常的に必要な子どもの数は、全国で2万人を超えています。

 

<解決社労士の視点から>

4つの重点要求のうち、企業と最も関わりが深いのは少子化対策です。

令和4年4月と10月にも、育児休業に関する法改正が控えています。

コロナの影響もあって、少子化対策は、より強力に継続されることが想定されます。

今後、法改正や市場動向の変化に取り残されないよう注意する必要があります。

就業規則の見直し方

2019/12/28|1,564文字

 

<見直しの必要性>

就業規則の内容は、大きく分けると次の3つです。

・法令の定める労働者の権利・義務のうち自社の従業員に関係する部分

・自社の従業員にある程度共通する労働条件

・自社で独自に定めた職場のルール

このそれぞれについて、見直していく必要が発生します。

おそらく就業規則を1年間放っておくと実情に合わないものになるでしょう。

 

<法令の定める労働者の権利・義務のうち自社の従業員に関係する部分>

これには、法改正への対応を迫られるケースと、今までの対応では足りない新事情が発生するケースがあります。

法改正については、テレビニュースや新聞記事をキッカケに、ネットで情報を検索して、自社内で就業規則の関連部分を手直しすることも可能でしょう。

しかし、新事情への対応となると、その必要性に気づきにくく、イザというとき規定が足りないというケースが発生しやすいのです。

最近では、従業員の親の高齢化による介護休業制度の見直し、メンタルヘルス不調者の発生による休職制度や復職支援制度の見直しの必要性が、クローズアップされています。

今は、働き方改革関連の法改正が頻繁ですから、その動向からも目が離せません。

 

<自社の従業員にある程度共通する労働条件>

これは従業員の勤務の実態が変化して、対応を迫られるケースです。

事業が拡大して、遠方に支店や新営業所ができれば、転勤や単身赴任のしくみが必要となります。

場合によっては、全国エリア社員と勤務地限定社員を区分するしくみが必要となるでしょう。

また、従業員ひとり一人の負担も増えていますから、毎日のように居眠りする社員が疑問視され、賃金の欠勤控除を厳密に行う必要が発生することもあるでしょうし、新たな懲戒項目を設ける必要が感じられるようになることもあるでしょう。

 

<自社で独自に定めた職場のルール>

これには社内事情の変化への対応と、社会情勢の変化への対応があります。

社内事情の変化には、たとえば事務所の引っ越しがあります。

これによって、通勤手当の見直しや、出勤・退勤時のルールや休日出勤のルール見直しが必要になるでしょう。

社会情勢の変化には、たとえば社員が社内でふざけた写真をとりネットに掲示する事件などがあります。

この場合には、自社で発生を防止する一方、万一発生した場合の対応についても、ルールを決めておく必要があります。

 

<独特なむずかしさ>

就業規則の一部分だけを見直すことによって、関連する規定との間に矛盾が発生してしまい、これに気づかないという問題も多発します。

実際に発覚するのは、何か具体的な問題が発生して、就業規則を調べたときです。

こうしたときには、問題が解決できず本当に困ってしまいます。

これを防ぐには、就業規則というものの体系的な理解をしている専門家の関与が必要です。

「転ばぬ先の杖」ということで、3年に1回程度は、お近くの社労士(社会保険労務士)のチェックをお勧めします。

 

<柳田事務所にご依頼なら>

顧問契約をお勧めします。

就業規則見直しの必要性について、日常的に多角的にチェックしています。

そして、会社の実情に応じて、無理のない見直しをご提案します。そして社内に定着するまでのフォローをします。

経営者の方や社内のご担当者の方が主体となって就業規則の見直しを行い、柳田事務所が指導・サポートする形であれば、つまり改定案作成の丸投げでなければ、顧問料の範囲内で行うこともできます。

しかも、顧問契約(基本契約)の業務範囲は広く、就業規則関係だけでなく、人事制度、労災、雇用保険、健康保険、労働紛争、採用、懲戒、コンプライアンス、労働基準監督署・会計検査院の調査対応、教育など人事業務全般に及びます。

もし必要を感じましたら、まずはご一報ください。

このページ右上のお問合せフォームをご利用いただけます。

 

解決社労士

就業規則の作り方

2019/12/27|1,280文字

 

<周知の大前提>

就業規則は、従業員に周知することで有効となります。

周知というのは「誰でも読もうと思えば読める状態に置くこと」です。

一部分だけ周知していればその部分だけ、一部の人だけに周知していればその一部の人だけに有効となります。

しかし、高校生が読んでもわからない就業規則では威力を発揮できません。

ですから、読んでわかる就業規則というのが大前提です。

 

<ひな形の活用>

就業規則を作るとなると、厚生労働省のモデル就業規則や、業界ごとに作られたものをネットで検索して利用することが多いでしょう。

厚生労働省のものは、法改正などに応じて内容が更新されています。

最終改定年月日も示されていますので安心して利用することができます。

他のひな形は、どこまで法改正に対応できているか確認するのが大変です。

また知り合いが、その昔専門家に作ってもらったという就業規則をコピーさせてもらっても、何度も行われてきた法改正や社会情勢の変化に対応できていないことが多いので注意しましょう。

 

<自社の個性への対応>

就業規則の内容は、大きく分けると次の3つです。

・法令の定める労働者の権利・義務のうち自社の従業員に関係する部分

・自社の従業員にある程度共通する労働条件

・自社で独自に定めた職場のルール

こうしてみると、自社の就業規則はひな形を丸写しにしてでき上るものではないことがわかります。

厚生労働省のモデル就業規則にも、その最初と各条文のところに、自社に合わせることの重要性と注意点がとても細かく書かれています。

ひな形の規定であっても、自社に無理なことをマネすると苦労します。

「お客様、お取引先、従業員など関係者には自分から進んで明るく元気にあいさつすること」が、社内では当たり前のルールになっていたとしても、これを就業規則に入れておかないと、従業員に対して「ルールを守りなさい」と注意したときに、「何を根拠に?」と反論されたり、反感を抱かれたりします。

こうしたことから、社内規定を十分に理解していない若手事務担当者に作成を任せるのは、不可能を押しつけることになってしまいます。

やはり、社内で就業規則を作成するのは、経営者やベテラン社員の仕事ということになります。

 

<柳田事務所にご依頼なら>

新しい会社であれば、経営者の方からご意向をうかがい、会社にマッチした就業規則案を作成し、これをベースに微調整という進め方になります。

設立後ある程度の年数を経過し、労働者数が10人以上になりそうなので就業規則を作成したいというケースもあります。

この場合には、従業員の方々にもお話をうかがい、完成形に近い就業規則案を作ってしまいます。

特長的なのは、就業規則の運用に必要な社内の申請書類やチェック表などの準備、さらには従業員の教育研修の実施なども、運用をスムーズにするために役立つことは、すべてご要望に応じてサポートしている点です。

もちろん、就業規則作成にあたって、一部分だけのお手伝いをすることもあります。

もし必要を感じましたら、まずはご一報ください。このページ右上のお問合せフォームをご利用いただけます。

 

解決社労士

PAGE TOP