2021/09/10|2,240文字
<令和4年度概算要求>
令和3年8月31日、厚生労働省は令和4年度厚生労働省所管予算概算要求の概要等を公表しました。
新型コロナウイルス感染症から国民の命・暮らし・雇用を守る万全の対応を引き続き行うとともに、感染症を克服し、ポストコロナの新たな仕組みの構築、少子化対策、デジタル化、力強い成長の推進を図ることにより、一人ひとりが豊かさを実感できる社会を実現するため、以下を柱に重点的な要求を行うものとしています。
●新型コロナの経験を踏まえた柔軟で強靱な保健・医療・介護の構築
●ポストコロナに向けた「成長と雇用の好循環」の実現
●子どもを産み育てやすい社会の実現
●安心して暮らせる社会の構築
<新型コロナの経験を踏まえた柔軟で強靱な保健・医療・介護の構築>
○新型コロナ克服の保健・医療等体制の確保 新型コロナから国民を守る医療等提供体制の確保
PCR検査等の検査体制の確保 保健所・検疫所等の機能強化 ワクチン接種体制の構築 医療用物資等の確保・備蓄等
○ワクチン・治療薬等の研究開発の推進等 ワクチンの研究開発・生産体制の戦略的な強化 治療薬の研究開発・実用化の支援
○地域包括ケアシステムの構築、データヘルス改革等 地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者の働き方改革の推進 自立支援・重度化防止、認知症施策の推進、介護の受け皿整備・介護⼈材の確保の推進 予防・重症化予防・健康づくり、データヘルス改革の推進 |
ここで、「データヘルス改革」というのは、保健医療サービスを国民が効率的に受けられる環境の構築を目的として、ICTを活用した健康管理・診療サービスの提供や、健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築していく厚生労働省の戦略のことを指します。
<ポストコロナに向けた「成長と雇用の好循環」の実現>
○雇用維持・労働移動・人材育成 雇用の維持・在籍型出向の取組への支援
女性・非正規雇用労働者へのマッチングやステップアップ支援、新規学卒者等への就職支援 デジタル化の推進、人手不足分野への労働移動の推進
○多様な人材の活躍促進 女性活躍・男性の育休取得促進 就職氷河期世代の活躍支援 高齢者の就労・社会参加の促進 障害者の就労促進、外国⼈の支援
○働きやすい職場づくり 良質なテレワークの導入促進 最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進、同⼀労働同一賃金など公正な待遇の確保 総合的なハラスメント対策の推進 |
「働きやすい職場づくり」の項目の中に「最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進」とあります。
つまり、生産性向上等により、企業に余力が発生したのを受けて、最低賃金・賃金の引上げが行われるという本来の姿が示されています。
現実には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、企業の体力が低下しているこの時期に、最低賃金の大幅アップが行われます。
これによって、業種によっては、雇用の維持・推進が困難になることが懸念されます。
<子どもを産み育てやすい社会の実現>
○子育て家庭や女性の包括支援体制 母子保健と児童福祉の⼀体的な支援体制の構築
ヤングケアラー等への支援 困難な問題を抱える女性への支援 生涯にわたる女性の健康の包括的支援
○児童虐待防止・社会的養育の推進、ひとり親家庭等の自立支援 地域における見守り体制の強化 里親委託の推進や施設退所者等の自立支援 ひとり親家庭等への就業支援を中心とした総合的支援
○不妊症・不育症の総合的支援 不妊治療の保険適用 不妊治療と仕事の両立支援
○総合的な子育て支援 「新子育て安心プラン」等に基づく受け皿整備 保育人材確保のための総合的な取組 |
「子育て家庭や女性の包括支援体制」の項目の中の「ヤングケアラー」は、法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを、日常的に行っている18歳未満の子どもとされています。
社会的養護が必要な子どもを、児童福祉法に基づき行政から委託を受けて、家庭に一時的に預かり育てるのが「里親」です。貧困や虐待、実親の病気など、実家庭で生活できない子どもは現在全国に5万人近くいます。
<安心して暮らせる社会の構築>
○地域共生社会の実現等 相談支援、参加支援、地域づくりの⼀体的実施による重層的支援
生活困窮者自立支援、ひきこもり支援、自殺対策、孤独・孤立対策 成年後見制度の利用促進
○障害児・者支援等 医療的ケア児への支援の拡充 依存症対策の推進
○水道、戦没者遺骨収集、年金、被災地支援等 水道の基盤強化 戦没者遺骨収集等の推進 安心できる年金制度の確立 被災地における心のケア支援、福祉・介護提供体制の確保 |
「医療的ケア児」は、医療的ケアを必要とする子どものことです。
医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引等の医療的ケアが日常的に必要な子どもの数は、全国で2万人を超えています。
<解決社労士の視点から>
4つの重点要求のうち、企業と最も関わりが深いのは少子化対策です。
令和4年4月と10月にも、育児休業に関する法改正が控えています。
コロナの影響もあって、少子化対策は、より強力に継続されることが想定されます。
今後、法改正や市場動向の変化に取り残されないよう注意する必要があります。