パワハラの記事

2021/09/04|1,914文字

 

<テレワークを導入しなかった理由>

新型コロナウイルス感染症の拡大前には、テレワークの実施に消極的な企業も多く、政府が働き方改革の一環で推奨していたにも関わらず、特に中小企業では導入が広がりませんでした。

これについては、次のようなことが理由として掲げられています。

 

・業種や職種がテレワークに不向き

・コミュニケーションをとることが難しい

・人材教育やマネジメントが難しい

・情報セキュリティの不安がある

・各従業員の出退勤や休憩時間の把握が困難

・出社しなければできない業務がある

・社内規定が整備されていない

・環境整備のための予算が無い

・正社員以外の従業員が多い

・従業員に持ち運びできるPCが与えられていない

・同居家族の協力が得られない

・仕事とプライベートの区別がつきにくい

・労災への対応がよく分からない

・経営層の理解が無い

・管理職にIT苦手意識が強い

 

こうしてみると、テレワークの実施を諦める決定的な理由があるわけではなく、心理的なハードルが高いように思えます。

 

<テレワークを導入した理由>

従来から、テレワークが推奨される理由としては、主に生産性の向上が挙げられています。

この他にも、次のようなことが理由として掲げられています。

 

・従業員の移動時間の短縮

・従業員の通勤による疲労の軽減

・非常時の事業継続を可能にする

・上司などの目を気にせず業務に集中できる

・育児や介護との両立を可能にする

・遠方に転居しても勤務を続けられる

 

こうした理由に加えて、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、次のような理由も加わって、一気にテレワークの導入が進みました。

 

・社内でのクラスター発生の防止

・通勤による従業員の感染の防止

・勤務中の長距離移動による感染拡大の防止

・密な状態で食事をとることによる感染拡大の防止

・新型コロナウイルスの感染が拡大しても事業継続を可能にする

 

今まで、できない理由を並べてテレワークに消極的であった企業の多くが、一度はテレワークに取り組んでみるという動きが盛んになりました。

中には、オフィスの縮小や移転を行った企業も見られました。

これによって、大幅な経費の削減も可能となりました。

 

<テレワークをやめた理由>

積極的にテレワークに取組んでみた結果、当初認識していた「テレワークを導入しなかった理由」を改めて痛感することとなった企業が多かったようです。

また、ペーパーレス化の進んでいない企業では、書類を会社にしか保存していないから、稟議書に捺印が必要だから、といった紙の書類への対応で出勤せざるを得ない状況は、マスコミにも大きく取り上げられました。

このこともあって、政府は捺印省略を一気に進めたのですが、民間企業での対応は思うように進んでいません。

さらに、当初は新型コロナウイルスに対する恐怖から、テレワークを強く希望していた従業員も、いざ導入してみると、通信費、光熱費、消耗品費だけでなく、新しい机、椅子、パソコンなどの負担についてのルールが不明確で、経済的な負担が大きくなったり、残業代が減少したり、通勤手当が支給されなくなったりと、収入も減るなど不利益を痛感するようになりました。

すべての従業員がテレワークの対象となるわけではなく、一部の従業員に限られるため、不公平感を払拭できない、特に派遣社員についてはテレワークの実施が困難であるという問題も指摘されました。

 

<隠された理由>

テレワークをやめた理由として、企業に対するアンケートでクローズアップされないものとして、リモートワークハラスメント(リモハラ)があります。

これは、テレワークあるいはリモートワークでは、距離感を錯覚したりコミュニケーションの取り方が従来と異なったりすることにより、新たなハラスメントの発生や増強が起こるものです。

特に、1対1でのリモート対応では密室化するわけですから、ハラスメント発生の危険が高まります。

ハラスメントで怖いのは「慣れ」です。

マスコミで取り上げられるハラスメントは、かなり深刻な人権侵害であることが多いのですが、発生した組織内では、徐々にエスカレートし「慣れ」によって、何とも思わなくなっているという恐ろしさがあります。

テレワークで発生した「慣れ」は、出勤しても残りますので、従業員の感覚の変化には注意する必要があるでしょう。

 

<解決社労士の視点から>

新型コロナウイルス感染症拡大への対応で、企業がテレワークを拡大したのに対応して、政府は前倒しでオンライン化を進めました。

一度は諦めたテレワークであっても、態勢を整えて再チャレンジする価値があります。

また、テレワークだけでなく、業務のオンライン化を進めるチャンスでもあります。

2021/08/30|1,256文字

 

パワハラの定義https://youtu.be/Mdh36sSuu2o

 

<パワハラの定義からすると>

職場のパワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」ものをいいます。〔労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2第1項〕

この条文を見ると、「就業環境が害される」という実害の発生が、パワハラの成立条件のようにも見えます。

しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)では、次のように規定されています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

これらのことからすると、直接被害者に向けられた行為でなくてもパワハラとなりうることが分かります。

 

<パワハラの構造からすると>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思って、パワハラを行っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

こうして見ると、ただ単に陰口を叩くような場合、業務上必要の無い雑談の中で悪口を言っているに過ぎない場合には、パワハラには該当しないといえそうです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

パワハラで問題となる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

これらの人権侵害行為は、業務と無関係に行われれば、パワハラの定義にはあてはまらなくても、国家により刑罰を科され、被害者から損害賠償を請求されることがあります。

 

<悪口を言うと成立しうる犯罪>

名誉毀損罪〔刑法第230条〕は、公然と事実を摘示(てきじ)して名誉を毀損することで成立します。

「摘示」というのは、あばくこと、示すことです。

示した事実は、原則として、真実であっても嘘であってもかまいません。

しかし、「公然と摘示」するのが条件ですから、他の人には知られないように、直接の相手だけに事実を摘示した場合には成立しません。

また、「事実を摘示」しないで名誉を棄損すると侮辱罪〔刑法第231条〕となります。

結局、本人がいない所で悪口を言うのは、パワハラにならなくても犯罪になりうるということです。

2021/08/28|1,853文字

 

パワハラの定義https://youtu.be/Mdh36sSuu2o

 

<会社のパワハラ対策>

会社は、就業規則にパワハラの禁止規定と懲戒規定を置き、パワハラ防止対策のための社員教育を行う義務を負っています。

これは、労働契約上の雇い主としての義務です。

こうした義務を果たさない会社で勤務する管理職は、パワハラの加害者とされ被害者や遺族から訴えられる危険にさらされています。

部下が「上司のパワハラに絶望しました」といった遺書を残して自殺を図るようなことがあれば、何がパワハラに該当するのか教育研修が行われていない会社では、事実の確認も無いままパワハラの責任を取らされることにもなりかねません。

不幸にしてこうした会社で働いている管理職は、自分の身を守るため、最低限、以下のことを頭に入れておきましょう。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではありません。

会社の意向を受けて行った叱責、指導、注意、教育、激励、称賛などは、業務上必要な行為です。

行為者の意識としては、これらの行為を熱心に行った結果、パワハラ呼ばわりされたということになりがちです。

しかし、パワハラが問題なのは、必要の無い人権侵害を伴っているからです。

 

<パワハラで問題となる人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

<典型的な犯罪行為>

暴行罪〔刑法第208条〕の「暴行」とは、人の身体に向けられた有形力の行使をいいます。有形力とは物理的な力のことで、たとえば石を投げつければ当たらなくても暴行になります。服を引っ張る、近くで刀を振り回す、耳元で大きな音を立てるというのも暴行です。

傷害罪〔刑法第204条〕の「傷害」とは、ケガをさせることです。ケガをさせる意図が無く暴行を行った結果、ケガをさせてしまった場合でも傷害罪になります。頭を叩こうとしたところ、相手が避けようとして転び腰を傷めた場合にも、頭を叩くという暴行の故意があった以上、傷害罪になってしまいます。

脅迫罪〔刑法第222条〕は、相手や親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫すると成立します。口頭でも、文書でも、メールでも、あるいは態度でも脅迫になりますし、相手が実際に怖がらなくても成立します。

名誉毀損罪〔刑法第230条〕は、公然と事実を摘示して名誉を毀損することで成立します。「摘示」というのは、あばくこと、示すことです。示した事実は、原則として、真実であっても嘘であってもかまいません。しかし、「公然と摘示」するのが条件ですから、他の人には知られないように、直接の相手だけに事実を摘示した場合には成立しません。また、「事実を摘示」しないで名誉を毀損すると侮辱罪〔刑法231条〕となります。

 

<典型的な不法行為>

上記のような犯罪行為に対しては、国家により刑罰として懲役刑や罰金刑が科されうるのですが、同時に不法行為でもありますから、被害者に対しては損害賠償の責任を負います。両者は別物ですから、どちらか片方だけで済むというものではありません。

暴言、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなどの程度が軽くて、名誉毀損罪などの犯罪が成立しない場合には、一般に不法行為のみが成立します。

不要なことや不可能なことの強制が強要罪や業務妨害罪にはあたらない程度の場合にも、一般に不法行為のみが成立します。

つまり、人権侵害行為ではあっても犯罪が成立しない場合には、不法行為のみが成立しうるということです。

 

<身を守るだけではない知識>

パワハラ行為とされ、犯罪者になったり損害賠償を求められたりするのはどのような行為なのか、正しい知識を身に着けることは、自分の身を守るのに必要なことです。

しかし、それだけではなく、自信をもって業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛などを行えるようになるのですから、管理職としての指導力を最大限に発揮できるようになるというメリットもあります。

2021/08/22|2,131文字

 

<能力不足によるパワハラ>

会社の就業規則にパワハラの具体的な定義を定め、これを禁止する規定や懲戒規定を置いて、パワハラに関する社員研修を行っていても、社員個人の能力不足によるパワハラが発生します。

ここで不足する能力は説明能力が中心です。

 

<就業規則の規定>

職場のパワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」ものをいいます。〔労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2第1項〕

この条文を見ると、「就業環境が害される」という実害の発生が、パワハラの成立条件のようにも見えます。

しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)では、次のように規定されています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。

つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

<パワハラ防止に必要な知識>

さて、就業規則を読んだだけでは、自分の行為がパワハラにあたるのかどうかを判断できない場合もあるでしょう。

また、他の社員の行為に対しても、自信を持って「それはパワハラだから止めなさい」と注意するのはむずかしいでしょう。

ましてや、暴行罪〔刑法第208条〕や名誉毀損罪〔刑法第230条〕の成立要件、特に構成要件該当性などは、「物を投げつけても当たらなければ成立しない」「真実を言ったのなら名誉毀損にはならない」などの誤解があるものです。

こうしてみると、社内でパワハラを防止するのに必要な知識のレベルというのは、かなり高度なものであることがわかります。

 

<知識があっても行われるパワハラ>

しかし、高度な知識があるのに、ついついパワハラに走ってしまう社員がいます。

もちろん、怒りっぽい、キレやすい性格というのもあります。

そして、カッとなってパワハラ行為に出てしまう原因を見てみると、相手が自分の思い通りに動いてくれない、自分の言ったことを理解してくれないということにあります。

さらに、その原因を追究すると、要領を得ない説明で相手に趣旨が伝わらないということがあります。

1人か2人の相手に伝わらないというのであれば、相手の理解力に問題がありそうです。

しかし、「どいつもこいつも解かってくれない」という感想を持つようであれば、その人の説明能力に問題があるのでしょう。

こうして、部下に説明する → 伝わらない → ボーッと聞いている、とんちんかんな質問をしてくる、同じ過ちを繰り返す → 再度説明する → 伝わらない → 感情的になって怒鳴ったり机を叩いたりのパワハラに走る という構造が出来上がってしまいます。

 

<不足する説明能力とは>

一口に「説明能力」と言っても複雑です。

前提として、相手の性格・経験・理解力の把握、相互理解があります。

異動したての役職者には、この前提を欠いていることがあり、パワハラ発生の危険が高まります。

次に、相手が落ち着いて傾聴できる態度・環境・雰囲気作り、そして、本人の語彙力・表現力、相手の理解度を探る観察力なども必要です。

こうしてみると、本人の持つ雰囲気、語彙力・表現力、観察力など、会社の教育研修をもってしても容易には醸成できない項目を含んでいます。

これらは、その個人の資質に依存する能力です。

 

<解決社労士の視点から>

説明能力が不足する社員は、優位な立場に立たせないのが得策です。

会社に対する貢献度が高い社員に説明能力が不足していたら、説明能力を十分身に着けるまでは、部下を持たせるのではなく、専門職的な立場で会社に貢献してもらうようにしてはいかがでしょうか。

専門職制度など適性を踏まえた人事異動を可能にする仕組と、その前提となる人事考課制度の適正な運用が、パワハラから社員と会社を守ってくれます。

2021/08/15|1,438文字

 

<就業規則の規定>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など「職場内での優位性」を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。

これによると、「精神的・身体的苦痛を与えこと」あるいは「職場環境を悪化させる行為」という実害の発生が、パワハラ成立の条件のようにも見えます。

しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「精神的・身体的苦痛を与えうる言動」「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)では、次のように規定されています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。

つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

<パワハラ防止に必要な知識>

さて、就業規則を読んだだけでは、自分の行為がパワハラにあたるのかどうかを判断できない場合もあるでしょう。

また、他の社員の行為に対しても、自信を持って「それはパワハラだから止めなさい」と注意するのはむずかしいでしょう。

ましてや、暴行罪〔刑法第208条〕や名誉毀損罪〔刑法第230条〕の成立要件、特に構成要件該当性などは、「物を投げつけても当たらなければ成立しない」「真実を言ったのなら名誉毀損にはならない」などの誤解があるものです。

こうしてみると、社内でパワハラを防止するのに必要な知識のレベルというのは、かなり高度なものであることがわかります。

 

<解決社労士の視点から>

こうした事情があるにもかかわらず、就業規則にパワハラの禁止規定があり懲戒規定があることを理由に懲戒解雇まで行われてしまうのは、行為者本人にとっても会社にとっても不幸です。

行為者と家族の人生は台無しになりますし、会社は損害賠償を求められる他、両当事者とも評判が落ちてしまいます。

会社が本気でパワハラを防止するには、就業規則にきちんとした規定を設け、充実した社員教育を実施することが必要となります。

社員教育では、パワハラの定義・構造の理解、具体例を踏まえた理解の深化を図りましょう。

この他、人事考課制度の適正な運用や、適性を踏まえた人事異動が、パワハラから社員と会社を守ってくれます。

2021/08/11|1,031文字

 

<顔出ししたくない人の言い分>

オンライン会議で顔出ししたくない人は、次のような主張をします。

オンライン会議に参加する前は、服装や髪型を整え、化粧をしたり、ひげを剃ったり、部屋を片付けたりと、準備に手間と時間がかかります。

参加中は、緊張した姿勢と表情を維持しなければならず、プライベートな空間を社内の人に見られます。

そもそも、会議を行うのに姿を見せる必要はなく、音声だけで話し合えるのではないかと考えます。

 

<顔出しさせたい人の言い分>

一方、オンライン会議で顔出しさせたい人は、次のような主張をします。

会社で会議を行う場合には、出社の時点で服装や髪型が整っているし、化粧やひげ剃りは済ませてあって当然だから、オンライン会議だからといって特別な負担はありません。

会議中に緊張を強いられるのも、オンライン会議に特有のことではありません。

姿を見せることによって、表情やジェスチャーによる一段高いコミュニケーションが可能となります。

そもそも、話し手が熱心に話している時、聞き手がちゃんと聞いているかどうか把握できないのでは困ります。

 

<背景の設定>

プライベートな空間を人目に晒すことが問題であれば、カメラをオフにするのではなく、背景を設定することも可能です。

ただし、テレビ番組や居酒屋の背景では不適切ですから、参加者全員で同じ背景にする、あるいは会社が作成した公式の背景を用いることも考えられます。

 

<リモートハラスメント(リモハラ)>

何とかして顔出しさせたいがために「おいこら!ちゃんと顔を見せろ!」などと暴言を吐くことや、顔出ししないメンバーの会議出席を拒否することは、リモハラとなりますので許されません。

また、他のメンバーが見聞きできる状態での叱責は、それ自体がパワハラとなります。

会議が終了してから、顔出ししなかった理由を確認し、これを踏まえて指導すべきです。

 

<解決社労士の視点から>

社員間で「常識」が対立する場合には、ルールを確定することによって解決します。

就業規則(テレワーク規程、オンライン会議規程)に、オンライン会議での顔出しについて規定を置きます。

顔出しが義務付けられているオンライン会議で、顔出しできない理由がある場合には、参加者から主催者に理由を明らかにして事前の許可を得るという規定も必要でしょう。

また、プライバシー保護の観点から、背景設定を禁止することは望ましくありません。

さらに、パワハラやセクハラについての注意規定を置くこともお勧めします。

2021/06/06|979文字

 

<集団いじめの危険性>

パワハラやセクハラは、加害者も直接の被害者も個人であることが多いものです。

しかし、職場環境や企業風土によっては、特定の個人が先輩や同僚から集団でいじめられることもありえます。

いじめによる自殺などの被害は、決して学校に限られたものではないのです。

 

加害者側は「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」という感覚、つまり、共同責任は無責任という感覚に陥っています。

「私だけが悪いわけではないから」という感覚でいじめに加わった場合、法律上はむしろ重い責任を負わされることになります。

刑法では共同正犯とされ、一部を実行したに過ぎなくても全部の責任を負わされます。〔刑法第60条〕

民法では共同不法行為とされ、実際に行為に及んだ人も、手助けした人も、そそのかした人も、ひとり一人が全ての損害に対する賠償責任を負わされます。〔民法第719条〕

 

<大阪地裁 平成22(2010)年6月23日判決>

被害者の女性は、同僚の複数の女性社員たちから集団で、しかも、かなりの長期間継続していじめを受けました。

その内容も、陰湿で常軌を逸した悪質なひどいいじめでしたから、被害者の女性が受けた心理的負荷は強度なものでした。

上司たちは気づかなかったり、気づいた部分についても何ら対応を採らなかったりという無責任な態度でした。

ついに、被害者の女性は上司に相談するのですが、上司が何も防止策を採らなかったために、かえって失望感を深めてしまいました。

こうして、被害者の女性は不安障害と抑うつ状態を発症し、労災と認定されたのです。

 

この被害者女性は、特に弱い人ではなく、同僚の女性社員たちからの集団いじめと、会社の不対応が発症の原因であると裁判所により認定されました。

 

この事件では、労働基準監督署に対する労災保険の給付請求があったのに対して、労働基準監督署長が不支給の処分をしたため、被害者の女性が裁判所に訴えを起こしたのでした。

行政の判断が最終結論ではなく、それに不服があれば、訴訟により決着をつけるという道が残されています。

会社から見れば、こうした事件を予防するためにも、多くの労働裁判例を検討して対策をとる必要があるということです。

「とてもそこまで行う人材を社内で確保できない」ということであれば、労働法に明るい弁護士や社会保険労務士に依頼することも考えなければなりません。

2021/05/20|1,018文字

 

<パワハラの勘違い>

職場で自分の意見が通らない、同僚から無視されている、自分だけが叱られている、したがって、「私はいじめられている」と感じる人がいます。

しかし、いつも見当外れの意見を言うので受け入れてもらえない、やがて同僚は相手にしなくなる、そして、上司は同じ注意を何度も繰り返すうちに声が大きくなるというように、本人に原因がありそうな事例もあります。

 

<東京地裁 平成22(2010)年9月14日判決>

訴えを起こした人は、一般事務を担当する正社員でした。

しかし、身体、精神の障害により業務に耐えられないなどとして解雇されてしまいました。

これに対して、解雇権の濫用であり不当解雇なので解雇は無効であること、社長や上司による集団的いじめや嫌がらせを受けて多大な精神的苦痛を被ったので慰謝料などを請求すると主張したのです。

 

裁判で認定されたその人の働きぶりは次の通りです。

 

書類をファイルする場所を間違えることが多かった。

電話対応に問題があり、たびたび助言を受けていた。

仕事に慣れるペースが遅かった。

勤務態度について、上司からかなり厳しい注意を受けていた。

教育指導的観点から少しでも業務遂行能力を身につけさせるために、日報の作成を命じた。

ところが、失敗に対する反省を書かないので、上司が業務の反省点や改善点も記入するように指導した。

それでも書き漏れが多かった。

顧客から電話応対について感じが悪いとクレームを受けたため、ミーティングを開くなどして、本人に改善を求めたが受け入れなかった。

 

この裁判の判決では、社長や上司たちには、いじめや嫌がらせの動機や目的が無いものとされ、訴えを起こした人の請求は退けられました。

 

<解決社労士の視点から>

上記の事例では、訴えを起こした人に対して、上司などが熱心に教育指導していることがわかります。

これはこれで大事なことです。

しかし、そもそもこのような人を採用しないことは、教育以上に大事だと思います。

採用した会社側にとっても負担が大きいですし、採用された側も自分の能力を超える要求をされて苦しいからです。

また、人事考課制度の適正な運用によって、働き手ひとり一人の能力や適性を明らかにしておくことも必要です。

ただ、こうした専門性の高いことについて、社内に専任の担当者を置くことがむずかしいかもしれません。

そのような会社では、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命いただくことをご検討ください。

2021/03/19|1,009文字

 

YouTube労働条件を確認しましょう

https://youtu.be/QzMHmif7cgY

 

<同一労働同一賃金の性質>

同一労働同一賃金は、働き方改革の一環として取組むべき課題とされています。

そして、企業に義務付けられている内容は、パート有期労働法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)に定められています。

この法律に違反した場合でも、労働基準法のように懲役や罰金といった刑罰が適用されるわけではなく、労働者側から企業側に損害賠償を請求する形で、金銭解決が図られることになります。

しかし、全くペナルティーが定められていないわけではなく、行政罰としての過料が定められていることには注意が必要です。

 

<10万円以下の過料>

労働基準法第15条第1項には、一定の労働条件の明示が定められています。

違反には30万円以下の罰金も定められています。

さらに、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際、労働基準法で定める事項のほか、特定事項と呼ばれる4つの項目「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」を文書等により明示しなければなりません。〔パート有期労働法第6条第1項、同法施行規則第2条〕

違反には10万円以下の過料が定められています。

4つの特定事項のうち忘れがちなのは、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」です。

漏れなく明示するには、厚生労働省が公表している労働条件通知書(有期雇用型)のひな形の最新版を利用するのが良いでしょう。

また「相談窓口」を人事課の担当者など社内の人にすると、非正規労働者からは敬遠され、なかなか相談してもらえず、不満が大きくなって、いきなり弁護士に相談されてしまうということが起こりがちです。

パワハラ、セクハラなどの相談窓口と併せて、社外の専門家として顧問の社会保険労務士を指定したほうが安全です。

 

<20万円以下の過料>

厚生労働大臣から報告を求められ、これに対して報告しない、虚偽の報告をしたという場合には、20万円以下の過料が定められています。

もちろん、いきなり報告を求められることはありません。

事前に労働局長名で「パートタイム・有期雇用労働法に基づく報告の徴収について」という文書が事業主宛に届きます。

その後、所轄の労働基準監督署から、同一労働同一賃金への対応状況についての事情聴取があり、これに基づく行政指導があって、この指導への対応を報告させられるわけです。

 

解決社労士

2021/03/17|1,566文字

 

YouTube解決社労士のご紹介

https://youtu.be/qUAFJ0sjnDg

 

<反撃の懲戒処分>

職場で上司から暴言を吐かれ、これに対抗して暴力を振るった社員の処分は、どう考えたら良いでしょうか。

繰り返される上司のパワハラに対抗する行為であって、部下が堪りかねて行ったのであれば、心情的には不問に付すか、情状酌量で軽い処分にとどめたいと感じます。

懲戒処分は就業規則の規定を適用して行うものですから、就業規則の規定にある「情状酌量」などの解釈の問題となります。

 

<正当防衛の可能性>

これを法的観点から見ると、上司の暴言は侮辱または名誉毀損に該たります。〔刑法第230条、第231条〕

部下の暴力は暴行罪、ある程度のケガをさせていれば傷害罪に該たります。〔刑法第208条、第204条〕

そして部下の行為が、刑法上、罪を軽減されるとすると、正当防衛が根拠になると思われます。〔刑法第36条第1項〕

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」という規定です。

このように刑法の正当防衛は、犯罪から自分や他人の身を守るために、やむを得ず行った行為のことをいいます。

しかし、正当防衛の成立要件は思いの外厳格です。

今回のケースでは、相当性の要件を満たしていません。

相当性の要件というのは、侵害の危険を回避するための行為が、必要最小限のものであることです。

暴言を封じるのに、暴力を振るうというのは、必要最小限のやむを得ない行為とはいえません。

 

<過剰防衛の可能性>

不正な権利の侵害に対して、受けた侵害を上回る防衛行為を行ったのであれば、正当防衛ではないにしても、過剰防衛になる可能性はあります。

刑法は「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」と規定しています。〔刑法第36条第2項〕

刑法の過剰防衛の規定が適用されるようなケースであれば、これに倣って社内の処分でも、情状酌量により懲戒の程度を低くすることが妥当です。

しかし、過剰防衛の成立要件も大変厳格です。

正当防衛の他の要件は満たしていて、「防衛の程度を超えた行為」という点だけに問題があるときにのみ、過剰防衛が認められるのです。

今回のケースでは、「急迫不正の侵害」があったものの、「暴力」というのは、この侵害から名誉を防衛する手段としては、あまりにも的外れなのです。

そこには、「防衛の意思」が無く、これを機会に反撃する、あるいは、ついカッとなってやってしまったことがうかがわれます。

「防衛の意思」が無ければ、正当防衛も過剰防衛も成立しないのです。

刑法が正当防衛や過剰防衛の成立を認めない以上、会社の懲戒処分でも、情状酌量して大目に見るというのは、整合性が保てない結果となってしまいます。

 

<解決社労士の視点から>

「それでも当社は独自の考えを採り、今回のようなケースでは、暴力を振るったとしても厳重注意に留める」というのはどうでしょうか。

おそらく、同じような事件が多発するのではないでしょうか。

懲戒処分では、公平が求められます。

過去に起こった事件と同様の事件が発生した場合には、特別な事情が無い限り、同様の処分にしなければなりません。

上司に暴力を振るっても厳重注意で済まされるなら、機会をうかがって行為に及ぼうと企む社員も出てくる可能性があります。

厚生労働省のモデル就業規則でも、「会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)には、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、普通解雇、減給又は出勤停止とすることがある」というように規定しています。

暴行罪、傷害罪は、刑法に懲役刑の刑罰が規定された重大な犯罪です。

これを厳重注意や譴責(けんせき)処分で済ませるのは、危険ではないでしょうか。

2021/03/09|1,443文字

 

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<生理休暇取得の権利>

「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と規定され、これに違反すると30万円以下の罰金という罰則もあります。〔労働基準法第68条、第120条第1号〕

つまり、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を取るのは権利であり、使用者に当たる人がこれを妨げれば、それは労働基準法違反の犯罪ということになります。

ここで「使用者」には、個人事業なら事業主、会社なら会社そのもの、代表者、取締役、理事、人事部長、労務課長などが含まれます。〔労働基準法第10条〕

 

<パワハラとは>

パワハラは、職場での力関係に基づく嫌がらせです。

年齢、経験年数、能力、地位、権限、人気などのパワーを持った人が、自分から見てある側面で「劣る」と思える相手に対して、主に指導の名目で嫌がらせをします。

多少不快感や損害を与えたとしても、指導に伴うものはある程度仕方がないという勘違いが多発しています。

 

<パワハラになるかならないかの基準>

生理日の就業が著しく困難な女性が生理休暇を取得しようとした時に、「仕事を優先しろ」「使えない」などの発言をすることは、明らかにパワハラです。

また、無限定に漠然と「お前は生理休暇なんか取るな」と発言した場合には、生理日の就業が著しく困難な場合を含めて生理休暇の取得を妨げる発言ですから、権利の侵害でありパワハラになります。

 

これに対して、普通に勤務することが困難ではない程度の苦痛を伴う生理を理由に生理休暇を取得することや、生理中であることそのものを理由に生理休暇を取得することは、労働基準法も認めていません。

ですから、生理中の女性が朝から普通に勤務していて、お天気が良いので午後から遊びに行くため「生理休暇を取得したい」と言ったのなら、これに対して「今日は生理休暇を取るな」という指導は正当なものであり、パワハラにはならないのが一般です。

 

実際には、生理の苦痛は本人にしかわからないでしょう。

上司としては、女性から「生理休暇を取得したい」という申し出があれば、これを拒否できないことになります。

ただ、生理休暇を取得しておきながら、レジャー施設に出かけて絶叫マシンで楽しんでいる様子がSNSなどにアップされたら、不正に生理休暇を取得したものとして、懲戒処分の対象となりうるというのも事実です。

この辺りについては、女性社員に対する教育指導が必要でしょう。

 

<セクハラにもあたる場合>

セクハラは、性的なことについての嫌がらせです。

職場に限らず、性的なことに対する興味が特に強い人がいます。こうした人が、「いたずら」「からかい」のつもりで「嫌がらせ」をするとセクハラになるのですが、本人は道徳に反しないと思っているので、反省することなく繰り返します。

 

生理休暇について言えば、「生理の周期から考えて今日休暇を取るのはおかしい」「その歳で生理休暇を申し出るのは変だ」などという発言はセクハラになります。

これは、相手の人格の尊厳を無視して、踏み込みすぎた発言となるからです。

 

<解決社労士の視点から>

生理休暇など労働者の権利についての知識習得は従業員任せにはできません。

会社が教育研修を実施する義務を負っています。

また、パワハラ、セクハラ、マタハラについては教育だけでなく、就業規則などにその定義を明らかにし、懲戒処分の対象とすることも必要です。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

2021/03/08|1,624文字

 

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<本来は自由な退職勧奨>

「退職勧奨」と「退職勧告」は厳密に区別されず、ほとんど同視されています。

「勧奨」は、勧めて励ますことです。

「退職勧奨」の例としては、「あなたには、もっと能力があると思います。たまたま、この会社が向いていないだけです。他の会社では実力を発揮できるでしょう。退職について真剣に考えてみてください」といった内容になります。

「勧告」は、ある事をするように説いて勧めることです。

「退職勧告」の例としては、「入社以来ミスが多いことは、あなた自身も残念に思っているでしょう。まわりの社員も、ずいぶん親切に丁寧な指導をしてきましたが、これ以上はむずかしいと思われます。退職を考えていただけますか」といった内容になります。

このように、退職勧奨(勧告)は、会社側から社員に退職の申し出をするよう誘うことです。

これに応じて、社員が退職願を提出するなど退職の意思表示をして、会社側が了承すれば、労働契約(雇用契約)の解除となります。

退職勧奨(勧告)を受けた社員が、実際に退職の申し出をするかしないかは、本来は完全に自由なのですが、職場の慣習などにより、心理的に断り切れないこともあります。

 

<不当解雇となる場合>

このように退職勧奨(勧告)は、社員の意思を拘束するものではありません。

したがって、会社が自由に行えるはずのものです。

しかし、本人がキッパリと断った後も退職勧奨を続ける、長時間の退職勧奨を繰り返す、家族に働きかけるなど社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。

違法とされれば、退職が無効となりますし、会社に対して慰謝料の支払請求が行われることもあります。

会社から社員に退職勧奨を行い、これに快く応じてもらって円満退職になったと思っていたところ、代理人弁護士から内容証明郵便が会社に届き、不当解雇を主張され損害賠償請求が行われるということは少なくありません。

 

<詐欺を理由とする退職の意思表示の取消>

詐欺による意思表示は取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

詐欺を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・「会社の経営状況が思わしくなく、来月以降、給与の支払を約束できない」などの説明を受けたため、退職の意思表示をしたが、そこまで経営が悪化している事実は無かった場合。

・大規模なリストラを予定しているとの説明を信じ、退職の意思表示をしたが、リストラは行われず、むしろ新規採用が積極的に行われている場合。

・「自主的に退職願を提出しなければ懲戒解雇となる」という説明を信じ、退職願を提出したが、懲戒解雇に該当するような事実は無かった場合。

これらの場合に、詐欺罪〔刑法第246条〕が成立しなくても、民法上は詐欺を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

 

<強迫を理由とする退職の意思表示の取消>

強迫による意思表示も取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

強迫を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・大声を出したり、机を叩いたりしながら、パワハラ発言を交えて退職を迫られた場合。

・狭い会議室で、多数の社員に取り囲まれて退職勧奨された場合。

・休日に突然、自宅に押しかけてきて、退職を勧める話をされた場合。

これらの場合に、脅迫罪〔刑法第222条第1項〕が成立しなくても、民法上は強迫を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

ちなみに、刑法では「脅迫」、民法では「強迫」です。

 

<解決社労士の視点から>

退職勧奨(勧告)は、会社が自由に行えるとは言うものの、客観的に合理的な具体的理由が説明できない場合には、トラブルに発展する可能性が高いですから、行うべきではないのです。

むしろ、普通解雇を通告できるケースで、やんわりと退職勧奨(勧告)を検討するくらいの慎重さがあっても良いでしょう。

2021/02/01|1,270文字

 

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<北風と太陽>

「北風と太陽」は、有名なイソップ寓話のひとつです。

ウィキペディア(Wikipedia)によると、そのあらすじは次のとおりです。

 

ある時、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。

次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。

これで、勝負は太陽の勝ちとなった。

 

この寓話の内容から、「北風と太陽」という言葉は、物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比を表すのに使われます。

 

<北風社長>

うちの社員は、報告・連絡・相談がなっとらん。全社員に、「正しい報連相研修」「効果的な報連相研修」を受けさせよう。

人事考課の評価基準では、「上手な報連相」を重点項目に据えよう。

そして、下手な報連相、間違った報連相は、懲戒処分の対象にしよう。

 

ここまでいかなくとも、報告・連絡・相談のスキルアップを社員に求める会社は多いものです。

社員ひとり一人が、報連相の能力をアップすれば、会社全体の風通しが良くなり、生産性がアップするに違いないと考えるのでしょう。

 

<太陽社長>

社内の報告・連絡・相談が上手くいっていないようだ。社員ひとり一人が、もっと気楽に報告・連絡・相談できたら良いのだが。

私を含め役員全員と管理職に、「正しい報連相の受け方研修」「喜ばれる報連相の受け方研修」を受講していただきましょう。

管理職の評価基準では、「聞き上手」を重点項目に据えましょう。

そして、優れた報連相を行っている部門や社員を表彰しましょう。

 

報告・連絡・相談を受ける側のスキルアップを図ることは、コミュニケーションの改善に不可欠です。

しかし、あまり行われていないのが残念です。

またたとえば、遅刻や欠勤に対して懲戒処分を行うのと、無遅刻無欠勤を表彰するのとでは、その効果に大きな違いはありません。

就業規則に表彰規定があっても、永年勤続以外では、ほとんど表彰が無いというのは、よく聞く話です。

もっと表彰を活用しても良いのではないでしょうか。

 

<実務的な観点から>

ここまで読むと、「太陽方式のほうが優れているということか」と思われるかもしれません。

しかし、コミュニケーション不足は労働問題の原因の大半を占めますし、報告・連絡・相談の不足は会社にとって致命的な欠陥です。

上の例で、北風社長と太陽社長が相談して、会社の施策を検討したならどうなったでしょうか。

おそらく、「報連相するスキル」「報連相を受けるスキル」両方の研修を導入するでしょう。

人事考課では、報連相をする/される両面の評価が行われます。

また、虚偽の報連相や、報連相の遅れは、懲戒処分の対象とされる一方で、手本となった部門や社員は全社で表彰されることでしょう。

報告を受けて、いきなり怒り出す管理職がいる会社では、早急に取り組むことをお勧めします。

 

解決社労士

2020/12/12|1,812文字

 

<事実の確認>

ある社員から、いじめられている、嫌がらせを受けているという申し出があった場合、あるいは、第三者からいじめの報告があった場合、安易に対応すると、いじめを行っているとされた社員の人権侵害となることもあります。

こうした人権侵害を回避しつつ、いじめを救済するためには、何よりもまず事実の確認が必要です。

速やかに、いじめを受けているとされる社員から、十分な聞き取りをすることです。

先入観を持たず、明かされた行為の評価はせず、淡々と事実の確認を行います。

つぎに、いじめをしているという社員からも、十分な聞き取りをします。

このとき、「Aさんから、あなたにいじめられているという申し出があった」と言うのではなく、「Aさんから、あなたの行為について相談があった」と言うべきです。

最初から加害者扱いしてはいけません。

熱心に仕事を教え、時には厳しい口調となってしまうこともあるというのが、判明する事実かもしれないのです。

それでも、本人に意図的ないじめの意識があったのであれば、途中でお詫びの言葉が出てくることでしょう。

さらに周囲の社員からも、十分な聞き取りを行います。

そうすることによって、より一層、客観的な事実が浮かび上がるものです。

 

<記録の作成>

事実の確認にあたっては、聞き流してはいけません。

きちんと記録を残す必要があります。

何月何日の何時に、どこでどういうことがあったのか、詳細に記録します。

こうすることで、聞き取り調査が正式なものであり、真剣に対応している姿を聞き取りの相手に示すことができます。

これによって、話し手もよく考えて、真剣に話してくれるものです。

また、法的な紛争となった場合にも、正式な証拠として役立てることができます。

 

<事実の評価>

得られた事実から、行為者の各行為について、人格権の侵害や就業規則違反が無かったか公平に評価します。

また、当事者に能力不足や適性の欠如が無いかも検討します。

 

<注意・指導>

この段階で、行為者がいじめを自覚していれば、すでに反省していることでしょう。

だからと言って、「許してあげよう」では被害者も周囲の社員も納得できませんし、安心して働けません。

正式に注意・指導し、その内容を書面にまとめ、上司とそのまた上司までは署名を得ておき、最後に行為者の署名を得て会社が保管します。

もし、行為を繰り返すようであれば、次回は書面による注意、そしてさらに重い処分へと進むことになります。

 

<配置転換>

ただ単に、問題となった社員同士の相性が悪いということであれば、その片方または両方を配置転換することも検討したいものです。

このとき、原則として加害者側の社員を異動させるべきです。

被害者側を異動させたり、退職に追い込んだりしたのでは、他の社員が安心して働けません。

 

<退職勧奨>

重大ないじめが発覚した場合、注意・指導をしても改まらない場合、配置転換をしてもなお追いかけていじめるような場合には、行為者に対して、自主的に退職してもらうよう働きかけることも考えられます。

もっとも,本人が反省しておらず、退職することに合意しない場合には、合意するよう強制することはできません。

 

<普通解雇>

いじめを行わずにはいられない性格であったり、いじめの自覚を持てなかったりすれば、業務上必要な協調性が欠けているわけですから、組織の一員として勤務することは困難です。

しかも、これを指導によって改善することは、個人の性格を変えるという話になってしまい、およそ無理なことです。

結局、改善できない能力不足であれば、普通解雇が妥当ということになります。

 

<懲戒解雇>

就業規則に具体的な規定があることが大前提ですが、いじめが激しいものでなければ、それが懲戒解雇の「客観的に合理的な理由」とはならないケースが多いでしょう。

軽い懲戒処分の対象とすることから始めて、どうしても改まらないために、懲戒解雇にまで行きついてしまったということは想定できます。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

もし会社に顧問の社労士がいれば、事実の確認から対応できます。

社外の第三者としての立場から、客観的な事実を確認するには適任でしょう。

その後の対応についても、就業規則や労働法に照らして適切なアドバイスを行うことができます。

何かトラブルが発生してからではなく、保険のつもりで顧問社労士を置いておき、会社の実情を把握させておくのが得策でしょう。

 

解決社労士

2020/11/27|545文字

 

<経営者の理解>

企業が職場におけるハラスメント防止に取り組むにあたっては、経営者の理解が大前提となります。

これ無くしてハラスメント防止対策を行っても、すべては空回りしてしまうものです。

それほど経営者の意識や姿勢は、企業全体に大きく影響します。

経営者自らが理解を深めるために、セミナーなどに参加することをお勧めします。

 

<実態把握と意識把握>

職場環境の実態や従業員の意識を把握しましょう。

アンケートなどにより把握する場合には、単なる集計ではなく、防止対策のためであることを明確にして実施します。

プライバシーの保護には十分配慮することを明確にして実施しましょう。

 

<人材の活用>

ハラスメントの問題は、職場環境や従業員の位置づけなどの、企業風土に大きく左右されます。

ハラスメント防止のためには、偏りの無い人材の活用もポイントとなります。

これには、適正な人事考課制度の運用が必要となります。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

経営者がセミナーに出かけたがらないというのであれば、社労士が社内で研修を行うこともできます。

客観的な実態把握や意識把握がむずかしいというのであれば、これも社労士が承ります。

適正な人事考課制度の構築や運用も、社労士の得意分野です。

ぜひ、信頼できる社労士にご相談ください。

 

解決社労士

2020/11/12|1,576文字

 

<基本的な態度として>

パワハラを指摘されたなら、それはそれで十分反省すべきです。

しかし、解雇というのが行き過ぎた対応ではないかと疑うことも必要です。

パワハラを理由に解雇を宣告されても、それが法的に有効となるためには、厳格な要件を満たす必要があります。

会社に再考を促すべき場合もありますので、冷静に考えてみてください。

 

<懲戒の有効要件>

解雇までいかなくても、懲戒が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。

条件を1つでも欠けば、無効を主張できるわけです。

法律上の制限としては、次の規定があります。

 

「使用者が労働者を懲戒できる場合に、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いているか、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」〔労働契約法第15条〕

 

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

ですから「使用者が労働者を懲戒できる場合」、つまり就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒が無効とされます。

また、そもそも就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒の具体的な取り決めが無ければ、懲戒そのものができないことになります。

 

懲戒権の濫用ではないといえるためには、次の条件を満たす必要があります。

・労働者の行為と懲戒とのバランスが取れていること。

・パワハラの問題が起きてから懲戒の取り決めができたのではないこと。

・過去に懲戒を受けた行為を、再度懲戒の対象にしていないこと。

・その労働者に説明や弁解をするチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 

<懲戒規定の明確さ>

実際にパワハラとされた行為が、懲戒の対象であることが明確でなければ、従業員としては、何が処分の対象かわからないまま処分されてしまうことになります。

これは、やはり懲戒権の濫用となり、懲戒は無効となります。

同じパワハラでも、暴行、傷害、名誉毀損など、刑法上の罪に問われる行為であって、懲戒規定に「会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったときは懲戒解雇とする」という規定があれば、他の条件を満たす限り懲戒解雇も有効になります。

しかし、こうした規定が無かったり、パワハラとされた行為が刑罰法規に違反する行為ではないという場合には、パワハラの定義の明確性が問題となります。

 

<パワハラの定義>

パワハラの定義は、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)で明らかにされました。

大企業については、令和2(2020)年6月1日に施行されていますが、中小企業では令和4(2022)年4月1日施行予定となっています。

この法令の施行により、企業は「職場におけるパワハラに関する方針」を明確化し、労働者に周知し啓発を行うことが義務づけられています。

社内で何が禁止されているか分からないのに、「あれはパワハラだったから処分します」という不合理なことは、明らかな犯罪行為にあたるような場合を除き許されないのです。

ですから、パワハラを指摘され反省してみたものの、本当にパワハラと言えるのか良く分からないならば、社内でパワハラの定義が不明確である可能性が高いのです。

 

パワハラで解雇されそうな場合、自分の行為が本当にパワハラだったのか、パワハラと認識できる状態だったのか、パワハラだったとして解雇されるほどのことだったのか、あくまでも謙虚に冷静に再検討してみる必要があります。

 

解決社労士

2020/11/03|1,218文字

 

<被害者への悪影響>

被害者はパワハラを受けたことにより、その職場にいられなくなることがあります。

そこまでいかなくても、個人の能力の発揮が妨げられます。

我慢していると、うつ病や対人恐怖症など心理的後遺症が残り、長期にわたって回復しないこともあります。

この場合、再就職が困難になります。

企業としては、最終的には金銭解決を図るしかないのですが、被害者の一生を補償できるわけではありません。

 

<周囲への悪影響>

パワハラの被害は、直接パワハラ行為を受けている相手だけでなく、その同僚、後輩、部下など広範囲に及びます。

パワハラ行為を受けている直接の相手だけでなく、それを見聞きした人も被害者です。

上司が被害者の席の所まで来て怒鳴りつけているような場合には、その近くにいる従業員全員が被害者です。

こうして従業員の勤労意欲低下と、職場秩序の乱れが生じます。

 

<企業への悪影響>

被害者の退職による戦力ダウンだけでなく、職場全体の生産性低下につながります。

組織力が適正に活かされなくなり、効率的な運営ができなくなります。

企業イメージの低下により、顧客も取引先も離れていきますし、金融機関からの評価も下がります。

もちろん被害者への損害賠償による金銭的損失も発生します。

 

<加害者への悪影響>

加害者の信用の失墜は職場に留まりません。

顧客や取引先に対する信用も失われます。

何より、家族からの信頼が失われるのが大きな打撃です。

被害者に取り返しのつかない傷を負わせたことが、被害者にとっても一生の傷となります。

加害者が会社から十分な教育を受けていなかったため、熱心な親身の指導をしているつもりで行為に及んでしまったというケースもあります。

こうなると、パワハラの加害者も会社との関係では被害者でもあります。

 

<パワハラの性質>

意図的にパワハラ行為をしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導の中に、パワハラとなる部分が含まれているということが多いのです。

業務上必要な注意指導とパワハラ行為との明確な区分が微妙だというのが、パワハラの特徴です。

この点、業務上必要なセクハラ行為というものが無いのとは対照的です。

パワハラになることを恐れて、業務上必要な注意指導ができなくなってしまうのも困りものです。

 

<パワハラの予防>

まず就業規則などに、その職場に応じたパワハラの客観的な定義を明示することです。

これと併行して、パワハラについての社員教育をきちんとすることです。

特に、必要な注意指導との区別についての教育は重要です。

また、パワハラの相談窓口を設けることです。

この相談窓口は、外部の第三者的な立場であることが望ましいのです。

うでなければ、被害者も加害者も相談しにくいですし、社内の人が担当では客観的に対応できない必然性があります。

就業規則も社員教育も、そして相談窓口も、まとめて信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談してはいかがでしょうか。

 

解決社労士

2020/10/25|778文字

 

<従業員から>

従業員からの申し出により労働問題とされやすいのは、パワハラ、セクハラ、労働条件の不利益変更です。

これらは、従業員からの申し出があったとき、経営者が判断に困り、適切な対応ができないでいるうちに、社内で解決しきれない労働問題に発展することがあります。

会社に落ち度が無いという自信があれば、所轄の労働基準監督署に確認して、従業員に説明すれば良いでしょう。

そうでなければ、何かアクションを起こす前に、なるべく早く信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

<訴訟や労働審判への発展>

退職者からの、残業代請求、不当解雇、退職に伴う請求がメインです。

どう考えても円満退職だった退職者の代理人弁護士から、内容証明郵便が届いてビックリというパターンです。

在職中は会社に遠慮して言えなかった不平不満が、退職後に爆発するのですから意外性があります。

退職者ご本人にその気が無くても、ご家族やお知り合いの中には労働法に詳しい方がいらっしゃいます。

そして、この方が労働者の権利を強く主張すると、退職者が同調して会社に請求することもあります。

 

<複合的な形になるもの>

退職者から未払残業代の請求がある場合、パワハラによる慰謝料請求が加わったりします。

セクハラの被害者が退職させられ、加害者が会社に残り、これを不満とした退職者からの慰謝料請求に、未払残業代の請求が加わったりします。

パワハラの加害者として退職させられた人から、不当解雇を主張され、賃金、賞与、慰謝料を請求されることもあります。

権利の侵害を感じた退職者が弁護士に依頼すると、弁護士は依頼人に事実を確認し、これを法的に構成し、できる請求をすべてすることになります。

依頼人と弁護士との契約は、委任契約ですから、医師が治療にベストを尽くすのと同じように、弁護士も依頼人の権利実現にベストを尽くすわけです。

 

解決社労士

2020/07/29|980文字

 

<正当防衛>

刑法に正当防衛の規定があります。

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」〔刑法第36条第1項〕

部下の攻撃が「いきなり、本気で首を絞めてきた」ということでしたら、首を絞められている最中に、部下を殴っても正当防衛になります。

公法である刑法が認めている行為を、パワハラ扱いすることはできないでしょう。

 

<過剰防衛>

刑法には、正当防衛にはならないものの、行き過ぎた防衛行為の場合には、過剰防衛と認定され、刑が軽くなりあるいは免除される場合があるという規定があります。

「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」〔刑法第36条第2項〕

部下の攻撃が「突然、胸ぐらをつかんできた」ということでしたら、その瞬間に部下を殴っても過剰防衛となる可能性があります。

そうだとしても、殴る行為それ自体はパワハラです。

 

<どちらでもない場合>

部下がただ反論してきたに過ぎないのに、つまり暴言を吐いたに過ぎないのに、殴ってしまったなら、正当防衛どころか過剰防衛にもなりません。

暴行罪が成立しますし、ケガをさせてしまったら傷害罪の成立の他、治療費や慰謝料の賠償が問題になります。〔刑法第208条、第204条、民法第709条〕

この場合には、パワハラを通り越して明らかに犯罪です。

 

<攻撃の原因>

部下の攻撃の原因がパワハラであれば、たとえ殴ったのが正当防衛になっても、パワハラは正当化されません。

加害者と被害者が入れ替わっても、悪いことを帳消しにはできません。

たとえば、コンビニのA店とB店が並んでいて、A店の店長がB店で万引きしたとします。

さらに、これを知ったB店の店長がA店で万引きしても、お互い様にはなりません。

両方の店長に窃盗罪が成立します。〔刑法第235条〕

殴った行為がどのように評価されようとも、それ以前に行われたパワハラは正当化されません。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

パワハラ被害の申し出は増加しています。

これは、パワハラそのものが増えたというよりも、パワハラについての知識が豊富になってきたこと、パワハラの定義が法定されて企業の義務も明確になったことが影響しているでしょう。

パワハラの予防や発生時の対応は簡単ではありません。

ぜひ、信頼できる社労士にご相談ください。

 

解決社労士

2020/07/16|891文字

 

<パワハラとは>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または職場環境を悪化させる行為をいいます。

パワーを背景とした嫌がらせがパワハラであり、これによって被害を受けた人は、行為者と会社に対して民法などを根拠に損害賠償などを求めることができ、社長以下取締役に対しては会社法を根拠に損害賠償を求めることができます。

 

<目立たないパワハラ>

パワハラというと、暴力を振るったり怒鳴ったりの激しいものを考えがちです。

こうした行為であれば、誰かが気付き注意しやすいでしょう。

しかし、次のような目立たないパワハラもあるのです。

・過大な要求型パワハラ ― 能力や経験を超える無理な指示はパワハラにあたります。終業間際に過大な仕事を押し付けるのがその例です。

・過小な要求型パワハラ ― 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことはパワハラにあたります。与える仕事の件数を他の社員よりも著しく少なくするのがその例です。

・個の侵害型パワハラ ― 私的なことに関わる不適切な発言や私的なことに立ち入る管理などはパワハラにあたります。休みの理由を根掘り葉掘りしつこく聞いたり、スマホをのぞき込んだりするのがその例です。年次有給休暇の取得理由を尋ねるなどもこれにあたります。

こうしたパワハラは、一般に思われているパワハラと違い、物静かでおとなしい役職者でも行いうるものです。

そして、気付かれないうちに被害が拡大しがちです。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

パワハラの定義が無い会社には、必ずパワハラがあり被害者がいると思います。

就業規則の規定が「法令による」では、具体的な内容が分かりません。

目立たないパワハラも就業規則に規定し、禁止し、教育したうえで懲戒処分も行わなければ、被害者の発生は防げません。

また、第三者的な相談窓口の設置によって、被害を最小限にとどめる必要があります。

これらをトータルに任せるのであれば、ぜひ、信頼できる社労士にご依頼ください。

 

解決社労士

2020/07/06|935文字

 

<労災保険は適用されない>

パワハラによってケガをさせた場合、労災保険は適用されません。

パワハラでケガをさせるのは、本来の業務に含まれませんし、本来の業務に通常伴うものでもなく、また関連するものでもないからです。

 

<パワハラ加害者の責任>

暴力によって、相手にケガをさせれば傷害罪が成立します。

これは、最高刑が懲役15年という重い犯罪です。〔刑法第204条〕

また、これとは別に、被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されるでしょう。〔民法第709条、第710条〕

刑事責任と民事責任は別問題ですから、たとえ国家から罰金刑を科されたとしても、これとは無関係に損害賠償責任を負うわけです。

さらに、会社から懲戒処分も受けるでしょう。 

 

<会社の責任>

そして会社は、職場で行われた加害について、加害者の使用者として、使用者責任を負います。〔民法第715条〕

人を雇うというのは、大きなリスクを伴います。

会社は、それを承知で雇っているわけですし、採用選考を慎重にしたり、教育訓練を実施したり、問題の発生を未然に防ぐ手段を持ち合わせています。

さらに会社は、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする労働契約上の責任もありますから、加害行為があることを知りながら適切な対処をしなかったときは、この義務違反による損害賠償責任が発生します。〔民法第415条〕

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

このように、パワハラによるケガの治療費は、被害者から加害者に対しても、また会社に対しても請求することができます。

会社は、被害が発生したら賠償請求に応ずれば良いということではなく、パワハラそのものが発生しないようにする義務を負っています。

具体的には、パワハラの定義を就業規則などで明確にして禁止し、従業員を教育してその発生防止に努め、発生した場合には懲戒処分が行えるように具体的な懲戒規定を置くことも必要です。さらに、パワハラを行う従業員に適正な評価をし、役職者から外せるような人事制度も必要ですし、問題が小さいうちに被害者が相談できる窓口の設置も必要です。

信頼できる社労士を相談窓口に指定し、具体的な施策の推進についても相談されてはいかがでしょうか。

 

解決社労士

2020/06/15|762文字

 

<パワハラは優位性による嫌がらせ>

パワーハラスメントとは、「職場において、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること」とされています。

ハラスメント(嫌がらせ)は、被害を受けている従業員のメンタルヘルス不調に直結します。

 

<会社の正しい対応>

パワハラについての教育・研修も大切です。

しかし、パワハラを懲戒処分の対象とし、就業規則に懲戒規定を置くことや、人事考課の基準に取り入れることはもっと大事です。

そして、これらすべての前提として、パワハラについての明確な定義が就業規則などによって社内に示されていることが必要です。

パワハラの定義が無い会社には、必ずパワハラがあり被害者が存在すると言っても過言ではありません。

 

<パワハラ被害に気付いたら>

パワハラについて正しい対応ができていない会社で、部下や同僚の被害に気付いたら、プライバシーに配慮しつつ、熱心に話を聴くことが大切です。

ここでは安易に意見を述べたり、間違いを指摘してはいけません。

じっくりと話を聴いて、気持をくみ取るよう心がけます。

もし、メンタルヘルス不調の徴候に気付いたら、専門家に相談することを勧めましょう。

また、社内での解決が難しいケースでは、都道府県の相談窓口への相談も考えましょう。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

会社の正しい対応を進めるには、信頼できる社労士との連携が必要だと思います。

また、パワハラ対策が進んでいない会社では、従業員の相談窓口として社労士を指定しておくことをお勧めします。

相談窓口の無い会社では、従業員が突然、労働基準監督署や弁護士に相談するものです。

問題が小さなうちに対処できるよう、安全策を講じましょう。

 

解決社労士

2020/04/27|1,601文字

 

<日本語では>

英語のハラスメント(harassment)は、日本語の「いやがらせ」にあたります。

「いやがらせ」は、相手に対して、わざと不快感や損害を与える行為で、道徳に反するものを言います。

「いたずら」も近い意味を持ちます。

しかし、「いたずら」は第三者が見たときに笑えることもあるのですが、「いやがらせ」は道徳に反するので笑えません。

 

<セクシャルハラスメント>

これは「セクハラ」と略されることが多い「性的なことについてのいやがらせ」です。

職場に限らず、性的なことに対する興味が特に強い人がいます。

こうした人が、「いたずら」のつもりで「いやがらせ」をするとセクハラになるのですが、本人は道徳に反しないと思っているので、反省することなく繰り返します。

また職場では、部下が上司に対して愛想よく、従順で素直です。

これは立場上当然なのですが、上司が勘違いして部下から好かれていると思い込むことがあります。

上司は、部下が自分に魅力を感じ恋愛感情を抱いていると勘違いすることによって、その部下に対して、ある程度は性的な言動をすることも許されるだろうと思い込んでしまいます。

そして、対象となった部下は、立場上、その気が無いことをハッキリと言い出せずに、限界を超えるところまで従い耐えることになります。

セクハラは、業務上、全く必要の無い行為です。

加害者は、「コミュニケーションのために必要」などという勘違い発言をすることもありますが、これは社内教育の不足を示しています。

 

<パワーハラスメント>

これは「パワハラ」と略されることが多い「力関係に基づくいやがらせ」です。

年齢、経験年数、能力、地位、権限、人気などのパワーを持った人が、自分から見てある側面で「劣る」と思える相手に対して、主に指導の名目で「いやがらせ」をします。

多少不快感や損害を与えたとしても、指導に伴うものはある程度仕方がないという勘違いがあります。

職場では、上司と部下、先輩と後輩の関係で多く見られます。

社長対その他の社員という形で、社員が結託して社長にパワハラを行うこともあります。

怖いことに、セクハラを伴うパワハラも見られます。

それでも、行為者は自分の行為を許されていると思い込んでいます。

1つの行為の中に、必要な側面と、許されない側面が含まれているので、許されない側面に問題があるという理解が必要です。

 

<会社など使用者の責任>

職場で、セクハラ、パワハラ、マタハラ、その他のハラスメントが起きないよう、使用者がしっかり管理しなければなりません。

働いている人たちは、労働契約によって働いています。

雇い主の「働いてください。給料を支払います」という意思と、労働者の「働きます。給料を支払ってください」という意思の合致によって、労働契約が成り立っています。

ですから、会社側は労働者がきちんと働ける環境を整える義務を負っています。

また、労働者もきちんと働ける環境を侵害しない義務を負っています。

つまり、労働者がハラスメントをしない義務を負っているのと同じく、会社側もハラスメントを防止する義務を負っています。

万一、ハラスメントが発生すれば、その行為者と会社の両方が責任を負います。

ここでのポイントは、見つけ次第対応することだけが会社の義務ではなく、発生しないように、十分な教育を繰り返すことも会社の義務だということです。

この義務は特別なことではなく、労働契約の性質から当然のことなのです。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

ハラスメントをなくすには、まず経営者の「許さない」という意志の表明が大切です。

これが無くては、何も始まりません。

そして教育と、相談窓口の設置が必須となります。

教育についても、相談窓口についても、社内で間に合わせるよりは社外の専門家に委託したほうが、はるかに効果的です。

ぜひ、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

解決社労士

2020/02/23|1,201文字

 

<法改正に関する通達>

令和2年2月10日、パワハラ防止措置義務化等に伴う通達が発出されています。

正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について」(雇均発0210第1号)です。

これは、パワハラ防止措置義務化を定めた改正労働施策総合推進法の6月1日施行に伴い、関連規定と指針の趣旨、内容、取扱い、解釈通達の一部変更を示したものです。

この中で、パワハラ指針の趣旨を次のように示しています。

 

<職場の範囲>

業務遂行の場所であれば、通常就業している場所ではなくても、出張先、業務で使用する自動車の中や取引先との打合わせの場所等も含まれます。

勤務時間外の懇親の場、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当します。

日常用語の「職場」は、通常就業している場所を指すのですが、パワハラ防止措置で対象となる「職場」は、職務の延長線上で利用される場所すべてを指します。

 

<内容や状況に応じた適切な対応>

相談者や行為者に対して、一律の対応をするのではなく、労働者が受けている言動等の性格や態様によって、状況を注意深く見守る程度のものから、上司や同僚等を通じ、行為者に対し間接的に注意を促すもの、直接注意を促すもの等事案に即した対応を行うことが必要です。

場合によっては、相談者の性格や精神状態を踏まえた対応も必要になるでしょう。

 

<相談者の心身の状況や受け止め方などへの配慮>

相談者が相談窓口の担当者の言動等によってさらに被害を受けるなど、相談者が相談したことによって被害が拡大する二次被害を防ぐための配慮も必要です。

この二次被害が発生した場合には、訴訟となったときに、企業側が敗訴する可能性は格段に上昇します。

小さなパワハラであっても、企業は全力で対応しなければリスクを負うことになります。

 

<幅広い相談への対応>

放置すれば相談者が業務に専念できないなど、就業環境を害するおそれがある場合、または労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となって、パワーハラスメントが生じるおそれがある場合の他、勤務時間外の懇親の場等においてパワーハラスメントが生じた場合等も幅広く相談の対象とすることが必要です。

また、その言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談にも応じる必要があります。

なお、一見、特定の労働者に対する言動に見えても、周囲の労働者に対して威圧感を与えるような場合には、周囲の労働者に対するパワーハラスメントになる場合もあることに留意する必要があります。

加害者からの言動を直接受けた労働者だけが、被害者とされる傾向にあります。

しかし、その場に居合わせた同僚や部下なども、精神的に動揺し傷つくのが通常です。

この点を見逃すことなく対応する必要があるということです。

 

解決社労士

2020/01/28|1,473文字

 

<人事考課権の濫用>

人事考課権者が、不当に低い評価をすることがあります。

好き嫌いによって恣意的に、あるいは懲らしめるために意図的に、低い評価をするような場合が考えられます。

必要な業務に伴って、不必要な人権侵害を行うのがパワハラです。

人事考課そのものは必要なことですが、不当に低い評価を行うことによって、対象者の給与・賞与や昇進・昇格に不利益が及べば、それは財産権や名誉権などの侵害となりますから、パワハラとなることは明白です。

これが一次考課者によって行われた場合には、二次考課者や最終考課者などが修正することも多いでしょう。

しかし、最終考課者が行ったような場合には、過去の慣行に反して明らかに不当であるとか、根拠が示されていないなどを指摘できない限り、社員からパワハラを主張することは困難です。

この場合には、経営者によって不当な評価が行われる会社として、世間の批判にさらされ、会社そのものが淘汰されていく結果を招きかねません。

 

<過大な目標設定>

目標管理制度を利用している会社や、社員に何らかの目標を設定させている会社では、そもそも設定された目標が、社員の置かれている立場や役割に比べて過大であることもあります。

目標達成率に応じて評価が決定され、賞与の支給額に連動しているような場合であれば、特定の社員だけ不当に過大な目標を設定させ、達成率の低いことを理由に退職に追い込もうとする意図が見えることもあります。

また、人件費の削減を狙い、一様に過大な目標を設定させるということもあります。

目標の設定そのものは必要な業務ですが、不当に財産権や人格権を侵害するような場合には、やはりパワハラと言わざるを得ません。

こうした場合には、目標の達成率が評価される段階になると、その不当性を判断することが困難になりますから、社員としては目標設定の段階で異議を申し出るべきです。

反対に、目標の達成率が評価される段階で、社員から目標の不当性が主張された場合には、会社から社員に対して、その根拠の提出を求めるべきでしょう。

 

<評価結果のフィードバックでのパワハラ>

人事考課の結果は、社員一人ひとりにフィードバックし、十分に説明することによって、評価結果を理解させ、次に向けてどのように努力すべきかの指針を与えなければなりません。

このとき起こりがちなのは、評価の低い社員に対して、あるいは評価の低い項目について、上司から必要以上の精神的ダメージが加えられることです。

評価結果のフィードバック面談は必要な業務ですが、不当な屈辱を与えるのは人格権の侵害であり、パワハラとなってしまいます。

上司は、必要のない言葉を添えないように、十分注意して面談に臨む必要があります。

もっとも、低い評価にショックを受けて、社員が泣き出してしまうようなケースでも、必ずしもパワハラが行われたとは限りませんので、会社としては慎重な見極めが必要です。

 

<トラブル回避のために>

社員が納得できるところまではいかなくても、少なくとも理解できる説明をすることでトラブルは回避できます。

これには、評価や目標の根拠事実を数多く示すことが必要ですから、評価をする側がこれをなるべく多く集めておく努力が求められます。

また、客観的な評価基準が無く、上司の裁量で評価している場合や、評価基準はあっても具体的な内容が曖昧な場合には、人事考課制度の改善が必要となります。

さらに、人事考課権者の能力不足や理解不足でパワハラの問題が生じないようにするには、人事考課の実施時期の前に必ず考課者研修を行うことが望ましいといえます。

 

解決社労士

2020/01/20|1,213文字

 

<ハラスメントとは>

パワハラやマタハラの「ハラ」は、ハラスメントの略です。

これは日本語で「嫌がらせ」と言います。

職場での職権などのパワーを背景とした嫌がらせがパワハラであり、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに受ける嫌がらせがマタハラです。

どちらも、精神的・肉体的な嫌がらせによって、幸福追求権〔第13条〕、平等権〔第14条〕、思想・良心の自由〔第19条〕、言論の自由〔第21条〕、職業選択の自由〔第22条〕、勤労の権利〔第27条〕など、憲法の保障する基本的人権を侵害するものです。

これによって被害を受けた人は、行為者と会社に対して民法などを根拠に損害賠償などを求めることができ、社長以下取締役に対しては会社法を根拠に損害賠償を求めることができます。

 

<パワハラとマタハラの違い>

パワハラでは、対象者の職務遂行能力、仕事の進め方、態度、礼儀、性格などが引き金になります。

上司や先輩は、対象者の職場での様子に常識を超える不信感を抱くのです。

して、その対象者の「存在」が負担だと感じます。

マタハラでは、対象者の職務遂行能力や仕事の進め方は、原因になりにくいものです。

場合によっては、態度、礼儀、性格も原因とされますが、ほとんど「言いがかり」です。

上司や先輩、さらには後輩も、対象者の職場での様子ではなく、妊娠、出産、育児によって、対象者が長い間職場を離れることで、自分たちの仕事の負担が増えることに不安と不満を感じるのです。

つまり、その対象者の「不存在」が負担だと感じます。

 

<パワハラの効果的な対策>

パワハラ行為者は、負担ばかりを感じ、何の利益も感じられないのが不満です。

もし、部下や後輩の指導を、人事考課基準に取り入れたらどうでしょう。

自分がダメ社員だと思う相手を育成すると、成長した分だけ自分が評価され、正当な見返りがあるということになります。

今、人事考課制度が無い会社は、なるべく早く導入すべきですし、個人の経験・能力が評価の中心となっている会社では、部下・後輩の育成を評価の対象とすることをお勧めします。

誰をどこまで成長させるという具体的内容を、個人目標の一つにしたいものです。

状況によっては部下・後輩に、上司・先輩の育成を個人目標として設定するケースも考えられます。

 

<マタハラの効果的な対策>

マタハラ行為者は、仕事の負担増が不安であり不満です。

女性社員が妊娠した場合、ミーティングなどで、その部署のメンバーに公表することが多いでしょう。

それと同時に、その女性社員が休んでいる間、派遣社員が来るとか、他部署からの応援が入るなどの対応を伝えたらどうでしょう。

産休・育休の間、会社は給与の支払義務がありません。

浮いた人件費で派遣社員を頼むことは可能でしょう。

他部署からの応援は、次善の策です。

なぜなら、応援に入る人が不安と不満を感じることもあるからです。

妊娠について公表するのは、人の手配がついてからにしたいものです。

 

解決社労士

2020/01/18|1,908文字

 

<パワハラとは>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または職場環境を悪化させる行為をいいます。

 

<パワハラの定義の抽象性>

パワハラの定義は抽象的なものになりがちです。

ところが懲戒処分を有効に行うには、つまり懲戒処分を行ってそれが無効だと主張されないようにするには、就業規則や労働条件通知書などに具体的な懲戒規定が必要です。

パワハラについての懲戒規定が無かったり、たとえあっても抽象的すぎて具体的な言動がパワハラにあたるかどうか判断できなかったりすれば、加害者が有効に処分されることはありません。

懲戒処分の手続きを担当する従業員の常識に照らせばパワハラにあたることが明らかな行為であっても、加害者の常識に照らせば対象者を育成するのに必要不可欠な行為であり正当な行為だという場合もあります。

 

<懲戒処分の目的>

懲戒処分の目的には、不都合な行為を行った従業員に対して制裁を加えることにより、他の従業員が納得して安心して働けるようにすること、他の従業員が同様の行為を行わないよう再発を防止すること、そして何より行為者本人が深く反省し同じ過ちを繰り返さないようにすることなどがあります。

しかし、本人が自分の行為は懲戒処分の対象になるようなものではないと確信していては、たとえ懲戒処分を行っても、反省するどころか、会社に対する反発と不信感を生むだけです。

ですから、会社がパワハラ対策をきちんとするには、懲戒規定を読めばパワハラの具体的な定義と具体例がすぐわかるようにしておく必要があります。

パワハラについての具体的な定義が無い職場には、必ずパワハラがあると言っても過言ではないでしょう。

 

<上司は部下を叱れないのか>

職場では、業務上の指示や指導の際に、やや厳しい言動が見られることはありますし、労働者本人が不快に感じたからといって、その行動の全部が違法になるわけではありません。

しかし、その行動の目的と手段から見て、企業の中で通常行われている範囲を超えた業務上の指示や対応であれば、違法なハラスメントになるといえます。

つまり、相手の感情を基準に違法性を判断するのではなく、周囲の人々が客観的に見たときに、業務上の必要性も無く、嫌がらせなどの不当な目的が明らかで、一般的に見て不安を感じさせるような対応だと言えるときに、違法性の存在が認められるのです。

また、その言動自体は業務の範囲と言えるものでも、退職に追い込む、あるいは見せしめなどの目的が客観的に明らかであれば、違法なパワハラであることが認定できます。

裁判となった事例では、一人だけ炎天下の作業を命じたり、差別的に業務配分をしたりすることを違法としたケースがあります。

さらに、部下の指導や勤務態度の改善といった正当な目的でなされた行動であっても、暴力を伴う行為は、原則として違法となる犯罪行為です。

たとえ言葉の上での対応でも、その発言の内容が著しく労働者の人格や尊厳を傷つけるものであったり、社会的に許される範囲を超えて継続的になされたりすれば、やはり違法となります。

このときも、言われた人がどう思ったかではなく、客観的に見て人格や尊厳を傷つけるか、世間一般の基準から客観的に許される範囲と言えるかが基準となります。

 

<パワハラと指導の境界線をどこに引くか>

こうして見て来ると、次の場合には、指導を超えたパワハラと言えるでしょう。

これらを踏まえて、パワハラについての懲戒規定を見直すようお勧めします。

・相手の成長を促すのとは別の不当な目的が客観的に認定できる場合。ここで、不当な目的とは、退職に追い込む、見せしめ、差別的、人格権の侵害などがあります。つまり、憲法で保障された人権の侵害や、刑罰法規に触れるような不当な目的です。

・客観的に見て犯罪行為にあたる場合。炎天下の人目につかない場所で、たった一人で力仕事をさせたり、暴力を振ったりというのは、目的がどうであれパワハラにあたります。

・客観的に見て、怒りをぶつけている場合。親が子供をしつける場合には、こうしたことが必要になるかもしれません。しかし、社会人を指導し育成するのに、怒りの感情を持ち込むことは、必要不可欠なことではありません。

 

就業規則の見直しなど、具体的にどうしたら良いのか迷ってしまう場合には、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

また、感情に左右されることなく、冷静に対応できることから、第三者的な立場の社労士が、パワハラの相談窓口になることも有効な対策になります。

 

解決社労士

2020/01/12|1,665文字

 

<問題上司>

「良いことの原因は自分、悪いことの原因は部下」と思い込み、パワハラで気に入らない部下を追い出すような管理職です。

自部署の業績が向上すれば、自分の方針や部下への指導が優れていると感じますし、昇給・昇格・抜擢・栄転など期待はふくらみます。

部下の年次有給休暇取得率が低ければ、その部下が無能であり、仕事にメリハリが無いからだと感じます。

自分の業務配分のバランスの悪さや、指導不足は感じません。

社長や上司の機嫌は最大限尊重します。

コンプライアンスや、部下の権利との調整など思いつくことはありません。

自部署の業務の問題点を指摘されると、嫌いな部下のせいにします。

面と向かって「お前のせいでこんな結果になってしまった」と言います。

パワハラは毎日のように続きますから、その部下は異動や退職を申し出ます。

そして、その部下がいなくなれば、もう問題点は解決したと思い込みます。

しかし、追い出された部下は上司のパワハラや会社の管理責任を問う訴えを起こしてきます。

その部下自身はおとなしい性格なのですが、その両親や親戚に強い性格の人がいて「おとなしく引き下がっていないで訴えなさい」と迫るのです。

こうなって初めて、会社は問題上司の存在に気がつきます。

問題上司にも責任はありますが、管理職にしてしまった会社の責任の方が重いかもしれません。

 

<問題上司を作らない方法>

管理職選考の段階で見極めることが大事です。

今までの業務の中で、次のような傾向が強く見られれば、管理職登用を見送ることです。

・仕事でも私生活でも上手くいったことの原因は自分にあると主張する。

・仕事でも私生活でも上手くいかなかったことに自分の責任は無いと言う。

・昇進・昇格・栄転などに強い興味を示し、同期との比較をしたがる。

・会社や上司に対して「間違っている」と思うことを言わない。

これらは、人事考課のチェック項目に入れておくことができます。

きちんとした人事考課基準の確立と運用で、問題上司を作らない会社にしておくことです。

社長の好き嫌いや経験年数で管理職に登用してしまうと、かわいそうな部下を作ってしまうことになります。

具体的に人事考課をどうすれば良いか迷ったら、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

<問題上司の教育>

問題上司に会社の方針を伝えたり、それを部下に浸透させたり、別の部署を担当させたりは、普通に行うことができます。

しかし、問題上司から優良上司に変えることはできません。

生まれてから今までに、私生活でも仕事でも多くの経験を積む中で、今の人間力を身に着けてきたのですから、他人がこれを変えることはできません。

問題上司の真逆の優良上司とは、良いことも悪いこともその原因を自分の能力や判断と部下に対する指導にあると理解し、自分の昇進を考える前に部下をしっかり育てることを考え、退職までにどれだけ多くの人材を育て会社を成長させられるか真剣に考えるような管理職です。

問題上司を優良上司に変えようと努力するよりは、他の社員を抜擢した方が近道です。

 

<うっかり問題上司を作ってしまったときのために>

会社オリジナルの就業規則が最大の武器になります。

パワハラの定義すら無い就業規則では、問題上司の暴走を止めることはできません。

どんなに優秀な社員であっても、不適切な言動はきちんと懲戒の対象とし、一度管理職になっても不適格と認められれば降格させることのできる規定を備えた就業規則を作り、磨き、周知することによって、被害を最小限に抑えることができます。

もちろん、優良上司がのびのびと働ける内容にしなければなりません。

もう一つ、会社にとって不都合な情報でも、社長や取締役あるいはこれに準ずる人たちにきちんと伝わる会社にしておくことです。

どれほど優れた判断力を備えた社長でも、必要な情報が入って来なかったり、ウソの報告が多かったりしたら、正しい経営判断はできません。

就業規則や人事制度についても、問題を感じるようになる前に、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

解決社労士

2019/12/10|1,544文字

 

<パワハラ加害者の責任>

たとえば、パワハラによって相手にケガをさせれば傷害罪〔刑法第204条〕が成立します。

これは、最高刑が懲役15年という重い犯罪です。

また、これとは別に、被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されるでしょう。〔民法第709条、第710条〕

刑事責任と民事責任は別問題ですから、たとえ国家から罰金刑を科されたとしても、これとは無関係に損害賠償責任を負うわけです。

 

<懲戒処分の位置付け>

刑罰は国家との関係、損害賠償は被害者との関係で問題となります。

そして、懲戒処分は会社との労働契約にかかわる問題です。

ですから、有罪とされ損害賠償をすることとなっても、必ずしも懲戒処分が有効になるわけではありません。

あくまでも別問題として考える必要があります。

 

<懲戒処分の正当性>

パワハラで懲戒処分を受けたなら、パワハラについてきちんとした知識を身に着けつつ、気を取り直して業務に打ち込み、社内の信頼を回復するのが筋です。

しかし、どうにも納得がいかないという場合には、次の懲戒処分の有効要件を確認してみましょう。

・パワハラに対する懲戒が就業規則などに規定され周知されていること。

 →パワハラの定義と懲戒の規定があって社内に周知されていることです。

・今回の行為が具体的に懲戒規定にあてはまるといえること。

 →10人の社員に聞いてみて、意見が分かれるようではダメです。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

 →ちょっと厳しく叱ったら相手が泣いたので懲戒解雇ではやり過ぎです。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

 →問題視されたので会社があわてて規定を変えたというのはダメです。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

 →何度も始末書を書かせたけれど、効果がないので今回は過去の分も全部合わせて減給処分というやり方はできません。

・その労働者に説明するチャンスを与えていること。

 →ここは大きなポイントです。本人の言い分を聞かずに懲戒処分はできません。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

 →元々手を焼いていたので、チャンスとばかりに懲戒処分はできません。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

 →誰がやったかによって、処分が違うのは不当です。

これらの条件のほとんどは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論の具体的な内容を示したものです。

条件を満たしていなければ、懲戒処分は無効となります。〔労働契約法第15条〕

それどころか、会社は労働者から損害賠償の請求を受けることにもなります。

ただ、懲戒処分を受けた本人は感情的になっていますから、会社が懲戒権を濫用したのかどうか、弁護士や特定社労士に客観的な判断を求めることが必要でしょう。

 

<人事権との関係>

刑罰を科せられたとか、損害賠償を請求されたからといって、それを理由に降格処分というのは不合理です。

しかし、ひどいパワハラを行った人は、人の上に立つ資格がないと判断されても仕方ありません。

懲戒処分を受けるにあたって、本人には事情を説明するチャンスが与えられますから、このときに懲戒処分の有効性について、淡々と主張することはできます。

しかし、自分の行為に対する反省を示さず、正当性ばかりを主張すると、資質を疑われるのではないでしょうか。

刑事事件として不起訴とされ、民事事件で勝訴し損害賠償を免れ、会社側の手続きの落ち度で懲戒処分が無効になったとしても、これらを通じて人物を疑われれば、会社の中での将来は暗いものとなってしまいます。

是非とも、十分な反省を示したうえで、主張すべきは主張していただきたいものです。

 

解決社労士

 

2019/11/25|1,062文字

 

<職場におけるパワーハラスメント>

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。 

 

【パワハラの3要素】

1.優越的な関係を背景とした

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

3.就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

 2.から分かるように、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。

 

<会社の立場>

上記の定義によると、パワハラの加害者は「職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性」がある人です。

つまり、会社の上司が加害者となって部下を攻撃したり、先輩が後輩に苦痛を与えるというのが、パワハラの基本的な構造となります。

会社としては、上司と部下、先輩と後輩との間にトラブルが発生すれば、ついつい会社に対する貢献度や経験年数を考えて、上司や先輩にあたる加害者の肩を持つ傾向が強くなってしまいます。

しかし、世間のパワハラに対する目は、年々厳しくなってきています。

会社が加害者の味方を続ければ、マスコミやネット上の評判の低下から、定着率は低下し、そもそも求人広告に対する応募者が来なくなるでしょう。

会社としては、会社に対する貢献度や経験への評価はきちんとする一方で、加害者としての責任も追及する態度が求められます。

 

<パワハラの抽象性>

パワハラの定義は抽象的です。

一方で、加害者を処分するには、就業規則や労働条件通知書などに具体的な懲戒規定が必要です。

つまり、懲戒規定がなかったり、抽象的すぎて具体的な言動がパワハラにあたるかどうか判断できなければ、加害者が処分されることはありません。

それどころか、注意されることすらないのです。

会社がパワハラ対策をきちんとするには、懲戒規定を読めばパワハラの具体的な定義と具体例がすぐわかるようにしておく必要があります。

パワハラについての具体的な定義がない職場には、必ずパワハラがあると言っても過言ではないでしょう。

 

<被害者のとるべき行動>

パワハラ対策は会社の責任です。

被害者としては、加害者が上司であれば、まず会社の担当部署に相談すべきです。

また、加害者が先輩であれば上司に相談すべきです。

基本的にパワハラの問題は、社内できちんと解決すべきだからです。

一足飛びに労基署などに相談すると、会社も対応に困ってしまいます。

とはいえ、会社がきちんと対応できない場合には、会社が責任を負えないわけですから、労基署の総合労働相談コーナー、労働委員会、法テラスなどの機関や、弁護士、社労士などの専門家に相談することをお勧めします。

 

解決社労士

2019/11/04|1,193文字

 

<対象となるケース>

パワハラを受けて精神的に参ってしまい、まともに出勤できない状態にされ、退職を迫られてやむなく応じ、自己都合退職扱いにされるという場合の上手な闘い方です。

あってはならないケースですが、パワハラの定義すら就業規則に無い会社では、誰もパワハラを止めることができず犠牲者が後を絶ちません。

 

<最初に思いつくのは>

こんなとき、被害者が精神的に回復すると、あのパワハラ上司を訴えてやろうという気持ちになりがちです。

しかし、パワハラそのものを理由として損害賠償を請求しようとするならば、労働者の側でパワハラの存在や被った損害額を証明しなければなりません。

 

<証明責任(挙証責任)>

裁判で訴える側がAという事実の存在を主張し、訴えられた側がその存在を否定したとします。

裁判所は、どちらが真実か証明がつかないからといって、裁判を拒否できません。

そこで、あらかじめ法令やその解釈によって、Aという事実の証明について、訴える側と訴えられた側のどちらが責任を負うかが決まっています。

そして、その責任を負う人が証明に失敗すると、自分の主張が通らないという不利な扱いを受けるのです。

 

<パワハラを証明することの困難>

パワハラで損害賠償を請求するというのは、法律上は加害者に対する不法行為責任の追及ということになります。

そして、その証明責任は被害者である労働者にあるのです。

上司が人前で殴ったり蹴とばしたりすれば、証人がいるでしょう。

しかし目撃者が、退職した労働者のために証言してくれるとは限りません。

ましてや電話でのやり取りや、会議室で2人きりで話していてどなられたことなどは、とうてい証明できないでしょう。

 

<視点を変えれば>

このケースでは、パワハラの問題もあるのですが、不当解雇の側面もあります。

労働者が不当解雇を主張し、解雇は無効であって会社に行けなかった間の賃金の補償や慰謝料を会社に求めた場合には、少なくとも不当解雇ではなかったことについて、会社が証明責任を負います。

具体的には、解雇が客観的に合理的な理由を欠いていたり、社会通念上相当であると認められない場合には、会社がその権利を濫用したものとして、その解雇を無効とするという規定があります。〔労働契約法第16条〕

ですから、労働者が不当解雇を主張すれば、会社はその解雇に客観的に見て合理的な理由があったことを証明しなければなりません。

また、世間一般の常識から考えて、解雇したのもやむを得ないといえるケースだったことを証明しなければなりません。

会社は両方の証明に成功しなければ、裁判で負けてしまうのです。

 

<結論として>

訴えるにしても訴えられるにしても、やり方次第で損得が出てしまいます。

また、紛争解決の手段は訴訟だけではありません。

何を主張して、どう戦ったらよいのか、報酬を支払ってでも弁護士や社労士に相談する意味はここにあります。

 

解決社労士

2019/10/31|2,175文字

 

<法改正>

令和元(2019)年5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が通常国会で可決・成立し、令和元(2019)年6月5日に公布されました。

施行日は、公布後1年以内の政令で定める日となっています。

職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。そして、適切な措置を講じていない場合には、所轄労働基準監督署などによる是正指導の対象となります。

ただし中小企業は、公布後3年以内の政令で定める日までの間は、努力義務となります。

 

<職場におけるパワーハラスメント>

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。

 

【パワハラの3要素】

1.優越的な関係を背景とした

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

3.就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

2.から分かるように、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。

 

<事業主が講ずべき措置>

上記の内容だけでは、事業主が講ずべき措置の具体的内容等が不明確です。

そこで、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会が、パワハラ防止のために企業に求める措置に関する指針を検討し、令和元(2019)年10月21日に素案を示しています。

この指針は、パワハラにより労働者の就業環境が害されることの無いよう、雇用管理上講ずべき措置等について、事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたものです。

指針案では、事業主等の責務と行うことが望ましい取組みの内容が、次のように示されています。

 

【事業主等の責務】

1.パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

2.パワハラには厳正に対処する旨を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

3.相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

4.相談窓口の担当者が、相談に対し適切に対応できるようにすること。また、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合等も広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること

5.パワハラに係る相談の申出があった場合、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

6.パワハラの事実が確認された場合、被害者に対する配慮措置を適正に行うこと

7.パワハラの事実が確認された場合、行為者に対する措置を適正に行うこと

8.パワハラの事実が確認された場合、再発防止措置としてパワハラに関する方針を改めて周知・啓発する等を講じること

9.パワハラに係る事後対応にあたっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること

10.パワハラに関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いはされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 

【行うことが望ましい取組みの内容】

1.相談窓口は、セクハラ・マタハラ等他のハラスメントに関するものと一体的なものとして設置し、一元的に相談に応じることができる体制を整備する

2.パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、コミュニケーションの活性化や円滑化のための取組みを実施する

3.パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、適正な業務目標の設定等の職場環境改善のための取組みを実施する

4.自ら雇用する労働者以外の者(個人事業主、インターン、就活生等)に関する取組み

 

<パワハラの定義の問題>

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

しかし、今回公表された指針案の中で、パワハラに該当しない例として、次のようなものが示されました。

 

【パワハラに該当しない例】

〇誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること

〇遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること

〇その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意をすること

〇新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること

〇処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること

〇労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること

〇業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

〇経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること

〇労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること

〇労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと

〇労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと

 

これらの例は、パワハラに該当しないことが明らかなものが中心となっています。

しかし、企業にとって必要なのは、パワハラ該当性について判断が困難な限界事例であると思われます。

指針の内容について、今後、一層充実したものとなることが期待されます。

 

解決社労士

<パワーハラスメントについての法規制>

パワーハラスメントについて、現時点では、特別な法律があるわけではありません。

しかし、職場であっても他者に暴力を振るえば、暴行罪・傷害罪となって刑事上の責任が問われます。〔刑法第208条、第204条〕

また、皆で示し合わせて誰か一人を排除するようなことをすれば、脅迫罪となる可能性もあります。〔刑法第222条〕

さらに、そこまでに達しないような言動でも、常識的に許される範囲を超えて、相手の人格や尊厳を傷つけるものは、被害者への損害賠償責任を発生させます。〔民法第709条〕

 

<上司は部下を叱れないのか>

職場では、業務上の指示や指導の上で、やや厳しい言動が行われることはありますし、労働者本人が不快に感じたからといって、その行動の全部が違法になるわけではありません。

しかし、その行動の目的と手段から見て、通常の企業の中で行われている範囲を超えた業務上の指示や対応であれば、違法なハラスメントになるといえます。

部下や同僚に対し、業務上の必要性もなく、嫌がらせなどの不当な目的で叱責したり、不安を感じさせる対応をしたりすることは、常識的に許されないでしょう。

また、その言動自体は業務の範囲といえるものでも、退職に追い込む、あるいは見せしめなどの目的で、業務上の権限を使うことも許されません。

裁判となった事例では、一人だけ炎天下の作業を命じたり、差別的に業務配分をしたりすることを違法としたケースがあります。

さらに、部下の指導や勤務態度の改善といった正当な目的でなされた行動であっても、暴力を伴う行為は、原則として違法となる犯罪行為です。

たとえ言葉の上での対応でも、その発言の内容が著しく労働者の人格や尊厳を傷つけるものであったり、社会的に許される範囲を超えて継続的になされたりすれば、やはり違法となります。

 

<被害者の取るべき行動>

職場で違法なハラスメントを受けた被害者は、加害者本人に対する損害賠償請求ができます。

また、会社は、職場で行われた加害について、加害者の使用者として、加害者本人と同様の賠償責任を負います。〔民法第715条〕

さらに、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする労働契約上の責任もありますから、加害行為があることを知りながら適切な対処をしなかったときは、この義務違反による損害賠償責任が発生します。〔民法第415条〕

そして、常識的に許されない業務上のパワーハラスメントによって、健康被害が生じたと認定された場合は、業務災害として労災保険からの給付を受けられます。

社内でのハラスメント被害を止めるためには、抗議できるならば加害者に中止を求めるとともに、一人では対応が難しいようであれば、まずは上司や同僚など、社内の信頼できる方に相談してください。

ただし、上司からの加害について、加害者本人に相談するのは無意味ですから、上司の上司に相談することになります。

刑事責任が発生するようなケースでも、いきなり警察に相談するのではなくて、社内での解決を考えたいものです。

まず社内での解決を目指し、難しい時には、弁護士や社労士といった社外の専門家や警察に相談するのがよいでしょう。

 

2019.10.03. 解決社労士 柳田 恵一

<ジタハラとは>

仕事と生活のバランスが取れるようにし、生産性を向上させるため、働き方改革の一環として、労働時間の削減が推進されています。

ところが、会社によって労働時間が短縮されるのは、労働者にとって苦痛であり、嫌がらせであると感じている人たちがいます。

これが、労働時間短縮ハラスメント(ジタハラ)です。

 

<ジタハラの具体的な被害>

ジタハラを主張する人たちは、次のようなものを被害として挙げています。

正社員では残業手当が減少し、パート社員では労働時間や勤務日数が減少することによって収入が減少します。仕事を急いで全力でこなすことから、ストレスは増加し、人間関係やチームワークも悪化します。現場での指導も不十分になりますから、仕事の完成度も低下します。ケアレスミスも増えます。こうして、従業員のモチベーションが低下し、退職者が増加します。

こなし切れない仕事は、自宅に持ち帰って行うこともあります。自宅での仕事ぶりは見えませんから、評価の対象にはなりません。いきおい人事考課が機能しなくなり、適材適所が困難となる恐れもあります。

一部の企業では、未払残業が発生します。残業手当が支給されない管理職に業務が集中することもあります。毎日残業し、休日も出勤する管理職の姿は、憧れの対象にはなりませんから、昇進を目指して努力するということも減ってしまいます。

一番困るのは、労働時間の短縮がお客様に対するサービスの低下をもたらし、お客様が離れてしまい、業績が低迷することではないでしょうか。

他にも、取引先との商談が減ったり、夜間の連絡が取れなくなったりの不都合が発生します。

 

これほど多くの不都合があるのなら、労働時間の短縮をしてはいけないのでしょうか。

これらは、政府の主導する働き方改革の弊害なのでしょうか。

ジタハラの問題を解決するには、次のような対策が必要です。

 

<副業・兼業の奨励>

労働時間の短縮により収入が減る場合でも、これを補うための副業や兼業が奨励されているのであれば、あとは労働者側の努力次第という説明も可能です。

そもそも職業選択の自由がある以上、プライベートの時間に本業とは別の仕事をするのは労働者の勝手というのが原則です。

もちろん、本業に支障が出たり、企業秘密が漏えいされたり、会社に損害を与えるようなことは許されません。

副業・兼業を許可制にするのは行き過ぎで、せいぜい届出制に留めるべきだと思います。

次のモデル就業規則最新版(平成31(2019)年3月版)を参考に、社内規定を整備してはいかがでしょうか。

 

(副業・兼業)

第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

 

<労働者の主体性>

年次有給休暇について、会社が時季指定義務を果たすには、労働者の意向を汲んで行うことになっています。

ところが労働時間の短縮となると、殆どの場合に、その手段が会社からの押し付けになっていないでしょうか。

労働者に主体性を持たせ、創意・工夫による時間短縮を任せなければ、モチベーションが低下するのは当然です。

労働時間の短縮について労使の話し合いの場を持つ、キャンペーン的に労働者のアイデアを募って、成果の上がったアイデアは表彰するなど、労働者に主体性を持たせる方法はたくさんあります。

 

<お客様・お取引先への説明>

ただ単純に「閉店時間を早めます」「定休日を設けます」というのでは、不便になりますから、お客様の心は離れて当然です。

たとえば、スーパーマーケットのサミットは、今年から元日だけでなく1月2日も休業日としています。

その説明は、次のとおりです。

 

~働き方改革の一環として1月2日を休業いたします~

弊社の事業ビジョンとなる「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」の実現に向け、お客様やお取引先を大切にすることはもちろん、それを実現するために社員の働き方を見直します。直接お客様と接する店舗の社員が家族・親族と過ごせる時間を増やし、社員一人ひとりがリフレッシュすることで、1月3日から更にお客様にご満足いただける売場・商品・サービスを実現します。また、3日からの営業となることで、弊社のお取引先様の負担を少なくしていきます。

 

こうした説明を受けて「けしからん」と思う人などいないでしょう。

きちんと説明すれば、会社のファンを増やすきっかけにもなるのです。

お客様やお取引先が納得してしまえば、従業員も営業時間や労働時間の短縮を批判できないものです。

 

<正攻法の重視>

労働時間の短縮の手段としては、人員増、社員教育、システム化が王道です。

こうした正攻法を軽んじて、ノー残業デー、20時以降は消灯など、小手先の手段に走っていないでしょうか。

仕事と生活のバランスをとる、柔軟な働き方を選択できるようにするなど、働き方改革の本来の目的は労働者目線です。

いつの間にか、残業代削減など会社目線の施策が推進されていないでしょうか。

これはもはや、働き方改革ではなくなっています。

 

何のための働き方改革かという基本に立ち返って、労働時間の短縮に取り組むことが必要なのです。

 

2019.10.01. 解決社労士 柳田 恵一

<法改正>

令和元(2019)年5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が通常国会で可決・成立し、令和元(2019)年6月5日に公布されました。

施行日は、公布後1年以内の政令で定める日となっています。

これによって、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。

そして、適切な措置を講じていない場合には、所轄労働基準監督署などによる是正指導の対象となります。

ただし中小企業は、公布後3年以内の政令で定める日までの間は、努力義務となります。

 

【雇用管理上の措置の具体的内容】

・事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発

・苦情などに対する相談体制の整備

・被害を受けた労働者へのケアや再発防止等

 

詳細は、現行のセクハラ防止の措置義務の内容を踏まえて検討される予定です。

仕組みが整えば、パワーハラスメントに関する紛争が生じた場合、調停など個別紛争解決援助の申出を行うことができるようになります。

 

<職場におけるパワーハラスメント>

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。

 

【パワハラの3要素】

1.優越的な関係を背景とした

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

3.就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

2.から分かるように、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。

 

職場のパワーハラスメントのより具体的な定義や事業主が講ずべき措置の具体的内容等については、今後公表される指針で示される予定です。

 

<パワハラと犯罪>

刑法その他の刑罰法規にパワハラ罪の規定はありません。

しかし、パワハラが犯罪になることはあります。

ある人の行為が、パワハラになるか/ならないかと、犯罪になるか/ならないかとは、別次元の問題です。

以下、具体例を見てみましょう。

 

<パワハラであり犯罪である行為>

就業の場で、身体的な攻撃を伴うパワハラが行われれば、同時に暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)などが成立します。

これらは、事実が警察に発覚すれば、社内で行われたことであっても、会社の方針とは関係なく捜査の対象となります。

また就業の場で、精神的な攻撃を伴うパワハラが行われれば、同時に脅迫罪(刑法第222条)、名誉毀損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)などが成立します。

これらのうち、名誉毀損罪と侮辱罪は、警察沙汰になると被害者の心の痛みが大きくなりうることを踏まえて、親告罪とされています。〔刑法第232条第1項〕

つまり、被害者の告訴がなければ公訴が提起できませんから、警察も動けません。

こうしたパワハラの被害者から、会社に対して被害の申告があった場合に、被害者の納得できる対応を取らないと、被害者が警察に駆け込み、会社の対応が格段に大変になるリスクをはらんでいます。

 

<パワハラだが犯罪ではない行為>

就業の場で、たとえば上司が返事をしない、仕事を与えない、本人が拒んでいるのに退職勧奨を続けるというのは、パワハラに該当します。

これらは犯罪ではありませんから、警察に助けを求めても取り合ってもらえません。

しかし、こうした行為を行う上司は、管理職が不適格であるとして役職を外されるかも知れませんし、被害者から損害賠償を請求されるかも知れません。

つまり、加害者が刑事責任を負うことは無いものの、民事責任を負ったり、不利益を被ったりするリスクをはらんでいます。

加害者が民事責任を負う場合、会社も使用者責任を負うことがあります。〔民法第715条〕

 

<パワハラではない犯罪行為>

社外で行われる犯罪のほとんどは、業務とは無関係ですから、パワハラにはあたりません。

しかし、出張先や移動中の車内など、社外ではあるけれども就業の場といえる場所で行われる行為は、パワハラとなりうるものです。

また、休日の電話など、業務に関連する会話が行われる場合には、パワハラとなりうることがあります。

さらに、社内でも社外でも、本人がいない所で悪口を言うのは、聞いた相手が言いふらすことを期待して言ったのであれば、名誉毀損罪が成立することもあります。

結局、就業の場ではない所で業務とは無関係に行われた犯罪行為は、パワハラにはならないということです。

 

<パワハラでも犯罪でもない行為

人事考課の結果を伝える面談で、上司が部下に「7項目がB、9項目がCで、総合評価がCでした」と伝えたところ、部下がショックを受け、泣きながら応接室を飛び出して行ったとします。

事情を知らない社員が、その姿を目にしたら、パワハラかセクハラがあったのではないかと疑いたくもなります。

しかし、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動は存在しないのですから、パワハラにはならず、もちろん犯罪も成立しません。

ただ上司としては、疑われることがないように、「これから○○さんと、応接室で人事考課の結果を伝える面談をします」と周囲に声掛けをしてから席を立つなどの配慮が必要です。

また可能な限り、1対1での面談は避けることが望ましいといえるでしょう。

 

2019.09.25. 解決社労士 柳田 恵一

<処罰しないで>

セクハラやパワハラの直接の被害者から「加害者を処罰しないでほしい」という申し出があった場合には、どのように対応したら良いのでしょうか。

被害を受けたその瞬間には大きなショックを受けたものの、後で冷静になってから、自分にも落ち度があったのではないか、ハラスメントとは言い切れないのではないかなどと考えが変わり、自分のせいで相手が懲戒処分を受けたら申し訳ないという気持ちになることもあるのです。

 

<ハラスメントの被害者>

さて、セクハラやパワハラの被害者とは誰でしょうか。

セクハラは、職場で性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、身体への不必要な接触など、意に反する性的な言動が行われ、拒否したことで不利益を受けたり、職場の環境が不快なものとなることをいいます。

パワハラは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えられたり、職場環境を悪化させられる行為をいいます。

こうしてみると、職場環境が悪化し不快なものとなることによって、直接行為を受けた人だけでなく、その行為を見聞きした人も被害者になるということが分かります。

たとえば、店長が店員を殴り、その場に他の店員がいたのなら、その場に居合わせた店員全員がパワハラの被害者です。

 

<被害者の同意>

被害者の同意があったから許されるというのは、セクハラやパワハラが密室で行われ、加害者と被害者だけが事実を知っていて、他の人は見聞きしていないという状況が前提となるでしょう。

多くの人が事実を見聞きしていながら、全員がセクハラやパワハラに同意しているというのは、容易には考えられないことです。しかし、事後の承諾であれば、ありえないことではありません。

 

<懲戒処分の目的>

そもそも懲戒処分の主な目的としては、次の3つが挙げられます。

 

【懲戒処分の主な目的】

1.懲戒対象者への制裁

懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

 

2.企業秩序の回復

会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

 

3.再発防止と労働者の安心

社員一般に対してやって良いこと悪いことの具体的な基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

こうしてみると、被害者から「処罰しないで」という申し出があり、ある程度被害者からの事後承諾があったとしても、懲戒処分の必要がなくなるわけではありません。

それでも、懲戒対象者への制裁の必要性は低くなりますし、企業秩序の侵害や労働者の不安は少なかったと評価できるでしょう。

ただ、再発防止の観点からはセクハラやパワハラを見逃すことができません。いつも被害者の事後承諾が得られるとは限らないからです。

 

<企業の取るべき対応>

最新版(平成31(2019)年3月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第64条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

直接の被害者から「加害者を処罰しないでほしい」という申し出があったことは、この規定の中の「その他情状」に該当する事実です。

ですから、直接の被害者の申し出があったからといって、不問に付するというのではなく、情状の一つとして考慮し、場合によってはより軽い懲戒にすることもあるというのが、企業の取るべき対応だと考えられます。

 

2019.07.23. 解決社労士 柳田 恵一

<法改正>

令和元(2019)年5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が通常国会で可決・成立し、令和元(2019)年6月5日に公布されました。

施行日は、公布後1年以内の政令で定める日となっています。

 

<パワーハラスメント対策の法制化>

職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。そして、適切な措置を講じていない場合には、所轄労働基準監督署などによる是正指導の対象となります。

ただし中小企業は、公布後3年以内の政令で定める日までの間は、努力義務となります。

 

【雇用管理上の措置の具体的内容】

・事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発・苦情などに対する相談体制の整備・被害を受けた労働者へのケアや再発防止等

 

今後、現行のセクハラ防止の措置義務の内容を踏まえて検討される予定です。

 

パワーハラスメントに関する紛争が生じた場合、調停など個別紛争解決援助の申出を行うことができるようになります。

 

<職場におけるパワーハラスメント>

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。

 

【パワハラの3要素】

1.優越的な関係を背景とした2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により3.就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

2.から分かるように、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。

 

職場のパワーハラスメントのより具体的な定義や事業主が講ずべき措置の具体的内容等については、今後公表される指針で示される予定です。

 

<職場の範囲>

「職場」とは業務を遂行する場所を指しますが、通常就業している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所については「職場」に含めることが指針で示される予定です。

(「労働政策審議会建議」では、このようにするのが適当とされています。)

 

<優越的な関係>

「職場のパワーハラスメント防止対策に関する検討会報告書」では、パワハラを受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われることを指しています。

例えば、以下の場合も含むとされています。

・職務上の地位が上位の者による行為

・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

部下が上司に何度もパソコンの使い方を教えているのに、上司が同じところでつまずき、部下が上司を馬鹿にするようなことがあれば、職場のパワーハラスメントに該当しうることになります。

 

2019.07.16. 解決社労士 柳田 恵一

<個別労働紛争解決制度>

個別労働紛争というのは、労働関係に関する事項についての、個々の労働者と事業主との間の紛争のことです。

これを解決する最終手段としては、裁判制度があります。しかし、これには多くの時間と費用がかかってしまいます。また、感情的なしこりが残るものです。

そこで、職場慣行を踏まえた円満な解決を図るため、都道府県労働局では、無料で個別労働紛争の解決援助サービスを提供しています。

さらに、個別労働紛争の未然防止、迅速な解決を促進することを目的として、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行され、次の制度が用意されています。

・総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談

・都道府県労働局長による助言・指導

・紛争調整委員会によるあっせん

このうち「あっせん」については、社会保険労務士のうち、特定社会保険労務士(「特定」の付記を受けた社会保険労務士)が代理人となることができます。

 

<平成30(2018)年度の状況>

令和元(2019)年6月26日、厚生労働省は「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」をとりまとめ公表しました。

これによると、「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が過去最高となっています。「民事上」というのは、金銭解決や社員としての地位確認などのことを指しています。「刑事上」であれば、犯罪としての側面についての相談ですから、主に警察が対応することになります。

「個別労働紛争解決制度」は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度ですが、厚生労働省は、今回の施行状況を受けて、総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談への適切な対応に努めるとともに、助言・指導及びあっせんの運用を的確に行うなど、引き続き、個別労働紛争の未然防止と迅速な解決に向けて取り組んでいくとしています。

 

【平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況のポイント】

1. 総合労働相談件数、助言・指導の申出件数、あっせん申請の件数いずれも前年度より増加。

 総合労働相談件数は111万7,983件で、11年連続で100万件を超え、高止まり

 ・総合労働相談件数111万7,983件(前年度比1.2% 増)

 →うち民事上の個別労働紛争相談件数26万6,535件(同 5.3% 増)

 ・助言・指導申出件数9,835件(同7.1% 増)  

 ・あっせん申請件数5,201件(同 3.6% 増)

2. 民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が過去最高

 ・民事上の個別労働紛争の相談件数では、82,797件(同14.9%増)

 ・助言・指導の申出では、2,599件(同15.6%増)

 ・あっせんの申請では、1,808件(同18.2%増)

 ※いずれも過去最高の件数

 

<相談件数増加の意味>

いじめ・嫌がらせの相談が増えたということは、必ずしも実際にいじめ・嫌がらせの件数が増えたということを意味するものではありません。

むしろ、次のような原因が考えられるでしょう。

 

・相談件数の増加により、心理的に相談しやすくなってきた。

・パワハラ、セクハラなど個別のハラスメントについて、その内容が明確になってきた。

・ハラスメントについての知識が普及してきた。

・ハラスメント対策について、企業間の格差が大きくなってきた。

 

企業間の格差が大きくなってきたというのは、自分と同様のハラスメントを受けている人が、よその会社では適切に対応されているのに、自分の会社では対応してもらえないという形で実感されます。

企業によるハラスメント対策の情報は、ネットで簡単に入手できるようになってきています。

 

<企業にとって最低限の対策>

就業規則の中に、各ハラスメントの分かりやすい定義があって、全従業員が理解しているという前提が無ければ、その職場には確実にハラスメントが存在することでしょう。

なぜなら、被害者は会社に被害を申し出ることができませんし、ハラスメント行為者に対して、自信をもって注意できる人もいないからです。

また、ハラスメントの禁止規定と行為に対する懲戒規定が無ければ、注意されてもやめないのは仕方のないことです。問題社員にとって居心地の悪い会社にしなければ、問題社員は増えていってしまいます。

さらに、ハラスメントを受けたと思っている従業員の相談窓口が無ければ、いよいよ耐えられなくなった従業員は退職を申し出て、ハラスメント行為者と会社、場合によっては取締役を訴えることもあります。個人情報の保護や、被害の申し出を容易にする観点から、できれば社外の専門家を相談窓口にすることをお勧めします。

 

2019.07.03. 解決社労士 柳田 恵一

<ストレスの連鎖>

殺人事件や傷害事件が発生すると、警察は加害と被害の内容、両者間の因果関係を解明し、その一環として加害の動機を明らかにします。

しかし、動機となった「ストレス発散」のストレスの原因までは追究しません。

ひょっとしたら、加害者もまた誰かにいじめられていて、そのストレスを発散するために事件が起きたのかもしれません。

しかし、加害者の負っていたストレスまでは配慮しません。

ストレスとその発散は連鎖します。どこかで連鎖を止めないと、最後には弱者に大きな被害が生じます。

あくまでも例え話ですが、次のようなストレスとその発散の連鎖があったとします。

金融機関→社長→部長→課長→一般社員(弱者)

(上の連鎖の)課長→妻→息子→息子の同級生(弱者)

ある会社の社長が、金融機関から大きなストレスを与えられることで、社内では、ストレスのはけ口が、弱い一般社員に及びます。これがパワハラです。

一方で、その会社の課長が、そのストレスを家庭に持ち込み、息子がそのストレスを学校に持ち込むとイジメの原因になります。

もしも、ここで部長がストレスに耐え、課長にぶつからなければ、ストレスの連鎖が止まることになります。

 

<ストレスチェックの目的>

ストレスチェックというのは、ストレスについての質問票に、労働者が選択肢の中から選ぶ形で回答を記入し、それを集計・分析することで、ストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。

労働者が50 人以上の事業所では、2015 年12 月から毎年1回、この検査を労働者に対して実施することが義務付けられました。〔労働安全衛生法66条の10〕

定期健康診断と同様に、契約期間が1年未満の労働者や、所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者は法的義務の対象外です。

労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合には医師の面接を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するのが目的です。

決して、ストレスに弱い労働者を発見して退職を勧奨したり、降格の根拠を見つけたりするためのものではありません。むしろ、こうしたことが無いように、充分な配慮が求められています。

結局、ストレスチェックの目的はストレスがたまりやすい職場を発見し、これを改善することにあると思います。

 

<ストレスがたまりにくい職場>

すべては、コミュニケーションによる解決が可能だと思います。

上の「→」で結ばれた間に、ストレスの原因となったことについて、具体的な情報の伝達があればストレスの連鎖は止まります。

なぜ怒っているのか、不安なのか、その原因についての説明が大事です。

会社の中で、ストレス発散と思われるパワハラなどを本気で防ぎたいのであれば、コミュニケーションの仕組みを見直すことが有効です。

「みんなで飲みに行って話し合えばわかりあえる」という昭和時代ではなくなりました。あくまでも勤務時間帯に使える仕組みを構築しましょう。

 

2019.04.22. 解決社労士 柳田 恵一

<悩みの理由>

社内にパワハラの常習犯がいても、どう注意したら良いのか悩んでしまう。あるいは、注意しても加害者にパワハラの自覚が無い、加害者が納得しないということがあります。

これはその職場で、パワハラ防止対策が適正に行われていないことによって、発生する悩みです。注意しようとした人、あるいは注意した人の能力不足ではありません。

 

<パワハラ防止対策の基本>

パワハラの加害者に注意できる状態にするには、次のパワハラ防止対策が必要です。

 

① パワハラの定義を、その職場の全員が理解できることばで就業規則に示す。

② パワハラの禁止を、就業規則に定める。

③ パワハラに対する懲戒処分を、就業規則に定める。

④ 具体的事例を踏まえたパワハラ研修を定期的に実施する。

 

<① パワハラの定義を示す>

パワハラの定義が社内で明確になっていなければ、つまり、ある行為についてのパワハラ該当性が不明確であれば、「あなたの行為はパワハラだ」「いや違う」という意見の対立が生じてしまい、解決の糸口すら見えません。

たとえば、平成24(2012)年3月に厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が取りまとめた提言では、職場のパワーハラスメントの概念を以下のように整理しています。

 

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

 

こうした表現を、このまま使える職場もあるでしょう。

しかし、高校生のアルバイトや高齢者がいる職場では、すべての年齢層に理解できる表現で定義を示しておく必要があります。

 

<② パワハラを禁止する>

就業規則でパワハラを禁止することにより、従業員一人ひとりの労働契約の内容に、パワハラの禁止が盛り込まれることになります。

モデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)は、次のように規定しています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

これは、パワハラの定義と禁止を1つの条文にまとめた例です。これを参考にして、それぞれの職場に適した内容で定めると良いでしょう。

 

<③ 懲戒処分の定めなど>

就業規則では、禁止と懲戒とが対を成します。

禁止だけで懲戒処分が規定されていなければ、禁止の実効性が保たれません。

禁止されていないことが、懲戒処分の対象にされるのは不合理です。

就業規則で禁止したからには、これに対応した懲戒処分の規定を置かなければなりません。

また、部下を持たせた時からパワハラに走る社員には、部下を持たせることが危険ですから、部下を持たせないようにする必要があります。つまり、管理職に抜擢した社員がパワハラを行うようであれば、管理職として不適格なのですから、人事異動により管理職から外すなどの対応が必要です。

さらに、部下を持つ社員の人事考課基準には、パワハラをせずに部下を指導・育成しているか否かを含めておく必要もあります。

 

<④ パワハラ研修の定期的な実施>

就業規則の内容を含め、全社員にパワハラ研修を実施しなければなりません。

なぜなら、パワハラは上司から部下に対して行われるだけでなく、先輩から後輩に行われることもありますし、パワハラを受ける立場の従業員にも研修を実施しておかなければ、被害の申し出を躊躇することになるからです。

この研修は、最新事例を盛り込みながら、最低でも年1回は実施すべきでしょう。

 

<パワハラ防止の重要性>

パワハラによって利益を得る者はいません。

会社にとっては、生産性の低下、人材育成の遅れ、定着率の低下という損失が発生します。時には、被害者のメンタルヘルス不調などにより、労働力の喪失や損害賠償責任を生じることもあります。

加害者が無自覚でパワハラ行為に及んでいた場合には、会社との関係で、ある意味被害者の立場にあるといえるでしょう。そして、社内だけでなく、社会的な信頼を失うこともあります。何より辛いのは、家族からの信頼を失うことです。

「パワハラの加害者にどう注意したら良いのか」という疑問が出る職場では、経営者が中心となって、積極的にパワハラ防止対策に取り組まなければなりません。

 

2019.03.30.解決社労士

<報道では>

家電量販店ノジマの社長が、子会社の社員の実名を挙げて「使い物にならない」などと責めた文書が子会社のイントラネットに昨年8月に掲載されたことが判明しました。

この社員は昨年末に退社しています。

ノジマは「社員教育の一環」としています。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

<真実でも>

真実の指摘なら責められる理由は無いだろうというのは素人の考えです。

名誉毀損について、刑法は次のように規定しています。

 

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、生きている人のことについては、真実であろうとなかろうと名誉を毀損することは犯罪になるということです。

 

「仕事が遅い」「ミスが多い」「仕事をサボっている」という指摘を、人前で行ったなら、それは名誉棄損罪に該当するでしょう。

パワハラとして社内で懲戒の対象になるのはもちろん、刑事告訴の対象となりうるわけです。

 

この辺りのことが、就業規則で対応できていない会社もあります。

経営者に勘違いがあるのなら、社会保険労務士へのご相談をお勧めします。

 

2019.03.20.解決社労士

<しろうとの意見>

職場で暴言を吐かれ、感情を抑えられずに相手に暴力を振るってしまった社員がいた場合には、他の社員たちから次のような意見が聞かれます。

・最初に暴言を吐いて仕掛けた方が悪い。暴言が無ければ、暴力も無かっただろう。

・あくまでも言葉のやり取りで済ませるべきで、最初に手を出した方が悪い。

・喧嘩両成敗ということもあり、どちらも同じように悪い。

あるいは、当事者の普段の様子を知っている社員からは、全く違った意見が出てくるかもしれません。

 

<パワハラに該当するか>

職場での暴言や暴力は、パワハラであると判断されるのが一般です。

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

暴言の中には、指導や教育などの意図が含まれていることでしょう。

しかし、普通の話し方ではなく「暴言」という形で表現してしまうと、それは相手の人権を侵害する行為になり、パワハラとなってしまうのです。

場合によっては、脅迫罪(刑法第222条)、強要罪(刑法223条)、名誉毀損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)に該当することもあります。

 

一方、暴言に対抗して暴力を振るうのは、その暴力の中に、業務上必要な要素が含まれていませんから、パワハラではなく単純に暴行罪(刑法第208条)が成立します。

相手にけがを負わせれば、傷害罪(刑法204条)となります。

 

<正当防衛になるのか>

それでは、暴言に対抗しての暴力は正当防衛になるでしょうか。

刑事上は犯罪となる行為が、多くの場合、民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

刑事上の正当防衛は、刑法第36条第1項に規定があります。

 

【刑事上の正当防衛】

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 

暴言によって侵害される名誉権や人格権を防衛するために、暴力は必要が無いですから、「やむを得ず」という条件を満たしません。

 

民事上の正当防衛は、民法第720条第1項本文に規定があります。

 

【民事上の正当防衛】

第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。

 

こちらでも「やむを得ず」という条件がありますから、暴言を吐いた人でも、暴力を振るった人に対して、損害賠償の請求ができることになります。

 

<懲戒処分はどうするか>

会社の懲戒処分は刑罰ではありませんが、国法である刑法や民法の趣旨に反する懲戒は、客観的合理性や社会通念上の相当性が否定され、懲戒権の濫用となってしまうことがあります。〔労働契約法第15条〕

就業規則に具体的な懲戒規定があることを前提に、暴言を吐いた社員も、暴力を振るった社員も懲戒処分の対象とすべきです。

また、刑法上も暴力は暴言よりも重い罪ですから、一般には暴力の方が重い懲戒処分になります。

そして、懲戒規定には「情状酌量」についての定めが含まれているでしょう。

暴言を吐いた社員が、暴力を誘発する意図で行っていた場合や、何度も止めるように言われながら暴言を発し続けたような場合には、情状酌量の面から、暴言を吐いた社員は一段重い懲戒処分、暴力を振るった社員は一段軽い処分ということも考えられます。

懲戒処分とは別に、その立場でその仕事をこなすことに対する適性の判断から、人事異動も検討しなければなりませんし、人事考課への反映も忘れてはなりません。

 

懲戒処分については、刑法にも詳しい社会保険労務士へのご相談をお勧めします。

 

2019.03.14.解決社労士

<叱られ方研修>

大正大学(東京都豊島区西巣鴨)で、就職内定者を対象に叱られ方研修が行われ、ネットでも話題になりました。

研修当日にNHKの取材があり、その様子は「首都圏ネットワーク」や「おはよう日本」でも紹介されています。

 

<研修の内容>

研修の内容は、大正大学のホームページで次のように紹介されています。

 

 本学では入社を間近に控えた4年生向けに、卒業直前特別プログラム「内定者研修」を2月14日に開催しました。それは、4月からスムーズな社会人生活を送るため身に着けておきたいビジネスマナーやタイムマネジメントに加え、新人社員が上司やお客様と接する社会人生活の中で起こりうるケースを想定した「叱られ方」を考えるロールプレイングを行いました。

 この内定者研修を受けたことにより、同期生の中でも1歩リードしたスタートを切り、今後の社会人生活で大いに活躍してくれることを期待しています。

 

上司から叱られるというとパワハラ、お客様から叱られるというとカスハラ(カスタマーハラスメント)が想起されます。

こうしたことから、叱られ方研修というのは、ハラスメントに耐えるための研修であるかのように誤解されがちです。

しかし、大学がハラスメントを助長するような研修を実施するはずがありません。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、立場上必要な注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償を請求される対象ともなります。〔民法709条〕

これは、行為者が経営者でも一般の従業員でも同じです。

 

<カスハラの構造>

カスハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【カスハラの2要素】

・顧客の店員などに対する正当な請求・要求(不良品の交換請求、交換できないときの返金請求、適正な接客要求など)

・顧客としての正当な範囲を超える請求・要求による人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

顧客としては、正当な主張をしているつもりが、客観的には店員などの人権侵害になっているわけです。

顧客として正当な主張と同時に行われる「人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、恐喝、強要、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、過度の要求、不可能なことの強制、私的なことに過度に立ち入るなど

 

ネットには、コンビニの店員が顧客から土下座を要求され(強要罪)、たばこ1カートンをサービスさせる(恐喝罪)などの動画が流れることもあります。

 

<不思議なご相談>

柳田事務所にも、パワハラのご相談が数多く寄せられます。

パワハラにより勤務できなくなるなど、深刻なご相談が多いのは事実です。

しかし、パワハラやセクハラという言葉が一般化するにしたがって、ハラスメントに当たらないことについてのご相談が増加しています。

たとえば、「店長が突然お店の方針を変更した」「マネージャーからお店にスマホを持ち込まないように言われた」「商品を陳列するときは日付の新しいものを奥に詰めるよう注意された」などです。

状況を聞くと、どなられたわけでもなく、人権侵害になるようなことは行われていません。

ただ、ご本人としては、突然のことであったり、「そこまでしなくても」という不満があったりと、感情を害する行為があったと感じるわけです。

 

<入社後の研修も大切>

学生が入社する前に、上司やお客様にきちんと向き合えるように、叱られ方研修を受けるのは良いことだと思います。

ただ入社後に、社内研修でパワハラやカスハラの構造が説明され、何がハラスメントに当たるのかを理解させるのでなければ、ただハラスメントに屈するだけの社員になってしまうかもしれません。

あるいは、上司やお客様に対して、パワハラやカスハラの言いがかりをつけてしまう恐れもあります。

大学での研修だけに頼らず、企業の立場で行うべき研修はきちんと実施することが大切です。

 

2019.02.27.解決社労士

<半年で3人自殺の報道>(TBSニュース)

福岡県大牟田市の不動産会社に勤めていた男性社員3人が、半年ほどの間に相次いで自殺していたことが分かり、警察が背景を調べているそうです。

インターネットの掲示板には、「自殺した3人を含む複数の社員が経営者から日常的にパワハラを受けていた」と匿名の書き込みがあるということです。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など
・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、立場上必要な注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】


・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償を請求される対象ともなります。〔民法709条〕

これは、経営者でも一般の従業員でも同じです。

 

<会社の民事責任>

さらに、会社も不法行為責任を負います。〔民法44条1項〕

まともに働ける環境を提供していないといえる場合なら、債務不履行責任も負います。〔民法415条〕

「経営者=会社」ではありませんから、経営者がパワハラを行った場合には、会社も経営者も責任を負います。

 

<被害者が取るべき行動>

・パワハラ行為の記録や証拠を残す。

・同じ行為者からのパワハラ被害者がいれば協力する。

・労働相談情報センターなどに相談する。

社長がパワハラを行う人物である場合、その権限の強さから、被害者が複数である可能性は高いでしょう。一人では心細いですが、被害者が協力し合うことによって、解決しやすくなります。

また、パワハラの問題は、第一に社内で解決するのが原則です。しかし、パワハラの相談窓口や担当者は、被害者の味方に付いてくれないかもしれません。早めに社外の相談窓口に相談することをお勧めします。

 

<経営者がパワハラの防止を考えるなら>

本気でセクハラ、パワハラ、マタハラなどを防止したい会社なら、相談窓口は社外の専門家に委託して、社内でもみ消されないようにするのではないでしょうか。

ハラスメントに限らず、働いている人たちの相談窓口として、信頼できる社労士をご検討ください。

また、そもそもパワハラが何なのか良く分からない、萎縮して部下や後輩を指導できないのでは困るという声もあります。

こうした場合にも、社労士にセミナーの開催を委託するなど、社外の専門家を活用することを考えてはいかがでしょうか。

 

2019.02.07.解決社労士

<「バカですか」発言の町課長>

部下3人に暴言を浴びせたり、あいさつや業務の報告を無視したりするパワーハラスメントを繰り返したとして、埼玉県嵐山町が50歳代の男性課長を停職3か月の懲戒処分にしたことが報じられています(2019年1月21日)。

課長は「(暴言や侮辱など)そういう認識での発言ではない」と弁明したそうです。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

この課長の「(暴言や侮辱など)そういう認識での発言ではない」という弁明は、言い逃れではなく、思っていることを正直に話しているのかもしれません。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

<パワハラ防止に必要な知識>

さて、自分の行為がパワハラにあたるのかどうかを、的確に判断できない場合もあるでしょう。

また、他の職員の行為に対して、自信を持って「それはパワハラだから止めなさい」と注意するのはむずかしいかもしれません。

ましてや、暴行罪〔刑法208条〕や名誉毀損罪〔刑法230条〕の成立条件(構成要件該当性)などは、「物を投げつけても当たらなければ暴行罪は成立しない」「真実を言ったのなら名誉毀損にはならない」などの誤解があるものです。

こうしてみると、職場でパワハラを防止するのに必要な知識のレベルというのは、かなり高度なものであることがわかります。

 

<知識不足によるパワハラの防止には>

本気でパワハラを防止するには、職場の規則にきちんとした規定を設け、充実した教育を実施することが必要となります。

パワハラの定義・構造の理解、具体例を踏まえた理解の深化を図らなければなりません。

この事件では、職員3人が人事担当などに相談し、副町長が数回、課長に注意したのに状況は改善されなかったと報道されています。

何がパワハラにあたるのか、基本的なことを知らない職員に対しては、上司から注意をしても、懲戒を加えても、反省を促すことはできません。

まずは、全職員に十分な教育をしていただけるよう願うばかりです。

 

2019.01.25.解決社労士

<パワハラ>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など「職場内での優位性」を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。これが厚生労働省による説明です。

これによると、「精神的・身体的苦痛を与えこと」あるいは「職場環境を悪化させる行為」という実害の発生が、パワハラ成立の条件のようにも見えます。しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「精神的・身体的苦痛を与えうる言動」「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

 

<職場内での優位性>

パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを指して使われる場合が多いですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。

「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、勤続年数や経験などの様々な優位性が含まれます。

 

<業務の適正な範囲>

業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたりません。

たとえば、上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められます。

職場のパワーハラスメント対策は、そのような上司の適正な指導を妨げるものではなく、各職場で、何が業務の適正な範囲で、何がそうでないのか、その範囲を明確にする取組を行うことによって、適正な指導をサポートするものでなければなりません。

そうでなければ、上司は部下を適正に指導することに臆病になり躊躇してしまい、組織としての機能が損なわれて、企業全体の生産性が低下してしまいます。

 

<パワハラの判断基準>

具体的な事案が発生した場合に、それがパワーハラスメントであったかどうか判断をするには、行為が行われた状況など詳細な事実関係を把握し、各職場での共通認識や裁判例も参考にしながら判断しましょう。これが厚生労働省の説明です。

しかし、パワハラかどうかの判断をするのに、裁判例を参考にするのはむずかしいと思います。就業規則を読めばわかるようにしておきたいものです。そして、就業規則にパワハラの定義を定めるときには、適正な指導との区別を具体的に明らかにする必要があります。

まず主観的には、相手の成長を思い親身になって接するのが指導です。これに対して、自分の感情を爆発させストレスを発散する言動がパワハラです。ですから、指導に単なる怒りの感情は伴いません。100%怒りの感情だけがあれば、それは間違いなくパワハラです。

そして客観的には、指導というのは、その対象者の親・家族が見ていて、「しっかり指導してくれてありがとう」と思える言動です。これに対して、パワハラというのは親・家族が見ていて「何てことを言うんだ!何てことをするんだ!」と怒り嘆く言動です。

なぜなら、指導というのは相手の成長を願って行うものであり、また、指導した者には指導に従った結果に対して責任を負うという覚悟があります。親が子に厳しくしても、この前提が崩れない限り指導であり躾(しつけ)です。

こうしたことを踏まえて、就業規則にパワハラの定義を定めなければ、従業員には何が禁止されているのか不明確ですし、それらしき行為があっても確信が持てなければ、誰も注意することができないのですから被害者は救われません。

「自分の言動が、パワハラとなるかどうかわからない。要は、相手の受け取り方次第なので、ハッキリしない。」というのが加害者側の理屈でしょう。

これを許さないためには、具体的で明確な定義が必要なのです。

 

<パワハラ発生のメカニズム>

そもそも部下や後輩などが、優位に立つ自分に対して従順で素直で協力的なのは、能力や意欲の差が明白だからではありません。立場上あるいは心理的に仕方なくてそうしているのです。決して実力の差が、仕事上の立場を超えて現れたわけではありません。ここを勘違いしている人が、パワハラに走っているように思います。

パワハラ防止のための教育研修の内容には、このパワハラ発生のメカニズムも加える必要があるでしょう。

 

<企業として必要な対策>

パワハラに限らず、セクハラでもマタハラでも、ハラスメント対策としては、次のことが必要です。

・ハラスメントは許さないという経営者のメッセージ

・就業規則の懲戒処分に関連規定を置く

・実態を把握するための体制と仕組みの整備

・社員教育

・再発防止措置

・相談窓口の設置

この中で、相談窓口としては、厚生労働省が社外の専門家を推奨しています。なぜなら、社内の担当者や部門では、被害者が申し出をためらいますし、被害拡大やもみ消しの恐れもあるからです。

まずは、経営者がハラスメントの問題を重くとらえ理解し、社内に「許さない」というメッセージを発信するのが第一歩です。

 

<社外での解決>

被害者の申し出にもかかわらず、企業が納得のいく対応をしてくれない場合には、被害者は労働局に申請して紛争調整委員会に斡旋(あっせん)をしてもらうことができます。

反対に、企業がきちんと対応したのに、被害者が納得してくれない場合にも、企業から斡旋を求めることができます。

斡旋では、委員会が話し合いの場を設けます。双方の話し合いで解決すれば良いのですが、そうでなければ訴訟に発展することもあります。

特定社会保険労務士は、この調停での一方当事者の代理人となる資格を持っています。専門家の助力が必要であれば、弁護士か特定社労士にご相談ください。

 

2018.12.26.解決社労士

<パワハラとは>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など「職場内での優位性」を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。これが厚生労働省による説明です。

ここで「同じ職場」というのは、1つの企業内ということではありません。取引先などを含めた複数の企業の従業員が「同じ職場」で働けば、そこにパワハラが発生しうるのです。

 

【厚生労働省によるパワハラの6類型】

身体的な攻撃

暴行、傷害、丸めた書類で頭を叩く

精神的な攻撃

脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言

人間関係からの切り離し

隔離、仲間外れにする、無視

過大な要求

業務上不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害

過小な要求

能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない

個の侵害

私的なことに過度に立ち入る

 

<身体的な攻撃>

 殴ったり蹴ったりは暴行罪に当たります。物を投げつければ、当たらなくても暴行です。ケガをさせれば傷害罪です。刑法には、次のように規定されています。

 

【傷害罪】

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

【暴行罪】

第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

「そんなことまで暴行罪になるとは知らなかった」などと言ってみても、刑法は許してくれません。

 

【故意】

第三十八条 3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。

 

故意犯のことを、日常用語では「確信犯」などと言います。

法律用語の「確信犯」は、「道徳的、宗教的または政治的信念に基づき、本人が悪いことではないと確信して行う犯罪」をいいます。つまり、刑罰に触れる行為ではあるけれど、悪いことではないと考えて行うのです。

 

職場で身体的な攻撃を行うのは、怒りの感情を抑え切れなかったり、「この場合には正しい行為である」という確信を持ったりした場合でしょう。

前者については、アンガーマネジメントが必要です。職場では、叱ることはあっても、怒る必要はありません。この区別ができるように自己鍛錬が必要です。怒る人ほど、自分の失敗には甘いものです。

他人の身体を侵害しても許される場合として、刑法には、法令又は正当な業務による行為〔35条〕、正当防衛〔36条〕、緊急避難〔37条〕、心神喪失者の行為〔39条〕、14歳に満たない者の行為〔41条〕といった規定があります。しかし、職場でカッとなって暴行を加えるのは、どれにも当てはまりません。

 

<精神的な攻撃>

脅迫というのは、害悪の告知です。これも刑法に規定のある犯罪です。

 

【脅迫】

第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

 

脅迫は、証拠が残ったり、証人がいたりすれば、警察沙汰になることもあります。

 

名誉毀損、侮辱、ひどい暴言というのも、人前で行えば刑法に規定される犯罪です。

 

【名誉毀損】

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き 損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 

【侮辱】

 第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 

同僚や部下の目の前で、「使えない奴だ!」と叱責するのは侮辱罪に当たりますし、「取引先との商談を忘れるなんてふざけた奴だ!」と叱責するのは名誉毀損罪に当たります。この場合には、証人もいますから言い逃れはできません。

 

会議室などにこもって、必要以上に長時間にわたり繰り返し執拗に叱るのは、監禁罪〔刑法220条〕に該当する場合があります。

 

こうして見ると、パワハラ罪というものは無いのですが、警察に知れれば刑法上の罪に問われるパワハラ行為は多いことがわかります。

 

もちろん、犯罪にはならなくても、業務上必要も無いのに精神的な攻撃を行うことは、パワハラ行為とされ慰謝料を含めた損害賠償請求の対象となり得ますし、社内でも懲戒処分の対象とされることがあります。

 

<人間関係からの切り離し>

1人だけ別室に席を移す、強制的に自宅待機を命じる、送別会に出席させないなどの「村八分」もパワハラ行為です。

これは、犯罪とはならなくても、不法行為になりますから、慰謝料を含めた損害賠償請求の対象となり得ます。

 

【民法の規定】

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

つまり、人間関係からの切り離しを行っても犯罪にはならないのですが、民事訴訟を提起されることはあるわけです。

 

<過大な要求、過小な要求>

やり方を教えることなく仕事をさせたり、何時間もかかる仕事で残業させ自分は帰ってしまうというのは、過大な要求になります。

運転手に営業所の草むしりだけを命じる、事務職に倉庫業務だけを命じるというのは、過小な要求になります。

これらも人の心を傷つける行為なので、必要の無いことはパワハラになります。

 

<個の侵害>

これは、プライバシーの侵害です。プライバシー権は、個人として尊重される権利であり、法律上保護される利益です。日本国憲法13条が根拠とされています。

社会保険や税法上の手続きで、家族の情報が必要な場合には、その必要の範囲内での取得が認められています。

しかし、適正な範囲を超えて、家族について具体的なことを尋ねたり、悪口を言ったりはプライバシーの侵害です。

交際相手について執拗に尋ねたり、休日の過ごし方を尋ねたりするのもプライバシーの侵害になりますし、内容によってはセクハラにもなります。

 

<パワハラの指摘を恐れるな>

以上のことから、次の条件を満たしている限り、業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛などは、萎縮せずに堂々と行うことが部下や後輩を育成するうえで大切です。

 

直接の相手や周囲の人々を個人として尊重しており、身体も心も傷つける恐れが無い。

 

その場の様子をビデオに収め、相手の家族や友人に見せても嫌な顔をされないなら、この条件は満たされているのではないでしょうか。

 

2018.12.15.解決社労士

<労働政策審議会>

平成30(2018)年11月19日、労働政策審議会雇用環境・均等分科会(旧雇用均等分科会)で、女性の活躍の推進のための対策及びパワーハラスメント防止対策等についての審議が行われ、配布資料も公開されています。

労働政策審議会は、労働政策について審議を行う委員会です。厚生労働省に置かれている審議会のひとつで、厚生労働大臣の諮問機関ですから、ここでの審議が労働関係法令の改正案に反映されます。労働政策審議会に関する情報を把握することにより、今後の政府の動きや企業の取り組むべき課題を先取りすることができます。

 

<パワハラ防止対策の強化>

これについては、4項目に分けて総論が述べられています。枠内は原文をそのまま引用したものです。

 

【パワハラ対策の必要性】

パワーハラスメントは相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であり、あってはならないもの。企業にとっても経営上の損失に繋がる。都道府県労働局における職場の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数や、嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けたことによる精神障害の労災認定件数が増加傾向となっている。職場のパワーハラスメント防止は喫緊の課題であり、現在、法的規制がない中で、対策を抜本的に強化することが社会的に求められている。

 

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など「職場内での優位性」を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。これが厚生労働省による説明です。

これによると、「精神的・身体的苦痛を与えこと」あるいは「職場環境を悪化させる行為」という実害の発生が、パワハラ成立の条件のようにも見えます。しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「精神的・身体的苦痛を与えうる言動」「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

 

【企業の講ずべき措置】

職場のパワーハラスメントの防止のためには、企業の現場において確実に予防・解決に向けた措置を講じることが必要。その際、現場の労使が対応しやすくなるよう、職場のパワーハラスメントの定義や考え方、企業が講ずべき措置の具体的内容を明確化していくことが必要。

 

就業規則の中に、パワハラの分かりやすい定義があって、全従業員が理解しているという前提が無ければ、その職場には確実にパワハラが存在することでしょう。なぜなら、パワハラ行為に対して、自信をもって注意できる人がいないからです。

また、パワハラを行った人に対する懲戒の規定が無ければ、注意されてもやめないのは仕方のないことです。問題社員にとって居心地の悪い会社にしなければ、パワハラをするような問題社員は増えていってしまいます。

さらに、パワハラを受けたと思っている従業員の相談窓口が無ければ、いよいよ耐えられなくなった従業員は退職を申し出て、パワハラ行為者と会社を訴えることもあります。ここまでくると、被害者は転職することも困難かもしれません。その場合には、会社が一生面倒を見ることになるのでしょうか。できれば、社会保険労務士のような社外の専門家を相談窓口にすることをお勧めします。

 

【中小企業の特性】

中小企業については、パワーハラスメントの防止に関するノウハウや専門知識が乏しいこと等から、その負担軽減に十分配慮し、支援を強化することが必要。

 

中小企業では、経営者が昭和時代の考え方を引きずっていると、パワハラ対策が困難になってしまいます。まずは、経営者がパワハラなどハラスメントについての理解を深め、社内に向けて「パワハラは絶対に許さない」という宣言をすることが第一歩です。

 

【法律による対応】

なお、法律でパワーハラスメントを禁止することについては、民法等他の法令との関係の整理や、違法となる行為の要件の明確化等の課題があることから、今回の見直しにおける状況の変化を踏まえつつ、その必要性も含めて中長期的に検討することが必要ではないか。

 

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

パワハラ行為から業務上必要な部分を引き算した残りが、刑法上の犯罪であって刑事事件とされたり、民法上の不法行為であって損害賠償の請求対象となったりします。

また、パワハラに耐えられず退職の申し出をした場合には、民事上その意思表示の有効性が問題となります。

ですから、刑法にパワハラ罪というものを新設したり、民法にパワハラ関係の規定を加えたりしなくても、現状の法令で十分対応できるのです。

ただ、こうしたことを分かりやすくするのが難しいのです。

今のところ、専門家に具体的な事情を明らかにして相談するのが現実的な対応だと思われます。

 

2018.11.23.解決社労士

<加害者に対して>

パワハラというのは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

たしかに、被害者が退職した後も、加害者が嫌がらせを続ける場合があります。

しかし、この場合には、加害者が被害者に対して業務上必要な働きかけをするということがありませんので、人権侵害行為が単独で行われている状態です。

この人権侵害行為の多くは不法行為に当たり、被害者から加害者に対して損害賠償の請求が可能です。

さらに、この人権侵害行為が犯罪にあたる場合には、警察に被害を申し出て対応してもらうことになります。

ここで考えられる犯罪としては、刑法に規定されているものだけでも、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪などが考えられます。

 

<加害者の勤務先に対して>

加害者の勤務先としても、社員が退職者に対して権利侵害行為を行っているという事実は重大な関心事です。

たとえ勤務と無関係に行われた行為であっても、社員が会社の利益や信用を低下させる行為を行った場合には、行為者に対して懲戒処分を行いうるのです。

警察沙汰になったり、裁判になったりすれば、会社にとって大きなダメージとなりますから、放置することはできません。

退職者としてではなく、一個人として会社に被害を受けていることの事実を伝えるのが良いでしょう。

このような場合に心細いのであれば、交渉事ではありませんので、社会保険労務士に付き添いを依頼することも可能です。

 

2018.09.27.解決社労士

<加害者への責任追及>

パワハラについて社内に相談窓口があれば、その相談窓口に事実を伝えます。

もし相談窓口が無ければ、加害者の直属上司に事実を伝えます。

これによって期待される会社の対応は、加害者から被害者への謝罪を促すこと、就業規則の規定に沿った懲戒処分、加害者の人事異動などです。

しかし、会社の対応が無い場合や、不適切・不十分と感じられる場合には、加害者に対する損害賠償の請求が考えられます。

 

〔民法709条〕

(不法行為による損害賠償)故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

少なくとも、精神的な損害を受けているでしょうから慰謝料の請求ができます。この他、治療費や勤務できなかったことによる賃金の損失などが考えられます。

 

<会社への責任追及>

会社は従業員に対し、パワハラに走らないように指導すること、従業員がパワハラを受けずに勤務できる環境を整えることについて責任を負っています。

法的には、使用者責任と安全配慮義務です。

 

〔民法715条〕

(使用者等の責任)ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

〔労働契約法5条〕

(労働者の安全への配慮)使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 

労働契約法には、損害賠償のことが書かれていませんが、労働契約法5条違反で従業員の権利が侵害されると、先に出てきた民法709条によって損害賠償を請求できることになります。

 

<加害者への制裁>

ここまでの内容は、パワハラについて責任を負う人たちに損害賠償を請求するという民事上の話です。

これとは別に、法令によって加害者に制裁が加えられる場合があります。

 

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

この人権侵害行為が犯罪にあたる場合には、警察に被害を申し出て対応してもらうことになります。

パワハラに伴う犯罪としては、刑法に規定されているものだけでも、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪などが考えられます。

 

加害者に制裁する権限は、国家権力に独占されています。

たとえパワハラで辛い思いをしても、加害者に直接仕返しするようなことは許されません。それ自体が犯罪となることもあります。

 

2018.09.19.解決社労士

<リスク回避のため>

パワハラに走る人には特徴があります。

こうした特徴の現れている人に、会社が部下や後輩を与えると、パワハラを誘発することになります。

リスク回避のためには、これらの特徴が消えるまで教育研修などを行い、人事異動を慎重にするなどの配慮が必要でしょう。

 

<善悪判断の自信過剰>

「自分は正しい」という思い込みが強いという特徴があります。

ニュースに接したとき、「誰が正しい、誰が悪い」ということを口にします。

自分の社内での手柄について、繰り返し話題にします。

グループ研修などを通じて、「常に自分が正しいわけではない」ことを理解させましょう。

 

<主体的な制裁意識>

「悪いことをした人に対しては、自分が制裁を加えるべきだ」と考える特徴があります。

社内で不都合なことをした人に対しては、直属上司が指導すべきですし、社内規定に従った懲戒が行われるべきです。

しかし、他部署の人に注意したり、街中で赤の他人に怒ったりするのは、この特徴の現われです。

組織論や懲戒が行われる場合の段取りについて、理解させる必要があります。

 

<原因の誤判断>

自分の行為から生じた不都合な結果について、他人の行為が原因であると考える特徴があります。

自分が会議室で花瓶を倒して割った場合には、「こんな所に花瓶を置いた人が悪い」と考えます。

他人が会議室で花瓶を倒して割った場合には、「不注意で花瓶を割った人が悪い」と考えます。

こうした考え方の矛盾と問題点について、本人に自覚させなければなりません。

 

<器が小さい>

人格的に未成熟で心に余裕が無いという特徴です。

他人の成功を喜べない、他人をほめることができない、人の好き嫌いが激しい、自分と家族を優先して考える、自分に利益が無いことには消極的、お金に細かい、他人を批判するが自分への批判は気にする、好意的なアドバイスを受け入れないなどの傾向が見られます。

これでは、部下や後輩がついてきませんから、イライラしてパワハラに走るのも当然でしょう。

この特徴は、家庭内の「しつけ」の現われでもあり、社内での教育研修で改善するのは大変かもしれません。

人事考課の評価項目に入れておき、自覚を促して、自ら改善していただくことも考えましょう。

 

2018.09.12.解決社労士

<ハラスメント対策>

パワハラもセクハラもハラスメントの一種ですから、客観的に見れば人権侵害(嫌がらせ)です。そして、直接の相手だけではなく、その行為を見聞きした人にも恐怖感や不快感を与える形で被害を及ぼします。

 

ハラスメント対策の目的は、従業員の中から被害者も加害者も出さないことです。

対策の柱は、「ハラスメントは卑劣で卑怯な弱い者いじめ。絶対に許さない。」という経営者の宣言と、社内での定義を明確にして社員教育を繰り返し行うことです。

その効果は、労働力の確保、労働環境の維持、生産性の向上、定着率の向上、応募者の増加、会社の評判の上昇と幅広いものです。

 

こうした実質面でのハラスメント対策とは別に、形式面でのハラスメント対策も必要です。

その目的は、会社がハラスメント防止に取り組んでいることの証拠を残しておくことです。

対策の柱は、就業規則などで定義を明確に文書化しておくこと、教育実績の保管、相談窓口の設置(できれば社外)です。

その効果は、被害者からの損害賠償請求額の減少などです。

 

<社員とは限らない被害者・加害者>

ここまで述べたことは、被害者と加害者の両方が社員の場合を想定しています。

実際、多くのハラスメントは社員同士で問題となります。

これを放置することは、会社にとって明らかにマイナスですから、積極的な対応をすることに躊躇する理由はありません。

 

しかし、お取引先の社員からのパワハラ・セクハラであれば、今後の取引関係を考えて、事なかれ主義に走ってしまう危険があります。

社員が被害者となった場合には、小さな会社であれば社長自ら、大企業であれば担当取締役がハラスメントの事実を確認し、事実があれば取引関係を解消する毅然とした態度が必要です。

お取引先も理解を示さざるを得ませんし、社員は会社の態度に共感するでしょうし、こうした情報が外部に漏れても批判は生じにくいものです。

長い目で見れば、会社にとってのプラスが大きいといえます。

 

反対に、社員からお取引先に対するパワハラ・セクハラが行われたのではないかという疑いが生じたら速やかに事実を確認し、真実であったなら、社長自らお取引先に出向いてハラスメントの事実について報告とお詫びをする必要があります。

 

<そもそもパワハラ・セクハラなのか>

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)では、パワハラが次のように規定されています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

この中の「職場内」という言葉が端的に示しているように、パワハラは本来社内での発生が想定されています。

ですから、加害者・被害者が取引先など社外の人間である場合には、本来のパワハラやセクハラの定義には当てはまらないといえます。

 

しかし、加害者・被害者が社内に留まらなくても、客観的に見れば人権侵害(嫌がらせ)であることに変わりはありません。

多くの場合、慰謝料を含めた損害賠償請求の対象となりますし、内容によっては犯罪となり刑法で罰せられることもあります。

ですから、これを防止すべきこと、万一発生したら善処すべきことに違いはありません。

 

<取引先とのパワハラ・セクハラの定義>

上に掲げたモデル就業規則第12条をアレンジして、取引先との間で発生するパワハラを定義するならば、次のようになるでしょう。

 

「取引関係上の地位や人間関係など、取引関係上の優位性を背景にした、取引の適正な範囲を超える言動により、取引先の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなこと」

 

また、取引先との間で発生するセクハラを定義すると、次のようになるでしょう。

 

「性的言動により、取引先の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなこと」

 

これらをパワハラ・セクハラの定義に加えるかどうかは、見解の統一が見られませんが、念のため、就業規則に規定しておきたいところです。

また、社員を守るため、取引先からのパワハラ・セクハラが疑われる事実があれば、上司や社内の相談窓口に報告することも規定すべきです。

どちらも、社員と会社を守るための規定ですから、ぜひ就業規則に加えておくことをお勧めします。

 

2018.07.21.解決社労士

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