2024/09/16|1,376文字
<2つの最高裁判決>
令和2(2020)年10月13日、大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件の最高裁判決が出されました。
大阪医科薬科大学事件ではアルバイト職員の賞与が、メトロコマース事件では契約社員の退職金が争われ、どちらも原告に支給する必要は無いという判断が下されました。
この結論については、マスコミが大々的に取り上げましたから、印象に残っている方も多いことでしょう。
しかし、これらの結論は一般論ではなく、どちらも正社員登用制度があり、実際に運用され、登用実績があったという事情が重要な判断理由とされています。
どちらの訴訟でも原告は、正社員の1段階前への登用にチャレンジする試験を受験し、失敗して諦めていたという事情があります。
つまり、正社員登用のチャンスが与えられていたことになります。
<均衡待遇・均等待遇>
上記の最高裁判決では、改正前の労働契約法第20条が焦点となりました。
現在は、パート有期労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が、その内容を引き継ぎ、フルタイムの有期雇用労働者にまで適用対象が拡大されています。
同法第8条では均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)について、1.職務の内容、2.職務の変更の範囲、3.その他の事情が判断要素とされ、待遇の不合理性が判断されます。
また、同法第9条では均等待遇(差別的取扱の禁止)について、1.職務の内容と2.職務の変更の範囲が同じであれば、同等の待遇であることが求められ、差別的取扱が禁止されています。
「1.職務の内容」は、業務内容と責任の程度を指します。
「2.職務の変更の範囲」は、将来にわたって職務内容や配置の変更の範囲を指します。
水平的な職務や部署の変更だけでなく、垂直的な役職の変更、つまり昇格なども含まれます。
「3.その他の事情」には、労使慣行や労働組合との折衝内容などが含まれます。
上記2つの最高裁判決では、正社員登用制度の存在や運用実績が、3.その他の事情として考慮されたことになります。
<正社員への転換>
パート有期労働法第13条は、通常の労働者への転換について規定しています。
「正社員」という言葉は法律用語ではなく、その定義は各企業に任されています。
このこともあって、パート有期労働法では「通常の労働者」と言っていますが、「正社員」とほぼ同義です。
そして、同法第13条は「事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない」と規定しています。
その措置とは次の4つです。
1.正社員を募集するときに、募集内容を短時間・有期雇用労働者に周知すること。
2.正社員の配置を新たに行うときに、短時間・有期雇用労働者に応募機会を与えること。
3.短時間・有期雇用労働者向けに、試験制度など正社員登用の措置を講ずること。
4.その他の正社員への転換推進措置を講ずること。
4つの中では、1.の正社員募集内容の周知が最も手軽です。
しかし、同一労働同一賃金との絡みでは、3.の正社員登用制度の構築が有効です。
制度はあるものの形骸化している状態では、会社側に有利に働きませんので、定期的に正社員登用の告知を行い、記録を残しておくなど、その制度が有効であることを示す資料の保管が必要となります。