新型コロナウイルス対策で働き方改革が進み働く人の要求水準も高まっています

2024/07/09|2,567文字

 

<働き方改革>

平成31(2019)年4月に、長時間労働是正を中心とする働き方改革関連法が施行されました。

当時対応しきれずに、先送りしたまま忘れている企業もあります。最近になって使用者が逮捕され送検される事案が増えています。

しかし、令和2(2020)年2月頃からは、こうした法改正への対応よりも、新型コロナウイルス感染拡大を防止するための対策に追われるようになりました。

これによって、働き方に大きな変化が生じ、働き方改革が一気に進んだ部分もあります。

 

<時差通勤>

令和2(2020)年3月から 4月上旬にかけて時差通勤の取組が拡大されました。

感染拡大を防止するためには、ソーシャルディスタンスが必要とされます。

時差通勤は、満員電車の過密を避ける取組です。

LINEによる全国調査によると、時差通勤を実施した人は2月19日調査で5%だったのが、3月2日調査では19%と増加しました。

緊急事態宣言が発出された4月7日より後の4月16日の調査では、19%のまま維持されています。

また、3月に行われた東京商工会議所による会員企業調査でも、時差通勤の実施企業割合は56.5%と高い数字を示しています。

規模が大きい企業ほど、実施率が高い傾向にありますが、50人未満の企業でも実施率は43.9%を示しています。

4月の調査では、企業数では半数程度、従業員数では2割弱が時差通勤をしていることが示されました。

緊急事態宣言が解除された5月25日以降も、利用者数は増加したものの、8月中旬以降は横ばいの傾向にあります。

これは、時差通勤を利用していた人の一定数が、テレワークや自宅勤務に移行していることが推測されます。

今、人手不足で採用難という企業では、一部の従業員の時差通勤や交代での時差通勤で、やり繰りしているケースが見られます。

 

<テレワークの拡大>

当時の内閣府個人意識調査によると、テレワーク希望者は39.8%に上り、実際のテレワーク率の34.6%を上回っていました。

これは、日常業務の中に、さらにテレワークを取り込みたいという意向が示されていることになります。

一方で、自分の仕事はテレワークに合わない職種だと回答した人が、就業者全体で58.7%いたことも事実です。

ただ、テレワーク経験者では、テレワーク未経験者よりも、テレワークに合わないと回答している人の割合が低いので、実際にやってみれば対応可能なことが多いかもしれません。

テレワークの不便な点としては、「社内での気軽な相談・報告が困難」や「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」といった、技術の活用や業務上の工夫では解決が難しいものがある一方、「取引先等とのやり取りが困難(機器、環境の違い等)」や「セキュリティ面での不安」、「テレビ通話の質」など、技術的に改善する余地があるものも多く挙げられています。

また、テレワークの利用拡大が進むために必要なものとして、「社内の打合せや意思決定の仕方の改善」、「顧客や取引先との打合せや交渉の仕方の改善」、「社内外の押印文化の見直し」、「仕事の進捗状況の確認や共有の仕方の改善」といった社内外の慣行を見直すことが必要なものや、「社内システムへのアクセス改善」といった設備投資が必要なもの、「書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化」といった両方の変革が必要なものが挙げられています。

 

<労働時間の減少による生活の変化>

働き方改革は、長時間労働の是正等を通じたワーク・ライフ・バランスの改善を目指しています。

令和2(2020)年の前半は、感染症の影響もあり労働時間と通勤時間の両方が減少しています。内閣府個人意識調査(新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査14)によると、労働時間と通勤時間の減少により、家族と過ごす時間が増える傾向にあることが示唆されています。

この時期の経験があるからこそ、今は家族と過ごす時間の減少が不満の種となり、違法な長時間労働についての労働基準監督署への申告を促していると考えられます。

 

<同一労働同一賃金>

令和2(2020)年 4月より、パートタイム・有期雇用労働法が施行され、同一労働同一賃金の導入が開始されました。

同一労働同一賃金は、同一企業・団体での「正社員」(無期雇用フルタイム労働者)と「非正規雇用労働者」(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指しています。

厚生労働省の「毎月勤労統計」によると、令和2(2020)年夏の特別給与(6-7月平均)は、一般労働者が-3.8%と減少し、204,388円となったものの、パートタイム労働者は前年比18.2%と増加し、6,333円となっています。

これは、パートタイム労働者に対しても、賞与が支払われるようになった事業所が増加したことを示唆しています。

しかし、所定内給与の格差是正は、明確な傾向が見られません。

今はむしろ最低賃金の引き上げによる格差是正が進められてきています。

 

<コロナ対策と働き方改革>

新型コロナウイルス感染症拡大防止対策により、時差通勤やテレワークの導入が進み、通勤時間を含む労働時間の減少がもたらされました。

これは、必ずしも働き方改革の推進を意図したものではなく、コロナ対策によって、働き方改革の目指す結果が部分的に生じたものと考えられます。

一方で、同一労働同一賃金は、コロナ対策とは別に、意図して取り組まなければ進まない課題ですが、賞与(特別給与)について多少進んだことが示唆されています。

働き方改革の側面から眺める限り、コロナ対策が働き方改革の推進にとってプラスに働いたといえます。

しかし、その裏で、整理解雇、非正規雇用労働者の雇い止め、内定取消、正社員の待遇の不利益変更など、望ましくない動きも見られます。

少子高齢社会で労働力を確保するために、働き方改革の推進という政策が打ち出されたわけですから、雇用の確保を置き去りにして、表面的に働き方改革を追うのは本末転倒です。

若い世代を中心に待遇を向上させ、就業環境を改善しなければ、少子化傾向に歯止めがかかりません。このことは明白ですから、「うちの会社はやらなくてもいいや」という企業では、人手不足倒産も遠い未来の話ではないと思います。

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