契約社員の同一労働同一賃金も正しく分析、正しく対応が必要です。メトロコマース事件最高裁判決(令和2年10月13日)

2024/04/10|2,423文字

 

<判例の効力>

判決の先例としての効力は、「判決理由中の判断であって結論を出すのに不可欠なもの」に生じます。

決して、結論部分に効力が生じるものではありません。

最高裁が、特定の判決の中で、「契約社員に退職金を支給しなくても良い」と述べたとしても、すべての企業で契約社員に退職金を支給する必要がないと判断されたわけではありません。

裁判では、その会社での退職金の性質や支給目的を重視して判断しています。

 

<事件の争点>

改正前の労働契約法第20条は、次のように定めていました。

 

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

改正前労働契約法第20条は、民事的効力のある規定です。

法の趣旨から、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件を比較したときに、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、バランスが取れていなければなりません。

「不合理と認められる」相違のある労働条件の定めは無効とされ、不法行為(故意・過失による権利侵害)として損害賠償請求の対象となり得ます。

この事件では、退職金の相違が、バランスを欠き不合理ではないかが争点となりました。

 

<最高裁の基本的な考え方>

改正前労働契約法第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。

退職金の支給についても、不合理か否かの判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、その法人での退職金の性質や支給の目的を踏まえて、同条所定の諸事情を考慮することにより、その労働条件の相違が不合理と評価できるか否かを検討すべきである。

 

<「職務の内容」>

本事件の労働者は、契約社員Bという名称の雇用形態であり、一時的、補完的な業務に従事するものとされ、東京メトロの駅構内の売店での販売業務に従事していた。

正社員は、売店での販売業務に従事することもあったが、職務の限定は無かった。

売店での業務の内容は、売店の管理、接客販売、商品の管理、準備・陳列、伝票・帳票類の取扱、売上金等の金銭取扱、その他付随する業務であり、これらは正社員と契約社員Bとで相違することはなかった。

正社員は、休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって、早番や遅番の業務を行う代務業務を行っていたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあった。

これに対し、契約社員Bは、原則として代務業務を行わず、エリアマネージャー業務に従事することもなかった。

 

<「配置の変更の範囲」>

正社員は、業務の必要により配置転換、職種転換、出向を命ぜられることがあり、正当な理由なく、これを拒むことはできなかった。

契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあったが、業務の内容に変更はなく、配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

 

<「その他の事情」>

契約社員Bから契約社員A、契約社員Aから正社員への登用制度が運用されていた。

契約社員Bは、契約期間が1年以内の有期契約労働者であり、原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、本事件の契約社員Bは、定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務した。

 

<退職金の性質・目的と結論>

この法人での退職金は,職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものである。

この法人では、正社員の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給している。

本事件の契約社員Bに退職金が支給されなかったのは、不合理であるとまで評価することはできず、改正前労働契約法第20条に反しない。

 

<住宅手当について>

住宅手当については、本事件の契約社員Bの主張が正当であり、法人は支払われなかった住宅手当に相当する損害金の支払が必要である。

 

<実務の視点から>

同一労働同一賃金への対応で、最初に行うべきことは、自社の現状の賞与、退職金、各手当などの支給の趣旨や目的を明らかにすることです。

たとえば、就業規則の中の賞与の規定には、「会社の業績および労働者の勤務成績などを考慮して各社員の支給額を決定する」というような、簡単な説明しか記述されていないことが多いものです。

「当社の賞与は、○○の趣旨で、××を目的として支給する」という規定があって、これにより賞与支給の対象者が正社員に限定されていたり、正社員以外には少ない額の賞与が支給されていたりの実態が、合理的に説明できるのであれば、制度を見直す必要はないのです。

現行のパートタイム・有期雇用労働法適用下では、使用者がパートタイム労働者などから尋ねられたら、正社員との労働条件の違いを説明しなければなりません。

就業規則に規定しなくても、Q&A集を作成し、問われたら具体的に説明できるようにしておく必要はあります。

できれば、Q&A集を配布・公開して、説明の手間を省きたいところです。

そして、待遇の相違を合理的に説明できる趣旨や目的が、どうしても見当たらない場合には、待遇のバランスを整えるため、制度の変更が求められることになります。

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