ダブルワーク労働者では、複数の勤務先にまたがった労働時間の管理が必要です。簡便な時間管理の方法について通達も出ています。

2024/04/14|2,067文字

 

<ダブルワークと労働基準法>

労働基準法には、次の規定があります。

 

【労働基準法第38条第1項:時間計算】

労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

 

ここで、「事業場を異にする場合」には、事業主を異にする場合をも含む(昭和23(1948)年5月14日付基発第769号通達)とされています。

つまり、労働時間は通算されるのが原則です。

しかし、ダブルワークについては、この規定の解釈について、さまざまな疑義が出されていました。

令和2(2020)年9月1日付で、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長に宛てられた通達(基発0901第3号)は、こうした疑義のいくつかに答えるものです。

 

<簡便な労働時間管理の方法>

ダブルワーク労働者の時間管理は、理論は分かっていても、具体的にどうすれば良いのか悩んでしまいます。

通達では、こうした疑問に答えるべく、簡便な労働時間管理の方法を示しています。

まず、使用者の悩みを次のように把握しています。

「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方については、上記のとおりですが、例えば、副業・兼業の日数が多い場合や、自らの事業場および他の使用者の事業場の双方で所定外労働がある場合等には、労働時間の申告等や通算管理について、労使双方に手続上の負担が伴うことが考えられます」

 

<管理モデルの枠組み>

通達では、労働時間の申告等や通算管理での労使双方の手続上の負担を軽減し、法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法を「管理モデル」と呼んでいます。

「管理モデルは、副業・兼業の開始前に、その副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(以下「使用者A」という)の事業場での法定外労働時間と時間的に後から労働契約を締結した使用者(以下「使用者B」という)の事業場での労働時間(所定労働時間と所定外労働時間)とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内で、各々の使用者の事業場での労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることにするものです。

また、使用者Aは自らの事業場での法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場での労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場での36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うことにするものです。

これにより、使用者Aも使用者Bも、副業・兼業の開始後には、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場での実労働時間の把握をせずに法を遵守することが可能となります」

 

<管理モデルの具体的な導入手順>

通達では、管理モデルを導入するにあたっての設定が、次のように規定されています。

「管理モデルは、一般的には、副業・兼業を行おうとする労働者に対して、使用者Aが管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者と使用者Bがこれに応じることによって導入されることが想定されています。

使用者Aの事業場での1か月の法定外労働時間と、使用者Bの事業場での1か月の労働時間とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内で、各々の使用者の事業場での労働時間の上限をそれぞれ設定します。

月の労働時間の起算日が、使用者Aの事業場と使用者Bの事業場とで異なる場合には、各々の使用者は、各々の事業場の労働時間制度での起算日を基に、そこから起算した1か月の労働時間の上限をそれぞれ設定することにしてもかまいません」

 

<管理モデルでの時間外労働の割増賃金の取扱い>

使用者Aは自らの事業場での法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場での労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払うことになります。

使用者Aが、法定外労働時間に加え、所定外労働時間についても割増賃金を支払うことにしている場合には、使用者Aは、自らの事業場での所定外労働時間の労働について割増賃金を支払うことになります。

時間外労働の割増賃金の率は、自らの事業場での就業規則等で定められた率(2割5分以上の率。ただし、使用者Aの事業場での法定外労働時間の上限に使用者Bの事業場での労働時間を通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自らの事業場において労働させた時間については、5割以上の率。)としなければなりません。

 

<その他の例外的なことへの対応>

通達には、複数の事業場での法定外労働時間の合計が1か月で80時間を超える場合や、管理モデルの導入後に労働時間の上限を変更する場合、労働者が事業主を異にする3以上の事業場で労働する場合などについても、対応方法が示されています。

しかし、ダブルワーク労働者の過労や混乱を避けるべきことからすると、こうした例外を発生しないように心がけることも、使用者の責務であるといえるでしょう。

PAGE TOP