最低賃金には7つの落とし穴があります。うっかりしていると一部の従業員に最低賃金法違反が発生してしまいます。

2024/04/02|1,630文字

 

<上昇傾向の最低賃金>

最低賃金の第1の落とし穴は、急速な上昇傾向にあります。コロナ前の10年間の上昇は、23%台となっていますし、東京都の最低賃金は2023年10月から1,113円ということで、さらに100円上昇しています。

 

【コロナ前10年間の最低賃金の上昇率】

 

2010年改定

2020年改定

上昇率

全国平均

730円

902円

23.6%

東京都

821円

1,013円

23.4%

 

最低賃金を上昇させる狙いには、少子化対策もあります。

2020年度は、新型コロナウイルスによる企業への影響などを踏まえ、東京都などでは前年の金額のまま据え置かれ、全国平均で1円の上昇に留まりました。

しかし長期的には、中小企業で働く若者が、安心して結婚し子供を育てるのに十分な賃金を得られる水準になるまで、急速な上昇傾向が続くものと思われます。

物価高を踏まえ、大企業を中心に大幅な賃上げが行われましたから、2024年度の最低賃金改定幅も大きなものとなることが予想されます。

 

<改定時期>

最低賃金の第2の落とし穴は、10月に改定されることです。

多くの企業では、毎年4月に賃金改定が行われています。

この賃金改定の時点では、社内に最低賃金を下回る従業員がいなくても、10月になると最低賃金の上昇により、最低賃金法違反が発生しうるということです。

 

<企業規模>

最低賃金の第3の落とし穴は、企業規模に関係なく適用されることです。

大企業で最低賃金を下回る現象は見られないものの、子会社や関連会社で最低賃金法違反が発生することはありえます。

中小企業では、月給制や日給制の場合や、例外となる労働者、計算に含まれない手当などについて、誤解している場合があります。

子会社や関連会社の賃金について、直接確認が必要となることもあるでしょう。

 

<月給制などの場合>

最低賃金の第4の落とし穴は、それが時間額で示されることです。

時間額で示されていることから、月給制、日給制、出来高払制、年俸制などの場合には、ひと目で判断できず、また最低賃金が適用されないという誤解を招いていることすらあります。

賃金の支払制度に関わらず、最低賃金が適用されますので、正しく計算してチェックする必要があります。

 

<学生や外国人>

最低賃金の第5の落とし穴は、対象者の範囲です。

学生、外国人、試用期間中について、最低賃金の対象外という誤解を生じている企業があります。

しかし、学生、外国人も、試用期間中の従業員も、雇用形態に関わらず最低賃金法の対象者です。

 

<計算に含まれない手当>

最低賃金の第6の落とし穴は、計算に含まれない手当があることです。

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。

具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

 

【除外される賃金】

・臨時に支払われる賃金(慶弔見舞金など)

・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(残業代など)

・所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)

・午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる深夜割増賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分

・精皆勤手当、通勤手当、家族手当

 

最低賃金の対象となる賃金を総労働時間で割って時間額を算出し、これが最低賃金を下回らないかチェックする必要があります。

 

<時効期間の延長>

最低賃金の第7の落とし穴は、時効期間が延長されていることです。

民法改正により、賃金債権の消滅時効期間は、2年間から3年間に延長されています。

最低賃金を下回る賃金支払があって、従業員からの指摘があれば、過去3年分についての差額分を支払わなければなりません。

また、所轄の労働基準監督署からの指摘があれば、すぐに計算して支払うことになります。

会社は、一度に多額の出費を余儀なくされます。

最低賃金法違反の発生は未然に防ぎましょう。

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