短期間で中途採用者を解雇

2023/10/05|1,433文字

 

<中途採用者を短期間で解雇したい場合>

同業他社で、長年の実務経験を積み、即戦力となることを期待した中途採用者が、全くの期待外れで解雇を検討したいということがあります。

この場合に、解雇が無効とならず、不当解雇とならない基準が曖昧なため、判断を先送りしていると、ますます解雇しづらくなってしまいます。

 

<解雇に関する法の規定>

労働契約法には、解雇について次の規定があります。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

中途採用について、特別な規定が置かれているわけではなく、すべての採用に共通の規定があるだけです。

解雇権の濫用とはならず、解雇が有効になるためには、客観的に合理的な理由を備えていることと、社会通念上相当であることの2つが必要です。

この判断基準の具体的な中身が、新卒採用と中途採用とでは異なってきます。

10年の実務経験を積んで転職してきた人であれば、10年以上にわたって社会人としての経験を積んでいるわけですから、挨拶などのマナー、基本的な報連相、服務規律、社内ルールの遵守などは、常識として身につけていることが期待されます。

これらのことが全く身に付いていないのであれば、組織の一員として活躍できませんから、解雇するについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるといえるでしょう。

ただし、解雇を通告するには、基本的な常識不足を客観的に示す事実を、一覧表の形でまとめておいて提示するのが得策です。

これは、将来想定される訴訟の準備のためにも有効です。

 

<解雇に関する就業規則の規定>

また、モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)は、能力不足を理由とする普通解雇について、次のように規定しています。

 

第53条  労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

 

会社の就業規則でも、普通解雇について、中途採用だけ特別な規定を置いていることは、殆ど無いと思われます。

しかし、判断基準の具体的な中身が、新卒採用と中途採用とでは異なってきます。

中途採用の場合、通常は職務と役割を特定して採用しますから、「業務能率」は経験者としての基準で評価することになりますし、「向上の見込み」「他の職務への転換」は配慮する余地が限られています。

中途採用は、これまでのキャリアが買われて採用されます。

そのため、一定の経験・能力・適性を備えているものとして、即戦力となることが期待されています。

新卒採用のように、入社時に長期間の研修を行うことは無く、入社と共に配属先が決まっているのが一般です。

その配属先で、立場に応じた役割を担い切れない場合には、全く異なる部署に異動させて様子を見るということも予定していません。

 

<実務上の配慮>

中途採用では、可能な限り、個人ごとに会社が期待する経験・能力・適性、社内で果たすべき役割など、具体的な内容を文書化し明示して、本人の理解を得ておくことが必要でしょう。

試用期間を設けるのであれば、本採用する/しないの具体的な基準を明示します。

試用期間を設けない場合でも、労働条件通知書に解雇の理由を可能な限り具体的に明示しておくことで、トラブルを未然に防止したいものです。

 

PAGE TOP