パワハラの加害者として訴えられないために

2021/08/28|1,853文字

 

パワハラの定義

 

<会社のパワハラ対策>

会社は、就業規則にパワハラの禁止規定と懲戒規定を置き、パワハラ防止対策のための社員教育を行う義務を負っています。

これは、労働契約上の雇い主としての義務です。

こうした義務を果たさない会社で勤務する管理職は、パワハラの加害者とされ被害者や遺族から訴えられる危険にさらされています。

部下が「上司のパワハラに絶望しました」といった遺書を残して自殺を図るようなことがあれば、何がパワハラに該当するのか教育研修が行われていない会社では、事実の確認も無いままパワハラの責任を取らされることにもなりかねません。

不幸にしてこうした会社で働いている管理職は、自分の身を守るため、最低限、以下のことを頭に入れておきましょう。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではありません。

会社の意向を受けて行った叱責、指導、注意、教育、激励、称賛などは、業務上必要な行為です。

行為者の意識としては、これらの行為を熱心に行った結果、パワハラ呼ばわりされたということになりがちです。

しかし、パワハラが問題なのは、必要の無い人権侵害を伴っているからです。

 

<パワハラで問題となる人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

<典型的な犯罪行為>

暴行罪〔刑法第208条〕の「暴行」とは、人の身体に向けられた有形力の行使をいいます。有形力とは物理的な力のことで、たとえば石を投げつければ当たらなくても暴行になります。服を引っ張る、近くで刀を振り回す、耳元で大きな音を立てるというのも暴行です。

傷害罪〔刑法第204条〕の「傷害」とは、ケガをさせることです。ケガをさせる意図が無く暴行を行った結果、ケガをさせてしまった場合でも傷害罪になります。頭を叩こうとしたところ、相手が避けようとして転び腰を傷めた場合にも、頭を叩くという暴行の故意があった以上、傷害罪になってしまいます。

脅迫罪〔刑法第222条〕は、相手や親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫すると成立します。口頭でも、文書でも、メールでも、あるいは態度でも脅迫になりますし、相手が実際に怖がらなくても成立します。

名誉毀損罪〔刑法第230条〕は、公然と事実を摘示して名誉を毀損することで成立します。「摘示」というのは、あばくこと、示すことです。示した事実は、原則として、真実であっても嘘であってもかまいません。しかし、「公然と摘示」するのが条件ですから、他の人には知られないように、直接の相手だけに事実を摘示した場合には成立しません。また、「事実を摘示」しないで名誉を毀損すると侮辱罪〔刑法231条〕となります。

 

<典型的な不法行為>

上記のような犯罪行為に対しては、国家により刑罰として懲役刑や罰金刑が科されうるのですが、同時に不法行為でもありますから、被害者に対しては損害賠償の責任を負います。両者は別物ですから、どちらか片方だけで済むというものではありません。

暴言、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなどの程度が軽くて、名誉毀損罪などの犯罪が成立しない場合には、一般に不法行為のみが成立します。

不要なことや不可能なことの強制が強要罪や業務妨害罪にはあたらない程度の場合にも、一般に不法行為のみが成立します。

つまり、人権侵害行為ではあっても犯罪が成立しない場合には、不法行為のみが成立しうるということです。

 

<身を守るだけではない知識>

パワハラ行為とされ、犯罪者になったり損害賠償を求められたりするのはどのような行為なのか、正しい知識を身に着けることは、自分の身を守るのに必要なことです。

しかし、それだけではなく、自信をもって業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛などを行えるようになるのですから、管理職としての指導力を最大限に発揮できるようになるというメリットもあります。

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