知識不足によるマタハラ

2021/08/25|1,677文字

 

<就業規則の規定>

マタニティーハラスメント(マタハラ)とは「子を設け育てることに対する職場での支援拒否の態度」と表現できます。

また、特に経営者が行うものは「不利益な取扱い」と呼ばれ、マタハラとは別の概念とされています。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)では、マタハラが次のように規定されています。

 

(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)

第14条  妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

マタハラという用語が、比較的新しいものであるために、敢えて日本語で明確に示されているのでしょう。

ただ、就業規則にこのような規定を置いた場合でも、何が「妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用」にあたるのかについて、別に社員教育が必要となります。

少子高齢化に対応して、ここに言う「制度又は措置」の内容も、法改正により充実してきていますので、研修などの内容もアップデートしながら繰り返さなければなりません。

また、小規模会社で就業規則が無い場合であっても、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する法令は適用されますから、マタハラへの対応を怠ることはできません。

 

<制度又は措置の利用への嫌がらせ>

次に掲げる制度や措置は、育児介護休業法が定めるもので、男女どちらにも適用されます。

上司や同僚の言動が、こうした制度や措置に関するもので、人権侵害となれば、就業環境を害することにもなり、制度等の利用への嫌がらせ型のマタハラとなります。

・育児休業

・子の看護休暇

・所定外労働(早出や残業)の制限

・深夜業の制限

・育児のための所定労働時間の短縮措置

・始業時刻変更等の措置

 

<マタハラとなる言動>

次のような言動が、マタハラの典型例です。

・制度や措置の利用請求などを理由に上司が不利益な取扱をほのめかす

・制度や措置の利用請求などを上司や同僚が邪魔する

・制度や措置を利用したことを理由に上司や同僚が嫌がらせをする

具体的には、次のような発言がマタハラになります。

「男のくせに育休を取るなんて」

「一人だけ残業しないで帰るなんてずるい」

「いつも社長出勤で偉そうね」

周囲の人たちは、自分の負担が増えるから、ついついこんな発言をしがちです。

 

<マタハラ防止に必要な知識>

さて、就業規則を読んだだけでは、自分の行為がパワハラにあたる/あたらないを判断できない場合があります。

育児介護休業法などの内容についての具体的な知識が無ければ、判断することは不可能だからです。

また、他の社員の行為に対しても、自信を持って「それはマタハラだから止めなさい」と注意することもできません。

セクハラやパワハラであれば、関連するニュースも多いですし、感覚的に理解できる点もあるのですが、マタハラについては、知識が無ければ対応のしようがありません。

こうしてみると、社内でマタハラを防止するのに必要な知識のレベルというのは、かなり高度なものであることがわかります。

 

<知識不足によるパワハラの防止には>

こうした事情があるにもかかわらず、就業規則にマタハラの禁止規定があり懲戒規定があることを理由に懲戒処分が行われてしまうのは、加害者本人にとっても会社にとっても不幸です。

加害者は、マタハラの意識が無いままに加害者とされ、会社と共に損害賠償を求められる他、両当事者とも評判が落ちてしまいます。

会社が本気でマタハラを防止するには、就業規則にきちんとした規定を設け、充実した社員教育を実施することが必要となります。

社員教育では、育児介護休業法の具体的な内容の理解が中心となります。

少しでも社員の記憶に残っていれば、何か疑問が生じたときに法令の内容を確認することによって、マタハラの被害を最小限に食い止めることができます。

一般に、社員教育は生産性を高めるものですが、マタハラについての社員教育は社員と会社を守るために必要なものだといえるでしょう。

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