2025/04/16|2,122文字
<働き方改革>
働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。
しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。
社員は人間ですから、ある程度の時間働き続ければ肉体的精神的疲労が蓄積して効率が低下します。
休憩や休暇によってリフレッシュできれば、体力と気力が回復して生産性が高まります。
適切な労働時間で働き、ほどよく休暇を取得することは、仕事に対する社員の意識やモチベーションを高めるとともに、業務効率の向上にプラスの効果が期待されます。
これに対し、長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性も高まりますし生産性は低下します。
また、離職リスクの上昇や、企業イメージの低下など、さまざまな問題を生じることになります。
社員のためだけでなく、企業経営の観点からも、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進が得策です。
社員の能力がより発揮されやすい労働環境、労働条件、勤務体系を整備することは、企業全体としての生産性を向上させ、収益の拡大ひいては企業の成長・発展につなげることができます。
<長時間労働抑制のための具体的施策リスト>
厚生労働省から「働き方・休み方改善指標」が公表されています。
この中から、長時間労働抑制に向けた働き方の改善を進めるための具体的な施策を抽出すると、次のようになります。
項目1:方針・目標の明確化
□経営トップによるメッセージの発信
□経営や人事の方針として長時間労働の抑制を明文化
□全社・部署・個人等での労働時間、残業時間等に関する数値目標の設定
項目2:改善推進の体制づくり
□長時間労働の抑制に向けた社内体制の明確化
□労働時間に関する相談窓口の設置
□長時間労働の抑制に関する労使の話し合いの機会の設定
項目3:改善促進の制度化
□労働時間・就労場所を柔軟にする制度( フレックスタイム制、朝型の働き方、短時間勤務制度、テレワーク制度、在宅勤務制度等)の導入
□業務繁閑に応じて営業時間を設定
□ノー残業デー、ノー残業ウィーク等、定時退社期間を設定
□勤務間インターバル制度を導入
項目4:改善促進のルール化
□残業の多い部下を持つ管理職への指導、改善促進
□部下の長時間労働の抑制を管理職の人事考課に盛り込む
□残業を行う際の手続を厳格化
項目5:意識改善
□長時間労働の抑制に関する社員向けや管理職向けの教育・研修を実施
□長時間労働抑制のための周知・啓発
□退勤時刻の終業呼びかけ、強制消灯
項目6:情報提供・相談
□労働時間・残業時間を社員各自に通知
□36協定による労働時間の制限を周知
□労働時間制度紹介のパンフレット等を配布
□定期健康診断以外での長時間労働やストレスに関するカウンセリング機会等を提供
項目7:仕事の進め方改善
□長時間労働の抑制を目的とした業務プロセスの見直し
□業務計画、要員計画、業務内容の見直し
□長時間労働の抑制を目的とした取引先との関係見直し
項目8:実態把握・管理
□社員の働き方や労働時間に関する意識や意向の定期的な把握
□タイムカードやICカード等の客観的な方法により労働時間を管理・把握
□管理職やみなし労働・裁量労働制等の適用者について労働時間を把握
これらは、あくまでもチェックリストですから、実際に施策を進めるにあたっては、この順番で進めるわけではありません。
会社の実情に応じて、順番を考えなければなりませんが、項目1:方針・目標の明確化は最優先でしょう。
次に行うべきは、多くの会社では、項目7:仕事の進め方改善だと思います。
仕事のムリ・ムダ・ムラを排除して、本当に必要な仕事だけを抽出する必要があります。
仕事は減らず、社員は減少しているのに、労働時間削減など無理な話です。
習慣的に行っている仕事の中で必要性の低い仕事をやめる、他部署とダブっている仕事はより得意な部署がまとめて行う、会議はやめて誰かに一任する、あるいは、2~3人の協議に委ねるなど、仕事の分量を減らす工夫も大事です。
<実務の視点から>
いきなり労働時間を減らすと言われても、社員ひとり一人の都合があります。
周囲の社員に気を遣って、やむなくダラダラ残業をして、終業時間を合わせていた社員なら、長時間労働抑制は大助かりです。
会社にとっても、人件費の削減となりますから利害が一致します。
それでも、残業代を稼いで生活の糧にしていた社員にとっては深刻です。
高級な外車を買うために残業代を稼いでいたのなら、諦めてもらうことは難しくないのかも知れません。
しかし、実家の親に仕送りをするためであれば、転職や副業を考えるほど深刻な話になりかねません。
また、自分の仕事の出来栄えにこだわりを持っている社員は、「残業代は要らないから、思う存分、残業させてくれ」と思っているかもしれません。
企画やデザインの仕事をしている人には多いパターンです。
そこまで考えて、労働時間の削減をするのはむずかしい、時間と手間をかけられないというのであれば、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ご用命ください。