ライバル企業での兼業を理由とする雇用契約の打ち切り

2021/05/29|1,583文字

 

兼業を理由に解雇

 

<契約期間中の解雇>

労働契約法に、次の規定があります。

 

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

 

この中の「やむを得ない事由」とは、契約期間の約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく雇用を終了せざるを得ないような特別の重大な事由を指します。

日常生活で使われる「やむを得ない」よりもかなりハードルが高く、滅多に無いようなケースを指しています。

 

<裁判所の判断>

「やむを得ない事由」の有無を最終的に判断するのは裁判所です。

裁判例では、就業規則で副業を禁止しているケースでも、「職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しない」という判断が示されています。(上智学院事件 東京地判平成20年12月5日)

 

<判断の理由>

この判決は、判断理由として次のように述べています。

「就業規則は使用者がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活に対する一般的支配までを生ぜしめるものではない。

兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である」

 

<分かりやすく言うと>

従業員がライバル企業での兼業を始めても、それはプライベートの時間に行っていることなので、原則として禁止できないし、たとえ就業規則に兼業禁止を定めてあっても結論は変わらないということです。

確かに会社としては、「道義的にどうなのか」「裏切り行為ではないか」など、いろいろと不愉快な気持にはなります。

しかし、所定の労働時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であり、職業選択の自由も保障されています。〔日本国憲法第22条第1項〕

憲法で保障された権利を、民間企業が否定することは、明らかな人権侵害になってしまうのです。

 

<兼業を禁止できる場合>

先述の上智学院事件の判決でも示されているように、「職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様」なら兼業を禁止できないということですから、この条件を満たさない場合には、兼業を禁止できることになります。

そして、裁判で争われ兼業禁止が認められた例として次のものがあります。

・労務提供に支障をきたす程度の長時間の二重就職(小川建設事件 東京地決昭和57年11月19日)

・競業会社の取締役への就任(東京メデカルサービス事件 東京地判平成3年4月8日)

・従業員に特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働(昭和室内装備事件 福岡地判昭和47年10月20日)

・病気による休業中の自営業経営(ジャムコ立川工場事件 東京地八王子支判平成17年3月16日)

いずれも、「やむを得ない事由」があるといえるケースです。

 

<解決社労士の視点から>

兼業している従業員を解雇することは、多くの場合、不当解雇とされ無効になります。

この場合、訴訟になれば、その従業員が働いていなくても、決着がつくまでの間の賃金は企業側に支払義務が発生します。

こうした専門性の高いことは、問題をこじらせてしまう前に、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

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