2024/11/16|963文字
<規定例>
モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)では、懲戒の事由について、次のように規定しています。
【第66条:懲戒の事由】
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
( 中 略 ) ⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。 ( 中 略 ) ⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。 |
就業規則のひな形にも様々なものがあります。
しかし、懲戒に関する規定を見ると、上記と同様に「準ずる」という文言が入っていることが共通しています。
これを受けて、多くの企業の就業規則で「準ずる」を見かけます。
<「準ずる」の性質>
「準ずる」という言葉は、「全く同じではないが同様に扱う」という意味です。
「準ずる」という規定を、懲戒対象となる行為の最後に列挙することによって、不都合な行為を漏れなく含めることができると考えてのことです。
ですから、「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」という包括規定は、便利な規定のようにも見えます。
<「準ずる」の効力>
しかし、懲戒規定は会社の刑法ですから、罪刑法定主義の考え方が及びます。
懲戒の有効性が問題となる局面では、懲戒規定の具体性が問われます。
ある従業員の言動が、懲戒規定のどれに該当するか明確でない限り、懲戒処分はできないということになります。
<「準ずる」の悪影響>
これとは別に、包括規定があることによって、従業員は自分のやろうとしていることが、あるいは懲戒の対象になるのではないかと恐れ、主体的に積極的な活動に出るのが怖くなります。
創意工夫が生まれにくくなりますし、生産性の低下も考えられます。
また、若い世代ほど、具体的な表現が無いと趣旨が伝わりにくい傾向にあります。
「準ずる」という規定に頼って、個別具体的な行為の規定が少ないと、抑止力が発揮できないことにもなります。
<実務の視点から>
モデル就業規則は、あくまでもひな形です。
各企業の実情に応じて、自社にとって不都合な具体的行為を、なるべく多く列挙しておくのが得策でしょう。