2026/10/14|1,609文字
在宅勤務は、通勤負担の軽減や柔軟な働き方の実現といったメリットがある一方で、会社の目が届きにくい環境で業務を行うため、出勤した場合とは異なる労働災害(労災)が発生するリスクもあります。会社としては、想定される事故を理解し、予防策を講じるとともに、万一発生した場合には適切に対応できる体制を整えておくことが重要です。
- 在宅勤務中に想定される労災事故
在宅勤務中であっても、業務遂行中に発生した災害は労災として認定される可能性があります。
具体的には次のような事例が考えられます。
(1)転倒・転落事故
- 業務資料を取りに行く途中で床の物につまずいて転倒した
- パソコンの電源コードに足を引っ掛けて転倒した
- 階段を利用して業務用品を取りに行く途中に転落した
(2)腰痛・筋骨格系疾患
- 不適切な机や椅子を使用した結果、腰や首を痛めた
- 長時間同じ姿勢で業務を行い、肩や腰に障害が生じた
(3)感電・火災事故
- 業務用機器の故障による感電
- パソコンや充電器の発熱による火災
(4)精神疾患
- 長時間労働や過重な業務負荷により精神疾患を発症した
- 孤立感や過度のストレスによりメンタルヘルス不調が生じた
(5)その他
- オンライン会議中に体調が急変した
- 業務中の熱中症や脳・心臓疾患
なお、家事や私的行為中の事故は、原則として労災の対象にはなりません。業務との関連性が重要な判断ポイントになります。
- 労災事故を防止するための会社の取組み
(1)在宅勤務ルールの整備
会社は在宅勤務規程等において、次のようなことを明確にしておくことが望まれます。
- 就業場所
- 勤務時間
- 休憩取得方法
- 業務報告の方法
- 安全衛生上の留意事項
(2)作業環境の整備支援
従業員に対し、次のようなことを周知することが有効です。
- 適切な机・椅子の利用
- 十分な照明の確保
- コード類の整理整頓
- 室温管理
- 定期的な換気
また、チェックリストを配布し、自ら作業環境を点検してもらう方法も効果的です。
(3)長時間労働の防止
在宅勤務では勤務時間管理が曖昧になりやすいため、次のような対策により、長時間労働を防止することが重要です。
- PCログの活用
- 勤怠管理システムの利用
- 定期的な上司との面談
(4)メンタルヘルス対策
次のような方法により、孤立や不調の早期発見に努めることが望まれます。
- 定期的なオンライン面談
- ストレスチェック
- 相談窓口の周知
- 万一労災事故が発生した場合の会社の対応
(1)迅速な状況確認
まずは従業員の安全確保を最優先とし、次のことを確認します。
- いつ発生したか
- どこで発生したか
- 何をしていた時か
- けがの程度
- 医療機関の受診状況
可能であれば写真や本人の報告書を取得し、事実関係を整理します。
(2)業務起因性の確認
在宅勤務では私的行為との区別が問題になりやすいため、次のことを確認し、業務との関連性を整理します。
- 業務指示との関係
- 勤務時間との関係
- 行為の目的
(3)労災手続への協力
会社は労災の適用が見込まれる場合には、次のようなことについて、従業員に協力する必要があります。
- 労災保険の請求書類作成
- 事実関係の証明
- 労働基準監督署への対応
(4)再発防止策の検討
事故原因を分析し、次のような再発防止策を講じることが重要です。
- 作業環境の改善
- 規程の見直し
- 安全衛生教育の実施
- 管理監督者への指導
- 会社としての留意点
在宅勤務中であっても、会社の安全配慮義務がなくなるわけではありません。一方で、自宅という私的空間に対して会社が無制限に管理できるわけでもありません。
このため、次のようなことを通じて、従業員自身にも労働安全衛生確保への協力を求めることが重要です。
- 在宅勤務規程の整備
- 安全衛生教育の実施
- 作業環境に関するセルフチェック
- 適切な労働時間管理
- 定期的なコミュニケーション
在宅勤務における労災対策は、「会社が一方的に管理する」のではなく、「会社と従業員がそれぞれの役割を果たして安全な職場環境を維持する」という考え方で運用することが、実務上最も重要なポイントといえます。